古龍襲来の後始末   作:辻山 つじや

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>> 追われる少女と追われた蛙 ―転―

「あれ、ここは?」

 

目が覚めたフェンは、仮眠用ベッドに寝かされていた。

ということは、ここは拠点に間違いない。

 

「私たしか、牙のモンスターに…」

 

「目が覚めたか。どこか優れないところはないか?」

 

ベッドの側にいるハンターはフェンの知らない素材で作られた防具を纏っていた。

頭の装備を外し、固そうな黒髪に琥珀色の瞳をした青年は心配そうな顔でそう質問する。

聞かれて指を額に当てると、そこに包帯が巻かれていることに気がついた。

 

「これ、あなたが巻いてくれたんですか?」

 

「ここまで運び込んだ時についででな。簡単な応急処置ぐらいしかしていないけど…傷はまだ痛む?」

 

意識を失う前にあったズキズキとした嫌な痛みが、今は完全に無くなっている。

包帯を巻くだけでは痛みは無くならないはずなので、これも目の前の青年の治療のおかげなのだろう。

 

「今は全然痛くないです!助けて頂いて…ありがとうございます」

 

「ハンターとして当然のことだから大丈夫だよ。本当はすぐにでも色々と話を聞かせてもらいたいところなんだけど…もう少しここで待っていてくれないかな?」

 

「えっ…それはいいですけど、どちらに行かれるんです?」

 

「そりゃあ、君を襲っていたテツカブラの狩猟にだよ。元々僕はそのためにここに来た訳だしね」

 

テツカブラ、あの朱色のモンスターの名前だろうか。

青年はそう言って頭装備を装着し、壁に立て掛けていた大剣を持って拠点から出発しようとした。

あの恐ろしかったモンスターを狩猟するためにここに来た。

青年は確かにそう言った。

きっと何度も恐ろしいモンスターと対峙し幾つもの狩猟を経験している人なんだろう。

この人は、私の見たかった様々な世界を見ている。

 

「あ、あの……!」

 

ベッドから勢いよく立ち上がり、フェンは声を大にして願いを口にした。

 

「私も、あなたの狩猟に連れて行ってください!」

 

「……」

 

青年はピタリとその場で歩みを止めた。

フェンは願いを言い続ける。

 

「私、これが初めてのクエストだったんです…。でも、一緒に来ていた人に置いていかれて、死ぬかもしれないって覚悟もして……私このままじゃ、もう狩りを続けられないかもしれない。恐怖に負けて、ハンターを辞めることになるかもしれない…!それが堪らなく嫌なんです……私は…ハンターとして、恐怖心なんかに負けたくない!」

 

フェンの願いが拠点に響いた。

 

「……………」

 

青年は沈黙を続けている。

しかし、断られる、もしくは叱られてしまうと覚悟していたフェンは、沈黙の主を真っ直ぐと見つめる。

それを見た青年は、拠点の入り口でため息を一つ溢して言葉を投げた。

 

「…シエル・レーベン」

 

「えっ…?」

 

「僕の名前だ。君は後ろから距離を取ってついてくるといい。ただし、相手はG級個体だ。ギルドの許可を貰っていない君をこれ以上危険な目に会わせる訳にはいかないからな。この双眼鏡を使うといい」

 

シエルはポーチから自分の双眼鏡をフェンに手渡す。

 

「シエルさん…ありがとうございます!あ、えっと…私の名前はフェンです!フェン・フルート!」

 

桃色の長いツインテールを揺らして笑顔を見せたフェンは、すぐさま狩猟への準備に取りかかった。

シエルは内心、フェンが今回の件でトラウマを持ってしまい、今後のハンター活動に支障が出ないか心配していた。

だが、初めての狩猟でさらに命の危機まで経験した上でのフェンのこの様子であればこの心配は杞憂のようだ。

トラウマや命を失う恐怖から、ハンター活動を引退してしまう者は数多くいる。

フェンは初心者ではあるが、精神面としては十分ハンター向きであるのだろう。

シエルがせっせと準備をしているフェンを眺めていると、彼女がそこであることに気がつく。

 

「えっと、私の……ハンマーが…ない…です?」

 

「…………あ…」

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

「ハァァァァァっ!」

 

遺跡平原のエリア四にシエルの声が響いていた。

シエルの体重を乗せた一撃がテツカブラの重殻を斬り砕く。

熱い血液が傷口から溢れ、痛みに怯み後退しようとするテツカブラの前足をシエルは咄嗟に踏み台にした。

そのまま空中へと飛び上って、自慢の武器バスティアンをテツカブラのその大きな牙へと思い切り振り下ろす。

自然界で育った硬く大きい牙と長年職人によって鍛え上げられた鉄の剣が、火花を散らしてぶつかり合う。

鈍い音が響き、バスティアンが大牙を下顎の根元から砕いた。

呻き声を上げて、ガマの大粒涙を流したテツカブラはさらに後ろへと後退する。

しかしシエルは、破壊したテツカブラの下顎を踏みつけて、再度飛び上がり追い討ちをかける。

斬擊を繰り出すたびにテツカブラの重殻は砕け、厚鱗は剥がされていく。

自らの血で朱色の身体を赤く染めたテツカブラは後退出来ないことを悟ったのか、左横へと移動した。

しかし、

 

グワァっ!?

 

移動したテツカブラの下半身が遺跡平原の大地へと埋まり、その場から身動きが取れなくなってしまった。

それはシエルがあらかじめ仕掛けておいた落とし穴の効果である。

前足をばたつかせてその穴から這い出ようともがくテツカブラ。

既に武器を納めていたシエルは、拠点からあらかじめ近くに運んでおいた荷車から大きな樽を両手に抱え、テツカブラの周りへと二つ設置した。

大タル爆弾G。

雑貨屋で販売している大タル爆弾にカクサンデメキンという衝撃を加えると爆発する危険な魚を調合して作り上げた、狩猟道具の一つである。

シエルは落とし穴でもがくテツカブラから距離を取って、足元に転がっていた手頃な石ころを拾う。

 

「フェン!歯を食い縛って耳を塞いでいて!」

 

シエルは、後ろで双眼鏡を使い狩猟を見学していたフェンにそう告げて、拾った石ころを大タル爆弾Gへと投げた。

 

グォォォォォォォォォッ!!?

 

激しい爆音とテツカブラの悲鳴。

熱風が吹き荒れ、土や石などが周りに飛び散る。

人間が巻き込まれればひとたまりもないすさまじい威力だ。

ハンターが使う狩猟道具一つ一つにも、人間側へのリスクが発生する。

シエルはそれを熟知し、リスクを一つ一つ回避して優位に狩りを行っていく。

熱が落ち着き、黒煙が晴れた。

しかし、テツカブラはまだ倒れない。

だが残っていた牙は砕けて、重殻や厚鱗は焦げて黒ずんでいる。

体の所々は熱で溶けており、牙を失った口からはダラダラと血の混じった涎を垂らしていた。

テツカブラはシエルのいる方とは反対の方へと体を向けて、後ろ足を引きずって逃げていく。

 

「モンスターが逃げている…です」

 

実際にテツカブラが逃げているという訳ではないのであろうが、狩猟を見ていたフェンにはそう見えたのだ。

フェンは初めて見たG級ハンターの狩猟光景に、目を丸くして驚いた。

一方的で常にシエルが優勢の狩り。

訓練所で数回程見学させてもらった下位、上位ハンターの狩猟とはまるで違う。

モンスターがどう動くのかを予想しながらの狩猟。

シエルの使用している武器は大剣ではあるが、モンスターを利用して飛び上がるなんて動きはここ周辺の地域では見たことも聞いたこともなかった。

この人はきっとここの地方のハンターではないのだろう。

 

「すごい…」

 

この人が見てきた世界を見てみたい。

この人のようなハンターになりたい!

フェンの心の中で新たな熱い想いが芽生え、身体の鼓動が速くなる。

一度落ち着こうと深呼吸をし、再びシエルの狩猟に目を向けると

 

「あれ…?シエルさん、何か紙に書いてる?」

 

足を引きずるテツカブラを追いかけながら、シエルは何かを記していた。

すると突然テツカブラがシエルの方へと振り向いて、この狩猟での最大の咆哮を上げた。

ビリビリとした振動がフェンの方にまで伝わってきて、思わず耳を塞いだ。

だがシエルは防具のスキルで平気なのか、その咆哮に怯むことなく向かっていく。

 

「ごめんな」

 

言葉が通じるハズのないテツカブラに向けてシエルは一言そう呟き、テツカブラの額にバスティアンを振り下ろした。

 

ぐおぉぉぉ…………

 

糸が切れた人形のように力無くその場に倒れ、ビクビクと数回程痙攣を起こした後、テツカブラが動くことはなかった。

静まり返った遺跡平原が、その狩猟とテツカブラの終わりを告げた。 

 

 

 

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同時進行で描いていたイラスト(モンハン関係無し)がありがたいことにとても多くの方に見て頂いております!
こっちもいつかそうなればなぁ(>_<)
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