少女を連れ旅に出た。
字面だけみると拉致だが、しっかり本人も承知の上だ。
まずは森へと入りこんだ。
誰の目にも留まらないように、人気のない森林へ。
川を見た。
動物を見た。
崖からの絶景を見た。
森の中、魚や木の実を主食に、俺達二人は暮らしていた。
気付けば森で暮らし始めてから、一月が経とうとしていた。
「人里離れた辺境で暮らしてるわけだが…まだ憎いか?」
「…少し忘れて楽しい…けど…忘れられません。」
「……」
やはり子供とはいえ、憎しみを幸福とすげ替えるのは難しい。
洞窟暮らしで主食は木の実、村での一般的暮らしを考えると、子供ながらに不満を溢さない分偉い方だ。
しかし困った。
この子も不老不死になった以上、可能ならば幻想郷に行ってほしい。
紫の話を永琳達にしたということは、幻想郷で輝夜とこの子が会う可能性は大いにある。
その時がいつかは分からないが、数百年経ってもこの憎しみが風化しないのなら非常にまずい。
下手をすれば幻想郷でいつも殺し合いをする関係になってしまう。
「………」
「あの…」
「ん?どした?」
「…私のやろうとしてること…間違ってますよね…?望さんが悩んでるのだって…私のためなんですよね…?」
「あー…まあそうだけど…」
「…私は…やっぱりまだ憎い。輝夜を許すことは出来ない。けれど…望さんに、私のために悩んでほしくないんです。」
「……」
森で暮らした一月、この子の性格はある程度分かった。
基本的にめちゃくちゃ良い子なのだ。
第一に他人のことを考え、憎悪の感情さえ振り切れず、更には動物を狩ることさえ躊躇し、あまつさえ過去の行動に罪悪感を覚える。
実を言うと魚をこの子は一度も採っていないのだ。
「…でも子供が遠慮するもんでもないな。」
「え?」
「こうゆう悩みは大人にしか出来ないんだよ。まして育てるって決めた以上、お前はもう俺の子供みたいなもんだ。子供のために悩むくらいさせてくれ。」
「……」
まあ名前すら教えてもらってないが。
そろそろ名前を教えてほしい。
一月名無しだった。
自分のことを死んだ扱いにするために、また過去にすがらないために、名前を捨てることを決めたらしい。
正直俺にはよく分からない…が、そうしたいならそれでいい。
俺は親になっても子供の好きにさせるだろう相手いないけど。
「…望さん。改めて…ありがとうございます。」
「…どういたしまして。でも敬語はいらないぞ?」
「あ…ありがとう…?」
「はは…何で疑問なんだよ。」
―――――
暮らし始めて半年が経った。
未だに名前のない少女と暮らしている。
親代わりとして俺が名前付けるのも提案はされたが…やはり本当の亡き父親に申し訳ない。
改名や偽名にしろ、自分で考えるべきだ。
そんなことを考えながら、熊よろしく鮭を打ち上げる。
「これぐらいか…」
この半年、多少は場所を移した。
結果これは食糧ではなく、売却用となった。
人里を見つけたのだ。
凡そ50km地点に村があり、そこで食糧や衣類を買っている。
その金銭の回収のために魚を売るのだ。
「今日は土産も買ってくか…」
と言いつつ買うのは団子固定なのだった。