彼のまにまに(旧題:スコーピオン万能説)   作:痔ーマン

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第8話 ランク戦②

過去に何度かの同隊同士でのランク戦と同様に、この日もまず攻撃を仕掛けたのは那須隊隊長の那須 玲であった。

 

「変化弾」

 

変化弾の最大の特徴がその弾道設定による複雑な攻撃パターンの作成であり、既に玲が扱うソレはボーダー内でも多くの者が知る那須隊最大の武器であった。リアルタイムでの弾道設定もだが、“鳥籠”と呼ばれる完全包囲射撃の脅威は那須隊を一時とは言えB級8位まで押し上げた彼女の代名詞である。

バッグワームを起動し、自身の居場所を隠しながら発射地点が分かりにくくなるよう設定した変化弾での攻撃。やっていることは極めてシンプルだが、自分と相手の位置、移動速度からの予測攻撃地点の選択などを微調整するのはリアルタイムでの弾道制御が出来る玲ならではの攻撃だった。

変化弾の扱いに関してなら、ボーダー内でも指折りの存在。だからこそ、攻撃したその瞬間、彼女は柿崎隊がマップを夜に設定した意味を理解した。

 

「そういうことね…茜ちゃん。柿崎隊の狙いはトリオンの光で私と茜ちゃんの場所を割り当てやすくすることみたい」

 

『り、了解…』

 

「でも、予定通り行きましょう。小夜ちゃん、柿崎隊の動きに何かパターンがあったら知らせて。熊ちゃんは出来れば諏訪隊を柿崎隊の後ろに誘導して」

 

『了解です』

 

『分かったわ!』

 

「(…私達も諏訪隊も射撃が中心の部隊…確かにトリオン光で射撃地点を割り出す相手としては無駄は少ないけれど…あまり柿崎さんらしくない感じがする…)」

 

隊員に指示を出しつつ、玲は柿崎隊への違和感から、その動きの意図を見極めようとしていた。

一方でその攻防をやや遠方から確認しながら、諏訪と堤はやや孤立した位置からのスタートとなった笹森の合流を待っていた。

 

「成程ね、トリオンの光で那須の場所を割り出してんのか」

 

そう呟くと諏訪は銃を手に持ったまま、器用にタバコを咥えなおす。

 

「俺達はそこまで影響無いですけど、トリオン漏れとか目立つかもですね」

 

堤が言う通り、トリオン光による攻撃開始地点の割り出しは諏訪隊に対しては効果が薄い。諏訪、堤が使用するのは通常の銃型トリガーよりも射程を削り、威力と同時発射数に優れた散弾銃型であり、攻撃の際は基本的に相手を視界内に入っている。

 

『まーバッグワーム着て変化弾使われると正直場所分からんからねー。柿崎さん達のおかげで今回はオペ的には助かる』

 

「だな。理想的なのは那須と削り合ってる柿崎隊を食ってその勢いで手負いの那須も落としたいが…日佐人待ちだな」

 

『す、すいません!もう少しで合流します!』

 

「まぁコレばっかりは開始位置次第ですからね」

 

そのすぐ後、諏訪、堤が笹森の姿を視界に収めた次の瞬間だった。

夜の市街地の空に一筋の光が瞬くと同時に、笹森の片足が吹き飛んだ。

 

「!狙撃警戒!オサノ、位置確認!」

 

『了解。ゴメーンひさと。警戒遅れた』

 

「い、いえ…!まだ動けます!」

 

想定外の攻撃、しかし次の瞬間には体勢の立て直す。B級中位グループはその名の響き以上の実力、対応力を持つ実力者の集団であるというのは見る人が見れば感じることが出来る刹那の対応である。

 

「しかし珍しいですね。あの位置じゃ那須さんは勿論、多分熊谷さんのカバーも間に合わないです」

 

『あ、那須隊長が攻めっ気出してきたよ。柿崎隊も今の狙撃に意識逸らされたかな』

 

「チッ!やられたぜ…“味方のカバーの無い状態で日浦は撃たない”…ここ最近の傾向を逆手に取ったって訳だ」

 

「…どうします、日浦さんから落としますか?」

 

「いや、一番足の速い日佐人を削られたからな、追えるか怪しい。

あと、俺達が日浦に行ったら那須のヤツは柿崎隊に集中できちまう。ここは柿崎隊を使って那須を挟み撃ちにする」

 

膠着するかと思われた戦況は、茜の狙撃と共にその様相を一気に変化させていった。

その変化が一番大きかったのは当然、その攻撃を仕掛けた那須隊である。

 

「変化弾」

 

先程まではどちらかと言えば相手を近づけない、踏み込ませない、言うなれば守備的な攻撃を続けてきた玲は一気に攻勢に転じた。

放った変化弾は威力を最小限にし、速度と弾数を強化したものだ。

どんな強者であろうともトリオン体の耐久力自体に差は存在しない。トリオン体を破損させる最低限の威力さえあれば、例え赤子の攻撃であろうと達人を屠り得る。それ故の選択である。

 

『変化弾!弾道送ります』

 

その攻撃に対応するのは柿崎隊。オペレーターの真登香が素早くその情報を各隊員に送り出す。

 

「数が多い…全員、全方位フルガード!」

 

柿崎の一声に虎太郎と文香は即座に反応し変化弾の嵐を受け止める。3人同時のフルガード。攻撃手段を全て捨てるという選択は、時間差で襲い掛かってきた次の変化弾をも受け止める結果に繋がった。

 

「ここまで数が多いと、全部は追いきれませんね…」

 

弧月を構え直しながら文香は周囲を警戒する。先の茜の狙撃に反応してしまい、彼女は左腕を、柿崎も虎太郎も僅かな傷ではあるがダメージを負っており、次の攻撃を防がんとするその警戒度は非常に高い。

 

「まさか日浦が単独で動くとはな。俺達みたいに今回はいつもと少し戦術を変えてるのかも知れん」

 

「俺達で落とすとなると那須隊長をどうにかしないといけませんから、諏訪隊に落として欲しいですけど…」

 

『その様子は無いね。最初から2人固まってたし撃たれたのは最後の1人…速さ的に笹森君かな。機動力が落ちた状態で狙撃手を追うのは避けるでしょうね』

 

真登香の言葉を聞きながら、柿崎は数秒、考え込むと口を開いた。

 

「多分、諏訪隊は俺達を使って那須を挟み撃ちにするだろう。まずはそれに乗る。虎太郎の案で夜にしたおかげで弾道は確認出来るし、落ち着いていこう」

 

3部隊がそれぞれの思惑で動く中、戦いは次の状況へと進もうとしていた。

 

 

『日浦隊員の狙撃が笹森隊員の足を撃ち、それと連動するように那須隊長の攻撃が勢いを増しました!お二人はどのように見ますか?』

 

ランク戦実況席。刻一刻と変わる戦場を見て遥は米屋、遊児に声をかける。米屋は楽し気に、遊児は表情にこそ変化は無いが、その瞳は爛々と輝き、何一つ見逃さないと言わんばかりにスクリーンを注視している。

 

『正直意外だったが、全体の流れを見る限り日浦が積極的に撃つのは作戦の内、だな』

 

『と、言いますと?』

 

『試合前にも言った通り、那須隊ってのは良くも悪くも隊長兼エースの那須がどう動くかだ。日浦も…今んとこ動きが無い熊…谷も単独で動くことは滅多に無い。だが、今回は違う。唯一の狙撃手っつーアドバンテージを積極的に活かして行こうってところだろう』

 

米屋の言葉に賛同するように首肯した遊児も口を開く。

 

『相手が笹森隊員というのも良いですね。見たところ諏訪隊で一番足が速いのは彼みたいですし』

 

『後は一瞬固まった柿崎隊を少なからず削れたのは後々効いてきそうだな…三守、柿崎隊があの時だけ攻撃を防ぎきれなかった理由、分かるか?』

 

試すように視線を遊児に向けながら米屋はニヤリと笑う。一方の遊児は先程から答えを口にしつつもその視線はスクリーンから片時も離れていなかった。

 

『釣られた…というか一瞬迷ったんでしょう。柿崎隊としても日浦さんは落としておきたい、そして万能手2人を抱える柿崎隊の機動力には恐らく多少強引な方法だけど那須隊長を振り切って日浦さんを追うという選択肢が存在する。

日浦さんと那須隊長。柿崎隊としては最優先で処理したい2つの要素がまとめて提示されたことで一瞬の隙が生まれた…どちらも選べてしまう能力がある故に生まれた隙と言うべきでしょうか』

 

『成程。ここまでは意表を突いた那須隊がやや優勢か。諏訪隊、柿崎隊がこの後どう動くかにも注目です!』

 

 

『すいません!落とせませんでした!』

 

一方で初撃を当てた茜は狙撃地点を移動しながら隊員達に謝罪していた。最初の狙撃で諏訪隊か柿崎隊の誰か、可能であれば機動力に優れる者を1人脱落させるのが今回茜が積極的に攻撃を仕掛けることを提案した上で選択された那須隊の作戦であった。

 

『気にしないで。笹森君の足を奪えた以上、諏訪隊の機動力はかなり落ちるし、私の方も柿崎隊を多少削れた。ベターな状況を続けて行きましょう』

 

玲は言葉にした通り実際この状況を悪くないと判断していた。諏訪隊は機動力に優れる攻撃手である笹森がそれを失ったことで取れる戦術に制限が生まれ、他2名の射程は玲のソレよりも下回る。柿崎隊には射線から位置を割り出されるが、1ヵ所に纏まった複数の相手への攻撃というシチュエーションは玲と変化弾が得意とするところである。故に、精神的余裕のある彼女は他の2部隊の選択肢を極めて正確に予見する。

 

『熊ちゃん、諏訪隊は多分、私を柿崎隊と挟もうとすると思うから、援護お願い』

 

『任せて』

 

『諏訪隊、バッグワーム切りました。多分笹森君はフルガード、諏訪さん、堤さんはフルアタックの密集陣形。移動ルート送ります』

 

小夜子が各員に送った諏訪隊の動きは、当然ながら狙撃の射線が通らないルートではあったが、それ以上に玲の後ろを突こうという意図があからさまに伝わる内容だった。それが意味するところはこの場合、一つであり、当然那須隊の面々も理解する。

 

『…成程。柿崎隊に同盟の提案ということね…』

 

『射程圏内にまで詰められるとキツイですね…熊先輩、仕掛けるのは諏訪隊にしますか?』

 

『そうね!笹森君の足は死んでるし、そっちの方が良さそう』

 

『お願いね、熊ちゃん。…茜ちゃん』

 

『はい!』

 

『ここから一気に乱戦になるわ。狙える相手から撃って大丈夫』

 

『そっちには行かせないから、撃ちまくりな、茜!』

 

『了解です!』

 

 

「隊長、諏訪隊が全員バッグワームを解きました…この動きは」

 

一方の柿崎隊では、玲の変化弾を凌ぎつつ諏訪隊の動向を確認した文香がその動きを見て眉をひそめる。

 

「…まずは一緒に那須を落とそう、ってことだな。こちらの狙いが看破されたようなもんだが有難い!」

 

「どうします?連携するフリして諏訪隊を攻めることも出来ますけど」

 

虎太郎の提案も悪くは無い、がと一言置いて柿崎は彼と目を合わせる。

 

「下手に突っつけば俺達が那須隊、諏訪隊同盟にやられる可能性がある…真登華!狙撃の射線警戒を頼む!虎太郎、文香は熊谷を警戒しつつ現状維持!」

 

「「『了解!』」」

 

「熊谷が諏訪隊を削ってくれるとありがたいが…こう間合いが狭くなってくるとどうなるか分からんな…!」

 

膠着状態に陥るかと思われた試合は、一発の狙撃から目まぐるしく戦況を変え、各部隊員もスクリーン越しにこの試合を見守る隊員達もその終わりは急速に近づいて来ていると予感していた。





初めてのランク戦描写となりますが想像以上に難産でした…。
人が…動かす人が多い…!
先人の投稿者様達すごいな…。

とりあえず今回の試合は次、もしくはその次までには終わる予定です。
先の展開の方に意識が向いてしまって目の前の話の筆が進まない状況に陥っていますが、早めに投稿出来るようにしたいと思います。
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