東方白望記   作:ジシェ

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編集から投稿まで3日空けてたー…


四十九話 ~辺境暮らしの不死人~

少女を連れ旅に出た。

字面だけみると拉致だが、しっかり本人も承知の上だ。

まずは森へと入りこんだ。

誰の目にも留まらないように、人気のない森林へ。

川を見た。

動物を見た。

崖からの絶景を見た。

森の中、魚や木の実を主食に、俺達二人は暮らしていた。

気付けば森で暮らし始めてから、一月が経とうとしていた。

 

「人里離れた辺境で暮らしてるわけだが…まだ憎いか?」

「…少し忘れて楽しい…けど…忘れられません。」

「……」

 

やはり子供とはいえ、憎しみを幸福とすげ替えるのは難しい。

洞窟暮らしで主食は木の実、村での一般的暮らしを考えると、子供ながらに不満を溢さない分偉い方だ。

しかし困った。

この子も不老不死になった以上、可能ならば幻想郷に行ってほしい。

紫の話を永琳達にしたということは、幻想郷で輝夜とこの子が会う可能性は大いにある。

その時がいつかは分からないが、数百年経ってもこの憎しみが風化しないのなら非常にまずい。

下手をすれば幻想郷でいつも殺し合いをする関係になってしまう。

 

「………」

「あの…」

「ん?どした?」

「…私のやろうとしてること…間違ってますよね…?望さんが悩んでるのだって…私のためなんですよね…?」

「あー…まあそうだけど…」

「…私は…やっぱりまだ憎い。輝夜を許すことは出来ない。けれど…望さんに、私のために悩んでほしくないんです。」

「……」

 

森で暮らした一月、この子の性格はある程度分かった。

基本的にめちゃくちゃ良い子なのだ。

第一に他人のことを考え、憎悪の感情さえ振り切れず、更には動物を狩ることさえ躊躇し、あまつさえ過去の行動に罪悪感を覚える。

実を言うと魚をこの子は一度も採っていないのだ。

 

「…でも子供が遠慮するもんでもないな。」

「え?」

「こうゆう悩みは大人にしか出来ないんだよ。まして育てるって決めた以上、お前はもう俺の子供みたいなもんだ。子供のために悩むくらいさせてくれ。」

「……」

 

まあ名前すら教えてもらってないが。

そろそろ名前を教えてほしい。

一月名無しだった。

自分のことを死んだ扱いにするために、また過去にすがらないために、名前を捨てることを決めたらしい。

正直俺にはよく分からない…が、そうしたいならそれでいい。

俺は親になっても子供の好きにさせるだろう相手いないけど。

 

「…望さん。改めて…ありがとうございます。」

「…どういたしまして。でも敬語はいらないぞ?」

「あ…ありがとう…?」

「はは…何で疑問なんだよ。」

 

―――――

 

暮らし始めて半年が経った。

未だに名前のない少女と暮らしている。

親代わりとして俺が名前付けるのも提案はされたが…やはり本当の亡き父親に申し訳ない。

改名や偽名にしろ、自分で考えるべきだ。

そんなことを考えながら、熊よろしく鮭を打ち上げる。

 

「これぐらいか…」

 

この半年、多少は場所を移した。

結果これは食糧ではなく、売却用となった。

人里を見つけたのだ。

凡そ50km地点に村があり、そこで食糧や衣類を買っている。

その金銭の回収のために魚を売るのだ。

 

「今日は土産も買ってくか…」

 

と言いつつ買うのは団子固定なのだった。

 


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