古龍襲来の後始末   作:辻山 つじや

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追われる少女と追われた蛙
> 追われる少女と追われた蛙 ―起―


東の大砂漠と呼ばれる広大な砂の海に、デルクスと呼ばれる小型の魚竜種が頻繁に姿を見せていた頃。

そこに隣接している集落に大きな変化が訪れようとしていた。

薬や食品をはじめとした様々な品物を扱うテントが幾つも建ち並ぶその場所は、三角旗を砂の混じった風が靡かせている。

空を見上げれば色とりどりの気球が飛んでおり砂漠地域一帯の観察を行っているようだ。

「砂漠のオアシス」と呼ばれ沢山の人で賑わっているこの場所は、あと数日程でこの地域から姿を消す。

一見大きな商店街に見えるこのオアシスが数ヶ月周期で各地を移動するというのだから最初は驚いた。

話を聞いて店の一つ一つをよく観察してみると、確かに連結部や車輪などが閉まってあるようだ。

移動の際は荷車に近い形をしているのであろう。

 

ぼんやりと荷造りをしている店を眺めていると、筋肉質な中年の男性が工房から出てきた。

 

「申し訳ないな…兄ちゃん。依頼されていた装備についてなんだがまだ少し時間がかかりそうなんだ……って……兄ちゃん?」

 

「あ、あぁ!すみません。荷車の準備工程が珍しくて…つい夢中になってしまいました」

 

中年の男性は青年につられ同じ方を見る。

そこには、これから出発するであろう行商屋の店が、姿を変えていく工程が広がっていた。

からくり箱のようにパタパタと音を立て、展開されていた物が収納され、収納されていた車輪や連結部が展開されていく。

あっという間に店は店であったことが嘘であるかのように、四角い木製の荷車へと変形した。

 

「兄ちゃんはここに来て、まだ日が浅いんだったな。ここら以外でこういった行商屋が集まる話もなかなか聞かねぇし、すげぇだろ?」

 

「えぇ。あの変形技術には文明力の差を感じさせられますね。…この地域に竜人が多いのと何か関係していたり?」

 

「そこまで詳しいことは俺にはわからんがなぁ…だが剣斧や盾斧なんかの変形機構が流用されているとは聞いている」

 

剣斧や盾斧はハンターが扱う武器の中でも比較的新しい部類の物である。

剣斧は元々孤島地方独自の武器であったが、とあるハンターがその武器で「海で暴れる古龍を単独で撃退した」という話から、モンスターへの有用性やその威力が評価され、近年全地域に普及することとなった。

盾斧はここ、通称バルバレと呼ばれる地域のギルドが開発した最新鋭の武器である。

どちらも機巧と技巧の粋を結集して作られた強力な武器であり、変形機構がかっこいいとの理由で若いハンターにも人気の武器なようだ。

竜人と呼ばれる種族は人間よりはるかに高い知能を持ち、人間に文明と自然の両立をもたらしたと言われていた。

人間よりも数は少ないがその誰もが長寿であり、人間に対して友好的である。

地方や小国家では彼らに武器の発明や土地の管理などを任せているとも言われているので、あの荷車やハンターの使用する武器にも当然関与しているであろう。

 

「ごめんなさい、話をズラしてしまいましたね。装備の件、了解しました。大きな狩猟が終わって、まだ日も浅いみたいですしね。ここの工房の人数でも大変なんでしょう」

 

依頼されていた装備の遅延ということもあり、文句の一つでも言われると思っていた中年の男性は青年の問題ないといった態度に意外そうな顔をした。

 

「偏見…って訳でもないんだが…ハンターは職業柄、気性が荒いと思っててな。もっと何か言われると思って覚悟してたぜ。へへ、兄ちゃんは優しいハンターさんなんだな」

 

中年の男性は笑顔を浮かべた後、安心したようにふぅと息をはいた。

確かにハンターは職業柄、気性が荒っぽいのが多い。

この男性は何度かハンターに文句を言われていたのだろうか。

 

「自分の命を預ける装備を扱ってもらっているんです。文句どころか頭が上がりませんよ」

 

青年も男性の笑顔に笑顔で答える。

工房の職人に敬意を払う。

これはハンターとして活動してきた十一年で得た自己流心得の一つだ。

 

「先日の豪山龍襲撃から帰ってきたハンターさん達の装備調整で手が回らなくてな…兄ちゃんの装備は明後日には渡せるようにしておくから!」

 

後日また来ますと伝え、青年は忙しそうな工房を後にした。

東の大砂漠には数十年周期で、豪山龍と言う古龍が出現する。

ダレン・モーランと呼ばれるその古龍はとても大きく、普段は砂の海と呼ばれる場所の深部を回遊しているらしい。

数十年周期で地上へと現れる理由には様々な仮説が立てられているが、その中で最も有力とされているのは呼吸をするために地上へと浮上してくるのではという説である。

一月ほど前、バルバレは大砂漠の観測を行っていた古龍観測所員からダレン・モーランの浮上警告を受けた。

ダレン・モーランの進行ルートにバルバレが該当していたため、ギルドは付近の腕利きハンターを集結させ、これを緊急クエストに設定。

そして見事、ダレン・モーランを撃退したのだ。

古龍撃退の任を受けた腕利きハンター達の装備はその後、工房にて整備を受けることになったのだろう。

 

「新装備完成まで何かクエストでも受けに行こうかな」

 

そう呟き、大人と同じくらいの大きな剣【バスティアン】という、希少な鉱石を主な素材として鍛え上げられた大剣を背負い直し、青年―シエルはバルバレギルドの集会所へと向かった。

 

 

――――――――――――――――――――――――

 

 

「シエル殿、一つ頼まれてくれないかのぉ」

 

集会所に着くなり、受付カウンターの上でお酒を嗜んでいた小柄の竜人に声をかけられた。

 

「ギルドマスター、特殊な依頼を受けるのが僕の使命であります故、なんなりと」

 

ギルドマスターとは、ここバルバレギルドの最高統括者であり近隣の狩り場をも管理しているとても偉い方である。

そんな偉い方からの指名の依頼は大抵が厄介な内容であることが多い。

だがそれはギルド本部からの最大限の信頼の証であるともとれる。

ギルドからの評価を重きに置いている僕は活動柄こういった依頼をされることが多いし、断ることもない。

むしろ専門としている。

 

「話が早くて助かるわい。実はな、ここから一番近い狩り場の遺跡平原にG級個体の鬼蛙が現れたんじゃ」

 

G級個体。

それはギルドが制定したモンスターの脅威度の一つである。

ここバルバレギルドでは主に新人や若手向けの下位個体から、ある程度経験を積んだハンター向けの上位個体までのクエスト難易度を扱っている。

そのため普通であればG級個体という危険度の高いクエストなんてものが依頼されることはない。

 

「遺跡平原……本来の鬼蛙の生息域から外れているようですが…………なるほど、先日のダレン・モーランの影響ですね?」

 

「左様。先日の豪山龍の襲撃によって地底洞窟にて地震が観測されたようなのじゃが、それが繁殖期の鬼蛙を刺激してしまったらしくてな。遺跡平原まで出て来てしまったのじゃよ。遺跡平原は新人ハンターが多く足を運ぶ狩り場でな、昨日採取ツアーに出発した新人ハンター達のパーティーもいるハズなのじゃ。避難命令は出したのじゃがいかんせん心配でな」

 

「繁殖期のG級鬼蛙……新人パーティーが遭遇してしまった場合なんてのは想像したくないですね…。G級個体をクエストとして扱っているギルドに依頼して、それを受けてくれるハンターを待っていられる余裕がない…か……わかりました。では、なるべく急いだ方が良さそうですね。緊急クエストとして早速手続きをお願い致します」

 

「シエル殿に感謝を。狩りの安全と成功を祈っとるぞい!」

 

クエストカウンターで手続きを済ませ、手早く持ち物の準備を始める。

狩りにおいての必需品である回復薬や砥石といった消費アイテムなどは普段から小まめに補充をしているため、不足するということはない。

消費アイテムの小まめな補充と点検。

これも長年ハンターを経験してきて得た自己流心得である。

ハンターの基本ではあるが、基本であるが故に厳かになりやすくもある。

持ち物をポーチに詰めて防具を身につける。

―レックスXシリーズ―

轟竜ティガレックスの素材を基に鍛え上げられた防具だ。

轟竜の重殻や厚鱗からなる茶金色が全身を包み、肩には剛爪を使用した突起が威圧感を醸し出す。

大型モンスターの咆哮を完全に無効にする優れた防音性を持ち、体力が消費されていなければ自らの力が底上げされるという特殊なスキルも併せ持っている。

鎧玉もいくらか溶かして強度を上げているので防御力も申し分ない。

僕にとって思い入れのある装備であり、相棒でもある。

大剣バスティアンとポーチを集会所の外にある狩り場用荷車へと積み込み、僕は鬼蛙のいる遺跡平原へと足早に向かった。

 

 

古龍襲来の後始末。

イレギュラーな依頼こそがシエル・レーベンの仕事である。

 




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初めまして!お世話になっている方々にはありがとうございます!

「つじや、小説始めました」

初めてのモンスターハンター小説…というか、小説自体が初めてに近い状態ですが…頑張っていきますので…どうかよろしくお願い致します!
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