彼のまにまに(旧題:スコーピオン万能説)   作:痔ーマン

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マイページ開いたら感想いただけててびっくりしました。ありがとうございます。
今後も自分好みなノリで読みやすい話を作れればいいなと思います

そんな事を言いつつも、地の分におけるキャラの呼称をどのようにするか今更考え始めました。
確定し次第、各話も修正予定です。


第4話 那須隊①

黒江との戦いから数日、遊児は学校で考え事をしていた。内容は以前、時枝に勧められた自分が使用する“長いスコーピオン”の名前についてである。

 

「(枝刃(ブランチブレード)とかもぐら爪(モールクロー)とか、英語からなんか良さそうな単語でも探そう)」

 

遊児としては実際に口に出した時恥ずかしくなく、イメージに沿った単語にしたいと考えていた。意味の分かりにくい長々とした技名に憧れない訳ではないが、ごちゃごちゃしていると実際に使う時に混乱しそうだと思ったのが一番の理由であった。

単語帳をパラパラとめくり、良さそうな単語が記載されたページを見つけては折り畳むのを繰り返しているとふいに視界に影ができ、彼は反射的に視線を上に持ち上げた。

 

「お、おはよう…三守君…」

 

「ボーダーのサイト見たよ!三守君もボーダー隊員だったんだね!」

 

大人しそうな女子と活発そうな女子である。名前は佐東と宮島。クラスメイト。それが遊児の中にある彼女達の情報の全てであった。

 

「おはよう、佐東さん、宮島さん。2人もボーダーなの?」

 

少なくとも遊児は自分がボーダーに入隊した事をわざわざクラスメイトに知らせた覚えは無い。自分が入隊したことを知っているという事は彼女達もボーダー隊員だったのだろうかと想像していると宮島は首を横に振ってスマートフォンを遊児に向けてきた。

 

「私達は違うよー。ほら、ココ!新正規隊員のとこに三守君が載ってたから驚いちゃって!」

 

「そ、そうなの。クラスにボーダーの人がいるって、なんか嬉しくて…」

 

そう言えばB級に昇格するとボーダーから正式に公表されると聞いたことを朧げに遊児は思い出しながら、彼女達がわざわざボーダー隊員の中に知った顔がいないかチェックしている事も、ボーダー隊員がクラスメイトというだけで感動を覚える意味が分からなかったが、自分は彼女達の視点に立つ機会は今後永遠に無いと思い至ると、まるでそんな疑問など感じなかったように彼の脳内から消えていった。

 

「え!?三守ボーダー隊員なの!?」

 

「スゲー!ウチの学校他にいたっけ?」

 

「隣のクラスの日浦さんがそうだって聞いたことあるよ」

 

彼女達の話声を聞いて、他のクラスメイトも次々に遊児に話しかけてくるが彼は適当に相槌を打ったり、当たり障りのないことを言ってやりすごした。もう1年近く共に過ごしてきたクラスメイト達だが、やはり遊児は彼等の名前以外、特に記憶していなかった。

クラスの喧騒は廊下を通る他の生徒も少なからず巻き込んで、担任の教師が教室へやって来るまで続いた。

 

 

「どぅわああああああああげふぅっ!!」

 

「ぐふぉ」

 

休み時間、遊児がお手洗いから教室へ戻っていく途中、突然彼の耳に謎の奇声が届いた次の瞬間、腹部にズシリという衝撃を感じた。

遊児は体をくの字に歪めながら衝撃の元に視線を向ければ、彼の脇腹には赤毛の少女がめり込んでいた。

 

「ひ、日浦さん!?」

 

彼女、日浦と呼ばれた少女の友人であろう女生徒は悲鳴にも似た声をあげてその視線を彼女と遊児へ交互に向けていた。

 

「って、三守君!?ご、ごめん大丈夫!?…日浦さん起きて!三守君の体勢凄いことになってるから!」

 

半ば遊児から引き剥がすように立たされた日浦は先程の衝撃で一瞬思考が止まっていたのか、はっとした次の瞬間にはガバリ、と直角に腰を曲げて頭を下げた。

 

「ごごご、ごめんなさい!足もつれちゃって!お腹大丈夫ですか!?」

 

「…くく…あぁ、うん。平気。そっちこそ怪我は無い?」

 

顔だけ上げて縋るように見つめる日浦を見て、遊児は先日見た映画に出ていた捨て犬を思い出してクスリと笑った。目の前の2人はその微笑みを彼の許しと判断したらしく安心したように息を吐いた。

 

「あ…そういえば佐川さん、今“ミモリ君”って呼んでたけど友達?」

 

日浦が口にした疑問は遊児も気になっていた。彼の記憶が正しければ、彼女との接点は皆無であり、事実同じ学年という点を除けばその通りだった。

 

「えっ!えーと…あっホラ!三守君、ボーダーなんだよ!私も友達から聞いたの!」

 

言い訳にしてはかなり苦しいが遊児が見る限り日浦は特に気にしていないように見えた。むしろボーダーという単語の方に強く反応した。

 

「ミモリ君もボーダーなんだ!私もそうなの!」

 

「それは知らなかったな」

 

記憶を辿ればクラスメイトがそんな事を言っていたのだが、残念ながら遊児の記憶には残っていなかった。

 

「私は日浦茜!ポジションは狙撃手(スナイパー)!よろしくね!」

 

「三守遊児。ポジションは攻撃手(アタッカー)。こちらこそよろしく。日浦さんはいつからボーダーに?」

 

「1年くらい前かな?三守君は?」

 

「まだ1ヶ月。よろしく先輩」

 

遊児は茜のボーダー歴が予想以上に長い事に少なからず驚いた。1年以上前という事はつまり中学に入学して然程経たない内に入隊したということであり、その頃の遊児は両親を説得するためネットで志望動機を漁っては自分なりに編集していた。

 

「同い年だし先輩とかいいよー…ん?佐川さんが知ってるって事は1ヶ月でB級に上がったの!?」

 

「まぁ、放課後暇だったから時間だけならあったしね」

 

「…私結構かかったのに…。あ、それより!B級上がったばっかりってことは防衛任務もまだ?」

 

「今日初参加」

 

「そっか!初めは緊張するけど先輩たちもフォローしてくれるから大丈夫だよ!頑張って!」

 

「ありがとう。…そうだ、今回俺は那須隊ってところの人達と一緒なんだけど、どんな人か知ってる?」

 

遊児がB級昇格から数日、防衛任務の流れや任務中の規則などを確認し、いよいよ初参加となる今日、彼が指揮下に入る部隊の名を告げると茜は驚いた様子で大きな瞳をぱちくりとさせた。

 

「私が入ってる部隊だよ!うわーすごい偶然!あ、先輩たちもみんな良い人だから安心してね!」

 

「ありがとう。もしかしたら同じ学校にいる隊員同士で調整してくれたのかもね」

 

お互いの事は知らなかったけど、とは声に出さず、放課後に合流してボーダーへと向かう約束をして遊児は茜達と別れた。

そう言えば、と遊児は茜が所属する那須隊について思いを馳せ、呟いた。

 

「黒江さんとか嵐山さん達みたいに強い人はいるのかな」

 

その声は誰に聞こえるわけでも無く、廊下の壁へと吸い込まれていった。

そして遊児は今日、魔女と出会う事になる。

 

 

遊児と別れた茜は、そう言えばと隣を歩く佐川に声をかけた。

 

「佐川さん、ホントは三守君と前から知り合いじゃないの?」

 

那須隊狙撃手(スナイパー)、日浦茜。周囲からは何も知らない女と思われ、実際知らないが、目の前に情報が提示されれば内容を考察し、違和感を覚える程度には頭が回るのだ。そんな茜に対し、佐川は呆れたように、いや、事実呆れながら溜息を吐いた。

 

「いや、日浦さんこそマジで三守君のこと知らない?ウチの学校で一番人気ある男子だよ?」

 

那須隊狙撃手(スナイパー)、日浦茜。周囲からは何も知らない女と思われ、実際に学校一人気、少なくともそう囁かれる存在である遊児については何も知らない女であった。

 

「へーそうなんだ…。確かに顔キレーだったしモテそうだね」

 

「顔だけじゃあないわっ!成績は常に学年上位で運動神経も良しの絵にかいたような文武両道!絵は………ちょっと独特だけどそんな欠点すらチャームポイントになるレベル!加えてボーダー隊員とかいう要素まで追加とかモテ要素の塊か?ぶっちゃけ私もワンチャン無いかな、とか思ったこともあるけど競争率考えたら地獄だしそもそもたまに年上の超美人と歩いてたって話もあるしやっぱ推しは視界に収め続けておくのが一番幸せかなとも最近私は思っているけれど三守君を狙う邪な輩から彼を守護する義務もあるわけで…」

 

茜は早口でまくし立てる友人をどうどうと宥めつつ、今になって自分の部隊が持つ重要な事実を思い出していた。

 

「(小夜先輩、男の人苦手だった…!)」

 

延々と語り続ける友人をスルーしつつ、茜は隊長である那須に三守と今日の防衛任務についてメールを送信した。

 

 

放課後、校門に立っていた遊児を見つけた茜はその周りの様子を見て休み時間に佐川が語っていた内容は嘘ではないことを確信した。

とにかく校門へと歩く女子生徒の歩行速度が遅いのだ。遊児の姿を目に焼き付けるためだろうが不自然すぎて予算の足りない映画のスローモーション撮影みたいな動きになっている。ちなみに当事者の遊児は手にした単語帳に目を向けていて、そんな周囲の状況など文字通り眼中になかった。

 

「み、三守君。おまたせー…」

 

茜は遊児に声をかけた瞬間、全方位からギョロリと数多の視線を向けられたことを感じ、突き刺さるような視線という表現は実体験できるものなのだな、と感慨にふけりつつ、やはり1人で来なくて良かったと1人の少年を前に立たせた。

 

「やぁ、日浦さん。…えっと彼は?」

 

「初めまして、三守先輩。1年の巴虎太郎です」

 

「これはご丁寧に。2年の三守遊児です」

 

「巴君もボーダー隊員なんだ!!せっかくだし一緒に行こうと思って!!ボーダー本部に!!」

 

「そっか。よろしく巴君。ところで日浦さん、やたら元気だね」

 

「今日防衛任務でしたっけ。気合入ってますね」

 

「まぁ!!そんなところかな!!じゃあ行こっか!!ボーダー本部に!!」

 

茜は必死だった。女子の嫉妬は怖い。以前、サッカー部のレギュラーに思いを寄せる2人の生徒が互いに裏では相手のことをボロクソに扱き下ろしているのを聞かされた時、茜は女の怖さを知った。故に今、彼女はアピールするのだ。遊児とはあくまでボーダー隊員同士だからこそ行動を共にするのだと。虎太郎もいるから2人きりではないぞ、と。幸い茜が先程まで感じていた視線は大分和らぎ、状況が思惑通りに進んだことに茜は安堵した。

因みに茜はもちろん、遊児も虎太郎も知らないが、ボーダー隊員ということもあって遊児以外の2人も結構モテる。今日この時安心したのは、遊児に熱い視線を向ける者以外にもいたという事である。

 

 

ボーダー本部、那須隊部隊室。

 

「小夜ちゃん、聞いた通り今日の防衛任務は男の子も来るけど、大丈夫?」

 

「はい…茜と同い年だし、何とかいけると思いますけど…」

 

「ま、変なヤツだったらアタシがぶっ飛ばしてやるから練習だと思って気楽にやればいいよ」

 

長く伸ばした前髪で片目を隠す少女は志岐 小夜子。先日、遊児が意図せず、というか本人は記憶すらしていないが結果的に彼に助けれた少女である。

そして全体的に色素が薄く、高嶺の花を思わせる少女は那須隊隊長、那須 玲。健康的な印象を与える少女は熊谷 友子。ここに茜を加えた4名が今日、遊児と防衛任務を共にするメンバーであった。

 

「ごめんね小夜ちゃん…久しぶりの防衛任務だったから確認を忘れちゃって…」

 

「いえ、大丈夫です。私も少しは慣れないとって思ってますし」

 

玲の言う通り、那須隊が防衛任務に参加するのは久しぶりのことだった。

ボーダーにおける防衛任務は必要最低限の参加を除けば基本的に任意でスケジュールを追加できるようになっている。つまり、たくさん参加したいと思えば、それだけ申請しておけば良いし、逆に可能な限り参加したくない事情があれば、最低限の参加だけで良い。

那須隊は主に隊長である玲の事情から、防衛任務への参加は最低限となっていた。

玲は生まれつきかなり病弱で、今でも休日はベッドに座って過ごすことが多い。そんな彼女がボーダー隊員になったのは“体の弱い人をトリオン体で健康にする”という研究に参加することを希望したからである。

トリオン体を手にした玲は、生身の虚弱さに反比例するかのように縦横無尽に駆け巡ることが出来た。元々は少しでも健康な体を手に入れるためだったが、まるで羽根が生えたように自由に動き回れる仮初の体と、友人を得て、今の彼女は部隊を率いる立場になった。

しかしトリオン体を手にしたとはいえ、必要な場合を除けばボーダー外でのトリガー使用、つまりトリオン体への換装は基本的に制限されている。つまり玲はボーダーへ行き来する時は生身で活動しなければならず、それは彼女の健康面から考えれば可能な限り少なくしたいのは彼女とその家族としても、ボーダーとしても共通の認識だった。

 

小夜子については無論、ボーダー側も彼女の事情は理解しているが、そのまま放置して良いか、と問われれば答えは否である。状況によっては小夜子が幅広い部隊の指揮を執らざる負えない日が来るかもしれない。そして何より、那須隊に所属してからの小夜子は自分の男性不信と向き合う事を望んでいた。これが解決すれば、自分は不安無く隊の仲間たちと外で遊ぶことも出来る。普段はチャットで済ませている会議、という名の女子会にも参加できる。それは間違いなく小夜子の望みであったが、当日いきなり男性隊員が参加します、と言われればどうしても体は強張ってしまう。

 

「ち、ちなみに…どんな隊員かって分かりますか?」

 

「えぇ、ちょっと待ってね…茜ちゃんのメールだとB級に上がったばかりの三守君って子みたい」

 

小夜子の背を優しく撫でていた玲はその手を止めて端末を操作し、カタンという音と共に1人の男性隊員の情報が表示されたのを見て、友子は端から読み始めた。

 

「三守 遊児。14歳。ポジションは攻撃手(アタッカー)。個人ポイントはスコーピオン4210。って入隊してから1ヶ月でB級に上がったのねこの子」

 

「綺麗な眼ね…茜ちゃんも言ってた通り悪い子には見えないけど、小夜ちゃん大丈夫そう?………小夜ちゃん?」

 

「…」

 

「小夜子?大丈夫?」

 

ポンと、友子の手が肩に乗せられた途端、ビクリと跳ねるように反応した小夜子は目の前に表示された遊児の顔写真を見てボソリと、けれど2人に聞こえるようにつぶやいた。

 

「大丈夫です…この子なら、私、平気です…!」

 




遊児くんはBFFのモテるキャラグラフで言うと烏丸レベルでモテます。
モテ男勢力図を崩壊させる人材です。
イケメンの方が書いてて楽しいのが主な理由です。

茜ちゃんもかなりモテる子(無自覚に男子を落としそう)ですし、虎太郎はBFFではどちらかと言うとモテない側でしたが年上に可愛がられるタイプのモテ方をしてそうなので地味にモテてるとうことにしました。
というかボーダー隊員というだけでも学校では人気出そうですしね。

備忘録を兼ねた遊児くんの設定は使うトリガーが出揃ってから書こうかな、と思っています。
なお、所属する部隊は今のところ未定です。

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