諏訪の知り合いに挨拶をして、百年ぶり程に旅に出た。
結果今どこにいるのか。
自分でも分からない。
適当に歩き周り、時に妖怪の相手をし、たまに熊やら猪を食い、渡り歩いて早数年。
「ここはどこだ…?」
森の中を数日間さ迷っていた。
そもそも方向音痴が旅をするのがおかしいのだ。
東西南北も分からない俺が、森を抜けるなど最早不可能。
途中の村も案内はなく、目的地など考えてない。
尸解仙の情報は皆無。
本当にうんざりする森の中。
「木登っても何も見えねぇ…」
見渡す限り森。
定期的に生物がいないか気配を探っているが、少しの気配もない。
「……ん?」
そう思っていたが、複数の気配がある。
勿論感じるのは妖力…妖怪だ。
普通の人間が森にいるわけもない。
「…ちょっと小突けば道吐くか…?」
俺は迷い過ぎて少し荒んでいた。
―――――
「あ?」
妖怪の群れは、互いに殴り合っていた。
十数人入り交じった大乱闘。
一体何をしているのだろうか。
『らあっ!』
『くたばれぇ!』
様々な怒号が飛び交う。
「マジで何してんだ?」
「あんた…人間かい?」
妖怪の一人が話しかけてきた。
頭から生えた一本の角、この容姿だけで、その妖怪が『鬼』だと分かる。
「お前がリーダーか?」
「りー…だあー…?よく分からないけど人間がここに何の用だい。」
「いや…ただ迷っただけなんだが…」
「…あたしらの長に感謝するんだね。母様は人間と戦うことを望まなかった。見逃してやるから行きな。」
「…傲慢だな。」
「…何だって?」
「人間が妖怪より弱い生き物とでも思ってるなら、改めるといい。早死にするぞ?」
もっとも、俺の知る妖怪は人間を対等に見た末に相討ったが。
傲慢は身を滅ぼす。
これは大和が当てはまる。
見下していた相手に敗北し、相手にもしなかった神に願った。
「なら試すかい?」
体中からかかる圧力。
流石鬼の威圧は並じゃない。
しかし…
「その程度なら能力はいらないな。」
その言葉に怒りを覚えたのか、全力で殴りかかってくる。
受け止めた俺の足場は、クレーターになっていた。
「…受け止めた…?」
『姐さんの拳を止めた…?』
『嘘だろ…?』
「次はこっちの番か…」
拳を振り上げる。
体制を整えずに放つ拳に力など入らない。
しかし、振り抜いた拳は、いとも容易く鬼の体を吹き飛ばす。
「!?かはっ…」
「軽いはずなんだがなぁ…加減効かなくなってきてるな…」
旅中もある程度修練を続けていたら更に強くなっていた。
能力はあまり変化はないが、腕力や脚力、およそ身体能力と呼べるものは年々成長している。
鬼といえど母神レベルでなければ相手にならない。
「ぐ…(力が入らない…)」
「まだやるか?別に殺すつもりはない。森を抜ける道を教えてくれればすぐに去るよ。」
『勇義から離れろ!』
「!?」
とっさに背後へ飛び退いた。
勇義と呼ばれた鬼の前には、小さい体躯の、二本の角を生やした鬼がいた。
「……小鬼?」
「誰が小鬼だ!あんたより遥かに年上だ!」
「年上って…お前五千歳には見えないけど…」
「五千…?人間がそんなに生きられるわけないだろ!それより…よくも祭りを邪魔してくれたな!?」
「祭り?」
「その上勇義をここまで…鬼は喧嘩は好きさ…だけど不意を突いていたぶるのは違う!地獄を見せてやる…!」
(…なんかデジャブ…)
具体的に言えば天照も似たようなことが…
「萃香…違…」
『死ねぇ!人間!』
か細い声で反対しようとする勇義に気付かず、少し巨大化した鬼はその拳を振り下ろす。
重量分、当然威力は増す。
結果…先の倍近いクレーターが出来上がった。
「それでも弱いな。」
「は!?」
鬼の体を片手で投げ飛ばす。
すると同程度のクレーターが出来上がる。
さっきより更に加減して、叩き付けるときに少し浮かせた。
「話しを聞け!」
「………」
「俺は森を抜けたいだけだ。忠告を聞かずに襲ってきた鬼のことなんか知るかよ。まだやるなら…」
『!?』
少し威圧をする。
「加減しねぇぞ!」
その場の全員が恐怖した。
全身が震えて、身動ぎ一つ取れない状態。
この程度なのかと、自分でも驚きを隠せない。
この妖怪達は、弱過ぎる。
「…それで…道教えてもらえるか?」
「(コクコク)」
二本角の鬼は、首を縦に振り応える。
やっと森を抜けられることに安堵したと同時に、若干罪悪感を感じた。
理由はともあれ勇義という鬼を殴り飛ばしたのは俺だ。
「…確か鬼は酒が好物だったな…」
「?」
能力で空間を固定、停止することで、少しの物質を持ち歩けるようにした。
そして村や町で色々買って入れといた。
常に能力を使っているが、不思議と披露はない。
天使が管理してくれているのだろう。
おかげでこういう時に役に立つのだ。
「ほれ。」
「…!こ、これは…?」
「迷惑料と案内代だ。そこのと二人で飲むといい。」
「あ、ありがとう…」
恐怖が大きい。
まあ知ったことじゃない。
どうせ森を抜けるまでの付き合いだ。
俺達は…二本角の鬼と俺の二人は、他を置いて森の外へ向かった。