やはり俺が盾の勇者なのはまちがっている。   作:水源+α

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おっさんとハズレ勇者

 ──マインさんと一緒に城から出て来た俺は、先ずは装備を整えようと武具店を目指していた。

 あの覚束無さ過ぎる自己紹介した後、これからの行き先を考えながら城の廊下を歩いてるときに彼女から「では私が知ってる良い店があるので案内しますよ!」と言われたからだった。

 正直、マインさんからおススメな武具店を紹介されるとは思わなかった。

 

 その理由は第一印象として、あまり戦闘とかには慣れてなさそうな感じだったからだ。身なりからして冒険者らしいが、身体の造りがそうには見えなかった。むしろ良いとこ出のお嬢様と言われた方が納得できる容姿をしている。

 あくまで自論だが、例えば冒険者はその職業柄、色んなところに出向いて行くと仮定するとしよう。その場合、いくら女性とはいえ冒険者なので、美容とかに普段から余り気を遣えないと思う。そう考えると、マインさんは冒険者にしては、肌が物凄い綺麗だし、髪の毛のセットだって、どちらかといえば洒落ている。

 そう。冒険者にしては美容に気を遣い過ぎていると思ったのである。それに、機能性を考えればもう少しシンプルな髪型にもできた筈だ。

 

 武具店はあともう少しで着くらしいが、このまま会話が無いのもアレだし、少し聞いておくか。

 

「あの、マインさん」

 

 マインさんは俺を先導するように少し前を歩いていたが、俺の呼んだ声に立ち止まってくれた。

 

「はい、なんですか?」

「……いや、少し気になったことが、その。あって」

「……? 質問ですか? 構いませんけど」

「じゃあ質問なんだが、マインさんは俺に付いてくる前、冒険者だった……という位置付けで合ってるのか?」

 

 そう聞かれた彼女は少し考える素振りを見せて、小さく頷く。

 

「はい。今日、盾の勇者様と同行する前まではきちんと冒険者として活動してましたよ」

「はー……凄いですね。どんなことをやってたんすか?」

「まあ、魔物を倒したりとか。あとは素材を集めに行ったりとかしてましたよ」

「……」

 

 ……なんだか怪しいな。

 

 遠回しに冒険者はどんなことしてるのか? と聞いたのに、冒険者本人から中々にアバウトな内容で返答してきたことに、少々疑念が募る。

 

 本音を言うと、俺はまだマインさんを信用はしていない。逆にあの状況で一人、俺に同行したいと言ってきたタイミングに、何かの違和感を覚えたのだ。

 

 王様は確かに十二人居た逸材と言われる人たちへ、『同行したい勇者』を選べと言った。そして、その十二人達はさも既に付いていく勇者を決めているという口ぶりでもあったし、それは事実だった。それで、マインさんは先ず北村を選んだ。この時点で既におかしいのだ。大半の人たちが事前ついて行く勇者を決めていたのであれば、何故マインさんだけ最初に北村を選び、また最終的に誰も来たがらない俺の元へ来たのだろうかという素朴な疑問がある。

 

 それに、俺はあの時「一人でも良い」と突っぱねた。本人が良いと言ってるのに、何故注目がより一層注がれるようなあのタイミングで挙手をしたのか。

 

 確かにあのタイミングで挙手をして、俺について来てくれると進言してくれた行動には感謝している。しかしどうにも示し合わせたかのようなタイミングだったと言えば辻褄が合ってしまう。なんだか都合が良いとさえ思えてくるし、俺を安易に信用させたいがために、あのタイミングで進言したのかも定かではない。もしそれを狙ってやってきたとすれば、マインさんは相当なやり手だ。

 

 ……まあ考え過ぎだろうが、この国の人たちはきな臭いからな。用心に越したことはない。

 

「──あ、着きましたよ。ここが私のおススメな武具店ですよ!」

「……ここか」

 

 と、考えてるうちに着いたみたいだ。店の外観もそれっぽく、結構年季が経ってそうな佇まいだ。

 

 どうやら()()()おススメしたい店のようだが……これが明らかに新店舗だったら相当な疑念を彼女に向けていた。もし新店舗をおススメされたら、俺を嵌めるために帳尻合わせで作った店なのではないかと疑っていたところだ。

 

「おお……」

 

 店の中に入ると、剣や槍、甲冑まで色んな武器や防具が勢揃いしていた。初めて本物の剣などを見て、何処か緊張してくる。いや、少しの怖さもあるのかもしれない。だがそれと同時に興奮してきてるのは内緒だ。カッコいい。

 

「勇者様。こっち!」

「あ、ああ」

 

 マインさんに呼ばれた方にカウンターがあった。歩いて行くと、そこには筋骨隆々のスキンヘッドで、尚且つ髭面な強面店主さんが立っている。まだ作業服をみたいなものを着てるので辛うじて職人だというのは分かる。

 

 でもマフィアにでも黒服姿で居そうな見た目なんだよな……

 

 店は見るからに素晴らしい武具店なのだが、店主が海外のマフィアに居そうで怖い。これがこの店のマイナスポイントだろう。小町もついポイント低いって言いそうな勢いだ。

 

「いらっしゃい」

「あ、ああ。えと、こんにちは」

 

 意外にも武骨そうだった店主から元気良く挨拶されて、少し動揺しながらも俺も挨拶する。にしてもダンディな声してるな。

 

「お、もしかしたらお客さん初めてだね。当店に入るたぁ目の付け所が違うね」

「いえ……それは彼女に紹介されたからで」

 

 そう言って遠慮がちに俺はマインさんを指差すと、彼女も軽く手を振って応じてくれる。

 

「ありがとうよお嬢ちゃん」

「いえいえ~この辺りじゃ親父さんの店って有名だし」

「嬉しいこと言ってくれるねぇ。……所で、その変わった服装の彼氏は何者だい?」

 

 そういえば俺の服装って総武高の制服のままだったな。こっちの世界の住人からすれば、見たこともない材質で作られた奇怪な服装を着ているから困惑するだろうな。

 

 それに、ここに来てから一度も日本人みたいなというか、東洋系の顔つきをしてる人が居なかった。あの城の中でも、ここまでの道中でも、道ゆく人皆が地球で言うヨーロッパ系だとかラテン系の西洋人みたく彫りが深い顔つきをしていた。

 俺を含めた勇者たちは全員ここじゃ珍しい東洋系の顔つきだから服装も相まって、尚更不思議がられても無理はない。

 

 さらに付け加えておくと、天木たちはイケメンだから良いのだが、俺は目が腐っている。注目を相当な浴びることだろう。

 

 ……あれ、今思ったけど俺って側から見たらマジで怪しくない? 

 

「この不思議な服装を着てる男の人が、突然何も持たずに武器屋にやってきたのは……ここまで言えば、親父さんも分かるでしょ?」

「っ! ……となるとアンタは勇者様か! へぇ!」

 

 と、まじまじとおっさんに顔を凝視される。いやん、そんなに見ないで。

 

「……あんまり頼りになりそうに無いな」

 

 おいごらく◯じじい。この目で貴様の目も腐らせても良いんだぞ? 

 

「……はっきり言うんすね」

「良いものを装備しなきゃ舐められるぜ」

 

 遠回しにこの店の良いものを買えと言ってるのか。まあ買いますけどね。

 

「……分かってますよ」

 

 しかしここはアメリカみたいだな。裏表は余り感じないけどズバッとストレートに言ってくる奴が多い。例えば今目の前で失礼なこと言ってきたおっさんとか……あと目の前のおっさんとか?

 

「見たところ……はずれ?」

 

 な? 言ってくんだよこうやって。裏表なさ過ぎだろ自重しろ。

 

 でもはずれって言われたことはつまり、既に出発前の出来事の噂が街にも流れてしまっているということか。

 

 え、早っ。女子間のネットワークみたいな噂の伝達速度じゃねぇか。

 ほら女子たちってすぐに隣のクラスに『ねえ、比企谷が折本さんに告ってフラれたらしいよ〜』って触れ回るじゃないですか。ソースは俺と同性の友達な。……俺じゃないもん。

 

 だが一つ確かなことは、何かと俺に都合が悪い情報や噂を流してる厄介な伝書鳩的な存在が潜伏してるということだ。しかし、何故そんなことをするんだろうな。一応、俺も勇者なんだが。

 

 俺に何か因縁がある奴でも……いやここの世界に来て一日目だぞ。そんなことはあり得ない。

 

 考え耽っているとそういえば自己紹介してないことを思い出す。

 

「……()()()な盾の勇者の比企谷八幡です。よろしくお願いします」

「お、おう。ヒキガヤか。まあ、お得意様になってくれれば良い話だ。よろしく!」

 

 さっき言われた言葉を根に持っていたので、そのお返しとばかりに自虐という軽いジャブを混ぜた挨拶を済ませたところで、武器選びに移る。

 

「ねえ親父さん。何か良い装備無い?」

 

 俺とおっさんとの会話がひと段落したのを見計らったのか、そこでマインさんが色目をしながらおっさんにそう尋ねた。

 

「そうだなぁ……予算はどのくらいだ?」

「そうねぇ……」

 

 そう言いながら、マインさんが俺を値踏みするように見る。

 なんかイラっと来たな今の目。合コンに絶対一人は居る、高給男絶対逃がさない系女子みたいな野獣の目をしてたぞ。

 

「銀貨250枚の範囲かしら」

 

 所持銀貨800枚の中で250枚……宿代とか仲間を雇い入れる代金を考えれば妥当なとこだが、防具に至っては命を守るものなんだしもう少し高くても良いんじゃないか。

 

「お? それくらいとなると、この辺りか」

 

 おっさんはカウンターから乗り出し、店に飾られている武器を数本、持って来る。

 

「あんちゃん。得意な武器はあるかい?」

「……そもそも武器自体持ったことがありません」

「となると、初心者でも扱いやすい剣辺りがオススメだね」

 

 次には、カウンターから数本の剣を取り出して、カウンターに並べた。

 

「どれもブラッドクリーンコーティングが掛かってるからこの辺りがオススメだ」

「ブラッドクリーン?」

「血糊で切れ味が落ちないコーティングが掛かってるのよ」

「へぇ……」

 

 切れ味が落ちないか。つくづく異世界だな。

 中々の業物みたいだが、高そうだ。

 

「左から鉄、魔法鉄、魔法鋼鉄、銀鉄と高価になっていくが性能はお墨付きだよ」

 

 これは剣を製作する際に使用している鉱石によってということだな。鉄のカテゴリー武器って感じか。

 

「まだまだ上の武器があるけど総予算銀貨250枚だとこの辺りだ」

 

 にしても中々の品揃えだ。俺がよく知るRPGだったら、普通は旅の始まりなんかは木の剣とかが最初の武器で、村の武器屋には精々鉄の剣が売られてるくらい。

 

 考えてみれば、これだけ品揃えが良いのは当然か。何せここは王様が住んでる城がある大都市だ。ここがメルロマルク王国の首都ってことは間違いはないし、どの国の首都も人が大勢いる訳だから物流が良いのだ。故にこの武器屋の品揃えがここまで良いんだろう。

 

「鉄の剣、か」

 

 こうして間近で見ると、ただの鉄の剣なのにも関わらずに迫力を感じてしまう。これが人を殺すために作られた武器、か。

 

 でも俺が戦う相手は『波』から生まれる魔物らしいしな。切った時の感触とか血には早く慣れておかないと、精神がやられてしまいそうだ。

 

 頭の中でそんなことを思いながら、剣の柄を握る。

 

 しかし直後──

 

「……ッ!?」

 

 ──バチィッ。という静電気が一気に放出されたような音が鳴り響き、同時に柄を握ろうとした俺の手に鋭い痛みが駆け巡った。

 

 いってぇええ! 

 

 心の中で声にならない悲鳴を上げていると、俺はすかさずおっさんの方を訝しむ。

 もしかして嫌がらせか? と。しかしおっさんは首を横に振る。マインさんにも同じように「突然弾かれたようにみえたわよ?」と言われて、困惑する。

 

「……どういうことだ」

 

 すると、俺の視界に文字が浮かび上がってきた。

 

『伝説武器の規則事項、専用武器以外の所持に触れました』

 

 なんだコレは? と、急いでヘルプを呼び出して説明文を探してみる。

 そこにはこう記されていた。 

 

『勇者は自分の所持する伝説武器以外を戦闘に使うことは出来ない』

 

 という文章だ。

 

 はい、詰みです。盾でどうやって攻撃しろと言うんだよ! 

 

「……どうやら、俺はこの盾のせいで他の武器は持てないらしいです」

 

 もしかしたら盾には実は意思があって嫌われているのかもと一瞬思ったことは内緒だ。

 

「どんな原理なんだ? 少し見せてくれないか?」

 

 俺はおっさんにに盾が付いている方の右手を向けて見させる。

 外れないのだから仕方が無い。

 おっさんが小声で何かを呟くと、盾に向かって小さい光の玉が飛んでいって弾けた。おっさん魔法の類使えたのね。

 

「ふむ、一見するとスモールシールドだが、何かおかしいな……」

「そうですね」

 

 一応、ステータスにもスモールシールドと記載されていた。(伝説武器)と言う項目が付いてるが、まあ勇者だしな。

 

「真ん中に核となる宝石が付いているだろ? ここに何か強力な力を感じる。鑑定の魔法で見てみたが……うまく見ることが出来なかった。呪いの類なら一発で分かるんだがな」

 

 見終わったおっさんは目線を俺に向けてトレードマークの髭を撫でる。

 

「面白いものを見せてもらったぜ、じゃあ防具でも買うかい?」

「お願いします」

「銀貨250枚の範囲で武器防具を揃えさせるつもりだったが、それなら鎧だな」

 

 盾は既に持っているわけだし、結果的にそうなるか。ここは素直にその意見に甘えさせてもらおう。おっさんは店に展示されている鎧を何個か指差しながら

 

「フルプレートは動きが鈍くなるから冒険向きじゃねえな。精々、鎖帷子が入門者向けだろう」

 

 と言ってきた。俺はその中でも鎖帷子(くさりかたびら)に手を伸ばした。

 鎖でつながれた服だが、動きやすさを重視するのであれば、これだろう。

 

 じっくりと観察していると、また視界に変なアイコンが現れた。

 

鎖帷子(くさりかたびら) 防御力アップ 斬撃耐性(小)』

 

 ほーん。めっちゃ便利だなこの機能。もしかして俺の脳にICチップとか埋め込まれてんのか。

 

「あれの値段はどれくらいなんですか?」

 

 マインさんがおっさんに尋ねる。

 

「おまけして銀貨120枚だな」

「買取だと?」

「ん? そうだなぁ……新古品なら銀貨100枚で買う所だ」

「……買取?」

「盾の勇者様が成長して不必要になった場合の買取額を聞いていたのですよ」

「…………そうか。確かにな」

 

 …………なるほどね?

 

「え? ど、どうしたんですか勇者様」

「いや、別に」

「?」

 

 ……ま、いいか。

 

 少し間があった俺の反応に何やら彼女は気になるご様子だ。無視しますけどね。

 

「店主さん。これ下さい」

「まいど! ついでに中着をオマケしておくぜ!」

 

 おっさんのの気前のよさに俺は正直、これまでの失礼をチャラにしたいほどだった。流石にワイシャツが鎖帷子の下着では格好が付かない。そうして、俺は銀貨120枚を渡し、鎖帷子を手に入れた。

 

「ここで着ていくかい?」

「はい」

「じゃあ、こっちだ」

 

 更衣室に案内され、俺は渡されたインナーと鎖帷子に着替えた。元々着ていた制服は店主がくれた袋に入れる。さらば、総武高。

 

「お、少しは見えるカッコになったじゃねえか」

「ありがとうございます」

 

 俺が言うのもなんだが褒めるの下手か。このおっさんはあれだな。将来的に好きな女が出来てデートをする時に失敗すると見た。

 

 マインさんに至ってはスルーだ。完全に俺に興味を示してない様子。やっぱり()()で俺の旅に同行するみたいだ。

 俺たちは店を出ると早速とばかりにマインさんは俺を先導する。

 

「それじゃあそろそろ戦いに行きましょうか勇者様」

「……!」

 

 地球産の不思議な服から、鎖帷子を身につけた勇者様である俺に、お世辞でも何かしらは言われると思っていたのに、まさかノーコメントだとは思わなかった。普通はあのおっさんと続く形で何かしら言うと思うんだけどな。

 

 ……それに、さっきの言動にも気になるものがあったしな。どうも本格的にきな臭くなってきた。

 だから先ずは情報だ。まだ俺はこの世界の知識についてまだ何も知らない。他の勇者たちはこの異世界によく似たゲームをやっていたから大体は把握しているようだが、俺のこの異世界についての知識量は、完全にこの世界の子供以下だ。

 

 情報こそが生命線。戦う前にもしっかりと準備しなければ。

 

「……いや、先ずは情報収集がしたいんだが」

 

 だから、戦いに促そうとするマインさんを引き留める。

 

「はい? せっかく装備を新調したんですから行きましょうよ。出遅れちゃいますよ!」

 

 出遅れる。最もな意見だが、それ以上に情報を仕入れることが今は重要なのだ。

 

「マインさん」

「?」

 

 少し自信はないが、説得を試みるか。

 

「……俺はマインさんが知っての通り、この世界についての知識に疎すぎる」

「あ、ああ。そういうことですか。別に平気ですよ! 今日くらいは別に試しに戦いに行ってもいいと思うけどなぁ……ほら、勘を掴んでおかないといけませんし」

「確かにそうなんだが、あんたが思ってる以上に俺のこの知識量は致命的なんだ。……誰も俺に付いてこようとしなかった手前もあるしな」

「あっ……」

「それに、今の俺にとっては何もかもが新しいことで、正直今だって混乱してるくらいなんだよ」

「は、はあ」

「だから今日は情報収集でいいか。別に旅は長いし、今日だけじゃないだろ? 明日からでも戦いは間に合うと思うんだが」

「……」

 

 そう意見具申すると、マインさんは先程までの浮かべていた()()ではなく、いつになく真剣な顔で黙考して次にはこう質問してきた。

 

「……因みに何処で情報収集して、どのような情報を調べたいんですか?」

「出来ればここの国で一番大きな規模で本を扱ってる場所が望ましい。そして、調べたいものはこの世界についてのこととか……この国の()()なことについてだ。あと、出来ればマインさんには、文字が読めないので全部じゃなくても良い。書物の要点だけを通訳をしてほしい」

 

 自分がこの国の文字を読めないのが分かったのは、さっきの武具店の看板が読めなかったからだ。でも何故話せているのかについては、どうやら手に付いている盾──伝説の武器が関係しているらしい。翻訳機能といえばいいのかわからんが。

 

 と、そんなことは置いておいて。さて、マインさんの反応は。

 

「……っ」

 

 何か少し……怖い目をしてるな。まるで俺がこの国についての情報収集することが気に入らないみたいだ。

 

 実は先程、マインさんは俺が『この世界について調べたい』と言った時は変化は見せなかったのだが、『この国の()()なことについて調べたい』と言った時僅かに眉をピクりと明らかに反応させていたのだ。

 

「ん? マインさん。大丈夫か?」

「え、ええ……」

 

 嘘つけ。これまでの不自然な反応から、何か俺に隠し事をしていることは分かってんだよ。

 

「それで……さっき言ったこと、お願い出来るか?」

「い、いや。その、言いにくいんですが。国立図書館や城の書庫は限られた人しか入れないんですよ。入れるとしても、貴族じゃないと……」

 

 そう来たか。追求したいところだが、ここで追求すると逆に怪しまれる。出来れば現時点でこの国に疑いを持ってることを知られたくないしな。

 

「……そうなんすね」

「はい。そ、そうなんです! なので勇者様。今日のところは一先ず戦いにいきませんか?」

「そういうことなら……行くか」

「はい! 門まではここから数分もすれば着きますよ!」

 

 そうして先に歩き出したマインさんの後ろを、俺もついて行く。確かに彼女は美人で明るくて、気立ても良さそうだ。

 

 

 ──だけど決して、隣には歩きたくない。俺の本能が警鐘を鳴らしていた。

 

 

「……くそ」

 

 思わず、小さく悪態を吐いた。

 ここに来てから、どうも何もかもが怪しく見えて、心が常に殺気立っている。一泊して眠ったが、異世界ということもあり、周りは赤の他人だらけ。その実、あまり疲れが取れてない。俺の心は既に結構擦り減っていた。

 

「……今頃あいつらは、どうしてるのかねぇ」

 

 だから尚更今は、ここに来る前までは憎みに憎んでいたあのクソッタレな社会が構築する世界が。

 

 あの()()の情景が。

 

 全てが──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……いや、柄じゃないか。

 

 そう自嘲して、俺は空を仰ぎ見た。綺麗な空だ。排気ガスも何もない、本当に澄み切った空。

 

「……行くか」

 

 旅に出る前に、妹に心の手紙を書いておくか。

 

 

 

 

 

 

 拝啓 比企谷小町様

 

 

 

 取り敢えず小町。

 

 

 お兄ちゃんはストレスで禿げそうです。

 

 

 

 敬具 比企谷八幡より

 

 ……これただのスパムメールだな。

 

 

 

 

 

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