俺は踏み台転生者   作:DECHIES

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 帝都シュヴァール。それは帝国の繁栄を象徴する都市だ。魔物による多数の被害が出るこのご時世には非常に珍しいことに決して眠らぬ都市と有名だ。常に煌びやかな光が都市全体を照らし、都市に住む者達は日々幸福に満ちた活気のある生活を送っている。

 

 その姿は正しく帝国の繁栄の象徴とも言えよう。

 

 だが、光が濃ければまた闇も濃くなるのも道理。幸福と活気に満ち溢れた帝都と少し離れた場所にまるで帝都の煌びやかな姿とは想像もつかないほどの劣悪な環境のスラム街があった。

 

 ふくよかな体型の多い帝都とは反対にまるで骸骨のように痩せこけ、骨の浮いた住人達が道端に死んだ顔をして座っていた。いや、或いは本当に死んでしまっている者もいるのだろう。

 

 その他にも何かを殴打する音、人の悲鳴、血の匂いと常に暴力の気配が漂うスラム街がどうしてか今日はその暴力の気配がなかった。その代わりにスラム街に満ちているのは張り詰めたような空気だった。

 

 その空気の正体はこのスラム街には似つかわしくない程の豪奢な黒い服装に身を包んだ男──ゲーネハルトだった。

 

「ここは変わらんな」

 

 眉一つ動かさぬ仏頂面でゲーネハルトの無表情さと彼から感じる絶対強者としての威圧感にスラム街の住人達は息を潜めていた。

 

 普通なら貴族という時点でスラム街の住人達は逃げ出す。何せ彼らは気まぐれで殺してくるような畜生なのだ。だが、ゲーネハルトにおいてだけは例外だった。彼はよくこのスラム街に視察に来るのだ。

 

「ゲーネハルト様だ。何しに来たんだろうな?」

 

「さあな。でもまた何か探してるみたいだぞ?」

 

 スラム街の住人達がヒソヒソと話し合うようにゲーネハルトは時折何かを探しているかのように周囲を見回していた。

 

 こうした光景は最近になって良く見られるようになった。

 

「……ここにはいないか」

 

 周囲の住人達にチラチラと目を向けられているゲーネハルトはさして気にしている様子はない。本来であれば、貴族がこうした卑しい身分のものに不躾に目線を送られる事など無礼であるとして憤慨してもおかしくはないのだが、彼はその視線は当然のものとして受け止めていた。

 

 そんな一般貴族とは何処かズレているゲーネハルトは彼等の視線を浴びながら更に暴力の満ちるスラム街の奥地へと足を運ぶ。

 

 そしてスラム街の奥地でまたも何かを探しているかのように辺りを見渡しているゲーネハルトの視界の片隅にほんの一瞬、光の玉のような物が映った。

 

「今のはまさか……」

 

 ゲーネハルトはその驚異的な脚力で先程遠く離れた場所にいた光の玉が曲がって消えた道へ走る。それによって巻き起こる突風に彼の様子を物珍しそうに見つめていたスラム街の住人達は思わず目を閉じてしまう。

 

 そして風が止んで目を開けた時にはゲーネハルトはそこに存在していなかった。まるで瞬間移動でもしたかのような現象に唖然とした様子の住人達を他所にゲーネハルトは光の玉が曲がった場所へと辿り着く。

 

 そしてそこにいたのは──

 

「わわっ、急に何!?」

 

 ──かつて傭兵ギルドからの依頼で知り合ったティアラ・ホライズンの姿だった。

 

 突然巻き起こった突風に驚くティアラ。そしてゲーネハルトはと言うと、彼女の事を目に映してはいなかった。

 

「消えた……?」

 

 困惑した様子で辺りを見渡しているゲーネハルト。そんな彼の姿に気がついたティアラは驚愕とそして歓喜の表情を見せる。

 

「あ、あのっ! ゲーネハルト様、どうかしましたか?」

 

 何かを探している様子のゲーネハルトにティアラは上擦った声を上げて話しかけた。そうする事で漸くティアラの存在に気がついたゲーネハルトは彼女を一度ジッと見つめた。

 

「あの……?」

 

 神秘的な金と紅の双眸がティアラの顔を見つめる。吸い込まれてしまいそうな程に美しい瞳にティアラは羞恥の感情か、もしくは喜びか。或いはその両方の感情からか顔をほんのりと赤く染める。

 

やはり違うか。確か──ティアラ・ホライズンだったか」

 

「あっ、はい! そうです! ティアラ・ホライズンです! 覚えててくださったんですね!」

 

「無論だ。俺は貴様等とは頭の出来が違うのでな。……まあ、それはどうでもいい」

 

 自分で見下すような台詞を吐いておいて何処か居心地悪そうにしているゲーネハルトの様子にティアラは笑みが零れそうになるが、笑ってしまっては失礼だと口元を固く引き締める。

 

「ひとつ聞きたいのだが、此処に金色の髪をした男はいたか? もしくは蒼の瞳をした男だ」

 

「うーん、私が覚える限りではいませんでしたけど……」

 

「そう、か」

 

 そう言って表情こそ変わらないものの彼の放つ雰囲気が何処かしょんぼりと落ち込んでいるようなものに変わったのを感じたティアラはグッと堪えた。それはもう色々と。

 

(この人はなんでこう、なんでこう……!)

 

 言葉にならぬ感情に色々と悶えたいティアラであったが、それを何とか心を落ち着かせて冷静になる。

 

「ゲーネハルト様はその人を探しているんですか?」

 

「ああ、そうだ。俺は昔からずっと其奴の事を探している」

 

「そうなんですね。でしたら、その迷惑でなければ私も人探しを手伝いますよ?」

 

 そう言ったティアラにゲーネハルトは驚いたかのように少しだけ目を見開いて彼女を見つめる。そして少しの間逡巡した後、彼女の申し出を頷いて了承した。

 

「それは助か──んんっ。殊勝な心掛けだな。ならばお前にも手伝ってもらおうか」

 

「はい!」

 

 ニコニコと笑顔でゲーネハルトの依頼を引き受けたティアラな彼は探している人物の特徴を伝える。それを聞いてティアラは少しだけ難しそうな顔をした。

 

 というのも対象の情報が少なすぎるのだ。

 

「金色の髪に蒼の瞳の男性ですか……。それだけだとちょっと探し辛いですね。もう少し他に特徴とかありませんか?」

 

 流石にこれだけだと探そうとしても対象を絞りきれない。なのでもう少し詳細な情報が欲しいとゲーネハルトに伝えると彼は少し考えた後、ティアラのことをジッと見つめた。

 

「そうだな……彼奴は兎に角精霊に好かれていて、常に彼奴の周りにいたよ。ああ、そうだ。ティアラ、まるでお前のような奴だ」

 

「私が精霊に好かれてる……?」

 

 ティアラは驚きながら自分の体を見つめる。無論、ティアラは魔眼を持っていない為直接視認する事は叶わないが、それでも精霊が自分の周りにいるとは想像もしていなかった。

 

「彼奴ほどではないが、それなりの数の精霊にお前は囲まれている」

 

 精霊とは自然の魔力が意志を持った存在だと言われている。

 

 話によれば精霊に好かれるものは国を大きく動かすほどの力を持つと言われている。昔存在した精霊に好かれた者は作物の実らない痩せた土地を作物で満ちる豊潤な土地に変えただとか、砂漠のような乾いた土地にオアシスを作りあげた等国にとっては重宝されるような力を持っていたらしい。他にも滅多に存在しない癒しの魔法に長けた光の精霊などの珍しい精霊もいると同じスラムに住んでいる物知りな爺に聞いた覚えがある。

 

 そんな驚異的な力を持つ精霊にそれなりにとは言え好かれているという事実にティアラは驚きを隠せない。そして同時に彼がその男を探す理由もよく分かった。

 

「精霊に好かれているもの同士、何か惹かれるものがあるかもしれん。故にティアラ、お前の目に止まった人物がいたら俺に報告してくれ」

 

「出来るか分かりませんけど、一生懸命頑張りますね!」

 

 そう言って意気込む様子を見せるティアラにゲーネハルトはいつもの仏頂面が崩れてふっ、と笑みを浮かべた。

 

「ありがとう、ティアラ」

 

「──っ」

 

 それは思いもしなかった言葉だった。

 

 貴族である彼が自分のようなスラム街で暮らす人間に礼を言うなど本来は決してありえない。普通の貴族ならば力になるのが当たり前だと誰もがそう理解しているが故にスラム街に住み着く人間に礼など言いはしない。だから自分も感謝など求めるつもりはなかったし、求める事すら烏滸がましいと思っていた。

 

 だと言うのに彼はまるでそれが当たり前の様に感謝の言葉を告げた。それだけでもティアラにとっては衝撃的だったというのにそれに加えてあの「ゲーネハルト」が微笑んできたのだ。

 

 それはティアラをフリーズさせるには十分過ぎる程の衝撃だった。というか、普通にゲーネハルトを憧れている彼女にとってはオーバーキルだった。

 

「あ、ああーそれにしても私なんかが精霊に好かれるくらいですし、それならゲーネハルト様はもっと精霊に好かれてると思いますよ!」

 

 これ以上ゲーネハルトの顔を直視出来ないティアラは顔を逸らして露骨に別の話題へと変えた。

 

 ティアラは常々思ってはいたのだ。彼処まで驚異的な力を誇るゲーネハルトならば精霊に好かれていてもおかしくは無いだろうと。それは彼女と共に暮らしているスラム街の仲間もそう思っていたし、物知りな爺もそう言っていた。

 

 だが───

 

「……ああ、そうだな」

 

 それは悲しそうに、或いは悔しそうな──けれど何処か納得しているような雰囲気を彼は纏っていた。

 

俺も、好かれていればよかったんだがな

 

 ゲーネハルトは普段の彼とは想像もつかないほどの弱ったような消え入りそうな声でそう呟く。その声を聞き逃したティアラはゲーネハルトの様子に不思議そうな表情を浮かべる。

 

 どうしたのかとそう尋ねる前にゲーネハルトの様子はいつもの凛々しい顔つきに変わった。

 

「さて、俺は他にもすべきことがあるんでな。件の人物の捜索を頼んだぞ」

 

 そう言って彼は踵を返して何処かへ去ろうとした直前、顔だけをティアラに向けた。

 

「そうだ、ティアラ。お前……いや、やはり何でもない」

 

 振り返ったゲーネハルトは何かを言おうとしたが、少しだけ悩んだ素振りを見せた後彼は何も言わずに一瞬のうちにこの場から消え去った。

 

「ゲーネハルト様……?」

 

 彼が最後に見せた表情。そして彼は一体何を言いたかったのか。それは今のティアラに決して分からなかった。

 

 ■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪■□▪▫■□▫▪

 

 

 

 ゲーネハルトはスラム街での探索を切り上げて個人で買い取った小さな一軒家に入る。そして身に纏っていた豪奢な服を脱ぎ、ラフな格好になると──

 

「うおあああー」

 

 床に敷かれたラグの上をゴロゴロと気の抜けた声を上げると共にゴロゴロと盛大に転がり出した。普段のゲーネハルトを知っている者が今のゲーネハルトを見ると卒倒するか、或いは偽物だと疑うような奇行を行っていた。

 

「いくら何でも勇者くんが消えるのが速すぎる!」

 

 今日はスラム街に行って革命軍に引き入れられそうな奴を探していたら、忘れもしないあの光る玉──勇者くんの姿がほんの一瞬だったが見えた。

 

 これは因縁つけるチャンスだぜ! 

 

 そんな事を思ってダッシュで向かったら曲がり角曲がった先にはもう勇者くんは消えてたって言うね。ハハッ、笑える。何処ぞの銀色のモンスターばりの足の速さじゃねーの。

 

 一瞬、曲がり角の先にいた勇者の親戚ことティアラちゃんがもしかして俺がずっと探していた勇者くんかと思ったけどやっぱ精霊の数からして違うんだよなあ。

 

 あの状況なら普通はティアラちゃんを疑うけど、俺精霊が見える魔眼持ちだしね。魔眼を通して見てもティアラちゃんの精霊の数はやっぱり光る玉と化す勇者くんの数には遠く及ばない。

 

 あんな一瞬で精霊が好きな相手から離れるわけが無いしな。そうなるとやっぱりティアラちゃんは勇者くんでは無いのよね。まあ、勇者くん男だしね。ティアラちゃんは女の子だからそもそも違うっていう。

 

 それに精霊を使った転移なんかの魔法で消えたとかなら魔眼が精霊の力の揺らぎを感知する。即ちそこから導き出される答えは──! 

 

「勇者くん、走ってどっか行ったんだな」

 

 しかもティアラちゃんにも気付かれず、そして俺ですら追いつけないような超スピードで。

 

 ……やばい、思ってたより勇者くん滅茶滅茶強いのかもしれん。

 

「俺ももっと精進しなくてはならんな……」

 

 帝国最強と言われるようになってから少し慢心してたのかもしれん。これくらい強ければいいだろと、心のどこかで甘えてたかもしれない。

 

 そうだよな、何せ勇者くんは何れ世界を征服するような魔王とかそんなやべー奴と戦う運命にある人だもんな。そりゃあ、たかが一国家の最強程度じゃあ駄目だわ。

 

 今の俺程度の強さでは勇者くんにとっては踏み台にすらならないかもしれない。いや、ならないだろう。

 

 つまりは俺はもっともっと鍛えなくてはいけない。恐らく俺よりも圧倒的に強い可能性のある勇者くんに食らいつく為にも鍛え直さなければならないのだ。

 

 ありがとう、未だ顔も知らない勇者くん。俺は君の踏み台としてより強くならねばならないと自覚したよ。

 

「それにしても、スラム街は本当に変わってないな……」

 

 寝転がっていたラグの上から立ち上がって俺はベッドへと腰掛ける。思い出すのは今日赴いたスラム街だ。

 

 彼処へ初めて行った時から何も変わってはいなかった。飢えで苦しみ、少ない食糧を巡って日々争い合うスラムの住人達。お陰でいつも彼処は血の匂いで満ちている。

 

 今日だってそうだ。見える範囲では暴力沙汰等は起きてはいなかったが、餓死した者が路上に転がり、骸骨のように痩せこけた連中が死体も同然の様子で道の隅に縮こまっていた。

 

 日頃から暴力で溢れているせいで壁にはいくつもの赤茶色の血の乾いた跡や未だ乾ききっていない血の跡もあった。

 

 初めてそれを見た時は衝撃的だったよ。思わず顔を顰めてその場に立ち尽くしてしまう位には衝撃的だった。

 

 初めはさ、踏み台だぜうははー! みたいなそんな軽いノリで目指してたけどあの地獄を見たら変わったよ。俺は踏み台にならなくちゃいけない人間だって。この国の現状を変える為にも俺は勇者の踏み台になるしかないって。

 

 勇者っていうのは精霊に最も好かれる人物だ。

 

 文献で調べてみる限りだと精霊に好かれる人物ってのは心が清い奴だとか勇気があるものって言う訳じゃあない。

 

 精霊は他者の希望となり得る存在にこそ懐くんだ。

 

 そういう意味では勇者というのは非常に合致している。

 

 何せ勇者という存在こそが他者の心を震わし、人々の希望の象徴へとなるんだから。そしてそんな人だからこそ精霊は力を貸すのだろう。国を簡単に変えれるほどの力を。

 

 そう考えながらベッドから立ち上がると鏡に前に移動する。そして魔眼を通して鏡に映った自分の姿を確認した。

 

「ああ、やはり──」

 

 鏡に映る自分の姿を見てふと脳裏に過ぎるティアラの言葉。

 

『ゲーネハルト様はもっと精霊に好かれてると思いますよ!』

 

「──俺は踏み台が似合いだよ」

 

 鏡に映っている俺には精霊はたった一匹しか引っ付いていなかった。

 

 通常、人に引っ付く精霊が一匹なんて事はありえない。少なくとも今まで潰してきたどんな悪党でさえ十匹程は引っ付いていた。それも様々な色の精霊が、だ。

 

 だが、俺に引っ付いているのは常にこの黒い精霊一匹だけだ。それが何よりも俺という存在(踏み台)の証明だった。……俺は決して誰かの希望にはなり得ない。そういう事だ。

 

 まあ、俺は踏み台という名の悪だからな。民から嫌われている自信もある。ふふ、言ってて悲しくなるなこれ。

 

「はぁ……やはり何度見てもこれしかいないか」

 

 昔から変わらない事実に思わず嘆息してしまう。いくら嫌われているとは言え一匹だけしかいないというのは非常に悲しいものだ。

 

 だが、そんな俺の気持ちなど知らないといった様子で頭の上をくるくると回ったり、頭の上に乗っかったりする黒い精霊。其奴をジッと観察していたらとあることに気がついた。

 

「お前、何か前より太っていないか?」

 

 人の頭の上で寛いでいた精霊を摘み上げる。するとそんな雑な持ち方をするなと言わんばかりに黒く発光したり、摘み上げた体をぶるぶると震わせる精霊。

 

 そんな精霊の抗議を無視してじっくりと観察する。

 

 ……うむ、やっぱりなんか太ってる。

 

 今度は両手で包み込む様にして感触を確かめる。

 

「何だこの感触……?」

 

 なんかモチモチしてないこの精霊? やっぱ太ってんじゃねえか。

 

 グリグリと捏ね回していると精霊はやめろと言わんばかりに何度も点滅していた。それを見てさすがにこれ以上弄り回すのは可哀想かと思い、手の中から解放する。

 

 そのまま逃げていくかと思ったが、精霊は何を思ったかふわふわと飛んでいくとそのまま俺の頭の上に着地してまた寛ぎ始めた。

 

「マイペースなことだ」

 

 あまりにもマイペース過ぎる精霊だが、俺のような踏み台にはこのくらいの精霊がちょうどいいのかもしれない。

 

 ま、精霊に関しては取り敢えずここまでにしておこう。それよりも先に今日は考えることがある。

 

 それはどうやって革命軍に人を誘うかという事だ。

 

 ティアラちゃんを誘ってみるかと最後に声を掛けたが、なんて言えば分からなかったからなあ。いくら何でもいきなり「革命軍に入らないか?」とか言われたら誰だってドン引くだろう。

 

 他に思いついたものといえば──

 

 ──お前も革命軍にならないか? 

 

 ──やはりお前も革命軍になれ! 

 

 あ、駄目だこれ。俺無理だわ。誘い方下手くそ過ぎるだろこれ。いくら何でもこんなクソ雑な誘い方があるかっていう話だ。

 

 いかん、戦いに明け暮れたせいでどうすれば上手く人を勧誘できるのか全く想像がつかない。どうしよう、一人革命軍とか俺嫌なんだけど。

 

 うーん、こうなったら適当な奴に恩を押し売りしてその恩を盾にして脅していれるとか……はいくら何でもやばいか? 

 

 でも俺にはそれくらいしか考えつかないな。こうなったら取り敢えず軽く人助けしてその時の見返りに革命軍の加入を求めるか。

 

 いいもんねー、俺踏み台で悪者だし。こうなったらとことん踏み台らしく暴虐の限りを尽くそうじゃない。そうと決まれば早速行動あるのみだ。

 

 先程脱いだ服をもう一度着込んで玄関へと向かう。その途中、鏡に映った俺と一匹の黒い精霊が目に入った。いつもの通り何考えてるのか分からない仏頂面だ。自分の顔ながらこんなの怖すぎて子供泣くんじゃなかろうか。悪人面というのがぴったりだ。

 

「……行くか」

 

 玄関の扉を開くとそこから太陽の光が入り込んで来る。その光が眩しくて思わず目を細める。

 

 ──俺は人の希望にはなり得ない。それは精霊が証明している。だからこそ、俺は勇者という存在に希望を抱いているのだ。勇者という希望の光ならばこの国を変えられるはずだと。

 

 その為にもいずれは俺という踏み台を越えてもらわねばならない。

 

 そのくらい出来なくてはこの国は変えれないのだから。




トンチキは人の心が分からない。あと考えが大体物騒。

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