世界最強のヴィランお兄ちゃん   作:揚げ物・鉄火

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第二十四話

氷炎戦争と三人が出会う数日前。

 

 

某国の上層部が集まり煉獄の女王とLORDの衝突にどう対処するか会議していた。

 

「まず…あの二体の化け物の衝突を防ぐ事は、誰にも出来ません…絶対に」

「むぅ…」

国家防衛省の男の言葉に首脳の男が唸った。

 

「アレを相手に全世界の軍隊を搔き集めた連合軍をぶつけても返り討ちに合うだけです。核兵器を使っても同じです。あの二体の強さは、人知の及ばない領域にあります。」

「では、世界中のヒーローを集めればどうだ?それならば多少なりとも追い詰めて殺す算段が出来るはずだ!」

「無理です…あの二体の化け物を殺す事は不可能です」

別の男の言葉に国防総省の男が即答した。

 

「な、何故不可能だと言い切れるんだ!?」

「皆様も知っているでしょう?あの『氷炎戦争』を…人類史上最大最悪の大喧嘩の結果を」

「ぐっ…!!」

氷炎戦争の結果を思い出せと言われた上層部の人間達は、一斉に黙ってしまう。

それは、一概に『氷炎戦争』の結果を思い出したからに他ならない。

 

氷炎戦争とは、世界最強クラスの個性所有者同士の争いだ。

たった二人きりの戦争だが、戦場となった国はものの数分で滅び、周辺諸国は攻撃の流れ弾で甚大な被害を被った。

更なる被害の拡大を恐れた国連が軍隊とヒーローの派遣を決定し、実際に派遣したものの両者の技の衝突の余波だけで全軍が壊滅した。

20万の勇敢な命が一瞬で散り3万人以上のヒーローが成す術無く塵となった。

最強同士の争いは三日三晩続き、最後は埒が明かないと考えたLORDが煉獄の女王にある取り引き(・・・・・・)を持ちかけた事で終わった。

氷炎戦争は終結したが、戦争の被害により三つの国が滅び、周辺諸国含めての死者、行方不明者が善悪老若男女問わず、1億7千万人に上ったとされている。

 

それほどの被害を与えた氷炎戦争の発生要因は、表向きにはLORDと煉獄の女王が世界最強の座を賭けて争ったとされている。

しかし真実は、まったく異なる。

LORDと煉獄の女王が争った真の理由は、ただの痴話喧嘩(・・・・・・・)だ。

喧嘩の原因は、誰も知らない。氷炎戦争を起こした当事者達ですら覚えてない。

 

当事者達が喧嘩の原因を覚えていないので様々な憶測が飛び交っている。

 

相手が自分の欲していたナニカを持っていた。

相手が気に食わないから。

相手が自分を侮辱したから。

相手を殺して自分の強さを証明したかった。

 

等、様々な憶測が飛び交っている。

 

今回の議題は、過去にそれだけの被害を与えた氷炎戦争が再び起きる事を阻止する方法を求める事だ。

すでに会議が始まってから3時間が経とうとしているが一向に良い案が出ない。

 

途中で『プロヒーローの海神や大地の王(グランドキング)に風神と光の皇女(みこ)をぶつける』との案も出たが被害が拡大する可能性があると却下された。

そもそもの話、海神と風神はLORDに、大地の王(グランドキング)は煉獄の女王に殺されている。光の皇女に関しては、煉獄の女王の手によって消えないトラウマを植え付けられているので、例え案が通ったとしても意味が無い。

それならばオールマイトを中心に日本のヒーローをぶつけるように依頼するのはどうか、と提案されたが日本国は拒否するだろうとこれまた却下された。

 

 

「あの二人と互角に渡り合える化け物…それをぶつければ何とかなるかもしれません」

「そんなヒーローが存在するのか?アメリカのNo.1ヒーローでさえ煉獄の女王に敗北したんだぞ!」

「それを言うなら5ヶ国の連合艦隊をものの10秒で返り討ちにしたLORDも居るぞ!それほどのヒーローが何処に居るんだ!?」

「馬鹿も休み休み言え!!」

上層部の罵倒に近い焦った声に国家防衛省の男が静かに落ち着いて返した。

 

「居ません…彼等に太刀打ち出来るヒーローは、もう存在しません」

「なら「しかし!」っ!」

太刀打ち出来るヒーローが存在しないと言い切った男に上層部の人間が焦ったように口を開くが、その言葉を遮って男は説明を続けた。

 

「裏社会になら存在します」

「裏社会だと…?」

「まさか…」

「闇の帝王…」

国家防衛省の男の言葉に会議室がざわざわと周りの声が騒がしくなり始める。

 

「馬鹿な!ありえん!闇の帝王に協力を仰ぐ事は、奴の活動を支援する事を意味するぞ!」

「そんな事をすれば我が国は、世界から孤立してしてしまう!そうなった場合の責任が取れるのか!?」

「大丈夫です」

上層部の人間達の言葉に国防総省の男が落ち着いて返事をした。

 

「何が大丈夫なんだ!?」

「あの化け物が我々の依頼を受ける訳がないだろう!!」

「ええ、我々が依頼しても動かないでしょう。しかし、あちら側が動かねばならない条件を出せば動かざるを得ません」

その言葉に誰もが首を傾げる。

 

「アレを動かせる程の条件があるのか?」

「アレに脅迫は通じないぞ?」

「どうするつもりだ?」

「LORDと煉獄の女王に討伐賞金を懸けましょう。闇の帝王が動く程の額となると…500億ドルくらい必要です」

闇の帝王を動かすため提示された金額を聞いた全員に衝撃が走る。

 

「そ、そんな大金!」

「用意しよう。首一つに500億ドルだな?」

「ええ、それでお願いします。それともう一つ」

「今度はなんだ?」

さすがにこれ以上無いだろうと思い話を聞いた男は、自分の言葉を後悔する事になる。

 

「雷帝にも依頼を出しましょう」

「あの女狐にもか!?」

「はい。彼女の力も無視出来る物ではありません。もし彼女にも協力して貰えれば二人を…いえ、三人を同時に追い詰める事も出来るかもしれません。アレには、それだけの戦力があります」

「「「「………」」」」

闇社会最大の武器商人にも依頼を出すと提案された上層部の人間は、己の足元が崩れる様を感じた。

しかし国防総省の男の言葉に誰もが納得した。

 

「ご決断を!大統領」

「大統領!」

「大統領!」

「う~む…分かった。今すぐLORDと煉獄の女王に賞金を懸けろ!雷帝にも協力要請を出せ!何としてでもあの化け物共を始末しろ!」

最終的な決定権を持つ大統領が指示を出し始めた。

作戦が決定したことで会議室は、お祭り状態になった。

 

「…この国も終わったな」

その様子を監視カメラをハッキングする事で見ていた情報屋の男が画面の向こうで小さく呟いた。

 

 

 

 

そして時が戻って現在。

 

闇の帝王とLORD&煉獄の女王が衝突した。

 

「セリャア!!!」

「オラァ!!!」

「ハァ!!!」

疲労が溜まり、そこそこのダメージを蓄積しているLORDと煉獄の女王を相手に闇の帝王が互角に渡り合っていた。

 

先程のLORDと煉獄の女王の一戦と同様に瞬間移動に近い動きで三人の攻撃の一撃一撃が音速を超えて、そのどれもが突風を巻き起こしてクレーターの数を増やす。

人知の及ばない戦いが再度巻き起こっている。

 

暗黒球(ダークボール)!」

火球(ファイアーボール)!」

「グラオホルン!」

闇の帝王の放った闇エネルギーの渦巻く球を煉獄の女王が火の球で相殺し、LORDが地面から鋭く尖った氷の柱を形成し闇の帝王を串刺しにしようとする。

 

「ダークエリア!」

闇の帝王が己に迫り来る氷の柱を闇で覆い破壊する。

そのまま振り返り右手に闇を溜め込むが、何かに気づいたように後ろへと跳ぶ。

 

朱の新星(ヴァーミリオンノヴァ)!」

真なる闇(トゥルー・ダーク)!」

自分に迫って来た超高温の炎塊を闇の塊で相殺して一気に上空へ跳んだ。

 

氷の領域(アイスフィールド)!」

「当たるかよ!暗澹の繭!」

凍って行く大地から上へ跳んだ事により巻き込まれる事を防いだ闇の帝王が、そのままの勢いでLORDに手を向けて闇で包み込もうとする。

が、LORDもそれに捕まるほど抜けていないので簡単に躱しコートの下からデザートイーグルを二丁取り出した。

 

「直接戦闘は任せた。俺はサポートに徹する!」

「はあっ!?え、ちょっ!」

LORDが煉獄の女王に言うだけ言って返事を聞く前に走り出した。

 

「あー、もう!しょうがないな!召喚、炎の軍勢(フレイム・アーミー)!」

「命令!あの黒髪のクソ野郎を倒して来い!」

『イエスマム!』

煉獄の女王が仕方なくそれを受け入れて炎で作られた戦士達を大量に召喚する。

召喚された炎の軍勢は、一直線に闇の帝王の下へと向かう。

 

100体近くの戦士が武器を持って駆けている。

LORDの相手をしている闇の帝王は、ソレに気づくが相手が相手なので集中するしかない。

 

あらゆる生ある者の目指す所は、死である(ザ・ゴール・オール・ライフ・イズ・デス)!!」

ならばと闇の帝王が自分の背後に巨大な時計を形成した。

 

「ッ!!アイナ!!!」

『お任せを!』

それが何かを知っているLORDがその場から一気に離れて、足元から『氷の騎士団.二代目騎士団長.アイナ』を氷獄最速の馬にしてアイナの愛馬たるランスロットごと呼び出し向かわせる。

走りながら大氷壁を五つ形成し更に速度を上げた。

それに加えて氷で構成された美しい妙齢の女性『氷獄の地母神(ザ・マザー)』を作り上げ、氷獄の地母神(ザ・マザー)に大量の氷人形(アイスドール)作らせて煉獄の女王の下へ方向転換する。

 

「はっ!?え、ちょっ、なに!?」

「説明している暇が無い!ロケットブースターを頼んだ!」

「…よく分かんないけど分かった!」

突然LORDに担がれた煉獄の女王が文句を垂れたが彼の焦った様子を見て素直に従った。

 

「炎帝!」

「ハーゲルシュプルング!」

闇の帝王から高速で離れるついでに二人とも巨大な炎塊と氷塊を放ち闇の帝王から1キロ以上離れた場所でLORDがやっと足を止めた。

 

『ア――――――――――――、アァ――――――――――――、Ahhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh!!!!!!!!!!!!!』

その間も氷獄の地母神(ザ・マザー)に作られた氷人形と煉獄の女王が召喚した炎の軍勢(フレイム・アーミー)が協力して闇の帝王を倒そうとしていた。

氷獄の地母神(ザ・マザー)が美しい声を絶叫に切り替えて味方にバフ、敵にデバフを掛けて戦力差を増大させていく。

しかし炎と氷の入り乱れ大乱戦に新たな軍勢が加わった。

 

「暗黒の軍勢…!」

背中の巨大な時計の針が半分まで移動した闇の帝王が足元から真っ黒の軍勢を作り出し迎え撃つ。

 

嘆き妖精の絶叫(クライ・オブ・ザ・バンシー)!!」

『――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

闇の帝王が新しく技を使うと闇から這い出るようにして一人の若さの残る少女の姿をした妖精が絶叫を上げた。

それと同時に近くに居た氷人形達が糸が切れたように倒れる。

 

「あれって…!」

「即死技だ…範囲が狭い代わりに大体の相手に通用する」

煉獄の女王の質問にLORDが苦い顔をして解説する。

 

 

そして…

 

 

ついにその時が来た。

 

「終わりだ…」

闇の帝王が、そう口にしたと同時に背負っていた時計の針が一周した。

頭上には、巨大な氷塊が迫っているし巨大な炎塊も迫っている。

しかし闇の帝王は、それでも動こうとしなかった。

 

 

ゴーン…

 

ゴーン…

 

ゴーン…

 

ゴーン…

 

鐘の音が鳴り響き辺り半径1キロが暖かい光に包まれた…

 

「壁を張れ!大氷壁!!」

「分かってるわよ!獄炎の壁(ヘルファイヤーウォール)!!」

LORDと煉獄の女王が同時に巨大な壁を張った。

 

 

数秒後、光が晴れる頃には、闇の帝王を中心に半径1キロ圏内の全てが死んでいた(・・・・・・・・)

煉獄の女王の召喚した炎の軍勢(フレイム・アーミー)も、LORDの生み出したアイナと氷獄の地母神(ザ・マザー)も、大地そのものが死んでいた。

あらゆる生物と無生物に死を与え、有機物と無機物にも死を与えた。

死を与えられた全てが死んで砂となった。

更地となり凍らされた大地もLORDと煉獄の女王が召喚し呼び出した全てが砂に還った。

二人が必死の想いで張った壁すらも砂になった。

 

「相変わらずとんでもない奴だな…」

「ほえ~。さすがは、全盛期のあんたと互角なだけあるわ」

LORDの呟きに応えるように煉獄の女王が感心したような声を上げる。

その呟きに煉獄の女王を軽く睨むが、当の本人はそんな視線もなんのその、腕を組んだまま立っていた。

しかし、二人とも特に焦った様子もなく遠くで膝を突いて息を整えようとしている闇の帝王を静かに見ている。

 

「アレを倒す算段があるんでしょ?時間稼ぎくらいならやってあげるけど?」

「倒す算段は…あるにはある。が、俺一人では無理だし1分も隙を晒してしまう」

煉獄の女王がLORDに作戦を聞くが本人は、困ったような表情で頭を掻いた。

軽いストレッチをしている煉獄の女王が無駄に優秀な脳でLORDの望んでいる事を理解して顔を顰めた。

 

「ちょっと待って…まさか私にあのクソダサいポーズ(・・・・・・・・・・)を取れって言わないでしょうね?」

「他に案があるなら聞くが?」

「…ゼロとラグナロクの同時撃ちは?」

「さっき相殺されただろ?」

「うっ…!」

「一応言っておくが…ニヴルヘイムとムスペルヘイムの同時撃ちでも倒しきれないぞ?」

「ぐぬぬぬぬ…」

「俺の『王の中の王(キング・オブ・キングス)』とお前の『天上天下唯我独尊・極み(ザ・ワン・アルティメット)』の連携でも勝てないぞ?」

「むぅ…」

「他に何かあるのか?」

「………無い」

一番やりたくない手段以外に闇の帝王を倒す手段が無いと諭された煉獄の女王は、嫌々了承した。

 

「でも時間稼ぎは如何するの?あんたの騎士や私の兵士でも稼げて30秒が限界よ?」

「それなら大丈夫だ。もうすぐ時間稼ぎ要員が来るだろうからな…しかし、それまで俺達が時間稼ぎをしないといけないっぽいけど!」

「ひゃあっ!…ハァッ!!」

煉獄の女王の質問にLORDが答えると同時に拳を突き出す。

その拳がすぐ近く闇の帝王の拳と衝突して爆風を巻き起こす。

少し驚いた煉獄の女王が可愛い悲鳴を上げるが、すぐさま闇の帝王の腹に足蹴りを叩き込む。

しかし煉獄の女王の攻撃を片手で受け止めた闇の帝王が逆に攻撃をしかける。

 

「チッ!」

「ぐっ!」

しかし煉獄の女王に当たるはずだった攻撃をLORDが片手で受け止めてから本気の蹴りを叩き込み闇の帝王を引き剥がす。

後ろへ跳んで蹴りの威力を緩和した闇の帝王が大地に闇を広げ息を整えて上空に合図を送る。

 

「なんで庇ったの?」

「…ただの気まぐれだ」

「ふ~ん?」

煉獄の女王の質問にLORDが軽く返事を返す。

だが煉獄の女王は、LORDの様子がどこかおかしいと気づき始めた。

言い表すなら自分に視線を合わせようとしない所や自分に背中を見せている所など昔のLORDでは、絶対に有り得ないような事をしていたのだ。

もっと言うのであれば何故か頬が少しだけ赤い。

それを見た煉獄の女王がほんの少し口角を上げた。

 

「ちょっとだけ…勘違いしても良いって事かしら?」

「ん?なんか言ったか?」

「なんでも無いわ…馬鹿

煉獄の女王が最後にボソッと呟いた言は、LORDの耳に届く前に闇の帝王の起こした爆発音に掻き消された。

 

「来るぞ!」

「分かってる!」

LORDと煉獄の女王が指先に膨大なエネルギーを集中させて球体状に変化させる。

 

そしてそのままその手を…

 

 

虚無(ゼロ)…』

世界終焉(ラグナロク)!』

 

 

 

上に向けた。

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