なぜ二人とも上空に向かって技を放ったか?
その理由は、数秒後に曇天の空に掛かった分厚い雲を突き破って現れた。
現れたのは、直径数百メートルの巨大な黒い球体。
黒い雷雲の集合体であるそれは、直撃した場所を跡形も無く消し飛ばす威力を誇る。
その一撃の名は、雷迎。
雷禍がLORDと煉獄の女王に賞金を懸けた国に依頼されて放った一撃である。
一方、それを放った本人はと言うと…
「ああ…やっちゃった。30億貰ったとは言え本当に雷迎を撃っちゃったよ。LORDも大事なお客様なのに…一晩寝た仲なのに!くっそぅ…後で依頼して来たあの国を滅ぼそ。
遥か上空3000メートルから一人でブツブツと早口で捲くし立てて、さっさと帰った。
技を放った雷禍本人は去ったが、雷迎は未だに落下を続けている。
それに対してLORDと煉獄の女王が放った
雷禍が帰り闇の帝王がLORDと煉獄の女王を相手に再度衝突した直後に、純粋なエネルギーの塊である雷迎が
衝突の影響により轟音が轟き大気が震え蒸発した海が元に戻った影響で発生した大津波を爆風だけで押し返した。
しかし当の本人達は、大した影響も受けずに戦闘を続行した。
相変わらず規格外の戦闘。
赤と黒が尾を引きながら何度も漆黒と衝突し、その度に辺り一帯に消えない炎、溶けない氷、底なしの闇が飛び散って周囲を地獄へと変えていく。
闇の帝王が巨大な黒い渦を放つとLORDが口から冷凍ビームを発射して相殺する。
相殺時に起こった爆発に紛れて煉獄の女王が一気に近づきフレイムセイバーで斬り掛かるも闇の帝王がそれを片手で受け止めて闇がフレイムセイバーを浸食し始める。
フレイムセイバーが闇に浸食されている事を確認した煉獄の女王は、フレイムセイバーの刀身に膨大なエネルギーを流し込み闇の浸食を押し返した。
今まで見た事の無い闇への対処法に闇の帝王が驚き0.3秒の隙を晒してしまう。
その隙を突いて煉獄の女王が新しく作ったフレイムセイバーで闇の帝王の胸を斬りつけた。
フレイムセイバーに斬られた傷口から天照の黒い炎が燃え上がり闇の帝王の胸を焼き尽くさんと更に燃え上がるが本体を燃やす前に闇に阻まれ間一髪で防がれた。
それに気づいたLORDが攻撃を防がれた煉獄の女王の腕を引っ張り自分の下に引き寄せる。
LORDの胸にすっぽりと収まった煉獄の女王が一言文句を言おうと顔上げた瞬間、地面に投げ捨てられた。
その行動にわずかに殺意が湧いたが次に目に入った光景にその殺意が霧散した。
煉獄の女王が目にしたのは、闇の帝王がLORDの頭の角を掴み顔面に膝蹴りを決めている瞬間だった。
「ガフッ…!」
「LORD!!チッ!」
鼻血を垂らし口からも血を流しながら角を折られて飛ばされるLORDに対して煉獄の女王が悲鳴染みた声を上げる。
しかしすぐさま切り替えて目から超高温の熱線を放つ。
「カッ!」
「クッ!」
闇の帝王がそれを防ごうとするが、防ぎ切れないと察して手を捻り受け流す。
受け流した光線が後方の海に着弾し高さ100メートル越えの水柱を形成する。
だが、その程度の事に三人の誰もが気を向けず目の前の相手を殺そうと再度全力をぶつけた。
煉獄の女王が一瞬で自分の倍以上の長さを持つ炎の槍を形成する。
対する闇の帝王も闇の力を込めた剣を作り出した。
両者の攻撃の衝突を防ぐ為にLORDも慌てて厚さ50メートルの氷の壁を四方八方に作り出し氷獄の剣を呼び戻して構える。
「神々の王の慈悲を知れ。インドラよ、刮目しろ。絶滅とは是、この一刺!」
炎の槍に太陽の温度にも匹敵する高温が集まり始め周囲一帯の温度が急上昇を始める。
「『
それに対して闇の帝王が持つ剣に夥しい量の闇が集まり始める。
「氷獄最強の剣よ。この上ない相手だ。思う存分、汝の全力を振るうが良い!!」
LORDの詠唱に合わせて封印で雁字搦めにされた氷獄の剣の封印を解かれその剣身をコバルトブルーから純白へと変色させた。
神をも滅ぼす光の槍、黒い極光の聖剣、真の姿を取り戻した氷獄の剣。
どれもが神話や
消えない炎が掻き消され、溶けない氷が蒸発して、底なしの闇が消滅した。
その神話級の戦闘に世界の気持ちを代弁するかのように大気が悲鳴を上げた。
本来ならこの世に存在しないはずの
あってはならない現象に冷気を転生させた神すらも困惑している。
そんな神ですら理解の追い付かない戦いは、遂に最終局面を迎えようとしていた。
「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる
「甘いわ!」
「マズい!口寄せ!」
闇の帝王が詠唱を口遊み煉獄の女王の周囲に漆黒の壁が現れる。
それに対抗するように煉獄の女王が自らの腕を引き千切り、大地に手を向ける。
その二人の様子を見たLORDがすぐさま指の皮膚を噛み切り印を結び右手を地に着ける。
「タイタン!ハサン!氷河!」
『『『ハッ!』』』
口寄せの印が大地に広がると同時に地面が凍り付きその中から3体のカテゴリー5の氷人形が召喚される。
(転弧の所にはゼロが残っている。あいつ一人ならば30分くらい大丈夫だ…良し!イケる!)
1秒も掛からず思考を終えたLORDが召喚したばかりの氷人形達を自分を中心に四角形を作るように配置して思考を共有した。
「破道の九十・黒棺!」
「破道の九十六・一刀火葬!」
「黙って俺に合わせろ!四赤陽陣(氷)!!」
闇の帝王の放った攻撃により現れた巨大な黒い棺の形をした重力渦が煉獄の女王を包み込む。
煉獄の女王が同時に放った巨大な炎の刀身が闇の帝王を焼き尽くさんと燃え盛る。
両者の攻撃によるこれ以上の周囲への被害を抑えるためにLORDが厚さ50メートル高さ数百メートル以上の巨大な氷の壁を四方に作り出し両者を包み込んだ。
しかし、その氷の壁も5秒ほどで壊された。
LORDが壊された氷の壁を修復していき尚も黒棺と一刀火葬の衝突による余波を防いでいた。
やがて、技の衝突が終わり闇の帝王と煉獄の女王が姿を現す。
煉獄の女王が右腕を失い、肩で息をしていた。
まさに満身創痍と言っていいだろう。
一方の闇の帝王も全身に大なり小なり火傷を負っていたが、闇によって傷を癒し始めていた。
傷を癒した闇の帝王の表情には、まだ些かの余裕が感じられた。
煉獄の女王と闇の帝王の疲労とダメージの差は、歴然だった。
「良く闘った。称賛に値するぞ?」
「まったく嬉しくない…褒め言葉ね」
闇の帝王の言葉を受けた煉獄の女王が膝を突いて答えた。
闇の帝王が大して傷も無く立っているのに対し、煉獄の女王は膝を突いて息を切らし、右腕を左手で押さえている。
煉獄の女王が圧倒的に不利な中、LORDが動いた。
「今度は、俺が相手だ!!」
「LORD…!」
「チッ!厄介なのが来やがった!」
LORDが闇の帝王に拳を叩き込んで煉獄の女王から引き剥がした。
「お前との戦いには、これを使うって決めてた」
「あ?」
殴られた影響で数メートル飛んだ闇の帝王が綺麗に着地してから血を拭いLORDに右手を向けた。
闇の帝王の右手に徐々に闇が集まって行き、謎の
「ヤベッ!」
「逃がさん!
少しでも距離を取ろうとしたLORDを闇の帝王の右手に発生した引力が逃がさなかった。
引力に引き寄せられLORDの体が弓なりに曲がり闇の帝王の下へ飛んで行く。
「クソが!」
「捕らえたぞ!」
踏ん張っても引きずられたLORDが遂に闇の帝王に右腕を掴まれる。
それ同時に体から力が抜けていくのを感じた。
「力が…いや、個性を吸われる?」
「半分正解だ。では死ね!」
LORDの言葉に肯定の意を示した闇の帝王が開いた方の手にエネルギーを溜めて行く。
「デスシウムショット!」
「危なっ!」
闇の帝王が放ったカッター状のレーザーを発射するがLORDがその腕を掴んで軌道を逸らした。
逸らした先に遥か先にあった雲にレーザーが直撃して綺麗に消し飛んだ。
「うひゃー、やべぇな…」
「よそ見とはずいぶん余裕だな!」
あれが直撃していたら、と考えたLORDが惚けた声を上げる。
その隙を見逃さず闇の帝王が再びエネルギーを溜めて新たに技を放つ。
「暗黒弾!」
「よっと!」
LORDが闇の帝王の放った黒い弾を体を捩じる事で躱した。
躱された暗黒弾は、その勢いを殺さず後方に居た煉獄の女王へ向かった。
肩で息をしている煉獄の女王の下へ底無しの闇を込められた暗黒弾が向かっている。
煉獄の女王は、それを躱せるだけの体力が残っていない。