東方白望記   作:ジシェ

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妹紅どんな喋り方してたっけ?


五十四話 ~海の物語~

「戦って…海で何と戦うんだ…?」

「同族争いとか…?」

「違う。触手たくさん襲って来た。仲間が何人も喰われて…海底の住処は…」

「触手…海だし蛸か烏賊か…?」

「何それ?」

「触手みたいな手を自由に動かして…墨を吐いたりする軟体生物だ。確か…手は八本だったかな…」

「……いや…十本あった。陸の者も知らない生き物か…」

「十本…なら烏賊だな。烏賊は八本の足と二本の腕を持つんだ。昔の友達が詳しかったからな…」

「…大きさも分かれば、望なら種類も分かる?」

「そうだな…て言っても俺はダイオウイカ位しか知らないしな…大体は食えると思う。」

「大きさはとにかく大きい。少なくとも我々の十倍、あるいはそれ以上だ。」

「十倍…20m近くな烏賊なんて…いや…」

 

烏賊の妖怪と言えば、クラーケンなる存在が有名だろう。

烏賊か蛸か定かではないが、普通の生物じゃないことは明らか。

大きさなどそれこそ不定だろう。

まずいのはクラーケンは肉食ということ。

補食された彼女の仲間はもう…

 

「…なあ、俺も手伝ってもいいか?」

「陸の者が?何故?」

「俺達は海を渡りたい。でもそんな危険な奴を放置するわけにもいかない。下手すれば陸も被害を被る。それに…」

「まだ何か?」

「困った奴らを見てみぬふりする程、薄情じゃない。たまには海鮮物もいいかもな。」

「…なるほど…では退治の代わりに、極上の持て成しを用意しよう。」

 

狩りの時間だ。

 

―――――

 

「まだ何かあるよね?」

「…実はクラーケンが蛸か烏賊か気になって…」

 

―――――

 

「空気のあるとこもあるんだなー…」

「不思議な空間…」

「陸の者と我々の種族が、恋に落ちたという話が伝わっている。ここは、そんな者達によって造られた空間だ。」

「人魚姫の話か…陸にも伝わってるよ。しかし人が海に潜ったのか?」

「陸で生きられる者の話は聞いたことない。陸との交流はあったが…それも昔の話だ。」

 

人魚姫の物語では魔女との取引で足を得た人魚が、陸の王子の元へ向かう話だった。

しかしここでは逆で、海に人が入る話のようだ。

人魚の協力を得てこの空間がある。

能力が浸透しなかった俺の元いた世界だから、人が海で暮らす発想はなかったのか。

はたまた事実逆なのか。

とにかくこの空間は有難い。

 

「しかし何でここで人魚が暮らしてるんだ?」

「あの生物はここには入ってこない。」

「成る程…海で唯一安全な場所ってことだね。」

「でも水なくて平気なのか?」

「陸の者との出会いの場なら、我々の生活も問題ない。とは言え、食糧の備蓄も、不自由さも、とても長く耐えられるものではない。」

 

早く倒さなければ、人魚は絶滅する。

それどころか海の生態系が崩れ、次第に海は荒れていく。

これを知っていたなら、課題にでも設定したのに…

 

「とりあえず妹紅。今回はお前は留守番だ。」

「!何で…」

「今回に限っては足手まといだ。海じゃ火も使えない。それに飛び続けた疲労もあるだろ?」

「そんなの…望も…」

「お前の限界に合わせてたからな。俺はまだ半分以上残ってる。すぐに行くべきだしな。」

「……」

「一人では危険だ。せめて私も…」

「守りながらの方が危険なんだよ。ま、任せとけって。こう見えてそこそこ強いんだ。」

 

まだまだ不満を言う妹紅だったが、足手まといに間違いなかったことは、ちゃんと理解していたようだ。

案内として一人着いて来るだけで、あとは勝利を願って送りだしてくれた。

 

―――――

 

「あれだ。」

 

案内されて向かった先は、陸で言えば城下町のような場所だった。

海の底は人間にたどり着けないと言うが、その場所は海底だった。

まあ現代とは違うのだろう。

その町の大きさはかなりのもの。

2、3kmはあるだろう。

信じられないのはその町の3分の1近くに、巨大な触手が張っていたこと。

 

(どう見ても1kmくらいないか…?)

 

「ここから見える大きさに…?」

 

どうやら以前より大きくなっているようだ。

クラーケンは現代では実はダイオウイカなのではとされているが…あれはどう見てもその規模ではない。

まさに化け物そのものだ。

ハンデありで勝てる相手とも思えない。

とりあえず空気が欲しい。

今は顔周辺に膜を張って呼吸を保っている。

常に作りだしているから切れることはないが、如何せん首の稼働域が小さい。

そして幕に防御力はないから、攻撃されれば割れる。

その瞬間、俺は窒息の危険が生まれるのだ。

つまり破壊されないよう戦う上視界も不安定。

更には水中ということは体の動きも制限される。

 

(…すぐに戦うのは得策じゃないか…)

 

「本当に挑むのか?」

 

膜に彼女の顔をいれて答える。

こうしなければ喋っても聞こえないからだ。

俺も口の動きでなんとなく理解してた。

 

「今挑んでも勝てないかもしれない。条件が不利過ぎる。…一晩だけ、休みをくれ。全快ならどうにかなる。」

「…そうか…」

 

やはり早く倒したいのだろう。

手遅れになる前に倒したいが、勝つ可能性が低いのに挑むのは、余計な時間を増やすだけだ。

妹紅に偉そうに言った手前気が引けるが、俺は戻ることにした。

決戦は明日…

 

(絶対に倒してやる…)

 

―――――

 

ちなみにクラーケンの見た目は完全に烏賊だった。

 

 


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