「…落ち着いたか?」
「ん…ありがとう…」
感情が溢れた泣き方をしたからか、かなり落ち着いた様子で感謝の言葉を発した。
それからすぐ扉へ歩き、姉を呼んだ。
しかしそこに姉の姿はなく、犬が一匹いるだけだった。
気を遣ったのだろう。
本当に…話を聞かなきゃこういう行動からまともにしか見えない。
走り出した犬がすぐにさとりを連れて来た。
「もういいの?」
「うん。」
「…そう…それならこいし。今度は貴女が少し席を外してくれるかしら?」
「……分かった。」
少し躊躇ったのはやはり心配なのだろう。
それでもよしとしたのは少しは信頼を得れたのかもしれない。
同じく犬に待つよう命じていた。
扉を閉めたさとりから、会話は始まった。
「望さん…貴方はどうして姿を現したの?どうしてここに来たの?どうして―」
また苦しめるの?
「!?」
それは予想だにしない言葉。
会ったこともない子供からの怨嗟の念。
違った。
違ったのだ。
確かにさとりは機械的…感情は感じられない。
だがまともに見える行動、こいしへの態度、こいしに対する言動は、心を閉ざしているとは思えない。
そこに違和感を感じ、彼女は心ない人形と認識した。
現に彼女の目は、真っ暗な程濁っている。
だが違う。
このさとりには…心がある。
心を閉ざしている?
感情が感じられない?
そうじゃない。
そんな存在がここまで…憎しみや恨みを見せるものか。
体が震える程の怒りを、貫くような瞳を、表に出せるものか。
「ああ…成る程な…これは納得だ…」
これは救えない。
少なくとも町の連中は関われない。
心ないように見せてるだけのこいつは、他から見たら怪物だ。
篭に囚われた偽りの心は、こいし以外を許さない。
今か今かと復讐を待ち侘びる。
人形どころか憎しみに支配された屍だ。
「厄介な壊れ方だ。こいしぐらい分かりやすければいいのに。」
「…分かったでしょう?もう去りなさい。もう貴方の…出る幕はない。」
「…ふ…当然断る。」
「…なら…ここで死ね。」
「絶対に嫌だね。」
こいしに見せるべきじゃない。
だからこそ本気で、本当に戦うつもりはない。
まあ…鬼子母神レベルの殺気と神奈子レベルの妖力…何よりも…こいしレベルの異常さ。
これを相手に加減し、速攻で、意識を奪わず倒す。
(前もあったなこんなムリゲー…)
妖力だけで俺の体が吹き飛んだ程だ。
でも実は方法はある。
つくづく思うことだが、紫の能力はチートもチートだ。
何せ大抵何でも出来るのだから。
それをほぼ模倣出来る俺もチートだろうが。
本当に何でも出来る…記憶を覗いたりな。
少々強引な手段を取ることにした。
さとりの記憶の境界を俺に繋げ過去を見る。
こうなった原因の記憶を奪い、それ以前の記憶と今の記憶を合わせる。
記憶に空白が生まれるしサードアイを治すことは俺には出来ない。
つまり記憶は混濁するし能力は使えないが、手っ取り早く、それでいて最も救われる手段だ。
負の感情など忘れてしまえ。
それが最適解だ。
「あんな子供が…苦しむ必要なんてないだろ…?苦しむのは…お前じゃない!」
「!?」
俺は無警戒に走る。
当然弾幕がもはや壁のように展開される。
ルールなどない。
確実に敵を倒すための…そして近付けないための壁。
それに無警戒に突っ込む。
無論…死ぬつもりなど毛頭ない。
俺の目の前の弾幕が突然消えた。
そう見えるだろう。
何せ今、さとりの弾幕は俺の目の前だけがら空きなのだから。
これが二つ目の切り札…『暴食』だ。
強欲から創られた能力だ。
キャンパスに当て嵌める模倣の強欲。
そしてこれは、キャンパスに書き移す『吸収』。
暴食は相手の攻撃を全て、キャンパスに喰らわせる能力だ。
イメージ通りなら相手の能力も喰らえそうだが、まだそこまでは出来ない。
だが目に見える物なら何でも出来る。
「コストも安くないけどな…」
キャンパスは無限じゃない。
書けば減る…当たり前だ。
その貴重な一枚を強制的に使う。
解放して吐き出せば関係ないが、俺の限界はまだ多くない。
「迅速に片付ける!」
俺の能力はイメージ次第…とは言え前みたいな魂抜け状態とは違い射程が極少。
触れてようやく干渉出来るだろう。
「後少し…待ってろよ…!」
「救いなんて…いらない…私には…こいしだけでいい!」
「いいわけあるか!」
絶対助けて説教してやる。
花粉嫌い