「……」
私は伊吹萃香…鬼だ。
立場はそこそこ高いくらいのもの。
しかし…私は弱い。
強くなったと勘違いしていただけの、井の中の蛙に過ぎなかった。
強大過ぎる存在に、ただの気迫で恐怖した。
強くならなければならない。
仲間を護るために。
鬼の頂点の一人として、もう敗けないように。
「……」
「へぇ…貴女が萃香ね…」
「!?」
私は咄嗟に飛び退いた。
今は少し考え事をして休んでいたため、油断もあっただろうが…いきなり真横に現れるなど部活では。
そう驚いていると、飛び込んでくる影が一つ。
「萃姉ぇ!」
「おおぅ!?…?えっと…?」
「…成長してて分からないのね。その子は凡そ二十年前、望が貴女達を蹂躙した日辺りから消えた鬼の子よ。」
「!それじゃあ…!」
「ただいま!」
「……」
「ふゃ!」
「おかえり…!ずっと心配してたんだ…!」
「……うん…」
「(…まるで本当の親と子ね…)」
私とこの子は、見られてることも気にせず、お互いに泣きながら抱き合った。
―――――
「そういえば貴女…何でこの子に名前を付けなかったの?」
「?ああ…あの時の人間が付けてくれたんだったね……あの子は人間の頃のことで、いくつか問題があったんだよ。」
「問題?」
「人間の時から、あの子に名前は無かったんだよ。だから…自分の名前を知らないどころか、名前の概念も知らなかった。」
「どう呼んでたのよ?」
「…色々。とにかく、呼ぶのに不便なこともなかったし、なあなあとしてる内にいなくなってね…凄く心配してたんだよ。」
「……その姿で親っぽいのちょっと面白いわね…」
「…それで、何でここに?再会のためってんじゃないんだろ?」
「そうね…本題に入りましょうか…」
―――――
「なるほどね…鬼の縄張りで下級妖怪共が好き放題ねぇ?」
「下手したら全滅しかねないし、少し事情があってね。出来れば止めてほしいのだけれど…」
「当然。私や勇義がいない中、そんな勝手は許さないよ。神さえいなきゃ問題ない。」
「そっちはどうにかするわ。」
「なら任せるよ。行こうか。」
下級の妖怪がどうなろうと別に構わない。
しかしそれなら何故ここまで積極的に止めようとしているのか。
一重にあの人間のためだ。
怒りの矛先が私達に来たら、躊躇いの欠片もなかったら、鬼が束になって勝てないんだ。
妖怪の絶滅は免れない。
つまり私に、選択肢はなかった。
(まぁ……)
「~~♪」
「…ふふっ…」
(この子の悲しむ顔は見たくないからね…)
あの時の人間…望が助けてくれた。
ならこれは、鬼の恩返しと言ったところか。
(勇義も連れて来ればよかったかな?)
―――――
「これは…!?」
「酷い有り様だねー…」
眼前に広がるは、死屍累々の妖怪達。
中には死んでいる者もいるようだ。
「…望…?」
「あ?紫か…その二本角の鬼が萃香か…」
「望兄ぃ…?あれ…?」
「………夢花。」
「?」
「お別れだ。」
「え…?」
「紫。お前の理想のために、俺は
「私のせいで…?…望…それじゃあ…貴方は…」
「お前のせいじゃないさ。時間があれば争いはなくなったかもしれないんだ。ただ俺は、早くお前の世界を創りたかった。」
「神も妖怪も人間も、争うことのない世界…そのために、妖怪を殺したんだねぇ…?」
「ああ。…恨むか?そりゃそうか。鬼子母神のおかげで…いや、俺のせいで人間を喰わなかったお前達を、嘲笑うかのように殺したんだ。」
「そうだね…夢花、紫。離れてな。」
「萃姉ぇ…?」
「一発殴らせろ。それでいい。」
「分かった。能力も防御もしない。」
「ちょっと!?鬼の拳を生身で受けたら…!」
「覚悟の上だ。」
「…四天王奥義…『三歩壊廃』!」
鬼子母神にも届きうる一撃。
間違いなく死ぬことだろう。
「安いもんだ。」
辺りに衝撃が轟く。
土煙が晴れる頃には、望の体は…人の体を成していなかった。
望死ぬの何気二回目?