「なんつうか、今まで色々とキミには語ってきたわけだけどさ」
「この世界はさ、どこまで行っても現実でしか無いんだ」
「俺たちにとってここは現実。けどさ、この世界にとっても世界は今ある現実一つだけなんだ」
「この世界にはたくさんの人たちが暮らしていて、無数のポケモンたちが生きている」
「そして世界はたった千にも満たない物語の登場人物だけで形作られているわけじゃないし」
「そもそも現実の世界にキャラクターなんて存在しない」
「そこに有るのはどこまで行ってもただの現実で」
「そこに居るのはどこまで行ってもただの等身大な人間とポケモンだけなんだ」
実際のところ、『
何故なら『運命』の作用する場所は結局一つの結末へと帰結するからだ。
―――『主人公』が『現チャンピオン』に勝利して新チャンピオンになる。
この結末へ帰結するように『運命』が作用するならば『主人公』が今年敗退した時点で今年はこの結末へと至ることは不可能となるわけだ。
で、ある以上今年に関してはもうあと一度しか『運命』は動かない。
つまり『チャンピオン』という役割に選ばれている『カルネ』とのバトルだ。
四天王までは倒されても良いことは去年までのリーグ戦で分かっているのだから、後は『運』に振り回されない堅実なバトルをしていれば去年、一昨年と通った道である。
あっという間にトーナメントを制した。
* * *
とは言えだ。
何度も言うように四天王とはこのカロス地方のトップオブトップに位置するトレーナー四人だ。
いくら運勢に振り回されないからと言って舐めてかかっていい相手では無い。
だが同時に『運』さえ傾かなければ決して負けることは無いとも思っている。
去年、一昨年とチャンピオン戦で敗北を重ね、そして先のセレナ戦でも苦戦を強いられ。
実力とは別の『運』という不確かなはずの物の影響で絶対的な劣勢を強いられ続けたせいか、俺自身トレーナーとして二年前よりも一回りも二回りも成長できたような気がした。
殻を破った、とでも言えば良いのか。
これまでよりもさらにこの現実のポケモンバトルに適応できた実感があった。
例えば『前世におけるポケモンバトル』はゲーム機同士で行う物だが、現実のポケモンバトルはまずここから『レベルフラット』のルールを抜く。
さらに『レベル』という概念自体もオミットし。
地形という概念を与え、そこに互いの距離というものも付け加える。
さらに
極めつけにターン制限を排除して『読み合い』の時間を二秒前後にまで短縮すればほぼ現実のポケモンバトルになる。
特に最後の『読み合い』の部分。
これが何よりも『優秀なトレーナー』とそうでないトレーナーを分ける。
大よその感覚だが、ゲームにおける1ターンとは現実における5秒から6秒くらいだ。
つまりゲーム感覚で相手の手を一手読むのに10秒かければ相手はその間に二回くらいは行動していることになる。
ゲームのようにターンというシステム制限で相手は待ってくれないのだ。指示なんて出した者勝ちだし、指示が遅れればその分技を出すのも遅れる。
技の優先度はどれだけ素早く技を出せるか、だが単純な話、『まもる』の技を指示を出しても相手より数秒遅れたら先に相手の攻撃が届くのだ。
逆に言えば相手より数秒先に指示が出せれば『きあいパンチ』ですら相手より先に放てるのだ。
とは言え片方が指示を出せば咄嗟にもう一方もそれに対抗する指示を出すので現実には優先度マイナスの技を相手より先に出す、というのは難しいのだが。
残念ながら俺は短時間での『読み合い』を得意とできるタイプではない。
技を絞り、その場その場で『適切な』選択を指示するのが精いっぱいだ。
だが逆に言えば鍛え上げられた俺のポケモンたちは余程指示を間違えない限りは大半のポケモンに勝る。
等倍で真正面から殴り合えば勝つと分かっているのだ。
それだけで相手の選択肢を大きく縛るし、こちらの自由度がぐんと増すのは間違いない。
四天王とはそれぞれが自分が得手とするタイプに特化しており、そのタイプに関してだけ言えば本当に強い。
だがタイプが偏る以上その『メタ』を貼りやすいのも事実。
特に俺は『育成が得意』なのだ。
故に去年も一昨年も『メタ』となるポケモンを育てて勝ったのだが。
今年に関しては自身のベストメンバーを用意して戦うことにした。
相性というものを基本的に考えずに一番強いメンバーを集めたので去年、一昨年のような相手の弱点を突いて戦うようなやり方を止め、真正面から殴り合った。
結果的に過去最大級の激戦となったし、俺もポケモンたちも大きく消耗してしまったが、それでもそこで得る物は大きかった。
『運命』は確かに過酷だ。
だが『運命』は決して覆せない物では無いと『主人公』との戦いを通して分かった以上、引き下がるわけにはいかない。
だがこれから始まるバトルとセレナとのバトルとは決定的に違うことが一つある。
相手がチャンピオンカルネであるということ。
例え『運命』が何かしなくとも、勝てるとは言えない相手なのだ。
カロス最強のトレーナーとカロス最強のポケモンたち。
そこにさらに『運命』の魔の手が加わるのだ。
チャンピオン戦を前に一つでもレベルアップをしたいと思うのは当然のはず。
だがセレナを除けば基本的に俺の『敵』となれるだけのトレーナーというのは中々居ない。
ここまで『運命』によって振り切れた運を前提に戦ってきたのだ。
それが無くなれば並のトレーナーなど相手になるはずも無い。
だが四天王は別だ。
純粋なトレーナーとしての能力ならば全員俺を凌ぐだけの力と才覚を持ち、さらに自身の得意とするタイプに至っては俺と同レベルの育成の力を持つだろう相手。
タイプが偏っているという明確な欠点があるからこそ、チャンピオンの『前座』とされているが、その欠点を含めてさえカロスのトップトレーナーの集団なのだ。
その欠点を見て見ぬ振りをするのならば、その力はいかほどのものか。
想像を絶していた。
楽観していたわけではないが、それでも俺は俺の鍛え上げたポケモンたちに自信と自負を持っていたし、運さえ正常に働くならば容易では無いにしても勝てるはずだと思っていた。
蓋を開けてみればとんでも無い話だ。
専門とするタイプに限ってバトルするならば四天王はそれぞれ『チャンピオンをも凌ぐ』だけの力を持っていると思わされる、それほどの強敵であり、一度ならずに二度までも敗北を覚悟し、けれど運に救われた。
この俺が、運に救われたのだ。
皮肉にもほどがあるが、けれどだからこそその強さを肌を感じた意味は大きい。
俺は決して才能のあるトレーナーではない。
恐らく『育てること』に関してはカロスでも五指の中に入る自信もあるが、それとて結局『前世の記憶』が俺の中にあって、それがこの世界においても有用だからこそできることだ。
いざバトルが始まった時、トレーナーに求められる役割は多く、けれど四天王やチャンピオン、それに『主人公』と比べてみれば俺の才覚は彼らより一段も二段も劣る物であることは認めざるを得ない。
だが才能ある人間だけが上に上り詰めることができるのか、と言われればそれはまた違う。
確かに才能があったほうが上を目指しやすいのは確かだが、才能だけでもトレーナーというのはやっていけないものだ。
そしてポケモンも同様に俺というトレーナーもまた未だに成長をし続けている。
バトルの中で経験を得ることで、少しずつ少しずつ、俺というトレーナーが『完成』されていくのを感じる。
そうしてその成長が頭打ちになった時、今回のような激戦を繰り広げることで自らの上限が一段上へとせりあがって行くような感覚がある。
まだ上を目指せる、まだまだ強くなれる、その実感を得られただけでも四天王戦は実に意義があったと言える。
とは言え。
本番はここからだ。
本当の戦いはこれからなのだ。
チャンピオンリーグ最終戦。
『彼女』はそこに佇んでいた。
* * *
―――懐かしい。
フィールドの端に立ってこちらを見つめる『彼女』に、そんな感想を抱いた。
相も変わらず不敵な笑みを浮かべる『彼女』にそうでは無くてはと苦笑する。
三度目だ。ここに……このチャンピオン戦のバトルフィールドに立つのは去年、一昨年、そして今年で三度目になる。
すでに先に挑んだ七名のトレーナーは敗北し、俺が最後の一人。
それはつまりチャンピオンからしても後のことを考えずに今全力で戦うことを許されているということ。
激戦を予想し、身震いする。
恐怖ではない、興奮だ。
「やってやろうじゃないか」
元よりそのつもりだ。
すでに俺の中の戦意は最高潮に達している。
俺の仲間たちも早く戦わせろと先ほどからうるさいくらいにボールを揺らしている。
すでにこちらの準備は万端だ、と『彼女』を見つめれば、『彼女』もまた獰猛に笑みを浮かべボールを握った腕を伸ばし、俺へ向けてその先を突きつけてくる。
ああ、全く。
この糞ったれな『運命』に中指を突きつけてやる最高の舞台をくれたと感謝しても良いくらいだ。
「見てろよ『運命』」
お返しとばかりに突き出した手にボールを握りしめ。
「お前を打ち果たし。俺が行くぞ!」
投げた。
* * *
チャンピオンカルネとのバトルはこれで三度目となる。
当然ながらお互いのバトルスタイルやトレーナーとしての力量なども分かっていているし、何だったらどんなポケモンを使ってくるかさえ俺は言える。
『前世の記憶』でのカルネの手持ちと現実のカルネの手持ちは基本的に一致している。
偶にチャンピオン戦外でカルネが他のポケモンを使っていることを見るが、少なくとも去年、一昨年と彼女は『ゲーム』と同じ面子でバトルしていた。
それは『原作』を同じ面子であるように、という『運命』の仕業なのかもしれない。
一番手のルチャブル、次はガチゴラス、アマルルガ、パンプジンと続き、そしてヌメルゴン。
最後にカルネのポケモンの代表とも言えるカロスで最も有名なポケモン、サーナイト。
どいつもこいつも非常に強力かつ凶悪であるが、特に凶悪なのがアマルルガだ。
何せこいつの攻撃はどれもこれもが強烈な冷気を帯びている。
『運命』によって『敗北』へ導かれているこちらのポケモンはアマルルガの攻撃を受けるとほぼ確実に『こおり』状態にされる。
とは言えガチゴラスもまた油断ならない。
特に『ロックカット』からの『もろはのずつき』は並のポケモンなら三タテしてしまいそうなほどに強烈だ。
だがそれだけならばいくらでも付け入る隙はある。
問題はその隙をトレーナーであるカルネが完璧に埋めてしまっていることだ。
いっそ真正面から殴りかつくらいの気迫が無ければこの『暴君』を封じることなど不可能だ。
一番手のルチャブルは先の二体と比べると小柄ではあるが、その小器用さと鋭い体術は決して侮れない。
体感ではあるのだが、こいつの攻撃が一番『急所』を的確に抉って来る。
小柄であるが故にか素早く、そして動きに小回りが効く。
さらに物足りない火力も隙を見ての『つるぎのまい』で補ってくる。
俺の前に挑んだトレーナーなどこのルチャブル一体でパーティが半壊していたほどだ。
搦め手を得意とするパンプジンも要注意だ。
『ゲーム』ならばそれほど面倒な相手でも無かったが、現実のバトルにおいて自らのタイプを変更されるというのはとてつも無い違和感を生じる。
特に『ハロウィン』によって『ゴースト』タイプを追加されたポケモンは生来の『ゴースト』タイプでも無い限り、身体を上手く動かせなくなることすらあり得るほどに強烈な技だ。
『ゴースト』タイプのポケモンというのは一種独特な生態をしているのだ。物理的な実態を持たないことも多いためそんな体を生身のポケモンが得てしまうと生物として強い矛盾を引き起こしてしまう。
『ゲーム』と違ってタイプ変更というのはかなりえげつない技なのだ。
そしてヌメルゴン。こいつがとんでも無い化け物だ。
『あまごい』によって雨が降っている時に限られるが、凄まじい耐久力と回復力を有する。
『ゲーム』にはそんなシステムは無かったが、ヌメルゴンという種は『水を得る』ことで元気になってしまう種族なのだ。
元よりタフネスぶりに定評にあるドラゴンだったが、カルネのヌメルゴンを『あめ』の時に落とすのは不可能に近いとすら言われるほどの不沈ぶりを誇る。
結論だけ言えばどいつもこいつも強力かつ凶悪極まり無い力を持ったポケモンたちであり、どれか一体ですら並のトレーナーなら全滅するようなレベルだ。
けれど俺はすでに二度こいつらと戦っている。
当然ながら対策は打ってきた。
『運命』とて事前に織り込んで考えたならば慌てることではない。
それでも代償は大きかったが。
カルネのポケモン五体を倒すのにこちらのポケモンも五体倒された。
不沈ぶりを誇ったカルネのヌメルゴンを道連れにするように俺のヌメルゴンが倒し、同時に倒れた。
これで互いに残り一体。
カルネの六体目は決まっている。
その圧倒的な破壊力と見る者を魅了する華麗さから人気の高いポケモンである。
実際に戦ってみれば『凶悪極まり無い』という評価になるが。
こちらの六体目はゲッコウガ。
勝負はシンプルだ。
カルネのサーナイトを倒すため『だけ』に覚えさせた『ダストシュート』を直撃させれるか否か。
当たれば弱点属性の高威力技、さすがにサーナイトとてメガシンカ前では立っていられないだろう。
だが『運命』が足を引いて当たらなかったのならばそのままメガシンカして圧倒的な力でゲッコウガを追い詰め始めるだろう。
それだけのシンプルな勝負。
故に、勝負は一瞬。
速度ならばこちらが上だ。
それに加えてゲッコウガにはボールから出した瞬間に技を放つように特訓を課したのだ。
そうして互いがボールを投げ、カルネがサーナイトを出した瞬間、ゲッコウガが早打ちのガンマンのごとき『ダストシュート』を撃つ。
そうして放たれた毒の塊がカルネの出したポケモンへと
そう、命中した。
勝ったのだ。
俺は、運を振り払い、見事に命中させたのだ。
ああ、そうだ。
勝っていたのだ。
「……は?」
理解が追いついかず、フリーズした俺の思考。
そんな俺を知ったことかとゲッコウガと対峙したポケモンはその
渾身の『アイアンヘッド』を放った。
吹き飛ばされ、崩れ落ちるゲッコウガを視界に入れながら。
どうして?
そんなことばかりを考えていた。
どうして、どうしてなのだ。
何故そんなことになる。
何故そこにサーナイトが居ない?
* * *
神様はサイコロを振らない。
サイコロを振るのはいつだって人間だ。
ゲッコウガの技がすんなり当たったな、とは思った。
その理由は簡単なことで。
『サイコロを振った』からだ。
命中100はゲームでも基本的には必中だった。
100面ダイスで100以下を出せば成功ならばそれは確実に当たるだろう。
なら今までは何故当たらなかったのか。
『サイコロを振らなかった』からだ。
神様が強制的に失敗と決めたから確実に当たるだろう技すら当たらないなんてことがあり得た。
どうしてあの場面、サイコロは振られたのか。
答えは簡単だ。
『運命』が消し飛ぶようなことが起きたからだ。
カルネはチャンピオンだ。
『物語』によって『チャンピオン』の役を振られたからこそカルネに勝利しようとする意思を『運命』によって邪魔されてきた。
同時にカルネは『チャンピオン』としての役を果たさなければならなくなった。
つまり『原作』と同じように動くことを意識的か無意識的にかは知らないが強要されていた。
同じ面子を使い、同じように戦う。それを強要されていたからこそ、カルネは『主人公』に負けるまでは『チャンピオン』であり続けるよう『運命』に導かれていた。
だがカルネはそこから降りた。
役者が自ら舞台を降りたのだ。
カルネがナットレイを用意したのは俺のゲッコウガに対する『対策』だ。
カルネは自ら『物語』を無視した。まあ『原作』を知らないのだから意識的にやったわけではないのだろが、結果的に『原作』の設定を無視した行動を取ったのだ。
その時点で原作の設定に沿ったチャンピオンの『役』が消失した。
『原作』は見事砕け散り、『運命』はぶち壊されたのだ。
つまり俺は『運命』に勝って。
そうして『人』に負けたのだった。
原作でも現実でもカロスで一番の『女優』やってたカルネさんが自ら『舞台』を降りるとかいうのが個人的なツボ。
というわけで本編自体はあと一話後日談的なのやって完結かな。
また何か語りたいことがあれば一話丸々使ってあとがき作るかもしれない?