実際の所、神と言う存在を頭から信じている訳じゃない。教会と言う巨大な機構が効率よく動き、生き残り。国や貴族と言った連中に食い込んで利益を得るためには神と言う「大昔の詐欺師が散々詐欺の出汁に使った後の出涸らし」が必要だというのも理解している。郷里……というほどの郷愁は無いが、一応出身国の出身地では「居るかもしれない、けれど人にちょっかい掛けてくるならそれはただの妨害であり排除すべきものだ」と言い続けていたので、教会関係者とはとても仲が悪かった。
どちらかと言えば戦いの師が言っていた「この世のすべてには神が宿っている」という考えの方が性に合っていたともいえるのだろう。大多数の中に居るのなら、唯一にして絶対の真理の具現化であり救いの象徴として扱われている、という神、ってだけの話になるので。教会の関係者や熱心な宗教家を胡麻化すには十分だった。
「神とはなんだ?」
ある日、師にこう問われた時には、少し考えてからこう答えたのを覚えている。
「無意味に人を虐殺し、暇つぶしに親に子を殺させ、妬み、恨み、怒り、強欲と言う言葉が何も欲しがらない老人を示す言葉であるかのように欲し、自らが決めただけである罪という言葉を人に押し付け、自らはその罪を免れて堕落する存在です」
それを聞いて、師は目を丸くした後で「お前が神を嫌いなのはわかった、けれど、そんな神だけではないぞ?」と続けてくれた。
「お前の言葉は、そうでない神もどこかに居てほしい、という願いに俺には聞こえる。お前は真面目な分、融通が利かないからな」
「そんなものは存在しない、と判っていますよ」
くってかかる自分の頭を撫でる手を、今でも鮮明に覚えている。
「願いを神に懸けるというが、神に言うならならば、願うものではない。誓うのだ」
そう言う師の表情は、どこか遠くを見るものだった。
「こうしてほしい、ああして欲しい、もっと幸せになりたい……言い方は様々だが、要は神に縋る言葉だからな。武人として良いものではない」
「……では、どうすれば?」
自分にとって、祈りとはそういうモノだった。だから、興味を惹かれた。
「言っただろう?誓うのだ。「私はこれを成し遂げる、これを達成する」と」
神に祈り、誓いを立てる。神にはその証人となってもらうのだ。と。
「そして、そういう時、神に助力を願うものではない、ただ見ていてくれという事だけ、願うのだ」
それでは神に祈らないのと何が違うのか。結果として同じではないか。そう返した自分に、師は笑いながら言った。
「いや、違うさ。お前がその目的を達するまで、森羅万象あらゆるものがお前を見守る。お前が卑怯な手段に逃げないように、力尽き、倒れても再び立ち上がって誓いを達せられるように」
卑怯でないように、卑劣でない様に……正々堂々と目的に相対し、超える。それを超えるのは自分でやる、だから見守るだけでいてくれ、と。それを聞いたとき、何かがすとんと収まった気がした。
「ならば、私は報復を誓うでしょう……流された血を血と命で贖うと」
「それでいい、何を誓うか、なんて個人の自由だからな」
さぁ、続きだ、と師が木剣を構える。自分も木剣を構え……訓練は再開された。
***
もし、この世に神なる存在が居たとして、天上から人々を見ているというのなら……
お前はそこに居て、見ているだけで良い
手は出すな
たとえ武運拙く、この身が戦場の露と消えようとも
この魂を天上や地獄へ導こうともするな
命の使いどころは、俺が決める。お前ではない。
運命を歩くのは俺だ、お前ではない。
だからこそ、唯一にして絶対の神なるモノが存在するとしたら……。
信心深く、隣人を疑う事すら良しとしなかった女性が、かくも惨たらしい死を迎えたことがお前の意思だというなら
唯一にして絶対の神とは、絶対の悪の言い換えだ
私は、リヒト
リヒト・フュルストフォン・オプファーベル
教会の騎士見習いであり、神が唯一であるとは、信じていない男だ