彼のまにまに(旧題:スコーピオン万能説)   作:痔ーマン

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Wordのルビが投稿すると思ってたのと違ったので今回はルビなしにしてみました。多機能フォームはよう分からぬ…


第6話 那須隊③

『モーメント』。

スコーピオン、と呼ぶには長大すぎるその刃は3度、生成と消失を繰り返し、この日最初に現れたバムスターを貫き、その機能を停止させた。

 

「(伸ばすだけなら当てられるなぁ)」

 

名称を付けたことで発動の感覚がスムーズに、そして速くなったことを体感しながらも遊児としては同じ距離で射撃は何故全く当たらなかったのか、と思わなくも無かったが、今はとりあえず任務に集中しようと意識を切り替えた。

 

「…小夜ちゃん。あのトリオン兵、機能は止まってる?」

 

『…あ、はい。3体とも機能停止してます』

 

「ありがとう。それにしてもびっくりしたわ、三守君。あんなことが出来たのね」

 

「はい。…あれ、ブリーフィングで言いませんでしたっけ?」

 

遊児はブリーフィングではただ「スコーピオンを伸ばすのが得意」としか言っていない。本当に、今になって名称を決めたのでその表現は仕方がないとも言えるのだが、多くの隊員はスコーピオンの射程が20メートル近くまで伸びる事はそもそも想定していない。

 

「伸ばすとは聞いたけど旋空弧月くらい伸びてるじゃないアレ…」

 

「あ、旋空ってそれくらい伸びるんですね」

 

小夜子から共有されたデータを確認し、後衛を担っている友子が呆れたように声を出す一方、狙撃手の茜は攻撃手用トリガーのリーチについてそこまで詳しくないようでただ凄い伸びた、程度に認識していた。

 

「うん。3体とも目玉を一撃で壊せてる…びっくりはしたけど嬉しい誤算ね。みんな、任務は始まったばかりだから改めて集中しましょう。三守君、この後も前衛を任せたいのだけど、他に秘密の技があったら言ってね」

 

「隠してたつもりはないんですが…他は枝刃ともぐら爪を練習中です」

 

「分かったわ。さっきの伸びるスコーピオン…モーメントだったかしら。この後も間合いにトリオン兵が出たら積極的に使って。ただ、建物を巻き込みそうな時は無理に使わないでいいから」

 

「了解」

 

『…!お話し中すいません、敵の増援です。出現ポイントは…また三守君の近くですね』

 

小夜子からの報告の直後、遊児の視線の先にはゲート発生の前兆を告げる黒い火花が飛び散っているのが確認できた。

 

『数量、3…5…12…まだ増える!?』

 

バチン、バチンとまるで互いを呼んでいるように次々とゲートが空中に現れる。

ゲート出現を制御するボーダーの技術、そして近界民を呼び寄せる高いトリオン量を持つ個体。2つの要素が重なり、今日この場におけるゲートの発生ポイントが遊児の付近に集中することになった、と言う分析結果が出るのは残念ながらこの任務の後の事である。

 

『数量確定!20体です!』

 

「隊長。さっきのは4発までしか同時に出来ないんで、フォローしていただけます?」

 

「任せて。それじゃあ左右の端をそれぞれ1体で良いから攻撃出来る?」

 

「はい、それくらいなら」

 

遊児のその返答に玲は微笑むと自分の周囲に小さなトリオンキューブを展開させる。

 

「じゃあ、残り18体は私が倒すわ」

 

変化弾のリアルタイム制御。玲はボーダーでも2人しか実用化出来ていないその技術を体得した内の1人であり、B級屈指の射手である。多数の弾丸を自在に操り、相手に逃げ道を与えないその姿から彼女の操る変化弾はこう呼ばれる。

『鳥籠』と。

 

『トリオン兵、ゲートより出現。バムスター14、モールモッド6!』

 

その言葉と共に、遊児、玲がそれぞれ攻撃を開始する。

 

「“モーメント・二重”」

 

「………変化弾」

 

絶妙なのは玲の攻撃タイミングである。遊児が放ったモーメントが左右のトリオン兵を貫き、一瞬ではあるがその2体の間に残された18体の動きが制限される。その一瞬の隙を突くため、玲は変化弾の使用をほんの数コンマ遅らせる判断を下した。

角ばった弧を描く弾道が横並びになり、半円状に包囲する弾幕となってトリオン兵達に降り注ぐ。機動力と装甲に優れる戦闘用トリオン兵であるモールモッドと言えど、とても耐えきれる数、威力ではなく、成す術もないまま次々と装甲を砕かれ機能を停止していった。

 

「うへぇ…すっご…」

 

玲のすぐ近くで戦い、といっても彼にしてみたら遠距離から一方的に刺しただけだが、そんな自分の上空を変化弾の弾道が通過するのを見ていた遊児には、それは正に流星群のように見えた。彼がまるで上手く扱えなかった射撃用トリガー。その中でも最も扱いが難しいと感じたのが玲が使った変化弾だ。こんな難しいトリガーも、上手い人はいるのだろう、その程度に遊児は考えていたが、目の前に広がった光景は彼の予想を大きく上回るものだった。

何しろ弾丸の数はそう変わらないのに、仮想空間では市街地を滅茶苦茶にした遊児に対し、玲のソレはトリオン体の視覚で確認した限り、建物はおろか、道路にすら目立った傷は見当たらなかった。

 

「…小夜ちゃん、反応は?」

 

『対象全て沈黙。お見事です』

 

「でも、凄い数でしたね…一度にこんなたくさん…」

 

狙撃地点から各方位を警戒していた茜が通信越しに呟く。実際、ゲート誘導装置があるとは言えここまで集中してトリオン兵が現れる極めて珍しい。少なくとも、那須隊の面々にとっては初めての事態だった。

 

「いつもはもっと少ないんです?」

 

「まぁね。全体で20体でも多い方じゃない?」

 

「それがどうしてこんな沸いて来たんですかね?」

 

「アタシは技術方面あんまり分かんないからねー。ま、異常があるならエンジニアの人達が調べてくれるよ…ほら、まだ任務中だよ!」

 

「了解です」

 

『統括の風間隊には報告上げておきました。反応がぴったり止んだので打ち切りかも知れませんが、他にもイレギュラーなケースが出るかも知れません…。三守君、レーダーの感度上げて良い?』

 

レーダー。

トリガーとは別にボーダー隊員のトリオン体に標準装備されている機能であり、消費するトリオンの増やすことでその精度を高める事が可能となる。混戦で通常のレーダーでは情報を拾いきれない場合や、今回のようなイレギュラーケースでの初動を早くするためにも用いられる。

 

「どうぞ。俺、トリオン多いみたいなんで湯水の如く使っちゃってください」

 

「はは、もしかしてアンタのトリオンに引き寄せられてるんじゃないの?」

 

「どうでしょう?俺、生まれてずっと三門市ですけど初めて近界民見たの3年前ですよ?」

 

友子が口から適当に出した言葉は実際、真実なのであるが遊児としては自分がトリオン兵を引き寄せる、という事に疑問を持たざるを得ない。トリオン兵、近界民の存在が人々に知られる事になったのは3年前の大規模侵攻の際ではあるが、設立当時ボーダーは近界民は極めて小規模な活動ではあったがずっと前から確かに存在し、世界中の人々を脅かしていたことを発表した。遊児にしてみれば、トリオン量を理由に標的が決まるのなら、自分とその周囲で失踪、行方不明あるいはトリオン兵を彷彿とさせるような怪談話が一切無かった以上、その説は眉唾モノとして扱っているのが現状だ。

 

「………他の隊の方にも出たみたいね」

 

民家の屋根にふわりと着地した玲の視線の先には、先程彼女達の目の前に出現したのと同じゲートの出現を示す黒い火花が散っている。

 

「うーん、やっぱりこっちに固まったのは偶然だったんですかね?」

 

『それはエンジニアさん達に任せるって話だったでしょ、茜』

 

結局その後、那須隊の前に現れたトリオン兵はどれも散発的で、言い換えれば普段の防衛任務通りとも言えた。つまり結果的に見ればレーダーの感度を上げる必要は無かった、とも言えるがそれはあくまで結果論。無駄になるかも知れなくても、有事に備える、それこそが重要であるということを三門市に住む人々ゆえに強く理解しているのだろう。

 

『定刻だ。各部隊は本部へ帰還しろ…南地区ではトリオン兵の大量発生もあったが混乱、損傷無く終えられたのは各員の日頃の努力が実を結んだと言えるだろう。ご苦労だった、引継ぎを終えたらゆっくり休め』

 

風間隊隊長、風間 蒼也の極めて実務的な、だが確かな労りを感じさせる言葉と共に、遊児は大きく息を吐く。

彼自身、そう意識していたわけでは無かったがやはり初めての実戦故に相応の緊張はあったのだろう。今更になって硬くなった体をほぐすように、トリオン体には効果が無くとも半ば緊張に対する反射的な行動として、遊児は両手を背中に回してぐいぐいと体を伸ばした。

 

「お疲れ様、三守君。戻りましょうか」

 

中盤の大量発生から共に前衛を務めていた玲の声を聞いて、遊児は自分がトリオン体だったことを思い出した。玲が声をかけなければ普段の放課後のように1人ぶらりと家に向かっていたかも知れない。

 

「お疲れ様です、隊長…トリオン体で疲れる事ってあるんですね」

 

「最初は誰でもそうよ。三守君は動きも良かったし直ぐに慣れるわ」

 

「そんなもんですか…そういえば防衛任務ってお給料出るんですよね?隊長は何に使うんです?」

 

「私はそうね…ちょっと良い桃缶とか、みんなで食べるお菓子とかかしら」

 

「意外…でもないか、遥姉さんもお菓子率すごいし」

 

「えぇ。女の子は甘いものが好きなのよ」

 

「おや、男の子だって甘いものは好きですよ」

 

どうでもいい話。いつでもできる話ではあるが、廃墟の中で少年少女が歩きながら、という前提があると中々歪な光景とも言えるだろう。さながら戦場から帰還する兵士の如く、2人はボーダー本部へと帰還した。

 

 

那須隊隊室。防衛任務を終えた那須隊の面々、そして遊児の5名は黙々と書類を書いていた。

今回の任務において起きたトリオン兵の大量発生。ボーダー本部から検証を要するイレギュラーなケースと判断されたため、当事者である彼、彼女等には防衛任務直後に詳しい報告が求められたのだ。残業中のサラリーマンはこんな気分なのだろうか、とこの部屋にいた誰もが一度は考えたことだろう。

 

「…一番近くにいたの俺ですし、後やっときますよ」

 

「おっマジ?助かるよ」

 

「ダメよ熊ちゃん。そもそも三守君自身、防衛任務は今日が初めてだったんだからこいうのも教えてあげるまでが私たちの役目でしょう」

 

「だよねぇ」

 

「ありがたいですけど隊長、俺の分は終わったんで」

 

その言葉通り全てに記載を終えた書類を揃えてテーブルに置いた遊児はいかにも暇ですよ、と言わんばかり手をヒラヒラとさせている。

 

「あら、もう?…じゃあ一応私がチェックするから、そうね…茜ちゃんを手伝って貰える?」

 

遊児の書類を手に取った玲は、茜の書類が見るからに他の者より残っていることに気付いて遊児を援軍に送ると、茜はガバリと顔を上げて玲と遊児をさながら救世主でも見たかのように満面の笑みを浮かべた。

 

「隊長!三守君!ありがとうございます…!」

 

「いいよ、暇だし。さっさとやっちゃおう…あ、コレ誤字」

 

今まさに書き終えたばかりの書類を突き返されて派手なリアクションを見せる茜と、それに友子と小夜子が釣られて笑い、そんな彼女達の様子を微笑ましく見守る、玲。恐らくこれが那須隊の日常なのだろうな、と遊児はぼんやりと考えながら、数枚の書類を茜に差し出した。

 

「日浦さん。こっちはサインだけでオーケー。残り2枚は本人の記載が必要だから書いといて」

 

「おぉ…速い…!この書類を裁く速さがあのスコーピオンの秘訣!?」

 

「多分関係ないね」

 

部隊に入るなら、こういうノリだと良いな、と柄にもなく人の仕事を手伝いながら遊児は思った。

近界民への復讐だとか、街の平和を守るとか、そう言うのは正直肩が凝る。人の邪魔をする気は無いが、人に邪魔をされたくもない。そこまで考えて、遊児は一瞬手を止めた。

 

「…らしくもない」

 

「チェックお願いします…。…?三守君、何か言った?」

 

「ふふ…なんでもない」

 

自嘲するような微笑みの意図はこの部屋にいた誰にも伝わらなかった。もしかしたら、幼馴染として彼をよく知る遥でさえ、その変化には気付かないかも知れない。

まさか自分が誰かと一緒にいることを想像するとは、彼自身も今日までそんな日が来るとは思ってもみなかったのだから。

 

「…三守君、書類仕事、好きなの?」

 

「そう見えます?」

 

「何か楽しそうだったから」

 

「才能があるのかもしれませんね。事務仕事も出来て迷子にもならない新人隊員です」

 

「そうだね。迷子にならない期待の新人だ」

 

小夜子に軽くスルーされてしまうが特に気にせず遊児は手元の書類に目を通す。

成程、自分は少なからず昂揚している、と遊児は自分の心情をそう判断しつつ、茜に確認を終えた書類を手渡した。

 

「日浦さん。また誤字」

 

「ぐえええええ!」

 

「っていうか茜がチェックされる側になってるじゃない…」

 

結局、全ての書類を書き終えたのはそれから1時間後の事だった。昨日までの遊児ならば間違いなく無駄な時間だと思っただろう。だが、今日のこの時間をそうだとは、今の彼は思えなかった。

これを良い変化と取るか、悪い変化と取るかは人それぞれだ。彼は己の事にのみ没頭するある種の集中力を少なからず失ったとも言えるし、人との繋がりを僅かにせよ、大切にするようになったとも言える。結局、この時の自分の心情がその後どのような結果に結び付くかなど、本人にも分からない。

それこそ、未来を見通せる者でなければ。

 

 

ボーダー本部、中央司令室前。

せめて荷物運びくらいは、と玲たちから預かった書類を提出し、帰宅しようとする遊児の背を、ある者が見つめていた。

 

「………こりゃまた、良い未来になったな…」

 

S級隊員、迅 悠一。未来を見通す男。

今、迅が見つめる少年、三守 遊児の未来を初めて見た時、彼は背筋が凍る気分だった。

 

その時迅が見た未来で、遊児は両手を血に染めていた。

崩壊した建物、煙、遠くからは悲鳴が聞こえた。

その辺りにでも落ちていたのだろう、どの家庭にでもありそうな三徳包丁を手に彼は何かを裂いていた。両手を血に染めて。

遊児に切り裂かれているモノ、それの姿は迅には見えなかったが人であろう、という不幸な確信が彼にはあった。遊児は誰かを切り裂いていた。

誰を切り裂いている?近界民か?それとも――――

そこまで未来を呼んだ迅は確かに聞いた。

 

「サイドエフェクト…別に脳味噌の作りは変わらないんだね、迅さん」

 

迅はその時、反射的に遊児から視線を外した。これ以上は読むべきでは無い。きっと読めば読む程この未来が確定に近付いていく。数多の未来を見通してきた故の直感であった。

自分では彼の未来を変える事が出来ない、けれど彼の未来は変えなければならない。彼が殺めているのが自分なのか、または別の誰かだったのかは分からないが、彼にそんな事をさせるわけにはいかない。

無論、その未来は当時の遊児が見せた数多の未来の1つだ。その中での可能性が高いだけで、変わる可能性も十分にある、むしろ迅の経験則から言えば変わる可能性の方が高いだろう。だが、普段迅が趣味と豪語する暗躍することでその未来を遠ざける事を考えれば考えるほど、その未来が近くなる感覚があったのだ。

その日から迅の心の隅には重しのような物をまた1つ背負ったような気分だった。挑まなければならない未来が1つ増えた。

 

今日、迅が遊児の姿を見かけたのは本当にただの偶然で、その背が彼だと気付いた時には既に未来は見えてしまって、迅は少しばかり後悔した。それは一瞬だった。

 

今日、迅が遊児に見た未来。そこで彼はスコーピオンを両手に持ち、何者かと対峙しているようだった。今回も彼が見つめる相手は誰か見えなかったが、その未来で遊児はボーダー本部を背に戦っていた。

その周囲はやはり倒壊した建物の瓦礫で満ちていて、最善の未来では無いのかもしれない。けれどその時、迅は少なからず救われたのだ。

遊児本人に伝えれば不気味がられ、最悪不審者として通報されたであろうが。

自分が何もしなくても自分で未来を変えられる人がいる。それはある意味当たり前の事でで、だからこそ未来を見通せる迅は無意識の内に期待することを止めていた。

未来を見通せる自分が何とかしなければ、その想いは今でも彼の中にある。

それでも、未来を変える力は誰にでもある事を、この日、少しだけれど迅は思い出した。

 

「あぁ、大丈夫だ…未来はもう、動き出していた…」

 

遊児の背を見送って、迅もまた歩き出した。

そう、未来はもう動き出している。

自分自身に成せることを成そう。少しでも良い未来を選ぶために。

その足取りは、少しばかり軽くなったように見えた。

 




タイトルの割に迅さん要素が強くなってしまった。
どんな未来が見えても変えればいいからシリアスやりたい時は迅さんに最悪な未来を見せるに限る…。

その内ランク戦も書きたいのでその内どっかに入れたいんですが悩みますね…。基本原作沿いになるので玉狛第二はキツいし。


ランキング入っててビビりました…。ありがとうございます。
誤字報告もありがとうございます。チェックしたつもりでもこの様である。
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