東方白望記   作:ジシェ

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四十八話 ~悪鬼と旅人~

罪を犯した。

月でさえ禁じられた最悪の罪を。

しかし罪はそれだけではない。

数々の人の人生を狂わせ、一人の少女の肉親さえ奪ってしまった。

狂わせた人の中には、彼女と同じ境遇の者も少なくないだろう。

救う力を持ちながら、計算と怠慢で死を眺め、罪に見向きもしない。

 

「ならこいつだけでも世話するか…」

 

償いには程遠かろうと、救いを求める手を払い除ける程に人間性は失わない。

手を伸ばす者がいるなら、手を掴む者がいてもいいだろう。

 

―――――

 

(しかし償う気にはならないんだよなー…)

 

あれだけのことがあり、責任の一端は自分にあるくせして、俺に罪の意識は欠片もなかった。

人間性を失いきるつもりはないが、無意識に失いつつあるのは自覚出来る。

少女を助けたのさえ、その一線を作るための打算に過ぎないのかもしれない。

世界が変わり、歳をとり、そんな考えを持つ自分に嫌気が差す。

 

「…不思議なもんだな…」

 

平和な日本でただの学生をしていた過去。

人の生き死にを嘲て打算的に生きる現在。

自分の生き様を漫画や小説で読むのなら、過去と今でどれ程感情の差があるだろう。

それほどまでに、『俺』という存在は変わっている。

 

「姉も似たようなもんだったんかね…?」

 

―――――

 

「ん…」

「お、起きた。」

「ここ…?」

「……うん。意識もはっきりしてるし…言葉も問題なさそうだな…体に痛みや違和感は?」

「え…えっと……大丈夫…です…」

「そうか。良かった…ていうのも違うか…」

 

治ったとはいえ人生が狂ったことに変わりはない。

これからの目処も立っていない。

子供一人面倒見るくらいなら問題なくても、彼女は藤原の娘(おそらく)だ。

恨みや復讐心をむけられてたらどうにもならない。

しかも体は半ば強制的に不老不死に。

 

「………」

「あの……」

「……色々あるんだが…まず自分の状況が分かるか?」

「…確か…大人の人に飛びかかって…山から…転がり…落ちて………」

「なんとなく分かるみたいだな。」

「……何で…私…無事で…!」

 

静かに涙を溢す。

一体何で涙を流したのか。

不老不死に。されたから?

死ぬことが出来なかったから?

生きたことに喜んで?

 

「お前…藤原の娘か?」

「…」

 

泣きながら頷く。

 

「藤原は?」

「……」

 

沈黙…答えは死か、あるいは行方不明か。

とにかくこの子に身寄りはない。

 

「……もう分かるだろうが…お前は不老不死になった。何をしようと死ぬことはない。」

「……やっぱり…あれは…」

「藤原の娘なら知ってるか。知らなくても無理ないんだけどな…」

「…私は…かぐやが許せない!」

「!?」

「あいつの我儘で…あいつがいるせいで…友達も…お父様も…全部…!」

「……」

「だから…お父様から教えてもらった薬で…あいつを殺すために…!」

「それであんな無茶をねぇ…」

「おかしいですか!?私が大好きな人達を…全部…!全部!」

「望んだのは輝夜だけじゃないがな。」

「!」

「町民が、帝が、藤原が、誰もが望み、命を差し出した。お前がそう言うのは…それこそ我儘だ。」

「…それでも…!」

「…何なら俺も同罪さ。いや…一番罪深いかもな。」

「…違う…貴方がどれほどのことをしようと、余所者の貴方が何もしなくて、それで攻められる謂われはないはずです。」

 

なんか賢そうなことを言い始めた。

彼女の言い分では、あくまでも輝夜が全部悪いと言うことらしい。

余所者の俺が何をしようと、原因は輝夜ただ一人…あいつがいなければ襲われることもなかった。

町民や帝までも庇ったが、輝夜を守って死ぬ人を見た。

人の死を見て、父の死も触れ、輝夜への憎しみは溢れた。

その結果が復讐心に燃える子供。

 

「……だから私は…あいつを見つけ出して殺してやる…!」

「はぁ…悲しいな…」

「……」

「子供が囚われることじゃないよ。復讐なんて。」

「それでも…私は…」

「…なあ。一緒に旅をしないか?」

「旅…?」

「ああ。広い世界を見て、色んな人とあって、復讐が全てじゃないって…そう思ってほしい。」

「……」

「復讐心じゃ生きられないよ。例えそれが果たされても、待っているのは孤独で虚しい暗闇だけだ。子供の時からそんなもの…囚われていいわけがない。」

「……どうせ不老不死なんだから…復讐の前に、未練をなくすのもいいかもしれませんね…」

 

少しの笑みをこぼしながら、少女は俺に付いて来ることを決めた。

 

「目一杯楽しめ。広い世界を見せてやるよ。それこそ…復讐なんてどうでもよくなるぐらいにな。」

「これからよろしくお願いします。」

 

 




年齢は…十五位で。
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