帝国、魔法国、異人の住む三国によって世界は成り立っていた、帝国と魔法国、二つの国には人間がいた、そして、魔法を使える者、そうでないものによって差別があった。
強者が正しく正義であると思っている者達にとって戦や争いは必要不可欠だった。
そして、魔法を使える者や力のある者は人間以外の生き物を使役し力を誇示していた。
他の生き物にとってははいい迷惑以外のなにものでもないだろう。
「目に余るな、こういうのは」
森の入り口付近で朽ち果てていた魔獣の死体を見つけた男は呟いた、傷跡から見て人間の仕業だというのは一目瞭然だ、従属させる為に魔道具、いや、何かの術を使ったのかもしれない、だが、獣は最期まで抵抗したのだろう、毛にはこびりついた血が痛々しい。
このままにしておくのは忍びない、埋めてやろうと思ったときだ、男は気づいた、これは生きていると、見た目は、ただの死体だ、だが。
「おまえ、もしかして監視者か」
男は話しかけた、すると、死体がぴくりと動いた。
帝国と魔法国が森に住む獣達だけでなく、小国からも異人、亜人をかき集めている、帝国が事を起こす気かもしれない、連中なら不思議はないと思われていたからだ。
「おい、その魔獣は、あんたのかい」
帝国へ入る為の門の前で立ち止まった女は頷いた、自分の後ろをついて歩く狼を見て兵は驚いているようだ、いや、狼だけなら兵は驚かないだろう、大きな鷲、グリフォンと思ったのだが、尾が蛇なのだ、これは何だ、疑問を抱いた、見たことのない魔獣だ。
それに狼もだ、毛色が真っ黒で首回りには無数の宝石がちりばめられている、首飾りかと思ったが、鎖も紐もない、どうなっているのか不思議に思ったのだろう。
入国には金貨五枚が必要だと聞いて女は背を向けた、来た道を引き返そうとする様子に慌てて男は引きとめた。
無理もない、今、帝国では色々魔獣、獣魔を集めている、国全体、いや、王命といってもいい、もし、希少、珍しい生き物がいたら城に連絡するようにといわれているのだ。
街中を歩いていると、すれ違う人、周りの人間が驚きの目で見てくるが、誰、一人として声をかけることはない、女の側にいる兵士のせいだろう。
城に案内されて、待たされたが、それ程時間はかからなかった。
「珍しい魔獣を連れておるな」
広間に入って来た女と二匹の魔獣を見た王は驚きと感嘆の視線を向けた、隣の王妃は狼の首回りの宝石を凝視している、自分の首飾りは国一番だと思っていたが、だが、狼の首回りに散りばめられた宝石と比べても一目瞭然だ。
欲しいと言わんばかりの欲望の視線を隠そうともしない王妃の表情を見て女は思った、まるで子供のように素直すぎると。
「使役するのは大変だろう」
「ありがとうございます、ですが」
女の言葉に王は驚いた、では魔法や術で従わせているわけではないのか、危険ではないのかというと女は、そうですねと頷き、秘密なのですと答えた。
「魔法や術で従属させるというのは完璧ではありませんからね」
その言葉に王は疑問を投げかけた、すると女は後ろに目を向けて笑みを浮かべた。
城にいる魔獣と戦わせてみたい、王の申し出に女は承知した、だが、この時には誰も思わなかった、それが、こんな事態を引き起こすとは。。
一頭のグリフォンの前に呼ばれたのは二匹のオーガだった、最初、オーガは反応を示さなかった、ただ、睨んでいただけだ、だが、術士から攻撃しろと命令され、手にしていた剣と金棒を握りしめ、グリフォンに近寄ろうとした、その瞬間、グリフォンは頭を上げ、叫んだ。
、それは鳥の啼き声だ、だが、次の瞬間。
「平伏せよ」
声が響いた、それは紛れもなく人の言葉だ、突然、オーガは地面に頭をこすりつけた。
何が起こった、一体、どういうことだ、周りで見ていた貴族、騎士達は驚き、唖然とした、魔獣が人の言葉を話すなど聞いたことがなかったからだ、それに二匹のオーガの行動もだ、魔獣は主の命令以外、聞く筈はない、日頃から訓練されているし、隷属の術をかけられているのだ、それに従わなければ、どんな目に遭うか。
「グッッ、オオウっ」
オーガは地面に頭をこすりつけたまま、苦しそうな呻き声をあげた、戦えという命令に背いたからだ。
「まずい、このままでは」
王が叫んだ。
突然、オーガは立ち上がり持っていた自分の武器、剣で自分の喉を突いた、二匹共だ、突然の事に周りはしんとなった、支配を逃れる為に自ら死を選んだ、考えられないことだ。
グリフォンはオーガのそばで呆然と立ち尽くしている魔術師を見ると声をかけた、突然、何を思ったのか、魔術師は地面に額を深くこすりつけた。
その時、信じられない事が起こった、死体が動き始めたのだ、いや、喉の血は止まっていた。
「生き返った、だと」
「まさか、信じられん」
口々に驚愕の声が上がる、だが、それだけではない、オーガは自分たちの主である男に向かって剣を振り上げた。
何を見ている、王は、妃は、そして貴族や兵士達は、これをどう受け止めればいいのかと呆然としていた。
「どういうことだ、従属の魔石が」
「や、やめろー、俺は貴様の主だぞー」
「助けてー」
それは異変といってもよかった
魔獣を支配するために埋め込まれた額飾りの石が突然、取れたのだ、術師達は驚いた、それだけではない、自分たちに牙を向けたのだ。
従属、支配の術が解けたなら危険だ、殺すしかない。
「どういうことだ」
「な、何故、だ、術が」
安全装置は最期の切り札だ、ところが、何故か、発動しない、魔術師達は自分たちに牙を向けてくる魔獣に恐れを抱いた。
その頃、城では王が、貴族が、兵士が、地面に頭をつけていた。
グリフォンの声が空気を震わせるが、何を言っているのか、彼らは理解できなかった、当然だろう、恐怖に支配されていたのだから。
ああ、死にたい、はやく、この恐怖から逃れたい。
目の前には絶望しかなかったからだ。