古龍襲来の後始末   作:辻山 つじや

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>> 追われる少女と追われた蛙 ―承―

 

 

鬼蛙―テツカブラ―。

両生種 有尾目 鬼蛙亜目 カブラ科に属するモンスターだ。

蛙と呼ばれてはいるが、実のところ蛙とはまったくの別種であり、サンショウオなどと同じ両生種にカテゴリーされている。

下顎の骨の一部が大きな突起状に発達した巨大な一対の牙を持ち、朱色の外殻が特徴的な大型モンスターである。

巨大な牙を器用に使い、岩石を武器として使うことが確認されており、その破壊力と防御力からバルバレ付近の新人ハンターには登竜門として認知されているそうだ。

だが、今回の個体はG級個体であり生息域からも大きく外れてしまっている。

おまけに繁殖期で気が立っている個体と来たものだから登竜門などと扱ってはいられない。

 

「入れ違いで新人パーティーがギルドに戻ってくれていれば僕も安心なんだけどな」

 

朝方、無事に遺跡平原に到着したシエルは荷車から必要な物を下ろしながら呟いた。

ギルドから一番近い狩り場とは言っても半日以上はかかってしまう。

昨日ギルドを出発したのが宵くらいだったので、僕が向かっている最中にでも撤退してくれていれば、新人パーティーは無事であるハズだ。

遺跡平原へと向かう道中にすれ違いを期待していたのだが、それは無かった。

今は入れ違いだったということを期待する他ない。

 

「下位ハンターで情報通りの個体に出会っていたら…覚悟だけはしておかないとな…」

 

モンスターの命を狩るのがハンターの仕事である。

だがそれは逆に、モンスターに狩られてしまうというリスクも常に背負っている。

人間の生命力とモンスターを比べてしまえば、圧倒的にモンスターの方が強いし、一撃一撃の力もモンスターの方が上である。

だからハンターは人間の一番の武器である知能を使って、様々な素材で武器をつくり、様々な技術で防具を作る。

人間は先人達から継がれてきた技術を使い、それを発展させ、文明という物を築き上げてきた。

それを守るのがハンターの使命であり、文明の発展の一部を担うのもまた、ハンターの宿命である。

命のやり取りを他生物と直接行う僕達は、いつ、どんな場所で、どうやってこの命を失ってしまうのか。

その覚悟を常にしていなければならない。

僕はこのハンター生活十一年で、正直、身の丈以上の狩りや高難易度の任務を数々こなしてきた。

しかし、それでも…

同業者の無惨に変わり果てた姿は見たくないし、回収もしたくない。

無事を祈り、救助が必要であれば全力で助ける。

生命の大粉塵をいつでも使用出来るよう握りしめ、僕はテツカブラと新人パーティーの捜索を開始した。

 

 

シエルがベースキャンプから出発した直後。

無音の撤退信号弾が一つ、打ち上げられていた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 

 

古代文明の痕跡が色濃く残る遺跡平原は日光が辺りの金色の草原を照らして、穏やかな風が吹いていた。

アプトノスと呼ばれる草食種に属するモンスターが群れで食事を行っている。

臆病で温厚な性格の彼らは、食物連鎖における第一次消費者を担っているため、彼らの様子から付近の状況を確認することが出来る。

大型モンスターに補食されてしまうことが多い彼らが、穏やかに過ごしている様子を見るに、ここのエリア周辺には外敵となるモンスターがいないのだろう。

ならば遺跡平原の奥地、エリア六か七あたりだろうか。

岩の壁がいくつも並んでいる場所ならば、地底洞窟の地面と類似した環境で繁殖活動を行いやすいだろうし、奥地に行けば水辺もあったハズだ。

両生種の生態を考慮し、居そうなエリアを絞っていく。

がむしゃらに捜索してもスタミナを消費してしまうため、シエルはいつも知っているモンスターの生態からエリアの特定を行っている

もともと学者気質な性格であり、これはもはや癖であると言ってもいい。

予想したエリアへと足を運ぼうとすると、食事中のアプトノス達がシエルに気付き、雄の個体がモーっと鳴いた。

すると、子、雌、雄の順番でその場から逃げていってしまった。

 

「家族での食事の邪魔しちゃってごめんな」

 

一家団欒の場を乱してしまったような感覚に苦笑いをしつつ、シエルもそのエリアを後にする。

 

 

黄金の草原地帯を10分程かけて移動し、エリア四に差し掛かろうというところで草原地帯とは少しずつ雰囲気が変化していく。

露頭に囲まれ始め、生えている草の種類も先程の草原のものとは明らかに違っている。

草原の地中に埋まっていた遺跡の痕跡が見えなくなっていき、目的地の一つであるエリア六の方からは強く風が流れてくる。

その風の中には血の匂いも混ざっていた。

 

「…獣の匂い……それにあれは…」

 

エリアの中心には血溜まりが出来ていた。

それだけ見れば不安を感じずにはいられなかったと思うが、獣臭い匂いだったので最悪のケースではないだろう。

血溜まりには人間以上の体格を持つ生物の亡骸が転がっていた。

その亡骸は、ジャギィ、ジャギノスと呼ばれる小型肉食類の親玉とされている、中型モンスター。

狗竜ドスジャギィのものであった。

シエルはその亡骸に近づき狗竜が絶命した原因を探り始める。

よく見れば狗竜の皮は、槍武器による傷が付いており、頭部には打撃武器で殴られた形跡があった。

 

「ハンターが複数人でこの狗竜と戦っていた…か」

 

という事は下位の採取ツアーに出掛けていた新人パーティーは、突然の乱入モンスターにもある程度対応は出来ていたようだ。

通常、下位ランクの採取ツアークエストでは、狩り場で中型から大型モンスターに出くわす事はまずありえない。

ギルドがしっかりと周辺を観測をしており、狩り場に侵入するようなモンスターが現れれば、ギルドナイトと呼ばれるギルド本部の専属ハンターがこれを食い止める。

それでもこの狗竜は乱入してきた。

ということは、ここから導かれる結論は、

 

「これもダレン・モーランの影響なんだろうな……それに、担当のギルドナイトさんもタイミング悪く古龍撃退の任に当てられていたんだろう…」

 

古龍の影響は色々なところに影響を及ぼす。

今回の新人パーティーはこれに完全に巻き込まれてしまったようだ。

それは自分も例外ではないが…。

ブンブンと頭を振って雑念を振り払い、再度狗竜の観察を行う。

どうやら、狗竜にとどめを刺したのはハンターではないようだ。

 

「腹を抉られている…これをやったのは鬼蛙…だよな。ここの傷口だけ油のような液体が付着してるし…」

 

大量の血が溢れている傷口には油特有のてかりが混じっていた。

これは多分、両生種からしか取れない人工では生成不可能な特殊な油だと思われる。

カワズの油と呼ばれる油には我々人間にとって様々な活用方法があるため、両生種のモンスターが狩猟される主な理由の一つにもなっていた。

狗竜へのとどめを鬼蛙が刺しており、付近には人の血液などの痕跡は見当たらない。

新人パーティーはどうやら、うまく鬼蛙との戦闘を回避出来ている、と仮定するべきか。

 

「一安心…して大丈夫だろうか」

 

ふぅーと息を吐いて、不安要素がまだ辺りに残っていないかを見回して確認する。

すると、エリアの端に何か違和感を感じた。

そこには、新人のハンターに人気のある打撃武器が転がっていたのだ。

全身に緊張が走る。

この狩り場にはまだ新人ハンターがいるのだ。

今も襲われている最中かもしれない。

急いで探さなければ。

そんな時、エリア七の方角から大型モンスターの雄叫

びのようなものが聞こえてきた。

この咆哮の仕方は…、

 

「威嚇している…!」

 

シエルは強走薬グレートをポーチから取り出し、一気に口に流し込む。

持続系エナジードリンクの独特な風味が口一杯に広がり、腹部から全身へとバランスよく力が漲っていく感覚がした。

スタミナの消費を考えなくてよくなったシエルは、そこから全速力でエリア七へと向かっていった。

 

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 

意識が時折遠くなる感覚がする。

呼吸は荒いし、頭も痛い。

どうやら頭から血が出てしまっているようだ。

流れてくる血によって視界が赤く染められる。

一緒に狩りにきていた先輩は、いなくなってしまった。

いや違う。

私は置いていかれたのだ。

私はうまく囮にされたのだろう。

ベースキャンプの方角から撤退信号弾が打ち上げられていることは幾らか前に確認している。

薄れかけた意識の中、突如思い出が蘇った。

 

 

元々私は一人でハンター活動をしていくつもりだった。

私の生まれ育った村は、モンスター被害が極端に少ない地域にあったため、村からハンターになりたいと言い出す子どもは滅多にいなかった。

そのせいか周りから、

 

「頭可笑しいのではないか?」

 

「自殺願望でもあるんじゃないか?」

 

などと好き勝手言われ、私は村の人達から距離を置かれていた。

しかし両親は、両親だけは私を応援してくれたのだ。

病気がちで、あまり外に出られなかった両親は私に、

 

「良いハンターさんになって、世界中の色々なものを見てくるといい」

 

「たまにお手紙で、あなたの見て、聞いて、感じたことなんかをお母さんに教えてね」

 

そう言って背中を押してくれた。

私は必死に勉強をした。

モンスターや狩り場の知識を深め、調合なんかも練習した。

そして、ハンターとして認められる十五歳の誕生日を迎えた日。

私は両親に、様々な経験を積んで、立派なハンターとなって帰ってくると約束をして、自分の知っている村という世界から飛び出した。

村に商売で来ていた行商のキャラバンに頼んで荷車に乗せて貰い、ついに先日、バルバレギルドにてハンターライセンスを取得したのだ。

 

初めてのハンター活動だという事をギルドの受付嬢さんに伝えると、採取ツアーというクエストをオススメしてもらった。

私はその依頼を受け、遺跡平原という狩り場へと出発しようとしていた時、突然後ろから声をかけられた。

 

「ねぇ、あんたさぁ。もしかして自殺願望のフェンちゃんじゃない?」

 

「………あなたは…」

 

そこには長い武器を担ぎ、防具を身につけた長身の女性が立っていた。

私はその女性の顔に覚えがあった。

 

「久しぶり〜元気してた?まさか本当にハンターになってるとはね〜アタシ驚いちゃった!」

 

「お久しぶりです…。…そういうあなたも、ハンターをやっているように見えますけど…」

 

彼女は私と同じ村の出身である。

私がハンターになるという事を玩具にしては馬鹿にしてきた人だ。

そして私より一年早く村を出ていったと記憶している。

チラりと防具の方に私が目線を向けたのに彼女は気付いたのか、胸を張って上機嫌に答えた。

 

「そりゃあ、アタシが村を出たのはハンターになるためだもの!しっかりハンターとして立派に活動してるわよ!」

 

満足気にに答える彼女は、ボーンシリーズと呼ばれるモンスターの骨をメイン素材とした防具を身に付けていた。

私はそんな彼女に怒りを覚える。

 

「村で私がハンターを目指すことを散々馬鹿にしてきましたよね!そんなあなたが何でハンターに…」

 

「あの村にいてハンターになりたいなんて口に出来る訳ないじゃない。申し訳ないけど、当時はあなたのことを利用させてもらっていたわ。ごめんなさいね?」

 

どうやら彼女は、ハンターになりたいと言って私のように気味悪がられるのを避けるために、あえて私を率先して小馬鹿にしていたのだ。

そうすればハンターを目指していることが周りにバレる心配も無く、十五歳を迎えたらさっさと村を出ていけば良いと考えた。

…私はうまく嵌められてしまっていたのか。

 

「それで…私に何の用なんですか」

 

「あら怖い顔〜。まぁいいわ。今からあなたが行こうとしている採取ツアーに、アタシ達も同行させて欲しいのよ。アタシのこのランスの強化素材が足りなくてね〜?こういう時は目的が近い人を見つけて、一緒に狩りに行くのがハンターの常識なのよ」

 

私はこのハンターの常識という言葉に釣られてしまったのだろう。

好意どころか敵対心すら覚える相手と共に初めての狩りに出向いてしまったのだ。

どんなに嫌いだとしても、ハンターとして一年先輩であるという事実が私の中の拒否案を凌駕した。

何事もなく終わりますようにと祈り、私達は採取ツアーへと出掛けたのだ。

 

 

その結果。

中型モンスターが突如乱入してくるという、とんでもない緊急事態が発生した。

これに先輩である彼女は私との連携なんかを考えるようなことはなく、ひたすらモンスターに突っ込んでは弾き飛ばされるという行為を繰り返した。

 

「これがハンターの狩りなのよ!アンタもぼさっとしてないでこのドスなんとかに攻撃しなさいよ!」

 

ランス使いの彼女に怒鳴られながら、私は初めてモンスターへ向けて武器を構えた。

身体を大きく捻る。

全身に力を込める。

モンスターの頭部を目掛けて武器を振り下ろす。

打撃武器であるハンマーの一連の動きを頭で整理し、身体を動かした。

 

ガキンッ

 

私の初擊は、見事モンスターの頭部へと命中しモンスターの意識を一時的に奪うことに成功した。

 

「やった当たった!先輩っ、今のうちに!」

 

モンスターが倒れている隙にベースキャンプのある安全地帯へと移動するため、私達は走った。

 

すると、私の足元が急に盛りあがり―――

次の瞬間、私は宙に浮いていた。

足元には空が広がり、頭上には先程まで立っていた地面があった。

――激しい痛みが全身に走る。

肺が驚いて上手く呼吸が出来ない。

チカチカとする視界には朱色の塊が映っている。

 

グワァァァ

 

という断末魔があたり一帯に響いた。

視界が落ち着き、先輩がどうなっているのかが気になった。

後ろを振り向くと一目散にキャンプへと走っていく先輩の姿が見えた。

では、先程まで私達と戦っていたモンスターはどうなったのか。

そこには突如現れたモンスターの前に腹を抉られ地面に倒れ伏せているモンスターの姿があった。

どうやら地面から襲撃してきたモンスターに一撃で仕留められてしまったようだ。

朱色の外殻を持ち、大きな牙の生えた顎でガチガチと音を鳴らす大型モンスターは、ゆっくりと私の方へと振り向いていく。

 

「はぁ…はぁ…………私…も…逃げ…なきゃ…」

 

残念ながら武器を背負う余裕は無かった。

初めての狩り場で土地勘の無かった私は、どうやらベースキャンプとは逆の方角のエリアへと逃げてしまっていたようだ。

ついには立つ力も抜けてしまい、水辺に倒れ込む形になってしまった。

先程のエリアからゆっくりと朱色のモンスターが距離を縮めてくる。

すでに私が抵抗する術を持っていないことを見抜いているのだろうか。

 

「やっぱ……り……モン……スター…って…すご…いんだね……おか…あ…さん、おとう…さ…ん」

 

ここで殺されるとしても、かっこよくハンターらしく殺されたいな。

そう思った私はこれが最後だと力を振り絞り、その場に立ち上がった。

これを何かの抵抗と感じたのか、朱色のモンスターは咆哮を上げた。

 

「えへへ………なん、か…ハンター…っぽい…じゃん」

 

自然の口角が上がったのはきっと、覚悟を決めたということなんだろうか。

いや違う。

わからない。

もっと知りたい。

後悔や生きたいという欲が溢れ出てくる。

そして、小さい頃にお母さんから教わったことを思い出した。

 

『フェン、自分の望みはね。声に出してみると以外と叶ったりするものなのよ。【有言実行】この言葉を覚えておくといいわ!きっと役に立つだろうから』

 

立派なハンターになりたかった。

お母さんとお父さんにお手紙を送ってあげたかった。

世界中を見て回りたかった。

私は全ての願いを込めて、掠れた声で呟いた。

 

「お願い……誰か……………私を…助けて…」

 

朱色のモンスターが私に向かって飛びかかってくる。

大きな牙で噛み砕かれるとそう覚悟した瞬間。

 

ゴワアァァ!?

 

驚いたようにモンスターは鳴き、私の目の前に背中から墜落した。

ひっくり返り、四肢をばたつかせて、起き上がろうと目の前のモンスターはもがき始める。

何が起こったのかわからないでいると、

 

「これを飲んでエリアの端に移動しろっ」

 

そう男性に声をかけられ、赤い小さな瓶が私目掛けて飛んでくる。

言われた通りにそれを飲み、エリアの端へと全力で走る。

すると男性は朱色のモンスターに向けて拳大の茶色い物を投げつけていた。

 

「新人ハンターの無事を確認!本当に間に合って良かった……!」

 

男性のその言葉を聞いた私は、助かったという事実に安堵し、ずっと握っていたギリギリの意識を手放した。

 

 

 




僕、テツカブラ大好きなんですよ。
武骨包丁といいカブラ装備といい…あのデザインがね…


んーっ。たまらん!!

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