「LORD!貴様を捕らえに来た!…と言いたい所なんだが」
戦場にスーパーヒーロー着地してから立ち上がったオールマイトがLORDにピシッと指差したが、周囲を見渡して頭を掻く。
オールマイトが困惑するのも無理はない。
何せ現在の状況は、満身創痍のLORDが笑顔仮面を脱いで肩で息をしながら煉獄の女王と思われる赤髪の女性に支えられている。
その煉獄の女王と思われる赤髪の女性もLORDと同じく満身創痍の状態で向こう側に居る黒髪の男を睨んでいる。
そして、その黒髪の男も二人よりは幾らかマシだが両腕を折られているしLORDと同じく肩で息をしている。
オールマイトが出動要請を受けた時の報告と全く違っていた。
「一体どういう状況か教えてくれるかい?と言うか仮面を取ったんだね。安心しな十分カッコいいよ!」
「あ、ああ…ありがとう。状況説明だったな?まあ、簡単に言えば…俺と煉獄の女王が闘っていたら闇の帝王が来て戦いになって今に至るってわけだ」
オールマイトが状況説明を求めるとLORDが素直に説明した。
だがその説明には、色々と足りてなかった。
「いや、簡潔!?けど大体合ってるだけに質が悪い!」
だが色々と省られているので煉獄の女王が思わず素で突っ込んだ。
「き、君が煉獄の女王…かい?」
「そうだけど。なに?」
「い、いや…LORDと互角に渡り合った化物だって聞いてたから、凄いヤバいのを想像してたけど…結構普通になんだね?」
「化け物はアッチよ!って私の事は、どうでもいいかから闇の帝王の足止めを頼める?その後だったら逮捕でも捕縛でも何でもして良いからさ」
「うぇっ!?結構あっさりしてる…今まで聞いて来た煉獄の女王のイメージが崩れてく…」
煉獄の女王の態度にオールマイトの中で彼女のイメージが音を立てて崩れていった。
だが煉獄の女王も形振り構っていられない。
腕の中の
何とも乙女チックな理由でオールマイトに闇の帝王の足止めを依頼した。
「う~ん…残念だけど君達の言葉を信じる事は出来ないかな…」
「あっそ…」
しかしオールマイトは、そう簡単にヴィランの言う事を信用する事は出来ない。
それならばと煉獄の女王が少しだけ目を伏せてから口を開いた。
「なら…
「煉獄の女王の名の下にヒーロー.オールマイトに闇の帝王討伐の協力を要請する。対価として決着後、オールマイトの捕縛から護送中の期間、煉獄の女王は一切の抵抗をしない物とする。これを破った場合『煉獄の女王』は、その一切の力を失う物とする。対するオールマイトは、この契約の事を他言無用とする。この契約は、両者共に同意した瞬間から効力を発揮する」
煉獄の女王の言葉に合わせて空中に強力なエネルギーを発する一枚の真っ赤な契約書が現れ、甲の欄に『煉獄の女王』と、乙の欄に『オールマイト』と刻まれる。
「お前…!はぁ、仕方ない。
「氷獄の王の名の下にヒーロー.オールマイトに闇の帝王討伐の協力を要請する。対価として決着後、オールマイトの捕縛から護送中の期間、氷獄の王は一切の抵抗をしない物とする。これを破った場合『氷獄の王』は、その一切の力を失う物とする。対するオールマイトは、この契約の事を他言無用とする。この契約は、両者共に同意した瞬間から効力を発揮する」
驚いた様子で煉獄の女王を見たLORDだったが一つ溜め息を吐いてから同じように空中に強力なエネルギーを発する一枚の純白の契約書を作り出し甲の欄に『氷獄の王』と、乙の欄に『オールマイト』と刻まれる。
煉獄の女王と氷獄の王ことLORDが使ったのは、己と相手を魂の領域で縛る
契約に違反した者には、先に決めた罰が下る。先に罰を決めなかった場合は、耐え難い苦痛と共に命を落とす。
滅多な事で使われない
しかしオールマイトは、この契約書の効力を知らない。
「す、すまない。それは…一体何なんだ?」
「「これは、
オールマイトの質問に煉獄の女王とLORDが同時に答えたので声が重なった。
「ふむ…君達の覚悟は分かった。問題は、闇の帝王が本当に倒すべき相手かだけど…君達に協力すべき理由を説明出来るか?」
「俺は…煉獄の女王との闘いに…決着を着けられれば…それで良い。その後のヴィラン活動には…コフッ!興味無い。こいつもそうだ。だが、闇の帝王は…世界を自分の遊び場としか考えていない。それにあと数年で…この
「………」
LORDが所々息を切らし口から血を吐きながらした説明にオールマイトが手を組むメリットとデメリットを少し考え込んでから右腕を動かす。
「…っ!」
その動きに煉獄の女王が警戒を露わにしたがLORDが片手で制した。
「良いだろう…闇の帝王を倒すためならば、今回限りの共闘だ。次は無いから良く覚えておけ!」
「「契約成立…」」
オールマイトがサムズアップをしながらそう言い切ると
魂の領域で両者を縛る
「オール…マイトォオオ!!」
「むっ!!」
オールマイトと煉獄の女王、LORDの間で契約が成立した直後に闇の帝王が加速し三人に迫る。
「1分だ…1分だけ時間を稼いでくれ。1分だけ稼いでくれれば確実に闇の帝王を倒せる…任せたぞ!」
「ああ、任された!」
何とか立ち上がったLORDがオールマイトの肩に手を掛けて条件を告げるとオールマイトが了承し一気に飛び出した。
「DETROIT…」
「ダーク…」
あと数歩で衝突と言った距離まで近づいたオールマイトと闇の帝王が同じように腕を引いて拳を構える。
数瞬の溜めの後に両者が動いた。
世界最強の一角を担う闇の帝王の拳をオールマイトが文字通りの間一髪で躱し、その必殺の拳を顔面に叩き込んだ。
オールマイトの拳が闇の帝王に叩き込まれたと同時に先程の大激戦と遜色無い突風が巻き起こる。
オールマイトの拳の直撃を受けた闇の帝王が何度も地面をバウンドしながら100メートル以上の距離を吹き飛ばされてから止まった。
「………」
全盛期オールマイトの100%の一撃が完璧に決まった。
しかしオールマイトは、言葉に出来ない違和感を感じた。
まるで風船を殴ったような…否、少し違う。
例えるなら骨組みの入った水風船をタオル越しに殴ったような、捕らえたはずなのに今一その感触を捉えきれないような柔らかい物を殴った時のようにもどかしい気持ち悪い感覚だった。
確かにダメージを与えたはずなのに心の何処かで何かが違うと感じていた。
「コホッ…!コフッ!う~ん?ん~?…ペッ!…さすがは、オールマイト…と言ったところか?俺にまともにダメージを与えれたのは、光の皇女やLORDと煉獄の女王以外では…あの糸目の中華女を含めて、お前が2人目だ!」
口元を拭ってから血を吐いた闇の帝王が嬉しそうに笑ってオールマイトの下へと歩いて行く。
「そうか…!」
歩み寄って来る闇の帝王の姿を見てオールマイトが違和感の正体に気付く。
歩みを進める闇の帝王の傷から黒い靄が漏れ出ていた。
まるで闇の帝王の構成要素であるそれが漏れ出ているように傷口から空中に溶け出して行く。
「おっと、失礼」
傷口から漏れ出している黒い靄に気づいた闇の帝王が手を翳すと漏れ出ていた黒い靄が収まり傷口が塞がった。
「…それが君の本体かい?」
「う~ん?まあ、感じかな?俺は基本的には、純粋な闇エネルギーで構成されている。だから俺にダメージを与えられる存在は、本当に限られているはずなんだ。あの憎き光の皇女やLORDと煉獄の女王みたいに純粋な高エネルギーの塊のような個性持ちでも無い限り俺にダメージを与える事は出来ない…はずだ」
「だから本当に不思議で堪らないんだ。なんでお前が俺にダメージを与えれたのか?恐らくは、お前のその個性に関係するだろうが後で考える。だが!今は!純粋に!お前を殺したい!!」
更なるエネルギーを放出しながら闇の帝王が獰猛な笑みを浮かべた。
「行くぞ!」
「来い!」
お互いに相手の返事を待たず一気に駆け出した。
直後、辺り一帯に夥しい量のエネルギー衝突による突風が巻き起こった。
「余所見とは余裕だな!オールマイト!!」
「くっ!」
エネルギーの発生源を確認しようと、一瞬だけそちらに意識を飛ばしたオールマイトに闇の帝王の拳が迫る。
自分に迫る拳を体を捩じる事で間一髪で躱したオールマイトが闇の帝王の背中に蹴りを入れる。
「ガハッ!!!」
「まだだ!TITAN SMASH!!!!」
地面に沈んだ闇の帝王にオールマイトが追撃を入れるために拳を叩き込んだ。
その影響で爆発音にも似た轟音が鳴り響き、突風が吹き荒れ、地面に亀裂が走り、大地が陥没する。
「デスシウムショット!!」
「クッ!」
追撃をしようとしたオールマイトに地面から片手を出した闇の帝王が攻撃を仕掛けた事で失敗して飛び退いた。
「ハッ!」
「SMASH!!」
一歩退いたオールマイトへ追撃を掛ける為に闇の帝王が手に膨大な量のエネルギーを集中させて球体状に変化させ放つ。
オールマイトもそれをSMASHで迎え撃ち相殺する。
「CAROLINA SMASH!!!」
「影槍!」
オールマイトの放ったクロスチョップに対して闇の帝王が影から作り出した槍で迎え撃つ。
オールマイトの攻撃と影槍が衝突し影槍が吹き飛ぶが何とか攻撃を防ぐ事に成功した。
「中々やるな!」
「君こそ!」
その言葉を皮切りに一進一退の攻防が再開する。
LORDと煉獄の女王を相手にした影響もあり疲れの溜まっていた闇の帝王がオールマイトを相手に劣勢に陥っていた。
一方のオールマイトは、時間稼ぎでなく本当に倒す気で闇の帝王と闘っていたが今一決め手に欠けていた。
闇の帝王にトドメを刺すための一撃を叩き込もうにも少しでも隙を晒せば形勢が逆転してしまう。
「SMASH!!!!」
「ヌゥン!!」
空気の壁を蹴って空中で方向転換をしたオールマイトが闇の帝王をガードの上から殴る。
ガードした腕を折られた闇の帝王が折れた腕にエネルギーを集中させて回復しながらオールマイトの腹を蹴り上げる。
「ぐっ!?」
「せやぁっ!!」
ギリギリのタイミングでガードが間に合ったオールマイトが蹴りの衝撃で空中に浮いた。
その状態のオールマイトに闇の帝王が殴り掛かる。
「NEW HAMPSHIRE SMASH!!」
「チィッ!!」
攻撃が当たる直前でオールマイトが両腕を突き出しジェット噴射の容量で後退した。
その時発生した爆風で闇の帝王の視界が一瞬だけ潰されて大きな隙を晒した。
「SMA…ッ!!?」
「チッ…さすがにバレるか」
隙を晒した闇の帝王に更に追撃しょうとしたオールマイトが己の肩を抉られる姿を幻視して足を止めた。
一方、罠を張って待っていた闇の帝王は、全身に更に闇を纏いながら態勢を低くする。
「本気で行くぞ…」
「くれぐれも…死ぬなよ?」
態勢を低くして地面を這うような声で闇の帝王が忠告する。
「今まで本気では無かったのか!?」
オールマイトが驚いた様に口を開いた。
その直後に周囲一帯に膨大な量の闇が広がり闇の帝王の姿が闇に溶け込んだ。
「ククッ…暗黒からの攻撃に恐怖しろ」
「クッ!」
全方位から聞こえて来る闇の帝王の声にオールマイトが苦い表情を浮かべる。
「さあ、死ね!!」
そこからは、一方的な蹂躙が始ま…らなかった。
闇から現れた闇の帝王がオールマイトを攻撃するも、オールマイトが長年の勘と戦闘センスに物を言わせて闇の帝王の攻撃を悉く防いでいた。
闘いが再度拮抗しているように思われた。
しかし、防戦一方のオールマイトに対して闇の帝王は、一方的に攻める事が出来る。
オールマイトのダメージが少しずつだが確実に溜まり始めていた。
それでもオールマイトは、ギリギリで対応していた。
それもLORDの言った『1分だけ時間を稼いでくれれば確実に闇の帝王を倒せる』という言葉を信じているからだ。
確かにLORDは、世界最強のヴィランだ。
世界を絶望に叩き落した化け物でもあるし、複数の国家を相手に大虐殺も行った。
気に食わないという理由だけで一国の首相を殺した事もある。
しかし一度した約束は、不測の事態が無い限り必ず守る。
LORDは、なんやかんや言いながら信用に足る人物なのだ。
何が何でも1分、時間を稼ぐ。
そう覚悟を決めたオールマイトは、攻撃の僅かな間に体を捻らせ一気に回転した。
「…OKLAHOMA SMASH!!!」
「何!?回転だけで俺の闇を消し飛ばしただと!?」
回転の勢いでオールマイトを覆っていた全ての闇が吹き飛ぶ。
その事に闇の帝王が狼狽える。
「SMASH!!」
闇の帝王が狼狽えた隙を突いてオールマイトが拳を叩き込んだ。
「オラァッ!!!」
闇の帝王もそれに反撃するように殴り返した。
「「…ッ!!」」ギンッ!
両者が同時に相手を睨み、渾身の力を込めた殴り合いが始まった。
全盛期のオールマイトを相手に闇の帝王が互角に殴り合っている。
身長が2メートル越えのオールマイトと190センチ台の闇の帝王だからこそ有り得る殴り合い。
闇の帝王が身体能力を闇の力で強化しているからこそ有り得る互角の殴り合い。
お互いに一歩も引かずノーガードで行われる拳による純粋な根性比べ。
殴った拳から相手の骨が軋む音が伝わり、筋肉が切れる感触が走り、血が飛び散ろうとも、一切止まる気配を見せない。
完全に互角な勝負。
その速度は、残像がいくつも残る程の速度で行われている。
オールマイトは、No.1ヒーローとして。
闇の帝王は、裏社会最大一派のボスとして。
お互いに引けない理由を持つ漢の殴り合いは、更に激化していく。
一向に止まる気配が無い。
そして…
遂に…
1分経った。
オールマイトと闇の帝王が思わず攻撃の手を止めてしまう程のエネルギーが迸り、LORDと煉獄の女王の声が重なって響いた。
その瞬間、両者の身体が眩い光を放ち