目の前で大鎌を構える女性は今にも倒れそうな程息を切らしている。
はっきり言って攻撃出来ない。
これに攻撃するのは無情にも程がある。
しかし倒さないことには攻撃を止めさせることも出来ない。
体力尽きるまで逃げるか無視するか…説得出来ればいいが…
「ちょっと待ってくれ!一旦鎌下げよう!な!?」
「はあ…はあ…」
駄目だこれは。
説得はどう見ても無理だ。
そもそも聞こえてなさそうだ。
そうこうしてる内に女性が苦し気に振り上げた大鎌は、手から滑り落ちるようにこちらへ落ちてくる。
上げたはいいが振る力はなかったようだ。
女性が鎌から手を離した隙に鎌を取り上げた。
「………うぅ…」
鎌を取られた女性はかなり怯え始めた。
瀕死で武器なしの自分の目の前には町破壊の張本人…俺でも泣く。
まあ攻撃を止めてくれるならこれ以上相手する必要もない。
まともに話せそうな奴なら向こうにいるし、鎌はこちら側に放って橋を渡ろう。
「これは置いてくから…少し休め。じゃあな。」
それだけ言って橋を渡る。
また来るなら次は鎌を川にでも投げ込もう。
「さて…お前らー!」
何だ何だと集まる妖怪達。
家の修理はそのままに、何人か傍まで来て尋ねた。
「なんだお前は?人間なぞ珍しい。」
「喰ってしまおうか?」
「止めとけ。あの館の主が黙ってないぞ?」
(館?)
「お前がここにいる理由は知らないが、俺らみたいな話の通じる奴ばかりじゃないんだ。死にたくないなら速く帰りな。」
「……お前ら…人を食うためにここに住んだんじゃないのか?」
「あ?何言ってんだ?」
まさか…まさか何かすれ違いが起きているのか…?
どうにもここの連中から人喰いの気配はしない。
というか月の都市時代の妖怪を見るに、食人衝動を抑えられないのが妖怪。
人を喰うのは本能だろう。
一度でも喰えば我慢できない程の本能。
それが感じられない。
俺はここに来た目的を伝え、改めて情報の擦り合わせを始めた。
「……成る程な…まずはっきり言っておくが地上に攻撃はしていない。」
「亀裂は偶然と?」
「うむ…それから土蜘蛛についてだが…おそらく喰うつもりはなかっただろうな。」
そう言ってほぼ確実に狼男だろう男は先の方を指差した。
「あの館の主は動物を集めてる。正確には、自分を拒まない者をな。だから献上品ってとこか?」
「…理由は?知ってるのか?」
「ここの連中は全員知ってるさ。心を読む能力…覚妖怪って奴さ。過去人里で何らかあったらしいが、そこまでは知らん。そのせいか人を寄り付けない。ここじゃ常識だ。」
「あんたらで十分じゃないか。何で動物に…」
「……身内の恥だが…俺達は嘘を吐く。軽いものから大きいものまで何でもな。」
「別におかしくないだろ?」
「いや…あそこの覚妖怪はそれじゃ駄目だ。嘘偽りないまっさらな心。そうでなければ関われない。俺達には無理な話だ。」
「……」
当然のことが許されない。
それほどまでに傷つけたのか。
人間は…あの覚妖怪をそこまでに…
「とにかくお前さんは話せるようだし、事情も分かった。だから向こうの修理と全員に謝罪するんなら、許してもらえるだろうさ。」
「…ああ。悪かった。」
「俺らはいいさ。一番の被害者は土蜘蛛だろうしな。まあお前が焼いた子蜘蛛は土蜘蛛が操ってただけだしそこまで悲しくはないだろ。他は話せば分かる。」
「話の通じない連中は…」
「……俺も付き合おう。乗り掛かった船だ。また壊されたらたまったもんじゃない。」
「いやあれはこっちも予想外だしなぁ…とりあえずありがとな。」
「構わないさ。むしろ良い薬じゃないか?人間喰わないようにするなら、人間に勝てないことを刷り込むのが手っ取り早いし。」
「…お前は鬼と会ったことがあるのか?」
「いきなりなんだ?…まあある。昔挑んで負けて生かされた。ここにはいないが、妖怪のてっぺんが人間喰わないんだ。俺らが喰ったらどうなるか恐ろしいもんさ。」
「……そうか。」
「ああそれと…おかしな話かもしれないんだがな…一度館に行ってほしいんだ。」
「人を寄り付けないんじゃなかったのか?」
「ああまあ…ただ…何故だろうか…お前は一度会うべきだと思ってな…まあ謝罪ついで寄ってくれ。」
「…まあいいぞ。とりあえずは謝罪行脚か。頑張るぞー」
―――――
「……てことなんだが…」
鎌を持つ女性は未だ警戒した顔でこちらを睨む。
聞けば彼女が俺を閉じ込めた犯人らしい。
距離を操る能力によって下への道を無限にし続けていたらしい。
拙い能力が故か能力の特性か対象を選択して発動するもので、能力は対象外だから貫通したとのこと。
そして下への道は無限だが上への道は来た時より短くすぐ戻れるようにしてたらしい。
先日の村長落下の件で対策を作ったらしい。
ものの一日で破られたが。
しかも飛べなきゃ無限ループじゃん。
「そろそろ鎌降ろしてくれよ…」
「わざとじゃなくてもとんでもないことしたんだよ!?」
一応数分…一時間程俺は家の修理をしてたから、彼女はその間ちゃんと休んだようで元気に叫ぶ。
とりあえず橋のこちら側はもう修理完了だ。
「責任はとるから許してくれよ…」
「本人修理も手伝っているし、今回は許してやりな小町。」
「……っ分かったよ…ただし!全部直るまで帰さないからね!」
「おう。」
一番怒ってそうな人からお許しを頂けたようだし、ガンガンやって行くとしよう。
きっと一日二日じゃ終わらないだろうからな…
望は過去の記憶は一気に思い出しません。徐々に断片的に思い出します。前話の覚妖怪の件で知ってるのは何故と疑問出そうなんで今さらながら捕捉します。そして彼はこまっちゃんを知りません。知ってるけど知りません。これから何度かあると思うのでここで説明挟みます。