「これは…」
私は紫様の話しを聞き、主の命を受けこの地へ来た。
そこにあった光景は悲惨なもの。
血に塗れた神妖、重なる屍の山。
これほどの被害が出ているというのに、何故戦を止めないのか。
「……しかし…何かおかしいですね…」
私の知る限り、神側から鬼に戦を仕掛けることなどありはしないだろう。
しかし鬼も、元より戦力に差があり、尚且つ主に打ちのめされた四天王の不参加。
勝ち目のない戦を発起させるわけもない。
とはいえ操られているわけでもなさそうだ。
他者の操作であそこまでの繊細な動きは不可能。
「お互いに事情があるとしか…」
天照様からの連絡が途絶えていることも気になる。
このような戦を、紫様から知るのが一番速いなどあり得ない。
「天照様…月読様…どうかご無事で…!」
この戦に割って入れる程、私は強くない。
祈ることしか出来ないことに、私は不甲斐ない思いだ。
―――――
「チィ…夢花!」
「望兄ぃ!」
思いの外長い空間。
その出口に到達する前に、俺は夢花を抱き抱えた。
「…とっ…」
「着いたの?」
「主様!お待ちしておりました!」
「紫の奴…お前を座標扱いしたな…?」
「それよりも…私の見た限りの報告を…――」
―――――
「うーん…よく分かんねぇ…俺も同感だしな…」
「あの…どこを見ても萃姉ぇも勇姉ぇもいないの…」
「そうか…実は月読や天照も見当たらないんだ。」
「私達の知る方々は…恐らくですが、誰も参加していないのでしょう。」
「となると…いくつか可能性が見えるな。」
下級に位置する連中の反乱。
お互いに絶対に勝たなければならない事情。
…鬼の四天王や、神々のまとめ役達の弔い合戦。
他にもあるだろうが、このようなことがなければ戦争なんて起きないだろう。
「……待てよ…?」
「!主…様……」
「どうした?」
「天照様との…契約が……」
「!?」
(…嘘…だろ…?何で…?そんな…それじゃあ…!)
「…天照様との契約が切れるのは…天照様が私を解放した時と…亡くなった時だけ…です…」
「…すぐに…あいつらのところへ…紫!」
「…ええ。」
―――――
「月読!諏訪子!天照は!?」
「望!?何故…」
「今はそれより天照だ!あいつはどこだ!?」
「……そうか…お主…天照はこっちじゃ。今は床に伏せっておる。」
「……何があった?」
天照の元へ向かうまでに、俺達は話を聞くことにした。
あまり長くない道程で、月読が端的に説明していく。
「…単純なことよ…妖怪による暗殺じゃ。未遂だがの。神と言えど、急所はある。首を切られれば即死。心臓を穿てば瀕死。毒を飲めば衰弱。人と変わらぬ。」
「天照……」
「ここじゃ。…望よ。どうか…助けてくれ。永琳の居らぬ今、お主以外に救えるものは…いや…可能性のあるものはいなかろう。」
「…外の戦争は、お前が首謀者か?」
「……」
月読は首を振る。
つまりこの戦争に、月読や諏訪子、神奈子達は関与していない。
「とにかく天照を見てくれ。話しは後にしよう。」
「…ああ。」
―――――
「天照の暗殺に来たのは、小型の人形神じゃ。」
「人形…神…?」
「それって…私が造った…」
「いや…夢花は俺達の近くにずっといた。妖怪が制作法を知ってるとも思えない。まさか…」
「その通り。真の敵は…『人間』じゃ。」
「人間が…」
「天照の胸から腹にかけて、大きく切り傷がある。確認してみよ。」
「いや、大体判ったからいい。小型の人形神の形態変化、一部の巨大化による串刺しってところか?」
「早くて助かるの。しかし足りん。現れたのは血の人形神じゃ。ただの傷なら、時間が経てば再生する。しかしその血は、妖怪の血じゃ。神にとっては毒の塊。どうにかそれさえ取り除けば…天照は生きる。」
「……妖力…か…やってみよう…!」
座標の指定、消滅する物の指定、白のキャンバスに描くのは…内臓。
存在の一部を…一つを消滅するなどまだ試していない。
それをやるには、まだ技術が足りない。
ならば、全てを消して再生する。
失敗すれば死、成功しても…しばらく安静だろう。
「…死ぬよりゃましだと思えよ…!」
『消滅』指定:切り傷の範囲全て
『創造』指定:消滅した箇所全て
―――――
戦争の始まりは天照の仮死。
毒によって倒れた天照の弔い合戦に他ならない。
天照が起きれば、戦争は終わる。
問題は…やったのが人間ということ。
「心当たりはないのか?」
「なくもない。妖怪を信仰する変わり者も…多くはないが少なからずおる。特定するだけ無駄じゃな。」
「だからと言って放置するわけには…」
「無駄じゃ。人間が一番欲深い。此度のことも、妖怪を信仰する余りの凶行か…はたまた神を蹴落とすという思想か…いずれにしろ永遠の問題じゃよ。今は戦争を止めることを考えてくれ。」
「天照が起きるまでの時間稼ぎか?」
「いかにも。妖怪側も、我々が攻撃を止めれば止まるだろうて。消耗は避けたいはずじゃ。」
「……主様よ。夢花の親…萃香殿の力を借りれば、妖怪を止めることも出来るのでは?」
「…そうだな。神側は天照が、妖怪側は鬼の四天王が、それぞれ止める。なら俺は交渉に行ってこよう。」
「待て!夢花や萃香とは何者じゃ?鬼のしたっぱなのか?」
「あー…お前らが煩いと思って連れてこなかったんだよ。今は紫と待ってる。鬼の子供だよ。萃香は四天王。」
「なんと!やはりお主は数奇な運命を持っておる…なら望。全てお主に任せる。三度我らを救ってくれ。」
「任された!なに…鬼子母神と戦うよりゃましだ。」
「頼んだぞ…」
白亜視点短かった~。人形神のことで少し補足。墓の土から造られる人形なので、土に毒を混ぜる製法も存在します。他を混ぜても造るのは難しくないでしょう。