早速聖徳太子の相談を行っているお堂へ来た。
そこには目を疑う光景が広がっていた。
とてつもない人の数、それこそ町のほとんどの人が来てると思う程の…おそらく百はくだらない。
「こんなん一日で終わるのかよ…」
そう思ったのも束の間、ものの一時間程度で、およそ五百近くの人間がその場を去った。
どうやら複数の人の声を聞く、というのも間違いないらしい。
しかし…神童と呼ばれる者であっても、人間の能力の限界は越えられないはず。
二つ以上の事柄、所謂『マルチタスク』と呼ばれる或いは能力と呼べることが出来る脳を持つ人もいる。
しかしそれは、実は『二つ以上』ではなく、『二つまで』のもの。
それ以上は脳自体に危険を及ぼす可能性があるのだ。
短時間だとして、よくて三つ、無理して四つ、そして聖徳太子なる人物は…少なくて十。
つまり彼女は、能力を用いてこれを行っているか、もしくは…人間ではないか。
「…ふむ…」
人でなければ、仙人として何百年か統治も出来るだろう。
しかし能力なら、失う損失は大きい。
「はぁ…面倒くさ…」
本人に聞く以外方法がないから、圧倒的面倒くささに悩まされる。
「答えてくれるか…?」
答えてくれることを切に願う。
―――――
『―――ま―な――ください!』
『太子様!是非私を門戸に…!』
『儂の腰は治るかいのう…』
等々、くだらないことや聞き取れないような声で様々喚く。
失礼とは思うが、正直半分近くは来る意味もないのでは。
近付くにつれ聞こえる言葉に、俺はどうしてもそう思う。
自分の番になり、何言おうと考えた俺は、ふと気になったことを軽く聞く。
『――!』
『――!』
「……聖徳太子は本当に馬小屋で生まれたのー?」
少し意地悪に、小さい声で言った。
俺は右端におり、回答は左端から行われる。
順に答えていく聖徳太子は、そのまま俺の問いに答える。
…思いがけない答えを。
「……その問いに答えるには、まず私の門戸になっていただきたいね。」
こんな簡単な問いで?
さっき門戸にしてくれとか言ってる奴、なんかすまん。
そう思いながら俺は応えた。
「断る。」
「……そうか。…そうだな…少し二人で話しがしたい。君、彼を屋敷に案内してくれ。私の屋敷に招待しよう。それならいいかい?」
「…分かった。話しくらいなら付き合おう。」
「感謝するよ。」
しかし初対面の俺が、いきなり屋敷に行くというのはどういうことなのだろうか。
―――――
「貴方が大使様のご招待を受けた方で相違ありませんか?」
「……ああ、うん、そう。」
団子食べてて忘れてた。
だって一時間経ってるし。
「ご案内します。こちらへ。」
言われるままに着いて行く。
途中にある家は歴史の教科書にいくらでも載ってそうな昔の家屋。
そして聖徳太子の屋敷も…これまた教科書に載ってそうな大きい屋敷。
「――」
『――どうぞ。』
門番さんに通してもらえた。
通されたのは畳の一室。
聖徳太子は…まさかの正座で待っていた。
お供は屈強な男一人。
「やあやあ待っていたよ。」
「…随分軽い…」
「向こうでは、少し気取った方が様になるからね。こっちが本来の私さ。さて…早速だが本題に入ろう。」
「何で呼んだ?初対面で何話すんだよ。」
「なに簡単なことさ。君だけ、とても異質な気配を感じた。」
直後に武器を構えた男が、俺に刃を向ける。
「可能性はいくつかある。仙人の類や、私のように特別な何か、もしくは…化生の者。」
「……何怪しんでるか何となく分かるけど…どれに近いかなら俺は…仙人かね?」
「仙人には、仙術なる異能があると聞く。見せていただけるかな?」
「…無意味もいいとこだな。妖怪も能力なんざ使える。それに妖怪は、そいつ一人じゃどうにもならない。」
「…これでもこの町の中では一番の兵だが…足りないと思うのだね?」
「そいつが十人いれば、一体程度なら狩れるんじゃないか?」
「……そうか。」
「それと、こっちも聞きたいことがある。」
「…ふっ…君に敵意がないことは分かった。聞きたいことがあるなら何でも言おう。」
「なら……お前の目的は?」
その一言で、聖徳太子は鳩が豆鉄砲食らったような顔になる。
記憶のための課題、もう直球に聞くしかない。
「…目的…とは?」
「悪いな。気になったもんで。」
「……すまない。君は席を外してくれるかい?」
「…分かりました。」
男が部屋から出ていく。
見送るやいなや、俺を問い詰める。
「目的の概要は?私が何をしようとしていると?民をも利用して、のしあがろうとしているとでも?一体、何を知っている?」
「…解脱。」
「…?」
「まだこの言葉は知らないのか…なら、輪廻からの脱却。」
「…!?」
「そうだな…輪廻から外れ、神の下へ向かう…ってとこか…いや、もしくは不老不死にでもなろうと?」
「……驚い…たね…何でも知っているようだ。」
本当に驚いたように、彼女は俺から身を引く。
どうやら当たりのようだ。
歴史の聖徳太子は、解脱の本を書いたという記述が確かあったはず。
その内容は読んだことないから知らんが、少なくとも聖徳太子が輪廻について調べた証拠ではある。
輪廻から外れ、救われること。
つまり生まれ変わることがなくなる。
何故望んだ?
生まれ変わることのない魂は一体どうなる?
ましてこの時代の人間が魂などという抽象的なものを信じるか?
違う。
死んだ後ではない。
生きている間を考えているんだ。
(さて…記憶のために協力してもらおうかね?)
………
???『御臨終です。w』