蒼き瞳とナガレゆく   作:秋野ハル

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3-6 少年少女と遠い憧れ

 ――約束の日まで残り7日――

 

 ニルヴェアは昨日からずっと考えていた。

 

 『自分の道をはっきりさせろ』

 

 昨日、レイズにそんな宿題を課されたからだ。

 彼曰く、心技体がひとつ。心が折れないためには譲れない物が必要なのだという。

 例えば目の前の目標、将来の願望、やりたいこと、護りたいもの……とにもかくにも未来を望むその意思が、今の自分を踏ん張らせるのだと彼は説明した。ひとつの問いと共に。

 

『この事件を解決したあと、お前はどうしたいんだ?』

 

 ニルヴェアはずっと迷っていた。今でもまだ迷っている。

 

(僕が欲しい未来。僕が目指している人は……)

 

 とはいえただ迷っていても、貴重な時間が過ぎるばかり。だからニルヴェアは迷いを頭の片隅に置きながらも、今は目の前の修行に集中していた。

 

「ふー……」

 

 ゆっくり息を吸って、吐き、眼前の”敵”へと神経を研ぎ澄ます。それに合わせるかのように、敵を括りつけた木の枝がぎしぎしと音を立てた。

 

 ――ところで本日の敵は、ニルヴェアお手製のサンドバッグ(麻布製)である。

 実はニルヴェアは屋敷にいた頃から、自主練のためにこの手の練習器具をたまに手作りしていたのだ。

 

『え、なにその謎特技。やばっ』

 

 とはレイズの言だが、それはそれとしてニルヴェアはこういう状況には結構慣れ親しんでいたのである。

 

(よく練習している連携と、それに武器を絡めるだけだ。だから気負うことなく、力を抜いて……)

 

 サンドバック相手での蹴る殴るの練習は、自主練でもよく行っていた。今回はそこに加えて、敵が怯んだところで腰に差した短剣を間髪入れずに抜き放つ……。

 

「……っし!」

 

 イメージと決意を固めて、それから最初の1歩を踏み出して、そのまま一気に駆け出した。

 視界の中でサンドバッグがずわっと大きくなっていく。だがそれに臆さず体をひねり、1回転からの回し蹴りをぶつける。

 己の脛と麻布の表面がぶつかり合い、バスッと激しく打ち鳴らされた。サンドバッグが大きく揺れて、視界から一瞬消える。しかし蒼の瞳はそれをすかさず捉えて追撃に入った。

 脚を踏み込み、腰を落として、体をぐっと捩じりこんで、限界まで力を引き絞る。

 

(女になって体が柔らかくなった。しなやかな弓のように、もっと力を引き絞れるようになった……はず。まぁ比べる術も、大した根拠もないけれど)

 

 ――なんでも前向きに考えて、使える物はなんでも使えよ

 

(前よりも良い一撃になる、多分!)

 

 そう信じて溜めこんだ力を解放。右の拳をおもいっきり振りかぶる!

 バスンッ! 快音が耳に響き、視界の中ではサンドバックが一層大きく揺れた。

 ニルヴェアは確かな手応えに頬を緩め、さりとて気は緩めることなくすぐに体勢を戻した。そしてその頃にはもう、サンドバッグはニルヴェアの目の前へと迫ってきていた。振り子のように、あるいは逆襲者のように。それに対してニルヴェアは1歩だけ後退ったが、

 

(闘うって決めたなら、逃げちゃいけないんだ)

 

 決して視線はサンドバッグから離さなかった。むしろ突っ込んでくるそれとタイミングを合わせて、跳躍。右脚を槍のように突き出して、サンドバックへとぶっ刺した。

 

「せいっ!」

 

 3度目の快音。3度目の手応え。それをしかと感じながら、蹴った反動を使って後方へと跳んだ。そのまま綺麗に……

 

「おっ、と」

 

 少したたらを踏みながらも着地に成功。サンドバッグとの距離が離れたことを目視で確認するとすかさず武器へと、腰の右側に差したお守りの短剣へと右手を添えた。

 無駄に力まないよう、されど勢いは落とさないように素早く柄を握ってホルスターから引き抜き――つるっ、と。

 

「あっ!」

 

 気づいたときには手からすっぽ抜けていた。

 力を抜き過ぎて、しっかり握れていなかったのだ。しかしニルヴェアがそれを自覚したときには、短剣はもう宙をくるくると舞っていた。その1秒後、短剣はぽてっと地面に落ちた。

 

「あ~~……」

 

 ニルヴェアは露骨にげんなりしながら短剣を拾いにいった。一方、地面に落ちた短剣は太陽の光を浴びてちかちかと光っていた。まるで自らの居場所を示すように。

 

(おかげで失くさないのはいいけど、今はこの眩しさが目に刺さる……ついでに心にも刺さる……)

 

 まるで己の未熟さを咎められているような気分。それが被害妄想であることを自覚しつつも、しかし気分は勝手に落ち込んでいく。

 

「アカツキさんたちと合流するまであと1週間。時間がないってのに、こんな調子じゃ……」

 

 なんて呟きながら、右手で短剣を拾い上げた。それから土埃を左手で軽く払う……と、その綺麗な刀身に金髪蒼眼の少女の顔が映りこんだ。まだまだ幼げで丸っこく、ニルヴェアが目指す”理想”には何もかもが足りていない顔だった。

 

「ああもう! この体が男のままならもうちょっと、迫力だって……」

 

 言いかけて、しかし首を横にぶんぶんと振って邪念を払う。

 

「今は文句言ってても仕方ない! そうだよ、べつにこの顔だって兄上みたいにもうちょっとこう……」

 

 ニルヴェアは右手で短剣をもったまま左手を左目の端まで持っていくと、そこを指で押してきゅっと引っ張り左目を釣りあげてみた、けど。

 

(全然イメージ通りにならない……)

 

 なんてがっくしきて。

 

「なーに面白いことしてんだ?」

「うひゃあ!」

 

 不意な呼びかけに跳びあがった。慌ててすぐに後ろを振り返ると、そこにはすっかり見慣れた相方が。

 

「今日の昼飯は俺お手製のサンドイッチだ」

 

 存外可愛らしいバスケットを持って立っていた。

 

「出来立てが1番旨いんだから、とりあえず食べようぜ」

 

 

◇■◇

 

 

 いわく『どんなときでも飯は旨い方が良い。それがナガレの流儀』らしい。

 というわけで今日の昼飯は新鮮なレタスにトマト、それに焼き立ての豚肉をこれまた焼き立ての食パンでぎゅっと挟んだレイズお手製のサンドイッチである。シンプルながら、色鮮やかな見た目良し。香ばしい香り良し。そして当然味も良しと、三拍子が揃って食欲をそそる一品を、2人で並んで原っぱに座りいただきます! と思いきや。

 

「…………」

 

 ニルヴェアはひたすらにもそもそと、なにも喋らずに食べていく。

 

「……はぁ」

 

 なぜか時折ため息までつきながら。

 そしてそんな彼女の隣では、レイズがやたら挙動不審になっていた。彼はニルヴェアが一口食すたびに彼女のことをちらりと見ては、そわそわしたり肩を落としたりしているのだ。

 ちなみに、修行中の料理担当は7割がたレイズである(残りの3割は外食)。

 しかしレイズが待てど暮らせど、ニルヴェアはただもそもそ食べているばかりだ。やがてしびれを切らしたのか、レイズはおそるおそる話しかける。

 

「な、なぁ」

「……えっ、あ。どうしたんだ?」

「いや、その……なんていうか、いつもはもっと旨そうに食うじゃん……」

「えっ、と……?」

「だ、だから! もしかしたらこれまずかったのかなって思っただけだよ!」

「! いや、そんなことないぞ! お前の料理はいつも美味しいし、今日のだってすごい好きだ!」

 

 ニルヴェアはそう力強く言うと、今までの調子から一転して一気にもしゃもしゃ食べ始めた。

 その勢いの良い食べっぷりに、レイズは少しだけ頬を緩める。

 

「お、おう。だったら良かった」

 

 しかしその顔にはどこか心配の色を残していて。

 やがてバスケットの中が空になった頃、レイズは率直に尋ねる。

 

「で、結局なんでしょげてたんだ?」

「え……?」

「修行で悩んでることがあるなら早く言えよな。本当はそこまで手助けするべきじゃないと思うんだけど、ぶっちゃけ時間ねーからさ。俺にできる範囲でなら一緒に考えてやるよ」

「レイズ……」

 

 ニルヴェアは少しだけ、ためらうような素振りを見せた。だがやがてぽつりと口を開く。

 

「いつかこの屋敷を出て、兄上のような誰よりもかっこいい武人になりたい」

「!」

「ぼんやりと、ずっとそんなことを願っていたんだ。だけど……」

 

 そう語るニルヴェアの表情は苦と笑で半々だった。

 

「今こうして屋敷の外で、強くなるための修行をしていて、それで改めて実感したよ。まだまだ兄上には全然届かないってことをさ」

「ニア……」

「あ、べつに諦めたわけじゃないぞ! 届かないから諦める、なんて兄上なら絶対に言わないからな。だから僕だって強くなることを諦めない。だけど……」

「憧れの人が遠すぎると、なんか分かんなくなるよな」

「!?」

 

 ニルヴェアは驚きと共にレイズを見た。蒼の瞳に映る少年は、少しだけ照れくさそうに笑いながら語る。

 

「俺なんかが本当にあの人みたいに強くなれるのか。そもそも俺なんかとはなにもかもが違い過ぎて、その背を追う道筋すら分からないのに。こんな曖昧なまま進んでいいのか? もっと堅実な着地点を目指すべきじゃないのか? 届かないものは、結局なにをしたって届かないんじゃないのか……」

「っ……!」

 

 胸が苦しくなるほどの共感。ニルヴェアが思わず胸の辺りで拳を握ったその直後、レイズの照れが一層深まった。

 

「その……実は俺も、アカツキに憧れてたんだよ。つうか……今でも憧れてる」

「……へ?」

「なんだその顔」

「だってお前、弟子じゃないー! っていつも意地張ってんじゃん」

「うっせ! それはそれとしてだ! だってあいつの居合切りってかっこいいだろ! なんでも一発で斬っちまうし! あ、これ絶対あいつに言うなよ! 言ったらマジで怒るからな!」

 

 なんてことをレイズは一気に捲し立ててきて、だからニルヴェアは少しの間ぽかんとしていた……けれど話を飲み込めば、素直に納得ができた。

 

「分かった分かった。実際かっこいいもんなあの人。真面目にやってればだけど」

「そうなんだよ。真面目にやってりゃかっこいいんだよ。真面目にやってりゃな」

 

 そんなことを言い合い、お互いに笑い合う……と、ニルヴェアの中でふと疑問が湧いてきた。

 

「そういえば、お前とアカツキさんって結局どんな関係なんだ? お前がアカツキさんに色々手ほどきを受けた、ってことはなんとなく分かるんだけど」

「あー、それな……どっから説明したもんかな……」

 

 レイズはしばらく迷う素振りを見せていた。だがやがてニルヴェアと向き合って、それから語り始める。

 

「そうだな……アカツキはさ、俺にナガレとして旅をするための全部を叩きこんでくれた恩人なんだよ」

「全部……?」

「旅をするための基礎知識とか戦闘技術とかな。つまり俺が今こうして旅を続けられるのはあいつのおかげで、そういうことだから一応まぁ、尊敬とか恩義とかも結構あるし、そうなるとさ、やっぱ俺だって刀、使いたくなるじゃん?」

「っていうわりに今は使ってないよな。むしろ銃って真逆の遠距離武器だし」

「……すっぱり言われたんだよ」

「なにを?」

「お前に剣の才能はないって」

「あ……あ~~~~~~」

「むかつくなその反応!? とにかくだから憧れの人に届かないって悩むお前の気持ちも少しは分かるってそんだけ! はいこの話終わり終わり!」

「あ。なんかいっこ分かったかも」

「は? なんだいきなり」

「要はお前、拗ねてたのか!」

「なんだいきなり!?!?」

 

 レイズが目を引ん剝いた。だがしかし、ニルヴェアの頭は納得でいっぱいだった。

 

「お前がアカツキさんを師匠って呼ばない理由。刀を教えてもらえなかったから拗ねてるんだろ」

「すっ……拗ねてねーよ! ただ、その、だな……剣技のひとつも習えないのに師匠って呼んでも締まりがわりーだろ!」

「そうか? でも……」

 

 ――レイズを頼んだぞ、ニア殿

 

「……師匠って言ってあげれば、喜ぶと思うんだけどな」

「余計なお世話だ! んだよ人がせっかく心配してやったっつうのに……もーいい。そんだけ言う元気があんならさっさと修行に戻れよ。しっしっ」

 

 レイズは実に嫌そうな顔をして手を払い、ニルヴェアを追い返そうとした……が。

 

「そういえば、もういっこ分かったことがあったんだ」

「今度はなんだよ……」

 

 レイズはげんなりしながら尋ねたが、逆にニルヴェアはほほ笑んで言う。

 

「無駄にはならないんだなって」

「……なにが?」

 

 レイズにはその意図が全く分からなかった。が、しかしニルヴェアいわく。

 

「お前はアカツキさんと同じ剣を振るえないけど、それでもアカツキさんから色々教わって、それが今お前の力になっている……だから思うんだ。もし憧れて目指した誰かになれなくても、その背を追いかけて積み上げたものは、ちゃんと力になるんだろうなって。だから僕も、今は僕の憧れを信じてとにかく前に進んでみたいって、そう思ったんだ」

 

 彼女は語りきった。ただ真っ直ぐに前を見据えて。

 しかしその一方で、そんな彼女の横顔を見つめるレイズの表情はぽかんとしていて。しかし、しかし。

 

「……ふはっ」

 

 レイズは唐突に笑った。

 堪え切れなくて、つい。そう言わんばかりの笑い方に、ニルヴェアの眉根がむっと寄る。

 

「なんだよ」

「いーや? そういう図太いっつうか、妙に気の抜けるとこがお前の良いとこだよなって改めて思っただけだ」

「お前、まさか馬鹿にしてるのか!?」

「してねーよ。『今は僕の憧れを信じてとにかく前に』か。いいじゃん、お前らしさあって」

「やっぱ馬鹿にしてるだろ!」

「だからしてねーって。ほら、お前のそういう図太さは兄貴好きを拗らせた結晶だろ? ちゃんと積み上がってるなーって」

「やっぱ馬鹿にしてる! ぐぬぬ……ちょっと待て! お前はだな……えーっと、あーっと……」

 

  ――おぬしにもぼちぼち見えてると思うが、レイズの良きところは……

 

「擦れてないのがいいとこだ!」

「……は?」

「あと意外と世話焼き! 家事炊事が上手い!」

「え、なに。なにが始まったのこれ。なんか話ずれてない?」

「それにいつも強いし、たまに冷たくて怖いけど、でも結局はいつも僕に選ばせてくれていただろ」

「な……!」

「黒騎士から逃げたとき、旅に出たとき、修行を決めたとき……お前はいつも僕に道を示してくれた。そういうのがなんとなく分かってきて、そしたらお前の冷たさや怖さへの見方も変わってきた」

 

 ニルヴェアは一方的に押し付け続ける。ただただ唖然とするレイズを置いて。

 

「兄上語録に『魂剣一体の心得』というのがあるんだ」

「今度はなんだ!?」

「ざっくりかいつまむと、この心得は2つの教えに別れているんだ。まずひとつ目が『剣を振るう時には魂を乗せろ』……つまり剣を振るう理由を自分の中でしっかり持てってことなんだけど、ここら辺はむしろお前の方が肌身で感じているだろうから詳細は一旦省く。で、今重要なのはもうひとつの教えの方なんだ。それこそが『どれだけ魂を乗せようとも、剣を振るえなければそれは魂が乗っていないのと変わらない』というものなんだよ。この意味も分かるよな?」

「お、おう……それってつまり、どんな想いがあろうとも行動しなきゃ意味がないってことだろ。なんつうか、手厳しい正論って感じだよな……あっ」

 

 レイズは意見を口にしてから、はたと気づいた。この兄上拗らせ女(男)に下手なこと言ったらまだ面倒なことになるのではないかと。

 しかしその予想に反して、ニルヴェアの表情は穏やかなものだった。

 

「そうだな。だけど優しい言葉でもあるって僕は思うんだ」

「優しい……?」

「だってこのあとにはこう続くんだ。『人はただの道具に魂を乗せられる。言葉で意志を伝えられる。行動で己を立てられる……想いを形にできることこそが人とそれ以外を分つ境界線。人だけが持つ唯一無二の力だ。だから己が信じた剣を振るい続けろ。信念を世界に示し続けろ。諦めさえしなければそれはいつか形を成し、届くべき場所に届くだろう』ってね」

「それは……」

 

 長く、そして重いその引用をレイズが飲み込む……その前にニルヴェアが先んじた。

 

「レイズ。お前がその正しさを示してくれたんだ」

「っ!」

「だってお前の強さも怖さも冷たさも、全部優しさの裏返しだったことを僕はもう知っているんだ。誰かのために強くも怖くも冷たくもなれる……」

 

 ニルヴェアは、少しだけ照れくさそうに頬を染めながらはにかんで。

 

「それがお前の1番の良いところだよ、レイズ」

 

 瞬間、レイズが爆発した。

 

「っ!?!?!?」

 

 当然、ここで言う”爆発”とは顔を耳の先まで真っ赤にして全力で視線をあらぬ方向へと向けてついでに「なななななんだよいきなりこっぱずかしいこと言いやがってばーかばーか!」と負け台詞をぶん投げることなのだが、しかしニルヴェアは臆することなく、むしろにやにやと。

 

「こうやって直球で言うと結構照れるのも良いとこだと思うよ僕は」

「くっっっそすげーむかつく!!!」

「よし勝った! すごい満足した! それじゃあ修行に戻るな!」

「ばーーーーーーーーーか!!!」

 

 レイズは吠えながらも体を丸めて顔を隠していた。一方のニルヴェアはすでに元気よく立ち上がっていた。

 ここに両者の勝敗は決した。ゆえにニルヴェアは意気揚々と修行に戻ろうとしたが、

 

「あ! そういや宿題、忘れてねぇだろうな!」

「はえ?」

 

 ニルヴェアが振り返ると、レイズは未だに丸まっていた。だがその声だけは微妙に威勢が良かった。

 

「とにかく前に進むのはいいけど! それはそれとして、せめてこの旅が終わったらどうするのかくらいは決めとけよ! ほんとモチベに関わるからなそういうの!」

「あ、それならひとつだけ……」

「ひとつだけ?」

「……やっぱ内緒!」

「はぁ!? まぁべつにあるならいいけどよ……」

 

 そう言いながら、レイズはついに重い顔を上げた。まだ赤みの残った頬を見せながら、よっこいしょと立ち上がって呟く。

 

「明日からのことを考えると、気力が充実してるに越したことはないしな」

「ん、どういうことだ?」

 

 ニルヴェアはきょとんと首を傾げて、対するレイズはそんな彼女へと視線を向ける。彼の顔にもう火照りはなく、むしろ真剣な眼差しがニルヴェアをしっかりを捉えているのであった。

 

「明日にはこの街を出る。ここからは実戦で鍛えるから、覚悟しとけよ」

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