罪を犯した。
月でさえ禁じられた最悪の罪を。
しかし罪はそれだけではない。
数々の人の人生を狂わせ、一人の少女の肉親さえ奪ってしまった。
狂わせた人の中には、彼女と同じ境遇の者も少なくないだろう。
救う力を持ちながら、計算と怠慢で死を眺め、罪に見向きもしない。
「ならこいつだけでも世話するか…」
償いには程遠かろうと、救いを求める手を払い除ける程に人間性は失わない。
手を伸ばす者がいるなら、手を掴む者がいてもいいだろう。
―――――
(しかし償う気にはならないんだよなー…)
あれだけのことがあり、責任の一端は自分にあるくせして、俺に罪の意識は欠片もなかった。
人間性を失いきるつもりはないが、無意識に失いつつあるのは自覚出来る。
少女を助けたのさえ、その一線を作るための打算に過ぎないのかもしれない。
世界が変わり、歳をとり、そんな考えを持つ自分に嫌気が差す。
「…不思議なもんだな…」
平和な日本でただの学生をしていた過去。
人の生き死にを嘲て打算的に生きる現在。
自分の生き様を漫画や小説で読むのなら、過去と今でどれ程感情の差があるだろう。
それほどまでに、『俺』という存在は変わっている。
「姉も似たようなもんだったんかね…?」
―――――
「ん…」
「お、起きた。」
「ここ…?」
「……うん。意識もはっきりしてるし…言葉も問題なさそうだな…体に痛みや違和感は?」
「え…えっと……大丈夫…です…」
「そうか。良かった…ていうのも違うか…」
治ったとはいえ人生が狂ったことに変わりはない。
これからの目処も立っていない。
子供一人面倒見るくらいなら問題なくても、彼女は藤原の娘(おそらく)だ。
恨みや復讐心をむけられてたらどうにもならない。
しかも体は半ば強制的に不老不死に。
「………」
「あの……」
「……色々あるんだが…まず自分の状況が分かるか?」
「…確か…大人の人に飛びかかって…山から…転がり…落ちて………」
「なんとなく分かるみたいだな。」
「……何で…私…無事で…!」
静かに涙を溢す。
一体何で涙を流したのか。
不老不死に。されたから?
死ぬことが出来なかったから?
生きたことに喜んで?
「お前…藤原の娘か?」
「…」
泣きながら頷く。
「藤原は?」
「……」
沈黙…答えは死か、あるいは行方不明か。
とにかくこの子に身寄りはない。
「……もう分かるだろうが…お前は不老不死になった。何をしようと死ぬことはない。」
「……やっぱり…あれは…」
「藤原の娘なら知ってるか。知らなくても無理ないんだけどな…」
「…私は…かぐやが許せない!」
「!?」
「あいつの我儘で…あいつがいるせいで…友達も…お父様も…全部…!」
「……」
「だから…お父様から教えてもらった薬で…あいつを殺すために…!」
「それであんな無茶をねぇ…」
「おかしいですか!?私が大好きな人達を…全部…!全部!」
「望んだのは輝夜だけじゃないがな。」
「!」
「町民が、帝が、藤原が、誰もが望み、命を差し出した。お前がそう言うのは…それこそ我儘だ。」
「…それでも…!」
「…何なら俺も同罪さ。いや…一番罪深いかもな。」
「…違う…貴方がどれほどのことをしようと、余所者の貴方が何もしなくて、それで攻められる謂われはないはずです。」
なんか賢そうなことを言い始めた。
彼女の言い分では、あくまでも輝夜が全部悪いと言うことらしい。
余所者の俺が何をしようと、原因は輝夜ただ一人…あいつがいなければ襲われることもなかった。
町民や帝までも庇ったが、輝夜を守って死ぬ人を見た。
人の死を見て、父の死も触れ、輝夜への憎しみは溢れた。
その結果が復讐心に燃える子供。
「……だから私は…あいつを見つけ出して殺してやる…!」
「はぁ…悲しいな…」
「……」
「子供が囚われることじゃないよ。復讐なんて。」
「それでも…私は…」
「…なあ。一緒に旅をしないか?」
「旅…?」
「ああ。広い世界を見て、色んな人とあって、復讐が全てじゃないって…そう思ってほしい。」
「……」
「復讐心じゃ生きられないよ。例えそれが果たされても、待っているのは孤独で虚しい暗闇だけだ。子供の時からそんなもの…囚われていいわけがない。」
「……どうせ不老不死なんだから…復讐の前に、未練をなくすのもいいかもしれませんね…」
少しの笑みをこぼしながら、少女は俺に付いて来ることを決めた。
「目一杯楽しめ。広い世界を見せてやるよ。それこそ…復讐なんてどうでもよくなるぐらいにな。」
「これからよろしくお願いします。」
年齢は…十五位で。