詭弁ですよ!霊夢ちゃん!   作:名は体を表す

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最近寒くなってきたかのようなイメージ。


鬼!悪魔!……鬼!

 爆音と共に揺れる地霊殿。床でゴロゴロしていたお燐ちゃんが飛び起きた。

 

「さとり様!様子を見てきますので此処に居てください!」

 

 そして猫を思わせるような俊敏さで、音の発生源と思われる玄関の方に向かって飛んでいった。

 そして断続的に続く爆音と揺れ。襲撃でも受けてんのか?

 

「……あり得ない……とは思いますが、心当たりが一つあります」

 

「心当たり?」

 

「はい。それは―――」

 

 直後、客室の扉越しに響く大爆音。その衝撃で部屋の扉はひしゃげ、弾けとんだ。

 そして現れる()()()()()

 

「―――やはり、()()でしたか。星熊勇儀」

 

「よう、邪魔するよ古明地さとり。()()()()()()()()()()()人間らしき奴が、地霊殿の方に行ったと聞いてつい居ても立っても……ぁ、あ?」

 

「……勇儀さん?」

 

 星熊勇儀……と呼ばれた女鬼は、俺の顔を見るなりその表情を大きく変化させた。

 

「ぉ、お前……は……ッ!!お前ェ!!!よくもまァアタシの前に顔を出せたモンだなァッッッ!!!」

 

「もしかして:『初めまして』」

 

「ンなふざけた事を言う奴が二人も居るか!!!」

 

 なるほど、分からん。

 俺の顔を見るなり、その美貌が憤怒の表情と呼ぶに相応しい程に激情を顕にしている。えぇ……そんな立派なおっぱい、すれ違っただけでも忘れることはないと思うんだけどぉ……どういう事なのさとりん。

 

「さとりんと呼ばないで下さい。……詭弁さん、過去に一度勇儀さんに会った事が……いや、一度と言わず……っ、これは……」

 

「アタシの記憶(想い)を読むなァ!!!」

 

 声を張り上げただけで物理的な破壊を産むという、ある意味妖怪らしい理不尽の前に貧弱な覚妖怪は無力。その破壊の衝撃波に晒され―――

 

「『守護術(ブロック)』」

 

 る事はなく、透明な障壁によって守られた。

 

「……ありがとうございます詭弁さん」

 

「礼はお燐ちゃんかお空ちゃんの一おっぱいでいいよ」

 

 軽口を叩きながら、目の前の女鬼を分析する。身体から漏れ出る妖力を見て、恐らく伊吹萃香と同じくらい……大妖怪の中でも上位クラスと判断した。有り体に言ってヤバい。

 

「あー、星熊勇儀って言ったか。やっぱり人違いって事はないか?俺は幻想郷の人里育ち、里の便利屋を営んでいる極普通の一般人だ。あんたみたいな美女に会ってれば忘れることはないと思うんだけどぉ……」

 

 瞬間、星熊勇儀の表情がスン、と切り替わる。

 無表情と呼ばれるような顔だが、俺はその表情があらゆる負の感情が煮えたぎり、限界値を上回ったときに浮かぶ表情ということを知っていた。

 

「忘れ……た?アタシの事を?誰が?お前が?何故?どうして?いや……そうか。あまりにも()()会ってなかったから思い出すのに時間が掛かってるだけか。じゃあ思い出させないとなぁ……」

 

「ちょっとちょっと勇儀の姐さん!いきなりアタイ達ぶっ飛ばして、地霊殿荒らしながら進むなんてちょぉっとオイタが過ぎるんじゃないかい!?」

 

「さとり様に酷いことはさせない!」

 

 お燐ちゃん、お空ちゃんが星熊勇儀の身体を掴み、引き留めようとするが―――

 

 

「邪魔」

 

 

 無感情のままに振りほどかれ、壁に叩きつけられた。

 

「お燐ッ!お空ッ!……勇儀さん、貴方の()()()()()()と詭弁さんは別人です……!何故、()()貴方がそこまでの激情に駆られるのかは理解できます。ですが私の―――」

 

「理解?何を言ってるんだ古明地さとり。アタシの感情は、アタシだけのモノだ!」

 

 ダァンッ!!!

 床が粉々に砕ける程に強く踏み込み、唸りを上げて振りかぶられた星熊勇儀の拳は、鬼相応の破壊力をもってさとりの顔に向かって振るわれた。

 

 バツッ!

 

 鬼の拳は、古明地さとりの首から上を消し飛ばした。

 

「お姉ちゃんッ!!!」

 

 

 

 

「はっ、はっ、あ、あれ……?い、生きてます私?」

 

「……あぁ?

 

「お姉ちゃん!」

 

 何が役に立つかなんて分からないモンだな。

 俺の魔法で作られた服を着たさとりは、魔力的なパスが俺と繋がっている状態だった。星熊勇儀が踏み込んだ瞬間にさとりを俺の元へと引き寄せ、幻覚魔法で作った身代わり(デコイ)を代わりに置くことでほんの一瞬だけこの場にいる全員を騙すことができた。

 さとりに怪我は……無さそうだな。

 

「き、詭弁……さん、何故私を何度も助けてくれるんですか?私は、貴方に好かれてもいないのに……」

 

 何で、か。知るかンなもん。

 

「えぇ……」

 

「そう、強いて言えば……目の前で子供が傷つくのが嫌なだけだ」

 

 フッと思い付いた理由がそのまま口に出る。例え相手が俺より長生きしてる妖怪だとか、関係ない。()()目の前で子供が傷つくのが嫌なだけ。

 ふるふると、死が眼前まで迫った恐怖で震えているさとりの頭を撫でる。髪柔らかいな。

 

「お前は、俺が守る。後ろに下がっててくれ」

 

「あっ……はい……」

 

「あぁ……あぁ、あぁ、ああ!お前はいつもそうやって()()を守る!なんなんだよ……なんでだよ……なんでなんだよ!!アタシは!アタシはお前に!お前に並び立てるようになるまで!!お前の横で立てるまで!!どれだけ掛かったと……

 

「知らんッ!!!」

 

 ビリビリと肌が痺れる程に大きな声で遮る。

 

「俺はお前の事なんて知らんし、人違いだ。暴れるのなら勝手にしろ。だが、俺の目の前で誰かを傷つけようとする限り……」

 

 手にもった陽輝棒を軽く振る。今日の俺は絶好調だ……!

 

「お前をぶっ飛ばす!!」

 

「……そうか。あぁ、そうだったな。お前はそういう奴だった」

 

 無表情から、怒りの顔に切り替わっていく。身体に妖力が漲ってくる。目元から、一滴の液体が溢れ出る。

 

「ならアタシは証明する……お前に並び立てるだけの力を、お前を殺す事で!!」

 

「人違いだ、他人の影を俺に被せるんじゃねえ。……だが今日の俺は相当()()()()()()だぜ」

 

 魔法の雷を身に纏う。本気を出すには此処(客室)じゃ狭すぎる……と思いながらさとりを一瞥する。

 

「っ……中庭!中庭に『灼熱地獄』の入り口があります!ですが普通の人間では」

 

「灼熱地獄、そりゃなんとも広そうな場所だ。焼ける程に熱いのも丁度良い」

 

 バシィッと軽い音と共に、星熊勇儀を蹴り飛ばし中庭に飛び出る。蹴り飛ばされた星熊勇儀は然したるダメージもなく、空中で受け身を取って中庭に降り立つ。

 

「アタシは、お前の背を追って、追って、追い続けて……『山の四天王』とまで呼ばれるようになった!お前を越える!今日ッ!!此処でェッ!!!四天王奥義『三歩―――

 

「『風人雷迅撃(ふうじんらいじんげき)』」

 

 ドンッ!

 雷が落ちたかのような大爆音と共に踏み込み、星熊勇儀を陽輝棒で突き上げ、たたらを踏んだ足を払い、宙に殴り飛ばす。そして宙に浮いた星熊勇儀を灼熱地獄入り口に叩き落とし、すぐ後から追うように俺も灼熱地獄に降りる。

 

 灼熱地獄の中はその名の通り非常に熱い。だが()()よりも遥かに濃い『大地』と『熱』の気を存分に使い、自身の肉体を強化すれば問題ない。むしろ濃すぎる()によって限界まで強化された俺の身体は、どんな強力な技の反動を受けても痛み一つとて無い程に頑強になっていた。

 

「―――『三歩必殺』!!逸歩(いっぽ)

 

 だが頑強になっているとは言え、相手の身体はそれ以上に頑強なようだ。技を受けて怯みこそすれ、怪我一つ負っていない。

 相手の技も何もない力だけの踏み込みは、周囲の燃え盛る大地の炎を消し飛ばし、陥没、粉砕、そして隆盛させる。その一歩の衝撃で強化されている筈の俺の足を地面に縫い付けた。

 

邇歩(にほ)!!!

 

 あらゆる力を前に進むだけのベクトルに変換した二歩目は、少し離れていた程度の距離を消し飛ばして瞬時に俺の目の前に現れた。

 

燦歩(さんぽ)ォォォ!!!!」

 

 右拳に妖力を集中させて放たれた一撃は音を置き去りにし、その拳の軌跡上の全てを消滅させた。

 正に必殺と呼ぶに相応しい一撃は間違いなく俺に直撃した。

 

「はぁっ……はぁっ……アタシは……ずっとお前を……ッ!?」

 

「おぉ、怖い怖い。()()に当たってたら間違いなくあの世行きだったな」

 

「それは、此処が『地獄』だって知ってて言ってるのか?」

 

 地面から生えた影が星熊勇儀を拘束し、俺を含めた三人が灼熱地獄の地面から現れる。

 辺りは煌々と燃え盛る大地、火に照らされて写る陰すら焼き尽くされる筈だが、如意陽輝棒を持つ俺には関係ない。陽気が強まれば、陰気は濃くなる。()に近いこの場所こそ、最も()が強くなる。

 右手に『気天魔戟』、左手に『巨人の短刀』を持ち、戦気万端の《陰》が星熊勇儀に斬り掛かる。星熊勇儀は影に縛られながらも、その両腕で《陰》の武器を防ぐ。

 

「ぐぅっ……!!?(アタシが力で負けるッ!?)舐……めるなッ!!!」

 

「お前の、全てを薙ぎ払う『怪力乱神の力』は大したものだ。だが、まだ甘い。『力は尖らせろ、滞らせるな』」

 

「ッッッ!!!?お、前……」

 

「故にお前は()()人に負ける」

 

 《陰》が星熊勇儀を抑えている間に、《陽》を踏み台にして高く跳び上がり、全身に熱と大地の気を漲らせる。

 

「『煌翼天昇(こうよくてんしょう)』」

 

 赤熱する鋼鉄のような翼を背中に生成。

 

「『軌道設置』」

 

 高く上昇する俺と、《陰》に抑えられている星熊勇儀を繋ぐように一本の光の線が伸びる。

 

「『赤陽武装(せきようぶそう)』」

 

 手に持った陽輝棒が重く、太く、鋭く、そして()()なる。

 

()()の強さの本質は学習力と成長速度、なによりも使()()()()()()()()()使()()多様性にある」

 

「『魔装:紅炎(スカーレットデビル)』」

 

 灼熱地獄の炎が、高く()んでいる俺に纏うように集まってくる。

 

「貪欲に知識を吸収し、技に落とし込み、力に変える。時に卑怯、卑劣と罵られる事もあるだろう。無様に地に這いつくばる事もあるだろう。()()()()()、人間はあらゆる障害を乗り越えてきた。神も、悪魔も、妖怪も、全てを」

 

「怒りの業火が全てを貫く!『魔想:必中必殺の突撃槍(スピア・ザ・グングニル)』!!!」

 

 燃え盛る紅き翼を羽ばたかせ、敷かれた軌道をなぞるように落ちる(飛翔する)。槍の切っ先は、真っ直ぐ星熊勇儀を指していた。

 

テメェがくたばるその時(最期)まで、成長()()()()()()心を捨てるんじゃねえよ!勇儀!!

 

「ッッッ!!!う、おおおおおおおお!!!」

 

 星熊勇儀は、纏わり付いていた影を引き千切りながら《陰》を武器ごと投げ飛ばし、空から落ちて(飛んで)くる俺に向けて拳を振りかぶる。

 

「勝つのはアタシだ()()!!!」

 

「いいや、勝つのは俺だ!」

 

 不可視の力が星熊勇儀の身から溢れ出て、その右腕に()()されていくのを幻視した。

 

「「おおおおおおお!!!!!」」

 

 紅き突撃槍と不可視の力が凝縮された右拳がぶつかり合い、()()()()()()()()()()()()

 

「なッ!?(手応えがまるで無いだと!?)」

 

無意識(エス)撃』

 

 星熊勇儀が殴ったのは、陽輝棒による影分身に幻影魔法でコーティングした()()(本物)は高く飛びあがった後に偽物を作り、魔法で姿を隠しながら重力に引かれ地面に降りていた。後は偽物が視線誘導している間に気・霊力・魔力を練り上げ、融合させていた。

 拳を振り抜いた姿勢のまま漸く視線だけが俺を捉えたが、既に俺の全力の一撃は放たれている。

 

無想天成(むそうてんせい)

 

 自身の気・霊力・魔力、そして意識すら全てを如意陽輝棒に込めて放たれた突きは、耀ける閃光となって星熊勇儀を穿つ―――

 

「ぐ、ガ、アアアアアアッ!!!!」

 

 ―――事は無く、滅茶苦茶な体勢から放たれた頭突きによって受け止められた。如意陽輝棒と、その赤き一角が激しく衝突し競り合う。ぶつかり合った反動で、燃え盛る灼熱地獄の炎がほとんど消し飛んだ。

 無茶な体勢からの頭突きだっていうのに、俺の全力の一撃と拮抗するとかホント理不尽だよなァ!!!

 如意陽輝棒によって()を増幅しても、その角を破壊する事も出来ない。これ以上意識を消費してしまえば、間違いなく動きをプログラムされた身体(無意識)が壊れて戻れなくなってしまう。だが、この攻撃は間違いなく最大の選択肢で、今俺が出せる全力。霊力も魔力もカラッケツで、灼熱地獄の熱から身を護る魔力すら全て攻撃に回している。文字通りの絶体絶命の一撃。だが、それでも届かない。

 

 ―――やはり、宙に伸ばした手は何も掴む事は出来ないのか。

 

 

 諦めるなッ!!!

 

 

 突如俺の後ろから、誰かが肩に手を置いた。

 

 

 詭弁の身体(無意識)は私が操る!(意識)と、身体(無意識)をシンクロさせるの!

 

 

 肩に置かれた手が身体の中に溶け込んでいくような、空っぽの器に水が満たされていくような感覚。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ―――宙に伸ばした手は、()()を掴んだ。それが何かは、まだ分からないけど。

 

 拮抗していた力は、徐々に天秤が傾いていくように。

 

「「『(無意識)のシンクロ』!!」」

 

 身体と魂が、完全に一つとなる。また一つ、限界を突破した。

 

「「おおおおおおおお!!!!」」

 

「ぐ、ゥああああああ!!!!」

 

 ピシッ、ピシッ、と何かが音を立てる。壊れるのは如意陽輝棒か、それとも星熊勇儀の一本角か。

 

 

 

 最後に立つのは俺か、相手か。

 

 

 

 ばきィッ!!!!

 

 

 

 

 空高く、星が描かれた赤い角が飛んでいった―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「……マジか。ま、まさか人間が()()勇儀の姐さんに勝っちまうなんて」

 

「……詭弁さん。無事な様で……良かった……」

 

「うにゅ……凄い……私も、あんな風に……

 

 『山の四天王』星熊勇儀が一人の人間に敗北した。

 このニュースはあっという間に地底全体に広がり、また新たな騒動の元となるが……それはまた、別の話。

 

 




勇儀姐さんってなんで色んな創作物でガチ戦闘ばっかしてるんです?

Q.なんで勇儀姐さんは詭弁の顔を見るなりオコなの?
A.世界にはよく似た顔の人間が三人居るって話だし、詭弁じゃない誰かと間違えたんでしょ。

Q.グングニルの槍って投槍じゃ……
A.調整中

Q.《陰》と勇儀姐さんの関係って?
A.調整中

Q.詭弁強すぎひん?
A.勇儀姐さんは「殺す」と言っておきながら全力で殺しに来てなかったのと、実は一撃でもマトモに食らえば詭弁はミンチになっていたので実質オワタ式だったので割とギリギリな攻防だった。

Q.「殺す」は嘘だったん?鬼が嘘吐いていいん?
A.勇儀姐さんのスーパーエゴが……


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