豪華な来客室に案内された後、俺たちは目の前に出てくるヘルプ的なウィンドウをそれぞれ見ていた。勇者とは言え、その与えられた力を有効活用出来なければ、凡人と同じである為だ。加えて、俺の他の三人の日本人は見るからに実戦経験は皆無だ。勿論俺も皆無であるため、序盤はこの伝説の盾が俺の生命線となる。使い方くらい覚えて置かなければ瞬殺だろう。
しかし、目の前のウィンドウに記されてることは基本的なものばかりだ。伝説の武器はメンテナンスする必要は無いとか。
だが見ていく内に、これは覚えておかないと不味そうな奴を発見する。それは、『ウェポンブック』という伝説の武器が有している機能のことだ。
どうやら自分のレベルと武器に融合させる素材、倒したモンスターによって、『ウェポンブック』は埋まっていくらしい。実際、目の前には謎のアイコンが視界の端から端まで所狭しと表示されている。これらが解放されていけば、それぞれのアイコンに能力に応じて、この盾を変化させるというわけだ。
……マジでこれゲームなのか?
「……ちょっと良いですか」
俺と同じようにウィンドウと睨めっこしている三人を呼びかけると、こちらに顔を向けてくれた。
「これって、ゲームの中なんですかね」
「っていうかゲームじゃね? 俺は知ってるぞ、こんな感じのゲーム」
お、どうやらチャラ男が知っているらしい。
「それって何ですかね」
「いや、何ですかねって言われてもな……というか有名なオンラインゲームじゃないか。知らないのか?」
「いや、やるとしても携帯ゲームくらいしかしないんで……オンラインゲームには触ったこと一度も無いんですよ」
「携帯ゲーム? お前の名前と、あと歳いくつだっけ」
俺の名前覚えて無いんですね。まあ良いですけど。
「……比企谷です。歳は十七才で、高校生です」
「あー……それなら、オンラインゲームは厳しいかもな。パソコンなんて、学生じゃちとキツイだろうし」
「……えぇ、まあ」
なんだ。この人結構良い人じゃねえか。学生の懐事情をよく理解してる。
「まあ、そんなお前に教えてやる。良いか。このゲーム『エメラルドオンライン』っていうゲームなんだ。国内じゃすげえ有名タイトルなんだぞ」
「……へぇ、そうなんすね」
有名タイトル、ね。普段から結構テレビとかは見てる筈なんだが。すごい有名なゲームだったら、CMもやってる筈で、それを見て名前くらいなら覚えてるんだけどな。全く聞き覚え無いし、見覚えもない。これはちょっとおかしくないか。まあ適当に相槌打っておくか。
そう考えてると、黒髪イケメン天木くんが割り込んでくる。
「何だそのゲーム。聞いたことも無いぞ」
あれ? あの見るからにゲーム通の天木が聞いたことも無いのか。北村さんの言う通りに、有名なゲームであれば知ってると思ってたんだけど。
「お前本当にネトゲやったことあるのか? 有名タイトルじゃねえか」
「俺が知ってるのはオーディンオンラインとかファンタジームーンオンラインとかだよ、有名じゃないか!」
あの、すみません。あーだこーだオンラインばかりで全く分かりません。
「なんだよそのゲーム。初耳だぞ」
「え?」
「は?」
……うん。もう訳わからない。ゲーム通の彼等でさえこの有り様なのに、俺みたいなオンラインゲーム初心者からしたら聞いてるだけでも何とかオンラインばかりで頭が痛くなってくる。
「皆さん何を言っているんですか、この世界はネットゲームではなくコンシューマーゲームの世界ですよ」
お前は黙っとけ。如何にもな、『え? あんたら馬鹿なんですか?』みたいなムカつく顔しながら口開くんじゃねぇ。あとその敬語イラつくからやめろ。
「違うだろう。VRMMOだろ?」
うーん、なんか天木がその台詞言うと、黒い人が剣持ってる何かと重なるんだよな。何でだろう。あれ、そういえば天木。お前この前、デスゲームに居なかったか?
「はぁ? 仮にネトゲの世界に入ったとしてもクリックかコントローラーで操作するゲームだろ?」
今のところ、北村さんのパソコンとマウスで操作するオンラインゲームの形が、俺からしたら一番しっくり来るかもしれん。オンラインゲームといったら、やっぱりパソコンって感じがするし。知らんけど。
「クリック? コントローラー? お前ら、何そんな骨董品のゲームを言ってるんだ? 今時ネットゲームと言ったらVRMMOだろ?」
「VRMMO? バーチャルリアリティMMOか? そんなSFの世界にしかないゲームは科学が追いついてねえって、寝ぼけてるのか?」
「はぁ!?」
どうやらここは北村さんと天木の討論会になりそうだな。俺は外で待ってるからさ。存分討論して下さい。
というか、やっぱりこの中じゃ、天木が一番手慣れている気がする。VRに一番慣れ親しんで居るからなのかは知らないが、さっきのステータスの開き方が分からなかった時も、こいつが一早く気付いたし。
「あの……皆さん、この世界はそれぞれなんて名前のゲームだと思っているのですか?」
そこで、今度は優等生が話に割り込んでくる。だからお前はそこで大人しくしとけ。今主人公とウェイ系大学生の討論会やってるから。
「ブレイブスターオンライン」
「エメラルドオンライン」
「……ドラゴンズクエスト」
この世界RPGぽいしな。これしか無いだろ。いや、三人とも困惑した顔でこちらを見ないで——って、え? 普通ドラゴンズクエストのゲーム内容を理解出来ていれば、俺の回答なんて的外れも良いところなのに、誰も不思議がらない。まさか
「あ、ちなみに自分はディメンションウェーブというコンシューマーゲームの世界だと思ってます」
いや、誰も聞いてないから。あ、因みにじゃねえよ。引っ込んどけ川なんとか。
「まてまて、情報を整理しよう」
まあここは一番歳上の北村さんがまとめるのが自然だよな。
「錬、お前の言うVRMMOってのはそのまんまの意味で良いんだよな?」
「ああ」
「樹、それと、えっと……比企谷。お前も意味は分かるよな」
「SFのゲーム物にあった覚えがありますね」
「ええ。まあ」
というか北村さん。また俺の名前忘れそうになってなかったか? あの、ちゃんと数分前に伝えましたよね。まさかあなたもあの王様と同じくボケかけなんですかね。あ、俺の影が薄いのか。やかましいわ。
「そうだな。俺も似たようなもんだ。じゃあ錬、お前の……その、ブレイブスターオンラインだっけ? それはVRMMOなのか?」
「ああ、俺がやりこんでいたVRMMOはブレイブスターオンラインと言う。この世界はそのシステムに非常に酷似した世界だ」
天木からの話はこうだ。VRMMOは既に一般的に広まっているものであり、フルダイブ技術が発展して、コンシューマーゲームやPCゲームは当に過去の物になっているらしい。え? 天木。お前ほんとに黒の剣士とかに見覚えない?
しかし、同じ日本人であれば、互いの認識が間違っていることは有り得ない。ただ、もし俺たちが違う時間軸の日本から召喚されたとしたら、有り得る話にはなる。実際、俺の時代には無かったフルダイブ技術が発達した日本から天木が召喚されているわけだし。つまり、天木が一番電子技術発展している日本から来ていることになる。
「それが本当なら。錬、お前のいる世界に俺達が言ったような古いオンラインゲームはあるか?」
だが天木は首を横に振る……ん? そうだとしたら、違う時間軸の日本から召喚されたことにはならないよな。
「これでもゲームの歴史には詳しい方だと思っているがお前達が言うようなゲームは聞いたことが無い。お前達の認識では有名なタイトルなんだろう?」
北村と川なんとかが頷く。俺も咄嗟に頷く。危ねっ。
「じゃあ一般常識の問題だ。今の首相の名前は言えるよな」
「ああ」
みんな頷く。
「一斉に言うぞ」
ゴクリ……。
「安倍晋三」
「谷和原剛太郎」
「小高縁一」
「壱富士茂野」
「「「「……」」」」
……いや、三人とも誰だよ。首相だぞ? 安倍晋三さんしか居ないだろ? あの妙に滑舌が悪くて有名のあの人だよ!
しかし、これでもうはっきりしたな。
「……どうやら——」
「——どうやら、僕達は別々の日本から来たようですね」
おい良い加減しろよかわ、川……このくそ川島が。マジでその良い感じに盛った髪の毛を丸刈りにするぞ。あぁ?
「そのようだ。間違っても同じ日本から来たとは思えない」
「という事は異世界の日本も存在する訳か」
「時代がバラバラの可能性もあったが、幾らなんでもここまで符合しないとなるとそうなるな」
いや、でもほんとにこれどうなってんだ。別に同じ日本から召喚でも良かったんじゃねえの。
しかし、今までの会話から察する、俺と同じようにこいつらもヲタク気質なんだよな。良かったわ、陽キャが居なくて。居たら居たで持ち前のコミュ力で俺たちを助けてくれそうだけど。
「……このパターンだと、みんな色々な理由で来てしまった気がするのだが」
「あんまり無駄話をするのは趣味じゃないが、情報の共有は必要か」
「……」
居るよなぁ、クラスにこういう奴。無駄にクール気取りやがって。天木の場合、今まではそこが良いっていう股が緩い女子が周りに居たからそのスタンスで来れたんだろうけどな。イケメンだからってあまり頭に乗るんじゃありませんよ。その内、目の前で尻尾を振ってくる女子が見えないところで陰口を叩いてるのに気付いて、俺みたいに目が腐ることになりますよ。気を付けて下さいね……あ、俺だけか。
「俺は学校の下校途中に、巷を騒がす殺人事件に運悪く遭遇してな」
「……さいですか」
「ああ。一緒に居た幼馴染みを助け、犯人を取り押さえた所までは覚えているのだが」
なるほど。それで脇腹抑えながら語っておりますよと。大体、取り押さえたは良いが揉み合いになった結果、刺されたのだろう。
なんだこいつ。いや、ホントにマジで。あなたは何処の主人公やってた方なんですか? 幼馴染みとか居る時点でもう結婚ルートだったじゃん。はあ……なんで俺の隣の家に幼馴染みが居なかったんだ。あ、でも俺には可愛い妹小町が居るではないか。そのままギャルゲ主人公らしく妹である小町と結婚して、ハッピーエンドも中々の夢ではないか。まあ、出来ないんですけどね。だって実妹だし。
「そんな感じで気が付いたらこの世界に居た」
「……そ、そうか。まあ、その。なんだ……幼馴染み助けられて良かったな」
「ああ」
すごい良い笑顔だ。まあ本人が良しとしてるのならそれで良いとしよう。
「じゃあ次は俺だな」
軽い感じで北村さんが自分を指差して話し出す。
「俺はさ、ガールフレンドが多いんだよね」
「……まあ、そうでしょうね」
近所にいる気の良いお兄さんって感じがするよな。
「それでちょーっと」
「二股三股でもして刺されたか?」
と、そこで天木が小ばかにするように尋ねる。
すると、北村さんは頷く。うん、こいつクズだったか。
「いやぁ……女の子って怖いね」
「……」
まあヒロインに首切り落とされて船でゆったりと遊覧旅行エンドじゃなくて良かったな。俺としてはそのエンド期待してます。
そして次は……かわ、川。川原? の番だ。
ん? 突然胸に手を置いたぞ。なんだ、情に訴える気か?
「次は僕ですね。僕は塾帰りに横断歩道を渡っていた所……突然ダンプカーが全力でカーブを曲がってきまして、その後は……」
「「「……」」」
で、轢かれて死んだと。なんだその見事なまでの異世界転生ムーブ。テンプレート過ぎて驚きもしない。
というかさ。え、まさか死んでなくて召喚されたの、俺だけ? マジで超気まずいじゃんか。どうすんだこれ。
「あー……北村さん。この世界に来た時のエピソードって絶対話さなきゃダメっすかね?」
「そりゃあ皆話してるしな」
うわぁ……嫌なんですけど。絶対俺浮くじゃん。元々イケメン集団の中では目つきの腐らせ方で浮いてるけどさ。
「……学校の放課後、図書室に用があって資料を探していたら、四聖武器書っていう本を拾って。その本を読んでたら気付いたらここに居たっていう感じだ」
「「「……」」」
ま、でしょうね。その反応ですよね。みんなが死んでる中で俺だけそのまま召喚ですもんね。いっそのこと殺して下さい。
「でも……あの人……盾だし……」
「やっぱ……所もそう?」
「ああ……」
あ、三人で徒党組んでヒソヒソ話始めやがった。やっぱり召喚されてから妙に俺だけが歓迎されてない感じだな。……なんか怪しいよな。
「……じゃあみんなはもう、ある程度のことは知っている訳なのか?」
「ああ」
「やりこんでたぜ」
「それなりにですが
はい。仲間外れと。俺はどの世界に行ってもボッチだったようです。これでラノベ作るか。
「あ、あの。これから、この世界で戦うために色々教えてくれないっすかね。俺の世界には似たようなゲームとか無かったから」
そんな俺を、天木は冷酷に見てくる。んだよ、初心者に寛容じゃなきゃゲームは廃れるんだぞ。知ってんのかこのプロゲーマー風情の主人公が。あと、なんか腫れ物扱いされてるような優しい目で見るのやめてもらっていいですかね。北村さん。そしてそこにいる……かわ、カワ……川越?
「よし、元康お兄さんがある程度、常識の範囲で教えてあげよう」
何かうそ臭い顔で元康が俺に片手を上げて話しかけてくる。
「まずな、俺の知るエメラルドオンラインでの話なのだが、シールダー……盾がメインの職業な」
「はい」
「最初の方は防御力が高くて良いのだけど、後半に行くに従って受けるダメージが馬鹿にならなくなってな」
「……」
「高Lvは全然居ない負け組の職業だ」
「……はは、そうなんすね。まあ、俺にお似合いじゃないですか」
「そ、そうか?」
聞きましたか皆さん。どうやら俺はこの世界に来た時点で負け組だったらしい。誰だよこんなクソゲー作ったやつ。製作者出てこいよ。
「因みに、アップデートとかは」
職業バランスとかその他諸々だったら流石にあるだろ。
「いやぁシステム的にも人口的にも絶望職で、放置されてた。しかも廃止決定してたかなぁ……」
……だ、だったらあれだ。なんとか神殿に行けば転職できたじゃないか。
「……転職は」
「その系列が死んでるというかなんていうか」
「……じゃあ盾士じゃなくて、聖騎士になるみたいなそういう奴は」
「別の系統職になれるネトゲじゃなかったなぁ」
もう俺足手まとい確定じゃねえか。帰りたいんだが。本格的に。
「……お前らの方は?」
天木と川越に目を向ける。
すると二人ともサッと目を逸らしやがった。
「悪い……」
「同じく……」
どうやら救いの手は無いらしい。もしもこの話が本当であれば、映画でよく見る序盤に笑顔で死んでいく老兵みたいなポジションだ。まあその時が来たら、膝に矢を受けてしまってなぁ……って言ってみるのも手だ。いやそんなことしても意味ねぇよな。
そんなこんなで、呆然とする俺には触れずに他の三人はゲーム話に精を出す。
「地形とかどうよ」
「名前こそ違うが殆ど変わらない。これなら効率の良い魔物の分布も同じである可能性が高いな」
「武器ごとの狩場が多少異なるので同じ場所には行かないようにしましょう」
「そうだな、効率とかあるだろうし」
さっきから何言ってんだよ。同じ日本人だろうが。でも、考えてみれば、こいつらに頼ればいいんじゃ無いか。幸い、この世界に酷似しているゲームをやっていた奴が三人居るため、情報には困らずに、且つ一人だけに判断を仰ぐような状況には陥り入りにくい。その中で、何も知らない俺が客観的なことを述べていけば、案外まともに旅が出来るかもしれない。
「……」
話に花を咲かせている三人の近くにいるのも忍びないので、俺は一人窓際に向かった。
心地良い夜風が頬を撫でる。その窓からは、とても綺麗な夜景の街並みを眺められた。あの三人と話しているより、こっちの夜景を見ていた方が俺的には性に合っているような気がした。
「……盾の勇者、か」
三人が言うにはハズレらしいが、何せこれでも勇者なのだ。何か盾の勇者にでしか出来ないことはあるはずだ。適材適所という言葉もある通り、盾は人を守ることができる。俺が先頭に立って敵の猛攻を防ぎ、耐えているだけでも、役目を果たしていると言えるだろう。
俺はどちらかと言うと弓の方が合ってる気がするけどな。ほら、みんなが戦っている間、安全圏からペチペチ打つことが出来るし。
——何にせよ、第一は生き残ることだ。
「……それに」
俺はまだ、あの世界には未練がある。小町のこと。材木座のこと。戸塚のこと。川崎のこと。平塚先生のこと。葉山のグループ達だってそうだし……何より、雪ノ下と由比ヶ浜のことだ。俺が居なくなり、奉仕部自体が無くならないか心配だ。いや、なんで俺が居なくなると奉仕部が無くなってしまうという考えに行き着くんだ。
……分からない。だけど、だからこそ。俺はあの世界に帰らなければならない。答えを見つけるために。
本物を、見つけるために。
「……悪いな。そっちは任せたぞ」
雪ノ下。由比ヶ浜のことを導いてやってくれ。
——その後夕食の準備が出来たと給仕が訪ねてきたので、俺たちはそのまま夕食を食べた。
小町の料理食べてぇなぁ……