モブキャラだって意地がある!   作:水代

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もう投稿しない、と見せかけてからのフェイント。


番外編:リベンジね

 ―――もしかして私って才能あるんじゃないだろうか。

 

 なんて思ったのはつい一年くらい前だった気がする。

 元々私はトレーナーという職業に対してそれほど強い希望があったわけではない。

 実際12歳という正規のトレーナー資格取得条件となる年齢から3年遅れで私はトレーナーとなった。

 

 というか本当はトレーナーになるつもりも無かったのだ。

 

 偶然カントーからカロスへと一家で引っ越し、偶々カロス地方における『新人支援』の対象年齢の条件を満たしていたのでプラターヌ博士からポケモンとポケモン図鑑を託されることになり、それを機としてじゃあ旅にでも出てみるか、と思い立った、ぶっちゃけそれだけの話だったりする。

 

 博士の研究所を通じて正規トレーナー資格を取らされたので各地のポケモンリーグ公認ジムに挑戦もできるようになったし、ひいてはポケモンリーグに挑戦することも可能となった。

 まあ旅に出たばかりの頃はリーグ挑戦なんて全く考えてもいなかったのだが。

 

 カントーにもポケモンリーグは存在する。というか大本を辿るとカントーがリーグの発祥の地だ。

 トレーナーの聖地なんて言われるのは伊達ではない。

 そしてテレビなどで毎年リーグ挑戦は放映されていて、それを見ているからこそトレーナーという職種がまるで異次元の領域にあると思えてしかたなかった。

 

 ただポケモンという存在には興味はあったので、ポケモンの保有資格自体は持っていた。

 まあだからと言って自力で野生のポケモンを捕まえるのも怖かったので結局カントーでは一匹もポケモンを持っていなかったのだが。

 

 だから私の初めてのパートナーはプラターヌ博士からもらったケロマツだった。

 

 今だから言えるがそれは消去法だった。

 

 当たり前だがその年にプラターヌ博士に呼ばれたのは私一人ではない。

 私以外にも三人いて、一人はすでにポケモンをもらっているので残りの三人で『ハリマロン』『フォッコ』『ケロマツ』の三匹の中から一匹ずつ選ぶことになったのだが、どれか特定のポケモンが欲しいわけでも無かった私は他二人に先を譲った。

 

 結果的に残っていたのが『ケロマツ』だった。

 

 なんだかえらく『むじゃき』な子で、初めて出会った私に対しても簡単に懐いてくれた。

 そうして懐いてもらえると愛着が沸くもので折角ポケモンをもらったんだからバトルをしようという同期たちの誘いにも勝たせてあげたいな、と思った。

 

 勝ちたい、じゃなくて、勝たせてあげたい、だ。

 

 この時の私はまだそこまでトレーナーという職業に熱心では無かったのだ。

 だからトレーナーの役割をというものを漠然としか捉えていなかった。

 

 まあ勝つのは勝った。

 

 ハリマロンは『わんぱく』な子でトレーナーの少女の慎重な指示など完全に無視して愚直に『たいあたり』を繰り返そうとするし、引きつけてさっと避けるように指示すればそれだけで後は一方的だった。

 フォッコは『おくびょう』な子でこちらの『こうかはばつぐん』な『あわ』攻撃を見ると戦意を喪失してしまった。

 トレーナーの少年はなんとか励まそうとしているが、出会ったばかりのフォッコを奮起させるだけの絆が両者には無かった。

 

 ―――やったやった、勝てたよ!

 

 なんて、ケロマツが届かないので屈んで二人でハイタッチ。

 多分この時、トレーナーという職業に対して興味を持ったんだと思う。

 多分この時、私は覚えてしまったのだろう。

 

 勝利の快感。

 

 つまり多くのトレーナーを狂わせる、ポケモンバトルの麻薬を。

 

 

 * * *

 

 

 当たり前だが順調と言えるような旅では無かった。

 何せこの歳になるまでポケモントレーナーというものを良く知りもしないでいたのだ。

 周りの同世代がトレーナーに憧れ、バトルに勉強を積んでいる時、私は女友達たちと一緒に街でショッピングしたり、ファッションを学んだり、雑誌や漫画、テレビなどの娯楽に勤しんだりしていた。

 ポケモンが欲しかったのだって、友達が可愛いポケモンを手に入れてそれを見せびらかすからで、別にトレーナーになりたいなんて感情持っていなかった。

 

 つまり完全なる初心者、どころか素人トレーナーである。

 

 なまじ正規トレーナー資格自体が簡単に取れてしまうだけに私のようなトレーナーのイロハも知らないような素人がジム挑戦できてしまうのだ。

 

 まあ当然のように負けた……正確には負けそうになった。

 

 一番下っ端らしいジムトレーナーと戦い、これ以上は無理だと判断して負ける前に退散したのだ。

 私は別に勝負に美学なんて持ってるわけでも無いので、泥臭く戦って負けるくらいなら勝つまで機を見ようと思う。

 

 ケロマツはそんな私に良くついてきてくれた。

 

 最初のバトルこそ勝ったが、それは相手もまだジムに入りたてで素人同然だったからこそ。

 少しトレーナーのイロハを学び、バトルの経験値を積めば私などあっという間に敵わなくなる。

 それを察することができたのが後々の私からすると幸運だったのだろう。

 きっとそれを察せずにいればハクダンのジムでずるずると悪戯に勝ち負けを繰り返しとてもでは無いがその後の飛躍は無かっただろうから。

 

 まず必要なのは知識だ。

 

 正直言ってトレーナーとしてバトル中に何をすればいいのかがほとんど分かっていない。

 ただ突っ立って指示を出しているだけならば楽なのだろうが、そんなはずないのはハクダンシティへ来るまでの道中で分かっていた。

 正直道端でばったり出会うような……それこそ『趣味』でポケモンバトルをしているような人たちですら強敵で、危うく負けそうになるところだった。

 という運良く攻撃が急所に当たったり、運良く相手の攻撃が外れたりしなければ何度か負けていただろう。

 勝負は時の運とは言うが、運に左右されるほど私の能力が低いというのは明白だった。

 

 だから知識。

 

 トレーナーとは何をすれば良いのか。

 ポケモンとはどうやって育てれば良いのか。

 そんな必須知識を今更のように調べてみる。

 普通の書店で買った本を読んだり、ジムに挑戦するトレーナーたちを見学したりして少しずつだが理解を深めていく。

 

 そんな日々の中で、私は一つの出会いを果たす。

 

 博士からの誘い、ケロマツとの出会い、そして同期とのバトル。

 それらが一度目の転機だったとするならば。

 それは二度目の転機ということになるのだろう。

 

 それは私のトレーナーとしての方向性を決めた、とあるバトルの映像だ。

 

 

 * * *

 

 

 ポケモンセンターの通信ボックスには『過去の公式戦』の映像データが残っている。

 こういうのはプロトレーナー振興の一環としてポケモンリーグが撮影し、残しているらしい。

 あくまでリーグ側が記録した公式大会限定での映像であり、個人で撮影してそれを撮影対象の許諾無く通信ネットワークにアップロードすれば普通に犯罪だが。

 

 リーグ側も事前に公式大会への参加申し込みの際に公式大会ではリーグ側が記録を残すこともあります、みたいなことを事前承諾させるらしい(後々知った話だが大半のトレーナーが適当にサインしてしまってそんな内容が書いてあることを知らなかったらしいが)。

 

 そうして表示された動画一覧の中で最新の物が。

 

 ―――去年のチャンピオン戦の映像だった。

 

 挑戦者の『少年』とセレナでも名前を知るカロスチャンピオンこと『カルネ』のバトル。

 とは言え内容としては余りにもレベルが高すぎて正直セレナではまだ何をやっているのかほとんど理解できない頂点(ハイエンド)の戦いだった。

 

 もう一度言うが今のセレナでは内容はほとんど理解できない。

 やっていることが余りにも高度過ぎる。

 何故そうなるのか、何故そうするのか、何故そうしたのか。

 そんなこと欠片も分かりはしないが。

 

 ただ。

 

 ただただ、目を奪われた。

 

 カントーにおいてリーグ戦はテレビで放映されている。

 だがチャンピオン決定戦に関してだけは一切映像は残されない。

 カントーにおいてはチャンピオン決定戦は神聖視される風潮があるから。

 だからセレナにとってこれは初めて見るチャンピオン戦だったのだが。

 

 思ったことはただ一つ。

 

 ―――なんて楽しそうに戦っているのだろうか、この人たちは。

 

 実際に笑っている、というわけではない。

 むしろ必死な表情で、どこか苦しそうにも見える。

 なのにどうしてだろう。

 私には二人が楽しんでいるように見えた。

 

 勝つことは気持ち良い。

 

 それは私もバトルを通して知ったことだ。

 同期の二人とのバトルで分かったこと。

 

 そして。

 

 バトル自体を楽しむということをこの映像を見て知った。

 

 否、正確には知りたいと思った。

 

 ポケモンバトルは楽しいのだ。

 

 きっと、恐らく、多分。

 

 知りたいと思った。

 

 それが転機。

 

 

 * * *

 

 

 私のケロマツは思ったより負けず嫌いな気がする。

 それに気づいたのはトレーナーになって二、三ヵ月くらいしてからだっただろうか。

 

 あの映像と出会ってから私は猛勉強を始めた。

 今まで遠慮のような物もあったのだが、それすらかなぐり捨て、ハクダンジムへ出向いてジムトレーナーやジムリーダーに直接教えを請うたこともあった。

 ジムトレーナーでも無いのにあんなことをして、ビオラさんには大変迷惑をかけたと思う。

 だが『今の時期はそれほど忙しくないから』と言ってトレーナーとしての基本的なことを指導してくれたビオラさんには感謝している。

 

 どうやら私にはトレーナーとしての才能があったらしい。

 

 ぐんぐんと成長していくのが自分で実感できたし、いつの間にかポケモンバトルを『楽しめる』ようになっていた。

 そう、私もあの映像の二人のようにバトルを楽しむことができていた。

 ビオラさん曰く『それは貴重な資質なのだ』とのこと。

 

 ―――アナタ、きっと強くなるわね。

 

 初めてジムバッジを獲得した時……つまり、ビオラさんにジム戦で勝った時、ビオラさんは私にそう言って手元のカメラで写真を撮ってくれた。その時の写真は私の宝物になった。

 

 それから私はカロスのあちこちを旅した。

 ハクダンシティの先のミアレシティは東西南北あちらこちらに繋がっている交通の要所だ。

 ここからならカロスのどこにでも行けるが……取り合えず西へ向かったのはミアレシティにたどり着いた時に寄ったプラターヌ博士の研究所で博士に頼まれごとをしたからだ。

 

 ちょっとしたお遣いではあったが、特に明確な目的地も無かったためじゃあそちら側から行こうかと向かったのだ。

 

 ちょうどその頃からだったと思う。

 

 フレア団と出会ったのは。

 

 近頃カロスのあちこちでフレア団とかいう性質の悪い連中が増えていた。

 何故か行く先々で会うのは私の巡り合わせが悪いのか、それとも連中がそれだけ勢力を拡大しているのか。

 出会うと大概ろくでも無いことをしているので介入してポケモンバトルで大人しくさせているのだが、何度も何度もバトルしていると偶にまぐれ当たりで相手の攻撃が急所に刺さる時がある。

 そうやってケロマツが『ひんし』になりかけた。体はふらついていたし、さすがに不味いと思って私も引っ込めようとしたのだがその瞬間全身が光り出したのだ。

 

 そうしてケロマツはゲコガシラに進化した。

 

 そして先ほどまで劣勢だったはずのバトルを進化したての力で薙ぎ払ってしまう。

 ふんす、と得意気な顔をしていたが、まさか負けたくない一心で進化してしまったのだろうか、と思うと何だかおかしくなって苦笑した。

 

 『むじゃき』な子だと思っていた。

 

 ただ結構負けず嫌いでもあったらしい。

 

 奇遇と言えば奇遇。

 

 私も超ド級の負けず嫌いだ。

 

 ―――気が合うわね、私たち。

 

 そんな私の言葉にゲコガシラが頷いた。

 

 

 * * *

 

 

 フレア団との因縁は私の想像を絶した。

 

 最終兵器、伝説のポケモン、そしてフレア団のボス。

 

 それらについて私は語る言葉を持たない。

 

 ―――守る強さか。

 

 ただ最後。

 

 ―――だが君は何を守るのだ?

 

 フレア団のボスだった『あの人』が最後、寂しげに漏らした言葉だけが記憶に残っていた。

 

 ―――今日よりも悪くなる明日か?

 

 

 * * *

 

 

 私にとって『あの二人』のトレーナーは特別だった。

 否、片やカロス最強のトレーナーであり、片やその最強を追い詰めようとした最強の挑戦者。

 あらゆるトレーナーから見ても特別なのだろうが、それ以外の意味でも私には特別な二人だった。

 

 私が……セレナというトレーナーがここまでこれたのは間違いなくあの二人のバトルを見たからだ。

 

 ああ、ことここに至って誤魔化しても仕方ない。

 

 魅了されたのだ。

 

 あの二人のバトルに。

 何をやっているのかろくすっぽ分かってもいないのに。

 ただ全力でぶつかり合う二人のバトルに、死力を振り絞った両者の戦いに、魅了され、気づけば同じ道を歩んでいた。

 

 だからあのチャンピオンロードで憧れていた『あのトレーナー』に出会えた時、心臓がバクバクと爆発しそうなくらいに激しく鼓動を打っていた。

 バトルを了承してもらえた時、全身が震えたし、いざ対面してみると緊張でボールを投げる手がかちこちに固まってポケモンを出すのも一苦労したほどだ。

 

 強かった。

 

 本当に強かったのだ。

 

 実際去年のチャンピオン戦に挑戦した人物なのだ。

 四天王を抜き去り、チャンピオンへと挑んだ凄いトレーナーなのだ。

 当たり前だが、今年トレーナーになったばかりの私とは積み上げた勝利の数が違う、蓄えてきた経験の数が違う、鍛え上げてきた年期が違う。

 

 負けた。

 まあ多少食らいついたかもしれないが、それでも惨敗だ。

 

 悔しかった。

 

 けれどそれ以上に……楽しかった。

 

 そうして迎えたチャンピオンリーグトーナメント。

 

 一回戦の相手は……『あのトレーナー』だった。

 

 

 * * *

 

 

 ―――負けた。

 

 今の自分を一言で表すならそのシンプルな三文字で良い。

 切り札だったゲッコウガまで使って負けた。

 当然代償は大きい。ゲッコウガが『あの状態』になっている時、ゲッコウガが受けた傷を私自身も受けてしまう。

 ゲッコウガが『ひんし』になるようなダメージを受けるとそれも解除されるが、だが直前のダメージは残る。

 実際今だって気絶してしまいそうな痛みが私の体を苛んでいる。

 

 だが、気絶できない。

 

 悔しさに体が震えて、溢れそうになった激情を堪えるのに必死で、体の痛みさえ気にならなかった。

 

「くや、しい……な」

 

 本気で勝つつもりだった。

 以前のチャンピオンロードの時とは違う、憧れはあったが、それでも『勝ち』を譲る気はさらさら無かった。

 私のバトルスタイルは『あの人』に極めて似ている。

 

 育てることを得意としているのにたった六匹のポケモンに固執してひたすらにそれを極めようとしている無茶なスタイルだ。

 普通のトレーナーならポケモン同士の相性の良し悪しを考えて最低十匹前後は育成する。

 育てることが苦手なトレーナーでも育て屋さんなどを使ってでもそのくらいは育成する。

 

 だが私は今の六匹以外は育てていない。

 

 『あの人』も同じだ。

 否、『あの人』は私よりも育成が得意なのにそのリソースの全てを手持ちの六体に割り振っているのでもっと極端かもしれない。

 

 私の場合、単純に時間が足りないからこうなった。

 

 何度も言うが私はまだ今年トレーナーになったばかりの一年目の新人だ。

 何匹も育てるより六匹に絞って育成を集中しなければこのリーグ戦に間に合わない可能性があった。

 確かに相性の面を考えれば不利は否めない。

 

 だがゲッコウガにはそれを補って余りあるポテンシャルがあった。

 

 旅の途中で見てきたメガシンカポケモンたちと比較しても遜色の無い強い力があったのだ。

 

 だがそれとて決して無敵の物では無いと今教えられた。

 

 『げんきのかけら』によって少し力を取り戻したゲッコウガが自力で起き上がる。

 

「大丈夫?」

 

 そんな私の問いに、ゲッコウガが頷くように鳴いて返す。

 

「そっか」

 

 視線の先、見つめるのは相手のいなくなった空っぽのフィールド。

 早く出なければ次が始まってしまう。

 それは分かっているが、何となく動きたくない気分だった。

 

「……はぁ」

 

 嘆息一つ。

 

「負けちゃったね」

 

 呟きと共に視線をゲッコウガへ。

 負けた、その事実は認めなければならない。

 ゲッコウガも分かっているとばかりに頷き。

 

「……ねえゲッコウガ」

 

 呟き、手を伸ばす。

 

「次は勝とうね」

 

 その頬に手を当てる。

 

「リベンジね」

 

 私のそんな言葉に、当たり前だ、とゲッコウガが鳴いた。

 

 

 




個人的にXYはストーリーが薄い。
ORASがストーリーとして完成度高かったからなあ、余計に思ってしまう。
なんというか、一つ一つの出来事がぶつぎり、というか繋がりが薄い。
XYのストーリーは割と投げっぱなしジャーマンだからその辺は自分で考えるしかない。

ただフラダリさん、好きなんですよ。

あの人の『理想に殺されてしまった』感が本当に切ない。
しかも最終兵器イベントの後どうなったのか完全にシナリオからも抹消されてしまったんだぞ(

レインボーロケット団のくだり見て、まだこの人、人に希望持ってるのかなって思うとほろっとした。
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