俺は走った。
ひたすらに走り続けた。
今まで見たことのある妖怪。
初めて戦う敵。
戦っていた兵士達。
俺が走っているのは…死屍累々の戦場だ。
「……俺が本気になると…ここまで出来てしまうのか……?」
倒れた兵士も妖怪も皆例外なく息絶え、屍の山を築く程に、大量の死体が落ちていた。
戦いに参加した時、今までは遠くからちまちま狙うか、近くで脅しのような力を見せつけるだけだった。
そして今は、それを妖怪達にぶつけていた。
俺は恐怖した。
自分自身に。
兵士の死体は妖怪によるものだ。
けっして俺がやったわけではない。
しかし妖怪の死体は…俺が作った。
三十分、たったそれだけの時間で、数え切れない程の妖怪を殺した。
それ以外に方法がないからと、躊躇もなく。
俺が恐怖したのは、今の自分だ。
肉を抉る感触。
飛び散る血飛沫。
死を恐れる悲鳴。
それに動揺することもなく、平気で行う俺自身。
軟弱と思われるかもしれない。
しかし怖かった。
とても…怖かったんだ。
―――――
「母様!一刻もせぬ内に、先陣の者達は全滅!一人の人間が、減速せずに突破してきます!」
「……そうかい。なら、そろそろかねぇ?」
私はニヤリと笑みを浮かべた。
―――――
殺して殺してまた走る。
もはや俺は殺戮者だった。
誰も止められない災害。
妖怪からすればそれほどだろう。
それなのに疲労がない。
傷を受けることもなく、死体の山は増えていく。
引いてくれれば終わりなのに。
人間も妖怪も戦わなければいいのに。
そう思いながらもまた殺す。
それなのに、心は動かない。
これほど殺しているのに、何も感じない。
最初は何か思ったはず。
それなのに……
「なんだ、もう壊れてるじゃないかい。」
「………誰だ。」
「鬼さ。今回のことを始めた種族さ。人間の都市を奪うことは考えてなかったけどね。」
「…ならなんで攻めてきた。そちらから大勢で攻めてこなければ、お互い被害はなかったはずだ。」
「何故?…そうだねぇ…人間は鳥を狩って喰う。それと何が違う?」
「…………ははっ…そうか…端っから生物として違ったんだな……」
(そうか…だから殺すことに……)
日本で暮らす友人が見れば確実に悪役と思われる笑いをこぼしながら、俺はそいつに向き直った。
「……もう都市に人間はいない。お前らはどうするつもりだ?」
「これだけの被害を被って、収穫なしは笑えないね。」
「くくっ…そうだな。だがお前達に人間を収穫することはもはや不可能。そして…都市の技術を手に入れることも、もはや不可能だ。」
「やっぱりあんた捨て駒かい。一人でここまで出来る奴も少ないからねぇ。一人より多数を選んだわけだ。」
「…都市はもうすぐ消滅する。人類が産み出した最強の兵器、核によってな。」
「消滅ねぇ…その核ってのがどういうのかは知らんけど、その言い方だと都市全体、果てはあんた自身も巻き込む程のものなんだろうねぇ。」
「お前らに出来ることは、二つ。一つは間に合うか分からんが俺を倒して核を止めること。そしてもう一つは、このまま尻尾巻いて逃げ出すことだ。」
「そうかい。なら私の選択は合ってたわけだ。」
「選択?俺にばれずに都市に向かったとかか?無理だな。俺の索敵は都市まで届く。」
「違うさ。…既に私以外誰もいないのさ。この戦場は、私とあんたの二人だけ。」
「……鬼ってのは酒と戦いが好きだったな。」
「ああそうさ。最後に熱い戦いをしたかった。あんたが攻めて来てることを聞いて、ここが最後と思ったのさ。」
「そうか…最後か。そうだな。残念ながら心中してやることは出来ないが……」
「間際の望みは叶えてくれるんだねぇ。」
望みを探して生きる。
天使にそう言い転生した。
そんな俺には、こいつの言葉は重かった。
「良い顔になったね。倒しがいがあるってもんだよ!」
「これも望みの形か…」
「私は鬼子母神!全ての妖怪の頂点に君臨する者!生涯最後の戦いだ!存分に楽しませてもらうよ!」
「俺は筑城望だ!俺も楽しませてもらおう!」
互いに駆け出した。
―――――
接近と同時に互いが放った拳は、地面を抉る程の衝撃を放ちながら衝突した。
続けざま蹴りや殴打、双方接近戦主体が故に、その光景は喧嘩のようだった。
ただし威力が化け物なため、一帯は更地へと変貌しつつあったが……
双方避けることはしない。
相手の拳を、蹴りを、全て受け止め合っていた。
軽く人間の体を貫く手刀、妖怪を粉砕する殴打、地割れを起こす程の踏み込み、岩をも粉々にする蹴り。
それほどの威力の攻撃を、互いに避けることはない。
腹に決まろうと、心臓を穿とうと、骨が砕けようと、顔が歪もうと、受け続ける。
そうでなければ意味がない。
本気の戦いで、鬼が痛みを恐れるなど許されない。
望も付き合っただけではない。
覚悟を持った相手に対し、自分が恐れるのは情けない。
鬼と人間の代表、その戦いは、死に対する痛みをもって初めて完成する。
もはやそれは、プライドを賭けた戦い。
それが、鬼子母神の最後だった。
「はぁ……はぁ…やっぱいい奴だよあんた…付き合ってくれてさぁ…」
「はは…そうかもな…」
(死ぬ時は友達を庇い、今は都市を守って…)
「じゃなきゃこんなとこにいねぇよ。」
「……そうかい。」
笑みをこぼした鬼子母神は、回復が追いついていない腕を上げ、拳を構えた。
「もうこっちは瀕死さ。腕見りゃ分かるだろ?もう治らない。ここまでやられたのは初めてだ。だからこそ…あんたにだけは、私の最初で最後の本気を見せたい!鬼の中でも長にのみ伝わる奥義…『三歩必殺』…見せてやろう!」
「…そっちが奥義とやらを使うのに、こっちは受けるだけ…そんなのつまんねぇよな!?こっちもやってやるよ…全力でな!」
互いに構え、顔を見る。
どちらの顔も、笑っていた。
それが鬼子母神の最後の顔になった。
「『三歩必殺』……!」
一歩、踏み込み力を溜める。
二歩、拳に力を集約し振り上げる。
そして三歩、全てを放ち爆発させる。
それに相対したのは望我流の技。
奥義と呼ぶのも微妙、されどその破壊力は絶大。
奇しくも同じく溜めて放つ簡素なもの。
名を…
「『剛力打破』!」
力任せに腕を振るい、全力の殴打を見舞いする。
ただそれだけ。
しかしそれが凶悪な威力を持つ。
天使の条件により圧倒的なまでの霊力。
それを多量に溜めたものを、一瞬の内に解き放つ。
その威力は、『三歩必殺』でさえも、軽く凌駕してしまう程だった。
―――――
「……ははっ…最後に勝てない奴に会うなんてね…ここまでされちゃ降参だよ…」
倒れた彼女の腕は…いや、もはや半身すらもない。
生きているのは妖怪だから。
たったそれだけ。
再生する回復力もなく、体の半分は消滅。
それでも彼女は笑った。
悔いのない生きざまだったと。
「あんたは不死なんだろ?私は死ぬけどあんたは生きる。完敗だねぇ。戦士としても、生物としても。」
「いや…俺はさ…笑って死ぬなんて出来ねぇよ。死ぬのは怖い。今も思う。不死でも死んだことないんだよ。まださ。これから一度死ぬのかと思うと、すげぇ怖い。」
「はっ!まだまだ子供だね…死ぬのが怖いのは当たり前だ。でもねぇ悔いのない死に際なら、最後に出るのは笑みだけさ。笑って死ねりゃ勝ち組だよ。幸せだった証拠だ。だから私も、幸せだった…」
「そうか……」
二人には分からないが、起爆装置は起動済み。
後数分もすれば、ここら一帯の何もかもを飲みこんで消滅する。
だが二人はそれを知ってか知らずか、互いに最後の言葉を綴った。
「お前が次生まれ変わるなら……」
「私が生まれるまであんたが生きていたら……」
『次は
互いに笑ってそう言った。
次の瞬間、眩い光が辺りを覆った。
その光は、周り全てを飲みこみながら、笑顔の二人をも飲みこんだ。
収まる頃には付近には何も残っておらず、二人の人影も、当然のごとく無くなっていた。
3000文字越えたの初めてだ!生活記でも2000が限界だったのに!まああっちは原作の区切りで切ってるから仕方ないか…でもなんか嬉しい!とりあえず都市編終了ー!編分けしてないけどね?編分けは次の回からしようと思うので次回も試読?お願いします!編分けしてなかったのは忘れてただけです!ごめんなさい!