「不老不死なんてロクなもんじゃない。永遠に生きて、他者を見送り、感情さえ薄れるその体に、一体何の意味がある?」
「…私は別に不死を望むわけではないよ。ただ人の生死を…自らが望むことが出来ない不自由さが、ただただ気に食わないだけさ。」
「何故人は死ぬのか。『死』を運命付けられているのか。それが許せないと?」
「或いはそうかもしれない。その疑問を解くために、時間を欲しているに過ぎない。『死』という苦しみからの解放を望むが故に、『生』という苦しみを感受している。それが私の生き様だ。」
彼女はただ死にたくないという安易な考えではなく、別の目的を持って不老不死を望んでいた。
俺はどう答えるべきだろうか。
彼女の望む不老不死は、既に目の前にいるというのに。
「……ずっと苦しいのって…辛くないか?」
「…そうだね。でも…そこに救いがあるのなら、苦しみもまた美談になろう。」
「そうか。」
俺は俺の疑問も大体解消したところで退散しようとしたのだが、太子に呼び止められた。
「時に一つ、気になったことがあるのだが…」
「ん、何だ?」
「どうして君からは欲が聞こえない?」
欲を聞く。
恐らくそれが彼女の能力。
複数の声を聞き取る聴覚?
違う。
平たく言ってしまえば、読心術が能力なのだろう。
他者の声、態度から心を読み、望む回答を行う。
まあ複数の声を聞くというのも、やはり能力の一つ…いや一部なのだろう。
「欲ね……ないよ、そんなの。」
「む?そんなはずはないだろう?人は欲深い生き物だ。何も望まず、得る物もなく、なあなあと生きるなど、傀儡と大差ない。君は…君からは、何の目的や野心も読めなければ、眠気や空腹といった浅い感情さえ読めない。君は人間ではないのか?」
「…人間…ね。」
不老不死は人間なのだろうか。
この体になってから…いや年を経る毎に、感情が薄れている。
それは確かだ。
しかしそれでも、団子を食べたい、などの簡単なことは考える。
何故感情が読めないか。
仮説があるとするならば…
「いや能力が効いてないだけじゃね?」
正直そう思った。
確かに感情は薄いが、人並みの欲求はある。
でなければ団子の爆食いなどしない。
「もしかしたら…霊力に差があると読めないのかもな。」
「…霊力?」
「いや、何でもない。まあ気にするな。さて…そろそろ帰るかな。」
「もう帰られるので?」
「ああ…そうだ!なぁお前神子って知らないか?」
そもそもの目的を忘れて帰るところだった。
ギリギリ聞くに至ったが、彼女の口からは以外な答えが返ってきた。
「…それが名であるなら…私のことだろう。名前は教えてなかったね。私は豊聡耳神子。君の探している神子というのは 、恐らく私のことだろう。無論違う可能性もあるが…」
「…まじか…」
思わぬ収穫とはまさにこのこと。
となれば目的の達成…不老不死?
(無理じゃね?)
はっきり思う、無理だろうと。
そもそも不老不死の存在など自分しか知らない上、俺は転生したのだ。
なら一回死ねばなれる…わけもない。
第一これは特典のようなもの。
自殺したって得られるものでもない。
「……」
「どうされた?」
「…いや…」
やはり無理だろう。
達成不可能だ。
俺は若干諦めていたが、これを設定した天使なら何か知らないかと問いかけてみた。
(なあ、どうすればいいんだこれ?不老不死とか絶望的だろ。俺は何考えてたんだ?)
『ああー…実際無理じゃないんだけど…不老不死に近い存在に彼女がなるのは、もっとずっと先ね…このまま課題進まないのもまずいし…課題の順を変えようかしら?』
(出来んのか?そんなこと…)
『誰が課題を選んだと思ってるの?書いたのは貴方だけど時系列にしたのは私よ?それがミスってたなら簡単に直せるわ。』
(……)
わりと何でも出来る存在が身近にいるものだ。
一応この世界の神相当なだけある。
(まあ改変は任せる。課題の紙もくれよ?)
『はいはい、分かった分かった。任せなさい。』
「…悪いな。ちょっと考え事してた。聞きたいこともとりあえず終わったし…そろそろ行くよ。」
「そうか…一つ、君にも伝えておこう。」
「あ?何を?」
「……私は近々いなくなるだろう。青娥という者から、道教という不老不死を研究する教えを聞いたのだ。」
「…別に消える理由にはならないんじゃ…」
「既に体が崩壊を始めているとしても、か?」
「…は?」
俺はすぐに肌の露出している部分を見渡すが、そんな様子はない。
となると内臓や脈がおかしいのか。
「すぐに消えるわけではないさ。しかし…私は不死を求め過ぎた。そのあまりに、様々なものを取り込み過ぎたのだ。」
「…死ぬのか?」
「…ふっ…私が死を嫌うのは今日分かったはずだ。…死ぬ気はない。それに青娥殿より延命の術も聞いている。私は尸解仙となろう。」
「尸解仙?」
「まあ簡単に仙人とでも考えるといい。細かい説明は意味を成さない。死ぬのではなく眠るのだ。いずれ私を求む者らが現れるまで…」
「……まあ好きにしろよ。俺にはそんな関係ないし。でも…いつかまた会えるだろうな。」
約束された再会。
課題を後回しに出来るなら、再び会うことは確実。
これは絶対の事柄なのだ。
だからこう言う。
「またな。」
「ああ。またいつの日か…」
俺は翌日、早々に旅に出た。
用が済んだのもあるが、神子と話す楽しみを先の方へとっておく。
嗤い歩く俺は、また一つやることを作るのだった。
夜書くと変なこと書いてる気になる…不安になるの…分かる人いるよね?