ここはどこだろう。
家で寝たはずの俺は、形容し難い空間の中に浮いていた。
違う。
意識から外れた場所にいる。
ここは知っている。
そう思う。
―――――
「隣のクラスの――がまた問題起こしたらしいぜ。」
「まじかwあいつもこりないな。」
「本当なー」
(そうだ……あの時俺は…あいつと帰るところだった…でも…)
そう考えた俺の眼前には、青の信号を談笑しながら渡る二人を眺めていた。
その結末は知っている。
記憶通り、一台の車は信号を無視して突っ込んでくる。
そして二人を轢く…ことはなかった。
片方はもう一人を突飛ばし、目を閉じた。
その片方は…俺だ。
(俺は轢かれた…でもあいつは…)
「は……?お…い…?嘘…だろ…?」
彼は膝から崩れ落ちた。
友人が轢かれ、瀕死の重体となったことに対し、涙を流し叫び始める。
「おい…!起きろよ…!ゲームするんじゃなかったのかよ……!皆と遊ぶ約束だって…しただろ……!学校だって…まだ………なんで…どうして……」
周りの人は電話を取り出す。
その間も、彼は俺を抱えて泣き続けた。
泣き続ける彼に、俺は遺言を残した。
俺の最後の記憶。
最後の言葉。
「姉さんに……謝っといて…くれるか…」
「…!しっかりしろ!死ぬな!んなの自分で言え!もうすぐ救急車が……!」
「約束…守れ…なくて……」
そこで俺は死んだ。
完全に意識を失い、何も見えず、聞こえず、ただ泣く親友を救えたことだけが、残り続けた。
俺という存在は、こうして幕を閉じた。
だからだろう。
映像のように流れるこの光景は、その場で消えていった。
姉に何を約束したのかも、親友がそれからどうしたのかも分からず、記憶の再生は終了した。
―――――
「こうやって死んだのか……」
最後の少し、ほんの少しだが、いい記憶を思い出せたと思った。
親友を救うことが出来た。
それがとても嬉しかった。
これしか思い出せなくとも、そこに後悔はない。
俺はたった一人の家の布団で、嗚咽にも似た笑い声を上げた。
悲しみと喜び、その二つが混ざったような声を出しながら、俺は一人、笑い続けた。
―――――
「……寝れなかった。」
一晩中笑い続けていたわけではないが、記憶のことを考えると、上手く眠れなかった。
姉さんのことが気になったし、何故最後の記憶を思い出したのかも分からない。
何にしろ寝れなかった。
これだけが事実だ。
「…そういや…」
ふと課題のことを思い出し、ポケットを漁る。
すると、以前捨てたはずの課題の紙が、ポケットから出てきた。
どうやら次の課題のようだ。
時系列順に課題は設定されているらしいから、近い内に終わらせられるものなのだろう。
そう思い紙を開く。
[依姫と豊姫の武器を持て]
「……は?」
知らない名前が出た。
俺が来てから今まで聞いたこともない。
課題自体は武器を持つだけの簡単なものだが、知らない人物の武器を探すなど不可能だ。
「……永琳なら知ってるかな…」
本日の予定は捜索に決定。
―――――
「豊姫?」
「そう。何か知らないか?」
「………偶然だとは思うけど……最近生まれたばかりの赤子の名前よ。」
「赤子…?」
「ええ。」
「…とりあえずありがとう。」
「その子がどうかしたの?」
「いや……悪い…話せそうにない。」
「そう……ならいいわ。話したくなってからでいい。」
「本当悪いな。」
―――――
生まれたばかりの赤子が持つ武器を持つ。
わけが分からない。
(そもそも名前からして女の子が、武器なんて扱うことあるのか?)
ありえなくもない。
だけど比較的低い確率だろう。
ただ分かることは、おそらくだが課題は未来のことも含まれる。
今回は何十年も先のことだろう。
時系列順とは言っていたが、それが絶対とも限らない。
何年掛かるかも分からなければ、もう出来ないこともあるかもしれない。
簡単な課題でも達成不可能になったら…
(俺の記憶は戻らない……!)
こうして様々考察を重ね、最終的に俺が出した結論は、目先の課題をとりあえず達成すること。
それで不可能なものが出るのなら、またあの天使が来るだろう。
そうならないことを祈りながら、今日も散策を始めた。