彼のまにまに(旧題:スコーピオン万能説)   作:痔ーマン

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第3話 三守 遊児③

三守 遊児と黒江 双葉。同期であり、互いに訓練生として入隊後頭角を現したという点については双方に共通する部分であるが、その戦闘スタイルは大きく異なっていた。

三守はスコーピオンによる奇襲や投擲で相手の動きを牽制し、その隙を突くスタイルを主流としており、一方で黒江は自らの身軽さを活かし、弧月を用いて自ら切り込む攻撃的なスタイルだった。

技巧派と正統派。比べて見るとそんな印象を与える両者の戦績は双方が認めた通り黒江が勝ち越している現状である。

当事者たちは細かい数字までは覚えていないだろうが戦績にして82戦。内、48勝したのが黒江であった。

 

『ステージはいつものでいいですか』

 

『オーケーだ』

 

『はい。…私は来週からA級の加古隊に入るので、戦い以外にも色々覚えることがあるみたいです』

 

『だろうね』

 

『そうなると、これまでみたいに顔を合わせたら模擬戦、っていうのは難しくなると思います』

 

『成程?』

 

『…だから、まぁ、今生の別れとかじゃないですけど、1つの区切りとして言っておきたかったんです』

 

『…』

 

『三守さん、私と同期でいてくれてありがとうございました。…嫌な言い方になりますけど、三守さん以外の同期の人だと私つまらなかったので、こう…ライバルみたいな人がいたことが嬉しかったんです』

 

『ははは。事実だけにロビーで言ったら間違いなく大顰蹙だろうね。俺も同じ気持ちだよ』

 

『三守さんもですか』

 

『黒江さんに言ったか分からないけど、俺はトリオン量以外これといったモノが無い。っていうか射撃に関しては逆にボロクソだ。

そんな俺でもこう、あまりにポンポンと昇格出来てしまうと色々不安だった。でも、キミみたいな人もいた。他にもたくさん、強い人がいる。俺の不安は、杞憂だった。それを始めに教えてくれたのはキミだから、俺もお礼を言いたい』

 

『…じゃ、お互い様ということで』

 

『そうだね。…あぁ、A級入り祝いにさっき考えた新技見せてあげるよ。参考になるかは分からないけど』

 

『へぇ…それ、言っちゃっていいんですか?』

 

『実はブラフかも』

 

『こう言う時の三守さんの言葉が嘘だったことは無いです。まぁ1ヶ月程度の付き合いなので正直五分ですが』

 

『……こういう盤外戦みたいのも悪くないけど、そろそろ始めようか。この後は遥姉さんの荷物持ちだから』

 

『えぇ、私もこの後は加古隊長が炒飯を作ってくれるそうなので、少しお手伝いしようと思いますし』

 

『…ステージは市街地A、天候は晴れ、時間帯は日中』

 

『1本勝負、使用トリガーは訓練用トリガー1種のみ…』

 

『『トリガー・オン』』

 

白を基調としたC級隊員服を纏った2人が仮想戦闘空間に現れたのをロビーにある大型のモニターを通じて米屋、緑川、遥、そして周囲の隊員達が目に止める。

一方は既にA級部隊からスカウトを受けた俊英、もう一方は入隊試験で最速記録を更新した逸材。彼等を知る訓練生以外にも、噂でその存在を知ったB級隊員達も少なからず注目していた。

 

「お手並み拝見ってか」

 

「三守さんは俺と同じスコーピオンか。どんな戦い方すんのかな」

 

米屋と緑川は普段と変わらない様子で、楽し気にモニターに映る2人を見る。

元々2人揃って個人戦が好きなのだ。強い人、面白そうな人、注目を集めている人、要するに彼等にとっての新しい遊び友達候補となれば、自然とその頬も緩むというものだろう。

そんな彼等は、遥の一言でその決定的瞬間を見逃すことになる。

 

「多分、一発で終わると思うよ」

 

『C級個人戦、1本勝負。黒江VS三守、試合開始』

 

「は?」

 

「え?」

 

何かの聞き間違えだろうか。そう思い、米屋と緑川が声の主である遥に視線を向けた次の瞬間であった。

 

『トリオン供給器官破損、黒江ベイルアウト。勝者、三守』

 

彼等が視線を戻した先には、胸を貫かれトリオン体がまさに霧散する瞬間の黒江の姿があった。

 

 

 

 

試合開始を告げる音声。次の瞬間、黒江の視界は光で満たされた。否、正確に言うならトリガーを構成するブレードの光である。そのまま何もしなければ間違いなく黒江は頭部を貫かれていたし、恐らく彼女以外の隊員であればそのようになっていただろう。黒江が咄嗟に反応出来たのは、彼女の持つ反射神経、直感、その他様々な要素が組み合わさった結果であったと言える。

しかし、彼女は一手誤った。未知なる脅威に対し、彼女が選択したのは後方への跳躍であった。

黒江は知る由も無いが、つい数時間前に同じ攻撃を受けた嵐山のように横方向への回避という選択を彼女が選べなかったのはそれこそ歴戦の猛者と新進気鋭の新人の差と言う他無い。

結果だけ言うならば、黒江の跳躍は彼女の寿命を極僅か、時間にして0.1秒かそれ未満程度伸ばしただけだった。

 

『トリオン供給器官破損、黒江ベイルアウト。勝者、三守』

 

仮想戦闘空間に響き渡る声を聞いてようやく黒江は自分の敗北を認識した。

自分は何をされた?今の攻撃は?回避したはずでは?

思考を再開した彼女の脳内に止めどなく疑問が沸き上がる。これまでにも三守に負けたことはあった。だが、それはいつも理解できる敗北だった。攻撃の隙を突かれた、とか死角から攻撃された、とか原因が分かる敗北だった。

しかし今回、それが何なのか全く彼女には分からなかった。

トリオン体が霧散していく中、彼女は目の前の、開始位置から一歩も動いていない三守と視線を合わせた。

彼は初めて会った時と同じように、何を考えているのか分からない瞳と、本当に笑っているのか分からない、彫刻のように見事な微笑みを浮かべていた。

 

「今日は俺の勝ち」

 

ニコリ、と歯を見せて笑う三守を視界に収めて、黒江のトリオン体は完全に霧散した。黒江と三守と出会ってからまだ1ヶ月程度しか経っていない。だが、その中でも分かった事がある。

 

「(彼はまだ、私を対等に見てくれている)」

 

三守にその気は無いのだろう。だが、訓練期間中、何度も彼がその表情をするのを黒江は目にしていた。

目の前にいる人に対して、興味を完全に失ったような瞳。目の前に誰もいないかのような表情。

黒江以外の多くの同期に対して彼が向けた表情。

三守に悪気は無いのだと思う。実際、彼は誰かに対して悪態をつくことは無かったし、挑まれればその時は喜々として応じてすらいた。だが、その表情が失われるのは多くの場合一瞬だった。

黒江は自分をスカウトしてくれた加古隊隊長、加古望に聞いたことがある。

 

「ここには色んな人がいるわ。近界民(ネイバー)に恨みを持ってる人、近界民(ネイバー)から家族や親しい人を守りたい人、深い理由は無いけど入ってみた人…きっと彼は、一番最後のタイプに近いんでしょうね」

 

彼は多分、彼が興味を失った相手に対して本当に、本当にその相手がそこにいないかのような顔をする。私は自分がソレを向けられるのが怖い、と黒江は恐らくボーダーに入って初めて弱音を吐いた。

 

「大丈夫よ、アナタは強い。勿論、他の正隊員と比べたらまだまだ経験の差はあるけれど、アナタはその差を埋められるだけのセンスがある。だからアナタは、彼の友人でいられるわ」

 

黒江にとってボーダーで最も尊敬できる人であり、隊長である加古の言葉を思い出し、彼女はこの日、決意を新たにした。

 

「今度は勝つ」

 

その言葉とともに、彼女の体はボスリ、とベッドへと沈みこんだ。

 

 

 

 

黒江がロビーに戻ると、先程まで戦っていた三守が米屋と緑川にもみくちゃにされていた。

遥が止めないことを見る限り、男子同士のじゃれ合いなのだろう、と見ていると三守の視線が彼女に向いた。

 

「やぁ黒江さん。お疲れ様」

 

「お疲れ様です。…いいようにやられました」

 

「ブラフじゃないって、盤外戦は見破られたからね。お返しも込めてさ」

 

「…良ければ、どんな技を使ったのか教えてもらってもいいですか?」

 

黒江のその言葉に米屋がズイ、と前に出る。

 

「黒江も来たんだし教えろよ三守ー」

 

「三守さん、双葉が来たら教えるって言うからさ。俺とよねやん先輩で色々予想してたの」

 

「…聞いといてアレですけど、言っちゃっていいんですか?」

 

あれだけ自信を持って宣言し、その通りに勝利を収めた技だ。奥の手として隠しておきたいのではと、予想していた黒江にとって三守の反応は意外だった。

 

「技って程複雑じゃないしね」

 

それに、と言って三守は続けた。その眼は普段、彼が黒江に向けるモノと同じだったが、この時はどこか別のナニかを見ているようだった。

 

「ボーダーの目的は近界民(ネイバー)をぶっ飛ばすことでしょ。だったら共有できる情報は共有しといて損は無い」

 

「…そう、ですね…」

 

「じゃあ教えてよ三守さん。さっきのどうやんの?」

 

緑川の言葉に三守は少しばかり、彼が使った技をどのように説明するか悩んだ様子を見せたが、数秒ほどして諦めたかのように肩をすくめて口を開いた。

 

「スコーピオンをめっちゃ早く長く伸ばす」

 

「え?」

 

「そんだけ?」

 

聞いた黒江も思わず言葉を失っていた。成程確かにスコーピオンはブレードを伸ばすことが出来る。スコーピオンでマスタークラスと呼ばれる個人戦8,000ポイント以上保有者である米屋とその領域に達しつつある緑川は三守が口にしたことが理論上可能であるだけで机上の空論に過ぎないことだとこの場の誰よりも理解していた。

 

「補足すると、遊君のトリオン量だからこそ出来ることなの」

 

攻撃手(アタッカー)同士の会話の邪魔にならないようにしたのか、幼馴染に新しい友人が出来るのを見守っていたのか、あるいはその両方かは分からないが、一歩下がったところで彼等を眺めていた遥が三守の説明を補足すると黒江達3人は納得した表情を見せた。

 

「成程ね、幻踊に活かせればと思ったけどトリオン量由来だと無理だな。…それはそれとして三守、次俺とやろうぜ」

 

「三守さんとは俺の方が先に会ってるよ。やるなら俺が先でしょ、いいよね三守さん」

 

「悪いけど先約があるんだ。また今度」

 

そう言った三守に親指を向けられた遥は少し申し訳なさそうに眉尻を下げる。

 

「ゴメンね米屋君、緑川君。ちょっとこの後家の買い物して行かなきゃいけなくて…」

 

「俺は荷物持ちというわけです」

 

「あぁ…」

 

黒江は先程2人と会った時の会話を思い出し、そういう意味だったのかと一人納得する。

 

「ならしょうがないか。じゃ、よねやん先輩やろうよ」

 

「おう!三守、綾辻さんと2人で歩いてて刺されるなよー?」

 

「…似た感じの事昔から言われますけど、遥姉さん実は闇の組織にでも狙われてるんですか?」

 

「狙われてませんー。闇の組織、っていうか近界民(ネイバー)に狙われるならトリオン多い遊君でしょ」

 

「あはは…」

 

どうやらこの幼馴染2人は、知らない人から自分達がどのように見られているかよく分かっていないらしい。それはそれで、下手に刺激して関係を拗らせる原因となるようなことはしない方がいいのだろう、黒江はそう判断し、どこか間の抜けたやり取りをする2人を眺めていた。

 




ワートリ女子は皆可愛いですね。
可能な限り1話に最低1人は出せたらいいな、と思います。

オリ主君は、周りから見るとたまにすごく不気味になる人です。
オリ主から見た世界と周りが見る彼の姿のギャップみたいなのを上手く表現できたらいいなと思います。

本編1年前、ということで緑川はまだマスタークラスになっていない、という設定にしています。
各隊員の入隊時期とかはBFF準拠ですが、ズレがある場合も今後あるかもです。
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