蒼き瞳とナガレゆく   作:秋野ハル

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1-6 騎士と侍

「一々癪に障るんだよ。あんたはもうとっくに――俺の敵だ!」

 

 レイズが真正面から踏み込んだ――その直後、さらにぐっと姿勢を屈めて加速、黒騎士の懐へと一気に潜り込む。銃口を突きつけ、紅い光を迸らせながら。

 しかしその銃の光弾は、さきほど黒騎士には効かなかったはず……だからこそ、ニルヴェアは理解できた。

 

(あのときと同じだ)

 

 レイズは使う気なのだ。暗殺者を倒したときと同じ、あの光の槍を。

 レイズの銃口は黒騎士の右手を狙っている。大剣を握るその手を潰そうとする一撃に、しかし黒騎士はそれを防ぐため左手の方で銃口を塞ぎにかかっていた。

 光弾の威力を侮ったようなその行動を見て、ニルヴェアは再び思う。

 

(あのときと同じだ)

 

 果たして、黒騎士の左手がレイズの銃口と接する。その瞬間、レイズがトリガーを引いた。

 じゅあっ! 槍の形を成した光が、鎧に覆われた左手を一瞬で貫通した。黒騎士の顔があっという間に苦痛で歪む。

 

「ぐうっ!」

 

 突如手のひらを貫き、手甲から生えてきた紅い光。鎧が溶け、肉が灼けて、異臭を放つ煙が上がった。

 

「ふ、ふは」

 

 しかしその中で、黒騎士の表情が。

 

「ははははは! その力、やはり興味深い!」

 

 みるみるうちに変貌した。未だに左手を焼き続ける紅い光に、尋常ならざる笑みが照らされた。

 その額ににじむ脂汗も、否応なしに歪む口角も、全て苦痛の証であるのは明らかで、だというのに。

 

「貴様の中を開いたら、一体なにが出てくるのだろうなぁ!?」

 

 黒騎士は止まらない。左手をさらに前へと突き出して、それを貫く光の発生源である銃口を掴み取り――そのままぐしゃりと握り潰す!

 

「嘘だろっ!?」

 

 レイズが驚愕したその瞬間、ひしゃけた銃口から光が一際大きく瞬いて、ぼんっとあっけない音を立てた。それは琥珀銃が破壊されたことを示す音であった。

 そしてそれを見ていたニルヴェアもまた、ただひたすらに驚愕する。

 

「そんな、無茶苦茶だ……!」

 

 第三者さえも唖然とするほどの所業。ならばそれを受けた当人の驚愕はいかほどのものか。

 レイズは慌てて飛び退き、そしてつい視線を向けてしまった。銃口の潰れた琥珀銃へと。

 それが、大きな隙となった。そして黒騎士はそれを見逃すほど甘くなかった。

 黒騎士はその巨体をもって一気に踏み込み、身の丈ほどもある大剣を軽々と掲げて、そして振り下ろす。大剣は月光を遮り、レイズを覆う黒い影と化した。

 

「っ!」

 

 レイズが頭上の影に気づいて反射的に飛び退く。が、その瞬間――片刃の大剣、その背に”火が灯った”。火はあっという間に炎と化して、レイズを瞠目させる。

 

「っ――!」

 

 直後、炎が大剣を一気に押し込んで、瞬く間に地面を粉砕――ズドンッ!!!

 大地が爆発し、突風が吹き荒れ、土煙がごうごうと舞い上がった。

 その余波は爆発から離れていたニルヴェアにまで及んだ。彼女は思わず腕で顔を覆いながらも、しかしその隙間から爆発の規模を覗き見て、そして衝撃を受ける。

 

「そんなっ――!」

 

 あんな一撃を受けて、レイズは果たして無事で済むのか。

 脳裏に過ぎった最悪の予感。それを振り払うように、ニルヴェアは慌てて首を回して少年の姿を探す――と、すぐになにかが土煙の中から飛び出してきた。

 その小柄な人影は地面を飛ぶように転がって、しかし受け身はしっかりと取り、すぐにむくりと起き上がる。舌打ちをひとつしながら。

 

「ちっ、そーいう琥珀武器か……」

 

 レイズであった。その全身は土で汚れているものの、四肢に目立った傷は見当たらない。ニルヴェアの口から安堵の吐息が漏れた。

 

「良かった……」

 

 ニルヴェアはほっとして、それから黒騎士へと目を向け直した。すでに土煙は晴れていた。視界に映る黒騎士は、大剣を地面に振り下ろした直後の体勢だった。そして地面を抉った大剣、その鍔の辺りから排出音がばしゅっと鳴った。

 

「あれは……」

 

 大剣の鍔から(から)になった琥珀(こはく)が――透明な、こぶし大ほどの結晶が落とされた。

 それを見て、ニルヴェアがようやく気づく。先ほど大剣から噴き出した炎を生み出した”エネルギー”の正体に。

 

(あれも、『琥珀武器』なのか……)

 

 琥珀。

 遥か昔から大陸中に埋まっているそれは『太古からの贈り物』とも称され、現在においては大陸中の多くの機械、あるいは武器の動力として使われている汎用的なエネルギー結晶体である。

 そして今、黒騎士の大剣から排出された琥珀は無色透明。それは琥珀内のエネルギーが尽きたことを示していた。

 ゆえに黒騎士は、自らの腰に付けていた新品の琥珀をひとつ掴んだ。

 砂糖飴のように透き通った黄褐色――大陸では『琥珀色』と称されるその色が新品の証であった。黒騎士は留め具で鎧と繋がれていたその新品を外すと、すぐに大剣の鍔へと嵌め込んだ。それだけで装填は完了。大剣がぶぅん……と重く静かな唸りを上げた。

 黒騎士は再びレイズの方へと向き直り、語りかける。

 

「きみの主力武器は潰した。そろそろ増援も来るはずだ。きみにもはや勝ち筋はない。ゆえにもう一度問おう……我々の下へ来い、レイズ」

「おい、命令形になってんぞ」

 

 レイズは未だに強気を崩さない。だが黒騎士の言う通り、彼の琥珀銃は既に使い物にならない。ならば他に通用しそうな武器は……ない。

 レイズは身軽であった。

 やたらとポケットが多い奇妙な上着(ベスト)。丈夫でありながら通気性も確保された質の良いズボン。それに琥珀銃やナイフを収めるための腰ベルト……それだけが彼の装備であった。

 小物を入れるスペースこそ数あれど、銃以外に目立つ武器といえば精々ナイフぐらい。黒騎士の強固な鎧を破る術がないことは、誰の目から見ても明らかだった。

 だが、それでもレイズは強気を崩さない。

 

「俺じゃなくて力が目当てだって口走ってたよな」

「ああ。それを戦力として重用するか、実験材料に使うかはきみの選択次第だがな。しかし我々は同志を無下にはしない」

 

 レイズと黒騎士が睨み合うその一方で、それを眺める第三者は確かな不安と恐怖を感じていた。

 

(そんな、増援まで……)

 

 ニルヴェアの足が思わず一歩、後ずさった。

 

(違う。逃げるな。あいつを見捨ててなんて……)

 

 だけど同時に思う。

 

(僕がここにいても足手まとい? だったら逃げた方があいつのためにも? でも増援と鉢合わせたら、それこそどうしようも……)

 

 思考がぐるぐる回って定まらない。だが――

 

「大丈夫だ」

 

 そう言ったのはレイズだった。それは黒騎士ではなく、確かにニルヴェアへと向けられた言葉だった。

 

「レイ、ズ」

 

 ニルヴェアがその名を呟いた……直後、レイズが走り出した。ニルヴェアではなく、黒騎士の下へと。

 すると黒騎士もまた迷いなく、片刃の大剣を振り上げた。

 

「最も愚かな選択を選んだな!」

 

 だが2人が交わるその直前、レイズの足下から灰色の煙が噴き出した。少年の姿をあっという間に覆い隠したそれは、黒騎士にとっては屋敷での閃光に続く、

 

「また目くらましか! だが所詮は小細工!」

 

 その声と共に、煙が大きく渦を巻いた。

 黒騎士が大剣を横薙ぎに振り回して風を起こし、煙を絡めとるかのごとくあっという間に散らしてみせたのだ。そして剣を振り回す勢いで弧を描いて背後を向けば、既にレイズが回り込んでいた――今にも立ち上がろうとしている、不格好な姿勢で。

 

「体を、崩したなっ!」

 

 おそらく煙を撒くと同時に転がりこんで、素早く脇を抜けたのだろう。だが立ち上がりが遅い。

 今の中途半端な姿勢のまま背後に飛べば、背中から転がり大きな隙になるのは明らかだ。だが左右への回避では、横薙ぎに振るわれる大剣からは逃れられない。

 そこまでを見切り、黒騎士は嗤った。大剣にさらに力を込めてその勢いを増しながら。

 少年の身の丈よりも巨大な刃で、少年の体が断ち切られるその瞬間を脳裏に浮かべながら、

  

 ――――――。

 

「……あ?」

 

 黒騎士はそのとき、ただ呆然としていた。

 彼は大剣をもう完全に振り抜いていた。だというのに、眼前ではレイズが。

 

「はっ」

 

 黒騎士を嗤っていた。

 

「な、に、を」

 

 ――カチンッ。

 

「!?」

 

 いきなり響いた音の正体を、黒騎士は考えるまでもなく理解していた。なにせその音は剣士ならば誰もが耳にしたことがある、剣を納めたときの一音なのだから。

 

「これでおぬしの剣は潰した」

「っ!?!?!?」

 

 黒騎士の視界の中で、いつの間にか茶色のぼろ布が揺らめいていた。

 正確には、ぼろ布をフードとして纏った何者かがそこに立っていたのだ。腰を緩く屈めた居合の体勢で。そしてその手元とぼろ布の隙間からは鞘に収まった”刀”が見えて――

 

「増援も通りすがりに叩いておいた。おぬしこそ、もはや勝ち筋などないぞ」

 

 その声は、声変わりを終えた男の声帯から出る高さ……ではない。だが女性と断言できるほど高い声音とも言い難い。眼前の何者かに向けて、黒騎士はなんとか言葉を絞りだす。

 

「なんだ、貴様は」

「大した者ではない。通りすがりの(さむらい)でござるよ」

「馬鹿か……」

 

 馬鹿以外、評しようがなかった。

 

「初対面で馬鹿呼ばわりとは口の悪い騎士様だ……まぁそれより、騎士というのも剣に生きる身なのだろう? ならば一太刀交えれば、互いの実力はおおよそ理解できると思うのだが」

 

 自称侍に言われて、黒騎士はようやくある可能性に気がついた。だから首をぎこちなく動かし、振りぬいたままの大剣を見て……可能性は、真実に変わった。

 

「――!?」

 

 黒騎士の大剣。その刃はおよそ半分が失われて……否。すっぱりと断ち切られていた。目にした途端に怖気が過ぎるほど、その切り口は見事な物であった。

 

「あの一瞬で割り込んで、居合切りで断ち切ったと……!?」

「アンタが長々と演説してくれたおかげで、タイミングを合わせる余裕ができた」

 

 会話に割り込んできたのはレイズだった。

 

「っ、貴様……!」

 

 そして自称侍がそこに続く。

 

「うむ。正にその勧誘のあたりでこう、木の影からちらちらとな?」

「ま、それでも銃を潰されたのはさすがにビビったけどな。てかあのときで良かったじゃねーか、出てくんの」

「いやぁ、銃なしで弟子がどこまでやれるのか。見たくなるのが師匠心というものでござろう?」

「弟子じゃねぇし、こっちは体張ってんだよ」

 

 いけしゃあしゃあと軽口の応酬を始めた2人。

 黒騎士はようやく全てを理解した。

 

「あの煙玉は、元より囮のつもりで……」

「分かってんじゃん。ぶっちゃけ体勢を崩したのもわざと。ひひっ、隙を作るコツは”もう一押し”ってな」

 

 少年の悪戯じみた笑みと共に明かされた答え。それに対して黒騎士は……ふっ、と静かな微笑みを見せた。

 

「……なるほど。まったく参ったな。見積もりが甘かったか」

「なんだ。妙に殊勝じゃねーか」

「素直なのは良いことでござる。なにせまだ事を起こす気なら……今度は剣だけでは済まないゆえにな」

 

 自称侍の言葉は明確な脅しであった。黒騎士もそれは分かっていた。

 

「確かに今の一閃なら、この鎧ごと俺を両断できるだろうな」

「つーわけだ黒騎士」

 

 レイズは壊れた琥珀銃をその場に置いて立ち上がり、代わりにナイフを抜いて黒騎士へと突きつけた。

 

「ここであの自称侍に斬られるか、この騒動の裏にある全部を洗いざらい吐くか。今度はあんたが選ぶ番だぜ」

「選択か……仕方ない。こんな形で死ぬのは俺も本意でないからな……」

 

 それは黒騎士の、嘘偽らざる本音であった。ゆえに彼は選ぶ――刃を断たれた大剣をぐっと握りしめて、

 

「これが、俺の選択だ!」

 

 振り上げる。

 それと同時に、自称侍が動いた。脅しは嘘ではない。自称侍は刀に手をかけてすかさず居合の一閃を、

 

「「っ!?」」

 

 自称侍が、そしてレイズまでもが黒騎士から飛び退いた。

 そのとき2人の目に映っていたのは、黒騎士の鎧の隙間から突きだしてきたいくつもの”なにか”だった。

 しかし2人がその正体を見極める前に、大剣が再び火を吹いて地面に叩きつけられた。

 ズドンッ! 本日3度目の爆音と土煙……それが晴れたあとには、ただ地面が抉られた跡だけが残っていた。

 

「ちっ。逃げやがったか……」

「なるほど。離脱のためにあえて琥珀によるブーストをとっておいたのか。妙な触手といい、抜け目のないやつでござるな」

「そうそれ! やっぱなんか出てたよな!」

「うむ。ぱっと見、触手としか呼びようのない見た目に思えたが……やつもおそらく『神威』なのだろう? ならば自らを改造するぐらい有り得ない話でもない」

 

 そう言いながら自称侍はフードを脱いだ。果たして中から出てきた顔は……ぼさぼさの髪を後頭部でまとめた、大人の女性のものであった。

 

「あ、やっぱり女の人なんだ……」

 

 その声は、2人とは別のところから発生した。

 それが誰かといえば、今の今まで置いてけぼりだったニルヴェアなのであった。

 

「…………あっ」

 

 レイズは、やっと彼女の存在を思い出した。

 

「あっ、じゃない!」

 

 今の今まで口を挟む隙が一切なかった。完全な置いてけぼりに鬱憤が溜まっていたニルヴェアは、その分一気に捲し立てようとするが……。

 

「なんだお前! お前、この人、いきなり、お前……なん、なんなんだよ!」

 

 悲しがな、語彙がだいぶ消失していた。なにせニルヴェアからすればこの数分であまりにも色々あり過ぎたのだ。混乱がぎゅっと詰まった語彙のない疑問に、しかしレイズがすぐ答える。

 

「混乱してんのは分かったから。はい、アカツキ説明よろしく」

 

 その言葉に応えて、自称侍がニルヴェアの前に出た。

 

「拙者、名を『アカツキ』と申す。いったい何者かと簡潔に説明すれば……ナガレの侍であり、レイズの師匠といったところか」

「師匠じゃねぇ」

 

 レイズがなにやら訂正して、それから補足を追加する。

 

「えーっとだな……さっき墓作った時に言ったろ? 『師匠みたいな人の受け売り』って。あれがこれだ」

「師匠……侍……ござる……」

「頭おかしいと思うだろ? 俺もそう思う」

「おぬし、師匠をパシりに使っておいて随分な言い草でござるな。昔はもうちょい可愛げが……」

「師匠じゃね~~~」

 

 と、

 

「あの刀捌き! 本当に侍なんですか!?」

 

 ニルヴェアが急に顔を輝かせてきた。レイズが「は?」と怪訝そうな顔をしたかたわらで、アカツキがわざとらしいしたり顔を見せる。

 

「そうそう。かの『桜の都』が支配する『リョウラン領』にて古来より受け継がれし、宵断流剣術の使い手でござるよ。ちなみにさっきのが宵断流居合術『暁ノ一閃』でござる」

「もう命名から侍って感じだ……! お前、すごい人と知り合いなんだな!」

「ほれ、この御仁を見習えレイズ。おぬしに足りないのはこういうアレでござるよ」

 

 2人の視線を一身に受けて、レイズはみるみるうちにげんなりしていった。

 

「心の底からうぜぇ……あのなぁ、大方創作物の知識なんだろうけど、現実じゃ侍なんてもう時代遅れもいいとこだし、ましてやこんなわざとらしい口調なんて……」

「お前、そういうのは風情があるっていうんだよ。分かってないな……」

「レイズぅ~分かってないでござるぅ~」

「ただただうざい! な~も~いいだろ~そんなクソどうでもいいことよりもよ~~~整理すべきことが山ほどあんだよ! てかいい加減色々疲れたし!」

 

 少年がやけっぱちに叫んだ。それに対して、アカツキは辺りを見回しながら答る。

 

「せっかちな弟子だが一理ある。やつらも、おそらくはもう引き上げているであろうしな」

「やつらっていうと……この屋敷を襲ったやつらですよね。でも本当に引き上げたんですか? あの黒騎士を見るに、かなりの執着を感じましたけど……」

「だからこそだ。拙者はあとから追いついた身であるゆえに細かな事情こそ知らぬが……しかしここまで追い詰めておきながらそれでも手を引いたということは、ここが潮時であるということなのだろう。悪事を働くときも、身を引くときも徹底的に。それが神威という組織でござる」

「神威……あの黒騎士の話が本当なら、剣の都と繋がりがあるっていう……」

「ふむ。そこら辺の情報も交換したいところだが……そうだな。まだ神威だと断定まではできんが、ただいずれにせよこの規模の騒乱を引き起こせる犯罪組織ならばやはり引き際も弁えておるのだろう」

「引き際、ですか……」

「うむ。この場における指揮官らしいあの騎士に身を引かせた。それに、屋敷内のそれっぽいやつらや森に居た増援も叩けるだけ叩いておいた。多少は逃がしてしまったが、まぁこれ以上は泥仕合だと向こうも――」

「あ、ありがとうございます!」

 

 ニルヴェアが急に頭をがばっと下げた。

 いきなり飛んできたお礼にアカツキは「む?」と首を傾げたが、それに気づいたニルヴェアは今度は慌てて頭を上げた。

 

「あ、いえ。すみません。でも屋敷が心配だったから、どうしてもお礼が言いたくて……」

 

 その言葉にアカツキは「ふむ……」と少し悩む素振りを見せてから言う。

 

「察するに、おぬしがあの屋敷の主……『ニルヴェア・レプリ・ブレイゼル』殿でよろしいのでござるか? 男子だと聞いていたのだが、しかし……」

 

 アカツキはまじまじと正面を見つめた。その視線の先、そこには誰がどう見ても金髪蒼眼の少女しかいなかった。柔らかい曲線で形造られた顔。くりっと大きな瞳。それに寝間着の上からでも膨らみが分かる胸……

 

「は、はい。実はこの姿には訳があって」

「いや。みなまで言わなくても構わぬ」

「分かってくれますか! さすが侍……!」

「うむ。リョウランでも稀にあることだ……男子として育てられた。そういうしきたりなのだろう?」

「ちがーーーーーーーーう!!」

 

 ニルヴェアはキレた。それから腕をぶんと大きく振って、とある一点をびしっと指差す。

 

「僕は! こいつに! 女にされたんです!」

「はぁ!?」

 

 指を差されたレイズは目を丸くして、すぐに反論を口に出す。

 

「だからあの霊薬については俺も知らなかったって言ってるだろ! あのなアカツキ、こいつは」

 

 しかしアカツキはすっと手を突きだして、レイズの言葉を堰き止めた。それから一言。

 

「我が弟子よ」

「弟子じゃねぇ」

 

 なんかニヤニヤしながら。

 

「おぬしもスミにおけないなぁ」

「は?」

 

 レイズは、そしてニルヴェアは、意味が分からずにお互いなんとなく顔を見合わせて……

 …………

 ……………………、

 

「「!?」」

 

 少年少女の真っ赤な叫びが、蒼月の夜に響き渡る。

 

「そんなんじゃねぇー!」「そんなのじゃなーい!」

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