「——……おお」
突然、意識外から感嘆する声が聞こえて、そこで俺はハッと意識を取り戻した。
誰だとそちらに目を向ければ、三人のイケメンがそこに居た。俺と同じように状況が理解出来ていない様子。
というか、ここどこだよ。
見渡してみれば、総武高の図書室だった辺りが様変わりしている。古びたレンガ調の壁と、蛍光塗料なのかは知らないが、僅かに光る何かしらの幾何学模様が描かれている地面があった。どこかの遺跡なのだろうか。数秒前までは本棚に囲われていたのに。
もしやドッキリで瞬間移動させられたのかって、いやドッキリで瞬間移動とかどういう芸当なんだよ。
てか何で俺はいつの間にか右手に変な鉄の塊持たされてんの? よく見れば盾に見えるが、なんか凄えシンプルだ。ゲームの序盤で村長から貰いそうな感じの。真ん中にはそれはもう立派な緑色の宝石が埋め込まれている。宝石なのかは知らんが、売ったら金になりそう。
しかし。本当に訳が分からない状況だ。誰か説明してくんねぇかな。
取り敢えず。目の前でコミケの会場入り前に居そうな、ご立派ローブを拵えた魔導師のコスプレしてるおっさんに状況説明を頼むとしよう。俺が一番近いしな。
「あの……ここは?」
「おお……! 勇者様方、この世界をお救い下さい!」
「「「おお!!」」」
と、口を開いてみれば、おっさんとその後ろに居る取り巻きが騒ぎ出す。
あとごめんなさい。俺帰りたいんですけど。
どうやら勇者をモチーフにしたアトラクションに迷い込んだみたいだ。地元が千葉だから、近くに東京ネズミーランドあるし。多分そこに今居るのだろう。……きっとそうだと思いたい。
「え、えと……何言ってるんですか?」
率直な思いを言葉に込めると、おっさんが不自然な和やかさで返答する。
「色々と込み入った事情があります故、ご理解頂ける言い方ですと、勇者様達を古の儀式で召喚させていただきました」
「……召喚、ですか?」
どうやら、そういう設定で話を進めていくらしい。一応、話に合わせておこう。
「この世界は今、存亡の危機に立たされておるのです。勇者様方、どうかお力をお貸し下さい」
なんだろう。このおっさんと上手く話が出来ていないような気がする。要は一方的なラブレターみたいな感じで、おっさんから勇者様方へ一方的な求愛行動を取っているようだ。てか、俺勇者だったのかよ。そういう設定なのか。でもなんか嬉しい気持ちだ。何せ、俺が劇でやる役は大体悪役の咬ませ犬役か、酷い時は木だったからな。劇中は台詞もなく、ただ立ってるだけで、幕引きの時は観客席の保護者たちに向かって『ありがとうございました』ってみんながみんな笑顔の中、俺だけ真顔で頭を下げていた。あの時ほどの虚無感を味わったことはない。
そう考えれば、俺が勇者とはこれまた随分と出世したものだ。
しかし、目の前のおっさんはさっきからお救い下さいの一点張りだ。もう少し詳細を話してくれないと何がどうなのか分からない。
そう思い立ち、俺がおっさんに詳しく教えて欲しいこと伝えようとすると。
「……もう少し具体的に説明し——」
「嫌だな」
「そうですね」
「元の世界に帰れるんだな? 話は先ずそこからだ」
その言葉を遮って、他に居たイケメン三人衆がそれぞれおっさん一同の願いを拒否する。
いや、あのさ。いくらイケメンだからってそれはマジ無いわ〜。
……戸部るぞ? 良いのか。
てかこの三人。よく見れば半笑いしてやがる。実は異世界に召喚されて嬉しかったりとかしてな。言葉の割には結構ノリノリだぞこのイケメントリオ。
「人の同意なしでいきなり呼んだ事に対する罪悪感をお前らは持ってんのか?」
その中でも如何にもラノベ主人公みたいな黒髪黒目のイケメンの剣を持った奴が、歳も離れていて、初対面であるおっさんに対して責めるように言い付ける。
俺より歳下だよなこいつ。
「仮に、世界が平和になったらっポイっと元の世界に戻されてはタダ働きですしね」
それに続き、少しウェーブがかかった女が好みそうな可愛い外見をしている、ボク優等生ですけど? みたいな奴が生意気な口を開いた。俺、こういう奴苦手なんだよな。ここに来る前は女子からキャーキャー言われて、いえそんなことないですよ、と満更でもない態度してたんだろうな。その弓の弦でお前のその縮毛を刈ってやろうか。
「こっちの意思をどれだけ汲み取ってくれるんだ? 話に寄っちゃ俺達が世界の敵に回るかもしれないから覚悟して置けよ」
またまたそれに続いて、今度は如何にもウェイ系大学生ですっていう茶髪の奴が、ちょっと格好つけて持ってる槍に寄っ掛かりながら、そう言った。でも意外とこの中でこいつが言ってることはまともだ。他の高校生はアレとして。
自分達が今置かれている現状と立場。それを理解しておかないと、あとあと後ろから矢を射られかねない。きっちりと保障してもらえないと。
というかここまで平然とスルーしてきたけど、お前ら普通に異世界に召喚されたことはサラッと信じてるんだな。因みに俺はまだドッキリという線を疑ってる。召喚なんてそんなのラノベみたいな話だし。それに、あとあと『残念、ドッキリでした』って言われたら悲しいからな。魔法とか見せてくれなくとも、ここの部屋から出て外の景色を見せて貰えばここが日本であるのか、日本ではないかはすぐ分かる。
「ま、まずは王様と謁見して頂きたい。報奨の相談はその場でお願いします」
ローブを着たおっさんは、そんな三人たちからの物言いに圧倒された様子で、俺たちを扉の方へ促す。
「……しょうがないな」
「ですね」
「ま、どいつを相手にしても話はかわらねえけどな」
しっかし本当お前らイケメントリオは逞しいな。よくこんなローブを着た男たちの集団の目の前でそんな図太い態度取れるな。こちとら終始緊張しっぱなしだぞ。
それから、俺たちはあの暗い部屋から出て、石造りの階段を登っていった。
所々、石壁に開けられた鉄格子の窓から見えるその景色に、俺は思わず息を呑んだ。
そして確信する。嗚呼、俺は本当に異世界に来たのだと。
ビルも高い電波塔も、煙突も存在しない、どこまでも高い空に、中世ヨーロッパを連想させるような華やかな街並みが広がっている。何も現代的な要素が見受けられないこの美しい街を見下ろしているだけで、心が躍る。まるで、昔のヨーロッパの街にタイムスリップしているみたいだった。
◆ ◆ ◆
「ほう、こやつ等が古に伝わる勇者達か」
そして、王の間で良いのだろうか。そこに案内されて、玉座に居座る、如何にもな王様が、俺たちをじっくりと見定めながらそう言ってきた。
流石、王ということもあって、威厳のある声してる。
「ワシがこの国の王、オルトクレイ=メルロマルク三十二世だ。勇者たちよ、顔を上げい」
いやいや、俺を含め四人とも元々、堂々と顔上げてるんですけど。だからあなたがそこの玉座に座っているのも、あんたの容姿もこの目で見て認識出来てるんですけど。この人……もしかしてボケてるのか。
「さて、まずは事情を説明せねばなるまい。この国、更にはこの世界は滅びへと向いつつある」
と、早速王様が語り出す。おい、早い早い。自己紹介。
「えと、あの……自己紹介とかは良いんですか?」
俺がそう進言すると、王様は「……ん? あぁ、そうだったな。では勇者たちよ。それぞれの名を聞こう」と、言い直す。いや、あの本当に大丈夫ですか?
「
黒髪イケメンは如何にも主人公って感じの名前してんな。てか歳下かよ。それでよく王様相手にタメで話せるな。
「オレは
茶髪のウェイ系はなんか戦国武将みたいな名前してるな。
「次は僕ですね。
うわ、お前同い年かよ。嫌だわ。だったらまだ黒髪イケメンのが良かったわ。
んと、次は俺だな。ここでしっかりとキメていこうか。
「……俺は——」
「うむ。レンにモトヤスにイツキか」
おいこら少し頭ボケ気味のジジイ。それ絶対態とだろ。
俺が非難の目を向けていると、王様は態とらしく、さも今気付いた風に振る舞う。
「……ん? ああ、すまん。で、其方の名前は」
「……比企谷 八幡。十七才だ」
態々高校生って答える必要ないよな。というかさっきから気になるのは——王もそうなのだが、ここの王の間にいる官僚たちや女官たちの俺へ向ける視線が妙だ。明らかに先ほどから
「……さて。先ずは事情を説明せねばなるまい」
如何にもスルーされたしな。なんだよこのジジイ。マジで喧嘩売ってんのか。千葉の兄貴舐めんじゃねえぞ。
「現在、この国、引いてはこの世界に危機が迫っているのだ。終末の予言により、世界を破滅に導く幾重にも重なる『波』というものが今年に現れることが分かっている。教会にある龍刻の砂時計はこの波を予測し、一ヶ月前になれば知らせてくれる。しかし、既に襲ってきた『波』が来るまで、ワシらはそれを蔑ろにしていた。結果、一度目の波で被害が出てしまった! ……これ以上被害を増やすわけには行かない。だから、伝承にあった其方ら四聖勇者を呼び寄せたのだ」
これでも結構端折っているところはあるだろうが、大体は理解できた。要はその『波』から、俺たちが今持っている伝説の武器を使って、世界を守れば良いということだ。……無理。え、怖いんですけど。今すぐ帰りたいんですけど。俺まだ小町と仲直りしてないし、それに奉仕部のあいつらとも……気まずいままだし。
「話は分かった。で、召喚された俺たちにタダ働きしろと?」
「都合のいい話ですね」
「……そうだな、自分勝手としか言いようが無い。滅ぶのなら勝手に滅べばいい。俺達にとってどうでもいい話だ」
先程の半笑いと言い、内心はすげえドキドキしてる癖に。こいつら結構素直じゃないんだな。面倒臭い性格してやがる。あ、俺が言うな? ……良いんだよ。ほっとけ。
「もちろん、勇者様方には存分な報酬は与える予定です」
と、そこに割り込んで来た王様の臣下の一人の言葉に、内心ホッとする。良かった。俺たちの立場はどうやら保障されているらしい。
「他に援助金も用意できております。ぜひ、勇者様たちには世界を守っていただきたく、そのための場所を整える所存です」
おお。なんと補助までしてくれるらしい。本格的に勇者って感じがしてきたぞ。
「俺達を飼いならせると思うなよ。敵にならない限り協力はしておいてやる」
「……そうだな」
「ですね」
やっぱり逞しすぎだろ、お前ら。臣下の方も内心こんな若者たちに高慢な態度取られてイラついてんじゃないの? 表情には出さないだけで。まあ天木と……北村さんだっけ? 一応年上らしいし。ただし弓持ってる川……かわ。川崎よ、お前だけは許さん。その下手な敬語はイラつくから今すぐやめろ。
心の中で
「では皆の者、己がステータスを確認し、自らを客観視して貰いたい」
はて。ステータスとは。え、ここってまさかゲームだったの? これはゲームであって遊びではなくて、死んだら終わりのデスゲームだったの?
「えっと、どのようにして見るのでしょうか?」
いや、んなこと言われても分からん。てかこの場にいる誰も分からんだろ。同じ境遇な訳だし。
「何だお前ら、この世界に来て真っ先に気が付かなかったのか?」
はい、主人公乙。やっぱり剣持ってる時点で怪しいと思ってたんだよな。流石だわ。黒髪黒目の剣持ちは。俺も一応黒髪黒目だが、そんなの天木のと比べたらチリくらいなもんだ。
「なんとなく視界の端にアイコンが無いか?」
「……え?」
確かに、よく見てみればちっちゃい変なものが見える。
「それに意識を集中するようにしてみろ」
言われた通りにして見ると、変な音が鳴った後に目の前の視界にステータス欄が表示された。
え、マジでこれゲームなの?
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比企谷八幡
職業 盾の勇者 Lv1
装備 スモールシールド(伝説の武器)
異世界の服
スキル 無し
魔法 無し
============
ざっと見た感じ、これだ。
レベルは1なんだな。てっきり99の強くてニューゲームでチーレムかと思ったけど、どうやら違うようだ。
材木座。聞こえているか。どうやら異世界は行ったとしても必ずしもチートとは限らないみたいだぞ。
「Lv1ですか……これは不安ですね」
「そうだな、これじゃあ戦えるかどうか分からねぇな」
「そうだな」
皆も自分のステータスを確認しているみたいだ。
「……というかなんだこれ。意味わからん」
「勇者殿の世界では存在しないので? これはステータス魔法というこの世界の者なら誰でも使える物ですぞ」
「……そうなんすか」
自分の今の能力を数字に変換してくれるのか。現代日本より技術発達してるじゃねえか。魔法においては。
「それで、俺達はどうすれば良いんすかね」
臣下の人に話を聞いてみる。
「ふむ、勇者様方にはこれから冒険の旅に出て、自らを磨き、伝説の武器を強化していただきたいのです」
「……強化」
この盾、どうやら成長するらしい。そう思うと何故だろう。途端にこの盾が我が子のように思えて来た。大丈夫、お年玉は俺の親父からくすねてくるからな。
「はい。伝承によりますと召喚された勇者様が自らの所持する伝説の武器を育て、強くしていくそうです」
「伝承、伝承ね。その武器が武器として役に立つまで別の武器とか使えばいいんじゃね?」
北村さんが槍をくるくる回しながらそう言った。危ないですからやめて下さい。
というか、旅か。良いなそれ。でも俺さっさと日本に帰りたいんだが。もう『波』とかそこら辺のサーファーに任せれば良いんじゃないですかね。ほら、だってあの人たち波と友達だし。知らんけど。
「……ということは、俺たち四人で旅するのか?」
え、やだ。こんなイケメンたちと旅なんて俺の心がすり減るだけだ。てかどの人も違うベクトルで苦手なタイプだし。
「お待ち下さい勇者様方。あなたたちは他に仲間を募り冒険に出ることになります」
「それは何故ですか?」
このいけ好かん敬語は川なんとかだな。しかし、それには同意だ。別に勇者が四人いるなら四人で組んだ方が良いだろ。
「はい。伝承によると、伝説の武器はそれぞれ反発する性質を持っておりまして、勇者様たちだけで行動すると成長を阻害すると記載されております」
「本当かどうかは分からないが、俺達が一緒に行動すると成長しないのか?」
「恐らくは」
なるほど。そういうのがあったか。というか今目の前に注意のウィンドウが出てきた。その注意は先程の臣下の人の言ってたことと同じようなことである。
……つくづくゲームだよなこれ。なんかもうこれが現実かどうかも分からなくなってきた。
「となると仲間を募集した方が良いのかな?」
「ワシが仲間を用意しておくとしよう。なにぶん、今日は日も傾いておる。勇者たちよ。今日はゆっくりと休み、明日旅立つのが良いであろう。明日までに其方らの仲間に見合う逸材を集めておく」
「感謝する」
「ありがとうございます」
「サンキュ」
「……うす」
それぞれの言葉で感謝を示し、その日は王様が用意した来客部屋で俺達は休むこととなった。