彼のまにまに(旧題:スコーピオン万能説)   作:痔ーマン

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第7話 ランク戦①

B級ランク戦。

個人ではなく、チーム単位で行われる実戦を想定した戦闘訓練であり、実施期間は2月~4月、6月~8月、10月~12月の年3回行われる。各シーズン終了時には上位2つのチームにA級への挑戦権が与えられ、条件を満たすことでA級へ昇格となる。

チームはオペレーター1名と戦闘員1名~4名の最大5名。オペレーターの負担と戦力バランスを考慮し、多くのチームは戦闘員を3名用意する場合が多い。戦闘は同時に3もしくは4チームによって行われる。

一般の隊員には公にされていない“人型近界民”との戦闘、来るべき次の大規模侵攻に備えた訓練である。

遊児は友人2人との約束通り、その中継が行われる会場へと赴いていた。

巨大なスクリーンと何列か毎に設置された緩やかな段差とどの席からでもある程度モニターが確認できるその構造は見る人によっては大学の講堂にいるような印象を与えたかもしれない。中学生である遊児はこれといった感想を持たなかったが。

遊児はきょろりきょろりと周囲を見回すが試合開始30分前だというのに既に多くの席は埋まっている。自由参加かつ特に自分のポイントにも加算されるわけではない、学校で例えるなら休日に自習するようなものだと思っていた彼にとって、この会場の盛況ぶりは予想外であった。

 

「(せっかくなら見やすい真ん中がいいけど…)」

 

半端に空いている席があれば早めに詰めてもらおうか、と考えながらカツンカツンと進んでいると会場の中央あたり、周囲とは異なる機材の様な物が見える席でグイと腰を捻る男と目が合った。

 

「おっ。三守じゃん」

 

「どうも、米屋さん」

 

A級三輪隊の隊員、米屋陽介である。B級昇格前に出会って以来、個人戦ブースで顔を合わせると試合をする中になった。おかげで遊児の個人ポイントは伸び悩んでいるがそれを気にする両者ではなかった。

 

「お前こっちで見るのは初めてだな?」

 

「友達に誘われたんですよ。見に来てくれって」

 

友達、という言葉に反応したかは定かではないがそのタイミングで1人の女性が身を乗り出してくる。遊児にとっては幼馴染兼姉貴分、A級嵐山隊オペレーター、綾辻遥である。

 

「遊君、友達増えたの?」

 

「遥姉さんもいたんだ…日浦さんと巴君がね、ほら、同じ学校だから」

 

「成程ね、つーか三守、せっかくだしココ座れよ」

 

米屋が親指を差した席は遥を挟んで彼と反対側の席である。確かに空きのようだが、後方からチラリと見たように明らかに他の席とは異なる作りになっている。

 

「何か、他の席と違いません?」

 

「実況席だからな」

 

「実況席?」

 

「ちょっと前からね、ランク戦の時は実況することで解説をするようになったの。訓練生とか、部隊を組んでない隊員の人から見てもどんな戦いが行われているのか分かるようにね」

 

「俺、その部隊を組んでない隊員なんだけど」

 

自分はむしろ解説を聞く側だろうと思っている遊児を米屋はまぁまぁと半ば強引に席に座らせて彼の肩に手を回す。

 

「普段は基本、オペレーター1人と正隊員2人以上なんだけどさ、今日は俺しかいねーんだ。まぁ思った事言うだけで良いから物は試しってことでどうよ?」

 

「そうね。この実況はあくまで有志での参加だから、勉強も兼ねて参加してみたら?席もあんまり空きが無いみたいだし」

 

「適当でいいなら、やってみようかな。…しかし、ここまで人が多いとは思わなかったよ」

 

ボーダーの任務の一環ではない、ということで気楽になったのか、実況席に深く腰を落とした遊児が会場の盛況ぶりに付いて語ると、米屋は苦笑いを浮かべた。

 

「普段B級中位戦ではここまで席埋まるわけじゃねーんだけどな」

 

「?なにか理由が?」

 

「那須隊だよ。タイプは違えど美人揃いで、隊長の那須は…何だっけ、トリオンの健康利用とかの番組でテレビにも出たことあるから人気たけーんだ。よく見てみろ、会場にいるの男ばっかだろ」

 

「確かに」

 

「あ、あはは…」

 

実際の所、このランク戦の実況を担当するのが嵐山隊オペレーターとしてボーダー内でもマドンナ的人気を持つ遥が務める事が分かった途端、更に来場者は増えたのだが米屋はそれについてはノーコメントとした。

 

「ま、理由はどうあれ見るだけでも得る物は多いからな…じゃ、そろそろ良い時間ですし始めます?」

 

「そうね。とりあえず遊君には私か米屋君から話を振る感じで進めるから、よろしくね」

 

「オーケー。米屋先輩もよろしくお願いします」

 

「おう、気楽に行こうぜ」

 

試合開始20分前、遥は小さく咳ばらいをしてマイクに向けて口を開く。

 

『皆さん、こんにちは。B級ランク戦昼の部を開始します。実況を担当するのは嵐山隊オペレーター、綾辻と』

 

『A級三輪隊、米屋だ』

 

『…』

 

『遊君、遊君…』

 

『あ、ここでか。…B級の三守です』

 

『はい!以上の3名でお送りいたします。それでは、この試合に参加する3チームを順にご紹介します』

 

遥が危機を操作すると正面のスクリーンに部隊名、所属隊員などの情報が表示される。

彼女が遊児のことを愛称で呼んだことに事情を知らぬ周囲はざわついているが残念ながら当事者たちがそれに気づくことは無く、米屋は軽く肩を竦めた。

 

『まずは暫定10位、諏訪隊です。米屋隊員、諏訪隊の特徴と言えば何でしょう?』

 

『そうだな…諏訪隊は隊長である諏訪さんと堤さんの銃手2人、攻撃手の笹森で構成されたチームだ。特徴としては諏訪さん、堤さんどっちも散弾銃型のトリガーを使ってて、普通の銃手に比べるとちょい射程は短いが、その分瞬間火力が高い。隊長の諏訪さんは大胆な作戦も採ることも少なくないし、ハマれば上位も食えるタイプの部隊だな』

 

『ありがとうございます。それでは続いては暫定12位、那須隊です。遊く…コホン。三守隊員から見た那須隊の印象はどうでしょう?』

 

話を振られた遊児は自分に振る内容か、と一瞬遥を訝し気に見つめたが軽く咳払いをして正面を向きなおす。

 

『防衛任務で一度ご一緒した程度なので詳しいことは分かりませんが、那須隊長の変化弾の印象が強いです。何となくですけど那須隊長を中心に据えて、熊谷隊員、日浦隊員は那須隊長が作った隙を突く、もしくは逆に那須隊長の攻撃に繋げるための陽動を行う、といったところでしょうか』

 

遊児の回答に米屋はヒュウと小さく口笛を吹く。彼としては那須隊の戦術がエースを中心としたシンプルなものであるとはいえ、一度行動を共にしただけでその基本戦術を見抜いて見せた遊児の観察力は予想以上の物だった。

 

『ありがとうございます。実際、那須隊の主な戦術は三守隊員が言った通り変化弾の使い手としてはボーダーでも指折りの実力者である那須隊長をエースとした運用が主ですね。

最後となりますが、今回ステージ選択権を持つ暫定14位、柿崎隊は柿崎隊長、照屋隊員という2名の万能手と銃手である巴隊員、3名が集まっての連携を得意としています。防衛任務での消耗率も極めて低く、粘り強い戦いが得意な部隊です』

 

『各部隊の紹介はざっとこんなもんだな。三守、お前としてはどこが有利だと思う?』

 

新人いびりですか、とマイクに入らない程度に小さく遊児は呟いた。

 

『…編成だけで見るなら、那須隊でしょう。他の部隊は狙撃手がいません。

長い射程を持つ側の優位性については有名どころだとクレシーの戦いや長篠の戦いが証明しています…まぁ、これらは厳密には地形や陣形の有効性等の要素も含めて勝ち取った結果ではありますが』

 

『く、クレ…?』

 

『成程、射程の優位を活かすことが出来れば那須隊は優位に戦闘を進められると』

 

米屋は何のことか分かっていない様子だが、遥は遊児の意図を、というより例に挙げた歴史上の戦いとその結末に即座に辿り着いき、大きく頷いた。

 

『ただ、地形という面で見れば今回マップを選べるのは柿崎隊です。

唯一狙撃手を有する那須隊への対策として狙撃手を活かしにくいマップを選ぶことも可能ですが…その点は那須隊も考えているはず。

加えて両部隊にとって暫定とは言え格上の諏訪隊がいるわけですから、狙撃手を活かしづらくしつつも諏訪隊の戦術を妨害できるようなマップにしたいですね…そんな都合の良いマップがあれば、ですが』

 

『あ、アレ…?これ、俺いる…?』

 

『おや…マップが選択されたようです。今回のマップは市街地A!』

 

『ふむ…米屋先輩、ここってどういうマップなんです?』

 

市街地、と言われてもどのようなマップかピンと来ない遊児から聞かれた米屋は水を得た魚のように反応した。

 

『お、おう!そうだな、市街地Aは所謂普通、可もなく不可もなくって感じのマップだ。特定のポジションが優位を取れたり、逆に不利になることもない。狙撃も普通に通るけど、ある程度狙撃地点に選べる場所は限られてくるな』

 

『…つまり柿崎隊としては、ある程度は日浦さんに自由に動ける余地を残し、出来れば諏訪隊を狙ってもらう。諏訪隊を上手く削った後か、自分達を狙ってくるならある程度決まっている狙撃地点に向けて一歩早く動き出して叩きたい、といったところでしょうか』

 

『…そうだと思います…ねぇ、お前マジでランク戦見るの初めて…?俺の出番少なくない…?』

 

『ここまでは駒に出来る動きを見ただけで、将棋とかチェスみたいなもんですから誰でもできますよ。

いざ始まったらどんな動きをするか、どんな動きが効果的か俺はさっぱりなんで、その時頼りにさせていただきます』

 

俺チェスとかわかんねーけど、と呟く米屋をスルーしつつ、試合開始のカウントダウンが開始されるのを確認し、遥が再び口を開いた。

 

『各部隊がどのように転送されるか、どのような動きをするか見物ですね…それではB級ランク戦、昼の部スタートです!』

 

 

 

 

時は遡ってランク戦開始前。那須隊隊室では試合前の最終確認が行われていた。

 

「今回のマップ選択権は柿崎隊…昨日のミーティングでも話した通り、私は市街地…AかBで来ると思う、その認識で進めて良いかな?」

 

「あの後一応ログを再確認しましたけど、柿崎隊はオーソドックスなマップを選ぶ傾向が強いです。柿崎隊としては狙撃手殺しの市街地Dが第一希望だけど諏訪隊の火力を考えると避けて隊長の言う通り市街地AかBと見て良いかと」

 

「問題は諏訪隊ね…たまにぶっ飛んだ事してくるし、スタアメーカーも地味に厄介よ。上手く逃げたつもりでドカン!てされたこともあるし」

 

「最近の傾向から、諏訪隊のエース対策は笹森君が攻撃を捨ててフルガード、諏訪さん、堤さんの盾になってそのままフルアタック2人の火力で押し切るってパターンが多いです。シンプルですけど実際やられると面倒なパターンですね。理想としては柿崎隊と戦っているところを横から持っていきたいですけど、隊長にマークしているのは柿崎隊もでしょうし」

 

そこまで話を進めているとそれまで口を閉ざしていた茜が彼女にしては控えめに手を挙げた。

 

「…あの、やってみたいことがあるんですけど」

 

続けた茜が口にした言葉に玲たちは大きく頷いて見せた。

 

「いいわね。やってみましょう」

 

 

 

 

同時刻、柿崎隊隊室。

 

「多分、諏訪隊も那須隊もマップは大よそ呼んできているはずだ。だが、お互いに手の内は知った相手、冷静に連携を意識して行こう」

 

柿崎隊隊長、柿崎国治。1年前までは嵐山隊に所属し、現在では自ら隊を率いる万能手は冷静であるように他ならぬ自分自身に言い聞かせるよう告げる。

 

「はい」

 

「了解です」

 

その言葉に大きく頷くのは柿崎と同じく万能手であり、かつては新人王を争った俊英、照屋文香と銃手であり、当時ボーダー唯一の小学生と注目を浴びた虎太郎である。

 

「理想としては諏訪隊が那須隊に集中してくれることですけど、まぁ手堅くいきましょう」

 

オペレーターである宇井真登香が適度に緊張をほぐすように締める。

 

「今回は虎太郎の案にあった方法で行く…試験的要素も強いが、気を引き締めて行こう!」

 

 

 

 

諏訪隊隊室。

 

「んじゃ、基本的にはいつも通り行くぜ」

 

隊長である諏訪洸太郎はトレードマークとも言える煙草を咥えながら拳を掌に打ち付ける。暫定順位でこそ今回の相手より上だがそれが簡単にひっくり返ることをよく知る彼に油断は無い。

 

「はい、理想としてはまず日浦さんを落とすこと、ですね!」

 

隊唯一の攻撃手である笹森日佐人。部隊内では最年少であるが、唯一の前衛としての意気込みは既に確かなものとなっている。

 

「ザキさんはあんまり特殊なマップ選ぶ印象は無いけど、選択権がある分柿崎隊の動き出しは早いだろうし、スタート直後は警戒しよう」

 

穏やかな印象を人に与えつつも隊長である諏訪に負けず劣らずのギャンブラー気質を持つ堤大地は逸る笹森を軽く諫める。

 

「とりあえず1人1点!0点は罰ゲームだかんねー」

 

コロコロと口にキャンディを咥えるオペレーター、小佐野瑠衣は元ファッションモデルという異色の経歴の持ち主ながら、一見強面な諏訪達相手に怯むどころか尻を叩くように背中を押すマイペースな性格だ。

 

「那須相手には日佐人、お前が盾になって俺と堤で取る。勢い付けて上位入りすっぞ!」

 

隊の姿は三者三様なれど、より上へ、その想いだけは共通するものだった。

 

 

 

 

そして、時は戻りB級ランク戦、開始。

 

『ステージ、市街地A!天候…夜!』

 

会場に遥の声が響くと同時にそれを確認した隊員達が少なからずざわめいた。遥の隣にする米屋もその意図を探るように目を細めてスクリーンを見つめている。

 

『マップはまぁ、予想の範囲内だが夜、か』

 

『………』

 

一方の遊児は顎に手を当てて無言で思考を巡らせていた。

 

『各隊員の転送も完了しました…これは…』

 

遊児は遥の声で一瞬その思考を止め、スクリーンを見つめると、全体マップには各隊員の転送先がアイコンとして表示され、スクリーンを分割してそれぞれの動きだしを映していた。

 

『日浦の位置は大当たりだな。あの場所は複数の狙撃地点に対してほぼ等距離、ついでに一番近いのが熊だ』

 

米屋の言葉の通り、茜が転送された位置は市街地Aの中でも狙撃地点となり得る比較的高い建物が並ぶ地域に近く、何よりも他部隊から大きく離れていた。

 

『確かに。那須隊長はやや離れていますが、諏訪隊、柿崎隊の初動は普段通り合流からのようです…初動におけるアドバンテージがあるのは那須隊か!』

 

『…柿崎隊の狙いは何でしょう。暗さで視覚妨害するにしても開けた市街地では然程効果もないでしょうし、初動で奇襲という選択を採らなかった時点で、各部隊は視覚補助を完了しているでしょうし』

 

遊児の疑問は依然、このマップの天候設定に対してある。

彼の知識にある限り、ランク戦のマップ設定はかなり複雑な物に出来る。意表を突くためか、と考えたが柿崎隊の初動は合流。浮足立った相手を狙える時間はとうに過ぎていて、ならばわざわざ夜にした理由は何か。

その疑問は、このランク戦における最初の激突で明らかになる。

 

 

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