東方白望記   作:ジシェ

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六十九話 ~幸せの形~

「はあ……」

 

あれから二年。

皆と別れ一人旅…今日も俺は…迷子だ。

しかもただの迷子ではない。

凄いことに…

 

『―――!――…!?……――!』

 

聞き取れすらしない言語を扱う島にたどり着いた。

英語と日本語しか分からない俺には会話すら出来ない。

少なくとも…

 

「――!――…」

 

腰抜かせてへたりこむ目の前の少女が、俺に怯えているのは分かる。

 

(なんで?ただ迷って途方に暮れてただけなんだが?)

 

辺りを見ても村一つなし。

人の影もなければ、少女以外目立つものすらない。

前は荒野で今は平原…開けた場所を探すのは得意かもしれない。

 

「はぁ…ジェスチャーしかないよなぁ…ここがどこか聞きたかったんだが…」

「!――……こ、」

「ん?」

「コン…ニチハ…」

「!日本語?」

「ハ…イメ…マ…シテ…」

「短い単語なら分かるのか?ならえっと…こんにちは…」

「アナタハ…コワイ…?」

「え?」

 

聞き取るのに時間がかかったので要約…人間が怖い。

どうやら彼女は妖怪で、しかも何の妖怪か自分で分からないらしい。

 

「……とりあえず分かった。」

「ナニモ…ワカラ…ナイ…ノニ…オソワレ…テ…」

 

肩を抱いて震えだす。

どうにも聞く限り突然生まれた妖怪らしいが…いくら妖怪でもぽっと生まれることはないだろう。

 

(いや…何か前世の記憶にあったな…)

 

妖怪は人の心から生まれた存在。

恐怖や憎悪、そういった負の感情から生まれる。

その感情を持つ者が多ければ、突然妖怪が生まれるのもおかしくない。

 

(生まれた瞬間迫害されりゃどんな妖怪もこうなるだろうな…)

 

言葉が通じたのは行幸だ。

ゆっくりでも会話をしよう。

何日でも何年でも、付き合ってやろうじゃないか。

心を閉ざした相手に必要なのは吐露する相手だ。

抉じ開けるのではなく溶け込め。

側にいるんだ。

きっといつか…この震えは止まってくれる。

 

―――――

 

「ほら、飯持ってきたぞ。」

「……ありがとう…」

 

カタコトだった言葉も、流暢になってきた。

怯える表情ももうしなくなった。

しかし未だに、この娘の笑顔は見られていない。

この娘にあったことの全容を訳すと…

 

いつの間にか村にいた。

しかしそこに妖怪はおらず、人間からの迫害を受けた。

追い立てられて気が付けばここまで…

妖怪だから餓えたり不眠は問題ないが、下手に休めば襲われる恐怖。

そして深く眠れない妖怪の生態から、蹲って泣き続けていた。

そんな日が数週続いた時に俺が現れた。

 

(…ここまで聞き出すのに一ヶ月かかったぞ…まだ無理なのか…)

 

まあ時間はそれこそ無限…萃香のことはあるが数十年後のことだ。

いい時間稼ぎと思おう。

 

―――――

 

気付けば更に一ヶ月の時間が過ぎた。

彼女は日本語を話すのがもはや普通になってきた。

会話も普通に出来る。

震えも止まった。

それでも彼女は笑わない。

光のない瞳が、見ている世界はここじゃない。

未だに迫害され、殺される恐怖に、その心は閉ざされている。

きっと彼女が見ているのは…怒り叫ぶ人間の姿だ。

 

「……どうして…」

「ん?」

「どうして…私に構うんですか…?こんなこと…貴方には意味もないのに…」

「…意味…意味か…」

「……?」

「考えたこともなかった。」

「え…?」

「だって興味ないし。それが俺だからな。偽善にお節介…無償の奉仕。気が付いたらそんなことしてる。」

「でも…そんなの…」

「つまらない…ただ大変なだけ…そう思うだろうけどな?言ったろ?気が付いたらやってるんだ。」

「……楽しい…ですか…?」

「おう。今幸せか聞かれたら、絶対に幸せって答える。まあ…それで終わるつもりもないけどな。」

「…私も…同じようにしたら、幸せに…なれるんですか…?」

「…さあな。お前のことは俺には分からないから。でも…」

「でも?」

「やりたいことやってりゃ、それが幸せだよ。」

「やりたい…」

「俺がここにいるのは、ここにいたいと思ったからだ。それがやりたいことだ。」

「……」

「!」

 

微かだが笑った。

それに少し覗き込めば分かる程度に、瞳に光が宿っている。

暗く淀んだ瞳ではない。

髪と同じ赤い瞳が、美しい程綺麗に。

これならもう大丈夫。

まあかといって置いてはいかないが。

そうだな…

 

「俺と同じことに興味あるなら、誰かの従者でもやってみないか?」

「…従者?」

「ああ。人間が怖いなら妖怪を紹介してやる。俺みたいにふらふらするのは普通危ないからな…」

「従者…」

「勿論他のことでも付き合うぜ?人と仲良くしたいか?誰も知らないとこからやり直したいか?それともこのままここで過ごして生きたいか?」

「…選んで…いいんですか…?」

「自分の道は自分で決める。子供でも大人でも人間でも妖怪でも…それが当たり前だ。」

「当たり前……私…従者…やってみたい…です…望さんの生き方が、その先が、少しでも知りたい…」

「…今やっと、暗い場所を抜けたな。」

 

俺は鈴を鳴らした。

紫から貰った鈴だ。

ノーチェ達くらいしか紹介なんて出来ない。

俺は会う気はないから、紫に任せて旅に戻るけどな。

 

「さて…紫と会うのも久しぶりだな…」

 

 




自分の知り合いは五人引きこもりがいたけど話せたの自分だけでした。溶け込むのは自分にとっての正解です。
三人は社会復帰しました。少しは助けになれたかな…?
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