微睡む意識の後、俺は見知らぬ家…いや、前世の我が家に立っていた。
珍しくもない廊下、四つの扉はリビングや自室へ繋がっている。
部屋の構造を思い出す。
リビングから繋がれた一部屋…それが俺と、姉の部屋だった。
「懐かしいな…」
自室へ向かう。
扉を開けたその先には…仲睦まじい姉弟の姿。
「……」
俺は過去の記憶を少なからず持っている。
例えば…姉がトラウマになっていたこと。
姉が原因で、女性に酷く恐怖を覚えていたこと。
今更そんなことは思わないが、つまりこの凡そ平和そのもののような光景は、全て虚構に過ぎないのだ。
『小学生』の姉弟が、一緒に過ごすのは当然なのに、俺にはとても…
『僕大人になったら姉ちゃんと結婚するー!』
『そうね!』
小学生が姉に言う子供の戯れ言。
こんな光景も、珍しくないだろう。
ああ…だんだん思い出してきた…
―――――
翌日
―――――
「行ってきまーす!」
小学生なのだから当然学校に向かう。
しかしその日は忘れ物をして一度帰ったのだ。
「え…?」
「―――!?」
姉の体に鱗、手は灼けたように紅く、爪は獣のように鋭く、顔は憎悪に満ちていた。
その顔は、俺を見た瞬間に変わった。
驚き、慌て、逃げるように去って行った。
腰を抜かしてへたり込む俺の目には…焼け焦げた人の姿があった。
「ひ…わあぁぁ!」
声を上げて、俺も部屋を後にした。
姉がトラウマになったのはその頃だ。
学校にも行かず、家にも帰らず、河原で一人佇んでいた。
そんな時、迎えに来たのは親でもなく…姉だった。
その時のことが、鮮明に思い出される。
―逃がさない
耳元で囁かれたその一言は、若い少年にトラウマを植え付けるには十分だった。
泣きそうな顔で家に帰り、死体のあった部屋に向かってみると…朝のまま、綺麗な部屋があるだけだった。
―――――
「…あれが前世のトラウマか…」
意識を取り戻した俺は、しみじみとその記憶を思い出していた。
結局何だったのか、今となっては分からない。
しかしこれだけは分かる。
「今の方がよっぽどトラウマだな…」
理不尽に殺され、転生しては二度死んで、迫害、殺戮、逃げ隠れ、二度と会えない友を憂う。
知り合い一人に逃がさないと言われた程度、もはやトラウマ足り得ない。
そう考えれば、転生も悪くはなかった。
「…まだ夜か…」
俺は再び眠りについた。
すんなりと意識を手放せたのは、妹紅と離れなかった安心感からだろう。
―――――
「おはよう望。」
「……おはよ~…ふぁ…」
「眠そーだね。」
「今日は一日寝て過ごすかなー…」
「それもいいかも…」
何でも屋なんて職業だ。
依頼があろうとなかろうと、好きな時に仕事をする。
寝たい時に寝て、金が欲しけりゃ働いて、旅をしたけりゃ村を発つ。
自由こそが不老不死の特権だ。
「そういえば…」
「どうしたの?」
「……いや…ちょっとばかし用があってな。留守番頼んだ。」
「うん。仕事は…」
「帰ったらいくつかやるよ。誰か来たらいないって言ってくれ。そんな時間もかからないしな。」
「分かった。」
妹紅に留守を任せ、誰もいない林道に出た。
用というのは当然…
「次の課題だな…」
妹紅の前で見るわけにも…別に問題ないとは思うが、あまり変なものなら巻き込みかねない。
このことについては、極力隠す方向でいくと決めていたのだ。
[酒呑童子の守護]
いつも通りに課題を見る。
その内容はこの時代の人間には絶対に通じないものだった。
酒呑童子と呼ばれる者はただ一人。
鬼を統べる妖怪の王たる存在だ。
これも前世なら誰か分かるのだろうが…今の俺には見当もつかない。
しかし探す方法ならある。
これでも前世はオタク…と言うと本当のオタクに怒られるが、こういったものには興味があった。
だから酒呑童子が討伐されるはずの歴史も、誰がどう討伐するかも、年代も…今から計算するなら多分三百年程の間と絞れる。
ある程度記憶が戻らなければ分からなかったかもしれない。
「今回は余裕で達成してやる!」
断言出来る程自信があった。
その時だけは…
―――――
その後に過去を思い出した。
鬼の四天王と呼ばれた萃香と勇義、どちらかが酒呑童子かもしれないなら、俺はまた、出会わなければならない。
失った場所へ。
奪った者へ。
許されない罪へ。
帰らなければならないのだ。
それは少し…憂鬱だ…
「…どの面下げて…」
微かに希望も持っていた。
紫の夢見た世界に行けるのか。
絶望もしていた。
何もかも奪い、捨てた俺に、そんな資格はないと。
欺くも運命というものは…あまりにも悪戯好きだ。
また出番があるようですね…オリキャラの出番は多くしたいものです。