作業中の土蜘蛛がこちらを向くことはなかった。
過去捕らえた獲物が巣から逃れることはなかったのだろう。
巣に掛かった獲物に注意する必要など本来ない。
蜘蛛にとっての初歩的で最大の罠…その信頼は絶対的。
(それがお前の敗因だ!)
糸に絡まれた体ごと、巻き付かれた部分を消滅させる。
地面に着地することなく空を蹴って村長へ飛びかかる。
霊力の射出による勢いのまま村長を掴み、土蜘蛛の触れた糸と壁に付いた糸を消滅させた。
村長の繭ごと上へ…俺が落ちた衝撃で糸はない。
土蜘蛛の糸がなければ村長は死んでいた。
せめてもの礼代わりに見逃そう。
多分穴の原因もこいつだし。
土蜘蛛も追っては来るが、所詮壁を走る蜘蛛…飛ぶ俺に追いつくことはない。
それに半端な高度の穴じゃないんだ。
いずれ諦めるだろう。
―――――
「……大分高かったな…」
地上が見えて思わず本音が出た。
その時だった。
目の前に蜘蛛の巣が現れた。
いや…現れたのは巣だけじゃない。
巣があるなら、本体も当然いる。
「げ…」
土蜘蛛のような人の体はなく、ただ巨大な蜘蛛が大量に現れた。
おそらく子供だろう。
水のおかげで地上までは出てないようだが、巣を伝って出るのも難しくないはず。
となると始末するしかないだろう。
「悪いが…通してもらうぞ…!」
いつか神妖を焼いた炎塊…それはほぼ全ての蜘蛛を焼き殺した。
それに着いていく形で、地上に勢いよく飛び出した。
『うああ!?』
情けない声を上げながら倒れ込む人影に気付き、目の前に着地してやった。
「…ただいま。」
「…おかえり…」
まるで家にでも帰ったような返事をしあい、倒れる見者を起こした。
―――――
あの後村長を繭から取り出して、地下について聞いてみた。
何か知っていることはないかと。
しかし村長は何も知らなかった。
…村長は。
「―――cam on」
「どうだった?」
「やっぱり知ってたよ。」
村長は地下について知らなかったが、どうやら各地から来ているだけあって情報はかなりあった。
土蜘蛛がいたという伝承も聞けた。
鬼がいたという口伝も聞いた。
厄の神とやらもいるらしい。
一番の情報は…悟り妖怪がいるらしい。
やはりこの地底は幻想郷の旧地獄に後々なる場所のようだ。
土蜘蛛も別人、鬼も萃香たちがいないのは分かっている。
厄神は…知らないが、悟り妖怪はあの二人だろうか。
いや…吸血鬼のように親かもしれない。
とにかく地上にいられない連中がいる場所には間違いない。
「行ってみるか…」
「…ちゃんと計画立てて行きなよ?」
先の騒動で俺の強さは分かったようで、止める気配を微塵も感じない。
「当たり前だろ?話してみるいい機会だ。共存を望む紫のためにも、人喰いを説得出来りゃでかい。」
「…紫さんのために…君にとって、彼女はなんなんだい?」
「…何だ突然?」
「いや…考えると疑問に思わない方がおかしいだろう?伝承で君は彼女の使い。でも実際はただの友人。それなのに命を懸けて彼女の願いを叶えようとする。友人にしては必死過ぎて、恋人なら興味がなさ過ぎる。でも家族でもなさそうだし、不思議じゃないかい?」
「………」
(言われてみれば…紫だけじゃない…他の人達も…)
目の前の見者でさえ、俺は…他者を何だと思っているんだ?
cam onーベトナム語のありがとう