詭弁ですよ!霊夢ちゃん!   作:名は体を表す

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お久しブリーフ★

いろいろ大変だったなの……許してなの……


天界での展開……ごめんなんでもない。

「……で?私はまた妖怪の山に殴り込みに行けばいいの?」

 

「そういう話じゃなかったと思うんですけど!!?」

 

 地底から沢山の妖怪が湧き出て来たのを、巫女・魔女・メイド・半人半霊・その他地上の妖怪達で無双し、再度地底送りにしてから約一週間。

 時は年越し、場所は博麗神社。境内には数多の人妖神が入り乱れて今年最後の大宴会を繰り広げている中、巫女服を着た少女二人は縁側に座って話す。話題の内容はある意味一番HOTな男について。

 

「アンタん所の依頼を受けて以降姿を消した……ねぇ」

 

「天狗の皆さんも姿を見ていない……と言ってました」

 

「……ふぅん、嘘でも無さそうね。全く、何処行ったのかしらあのバカは」

 

 毎年大晦日には人里から大量の奉納品を持って来る筈の人間が月が昇る時間になっても来ない、という事はそれなりに大きな事件である。しかもその人間は『人間』という枠組みの中でもトップクラスの実力者ともなれば猶更。

 なにせその人間は寝ても覚めてもうるさい男であり、犬も歩けば棒に当たると言わんばかりに何かと騒動に関わる男でもある。耳目の良い天狗達にとって()()()()()として注目を集めている上に、新聞にはその動向を記載する専用の欄まで作られる程。とにかく何かと話題に上る男……だったのだが、その天狗達ですらここひと月以上その男を見ていないと言う。

 

「冥界にも居なければ彼岸に行ったワケでも無いし、ホント何処に行ったのか……」

 

「あの詭弁が静かに死ぬなんて有り得ないもんなー」

 

「魔理沙さん」

 

 多少酔っているのか、頭をフラフラと揺らしながらも確かな足取りで巫女達の前に現れるのは白黒の魔女、霧雨魔理沙。

 

「全く、私は便利屋じゃないってーの」

 

 どっこいせ、と縁側に腰を下ろす魔理沙。何を隠そう、件の人間の代わりに里から大量の奉納品を持って来たのはこの魔女だった。とはいえ()()()()で奉納品全てを持ってきたわけではないが。

 

「アリスにも聞いたんだが、こっそり魔界に行ってるとかでも無さそうだぜ。なぁんかアイツ年々()()()()()が上手くなってねえか?」

 

「本当にただのかくれんぼならどれだけ良かったか……」

 

「まぁどうせアイツの事だ、その内ひょっこり帰ってくるだろ。ほら、酒ならまだ大量にあるからお前らも飲め飲め」

 

「あ、いや、私は……れ、霊夢さんー……」

 

「魔理沙、無理に飲ませて境内で吐かれても迷惑なだけよ」

 

 呆れた表情を浮かべながら、境内に降りる博麗の巫女。哀れ守矢の風祝は酔っ払い魔女に捕まったまま、宴会の中心へと引き込まれた。

 

 

「……本当に、何処行ったのよ。馬鹿……」

 

 一人の少女が呟いた声は空に溶けていった。

 

 

 

 

 

 一方、溶けていった空の向こうに居る馬鹿(詭弁)は何をしているかというと

 

「天人にもう一度その半生を語る名誉を与えるわ地上人!」

 

「昨日語り尽くしたばかりでしょうが!?いい加減地上に返して貰えませんこと!?」

 

「うるさいわね!天界には娯楽なんて一切無いんだから少しくらい良いじゃない!」

 

「娯楽なんて男女一組揃ってれば幾らでも()()()()だろいい加減にしろ!」

 

「は、はあ!?いきなり何言ってんのよ!?エッチ!ヘンタイ!」

 

「ん~?ただ『二人居れば会話でも遊びでも何でも出来るだろ?』って意味で言っただけなんだけど~?なんでエッチだのヘンタイだの言われなきゃならないんだ~?天子ちゃんはな~にを考えたのかな~?」

 

「うっ……うるさい!別に何でも無いわよ!」

 

「あっ、もしかして天子ちゃんは()()()()()だったり?しょうがないよね!『男友達』が居ない天子ちゃんは一人自室の布団を濡らすくらいしか出来ないから―――」

 

「緋想の剣!」

 

「ぬわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 赤いレーザーに焼かれていた。

 間もなく年が明けるというのに呑気なモノである。

 

 

 ひょんな事から天界に来てしまった詭弁だが、本来であれば天に近付きすぎたイカロスの如く地上に突き落とされていた。だが、何故こうしてひと月近く天界に滞在を許されているかと言うと、単にその人間離れした強さのお蔭である。

 

 天界に来てしまった当初、第一発見者である竜宮の使いによる報告を受けて『思い上がった地上人など叩き落としてくれる!』と意気揚々と詭弁へと向かった自称武闘派(暇人)の天人があっという間に倒され、『奴は天人の中でも最弱……』『地上人風情に負けるなど、天人の面汚しよ……』と武装した天人(暇人)複数が相手でも鎧袖一触。『連邦の地上人は化け物か!?』『野郎オブクラッシャァァァ!』と狂気的に飛び掛かってきた仮面を着けた天人(暇人)ムキムキマッチョマンの変態(暇人)をなぎ払い、『第一発見者が何とかするべきそうすべき』と一任(投げっぱなしジャーマン)された竜宮の使いが涙目で『もう勘弁してくだちい』と土下座外交した結果、『良いよ、一おっぱいくれたらな』とパッツンパッツンの服の上から存分に揉みしだいて漸く騒動は収まった。

 

「私が揉まれ損な気がするのですが」

 

「そういう日もあるさ」

 

 さて、その後騒動こそ収まりこそすれども、それでも唯の地上人が天界に居るというのは良くないらしい。

 

「だから俺は安全に地上へ降りられればすぐにでも帰ると言ってるのに」

 

「仕方ないじゃないですか。人間でも空を飛べる筈の『天女の羽衣』では貴方は重量オーバーですし、天人の誰もが態々地上人抱えて地上に降りる役なんて請け負いたくないでしょうし」

 

「衣玖さんが抱えるというのは」

 

「面倒なので嫌ですけど」(真顔)

 

 そんなこんなで紆余曲折あり、今詭弁は天人くずれと名高い比那名居天子預かりとなっている。

 

「私の退屈を解消出来るのなら地上に返してやるわ!」

 

「……好奇心は猫を殺すと言うけど、退屈はここまで天人を堕落させるのか……」

 

「ちょっと!何処見て言ってんのよこのヘンタイ!!」

 

()()?……強いて言えば『虚空』……かな……」

 

「誰の胸が『虚空』だコラァ!!!!」

 

 地底の巨乳達を思い浮かべ、隣に立つ竜宮の使いの胸部を見て、最後に『虚空』を見る。

 

「ふっ」

 

「ぶった斬ってやろうかしらァァン!!!?」

 

「ちょ、総領娘様、いつの間に緋想の剣を……!?」

 

 ……と、まあ詭弁と比那名居天子の相性自体は悪くなく、あっという間に打ち解け(?)て……気がつけば地底から飛び出てからひと月近く経っていた。

 暇をもて余していた天人にとって、詭弁の話術は刺激が強かった。()()()()と言ってもよい。幻想郷での何気ない日常を話すだけでも、詭弁の話術に掛かればハラハラドキドキ冒険譚の一節。詭弁の()()()()()は手に汗握る臨場感と共に。異変の出来事は壮大なストーリーと共に情景が脳裏に浮かぶ。

 早い話、詭弁は『満たされている筈の天界』において劇物に等しかった。

 

「そろそろ地上に返してくれませんかねぇ……」

 

「まだまだ足りないわ!もっと貴方の半生を語りなさい!」

 

「えぇ……」

 

 満足すれば地上に返す。その言葉に偽りは無かった。だが、もし今地上に返してしまえば?その後はまた、代わり映えの無い『日常』が、『退屈』が、自身を襲うだろう。故に天子は自身の言葉を違えども詭弁を地上に返す訳にはいかなかった。天人特有の傲慢さで、詭弁を拘束し続ける。

 無論詭弁もその事は察している。察してはいるが、天界と地上が離れている故にそれでも天子に従うしかない。自身の分身たる《陰》と《陽》を地上に先んじて向かわせようとも、天界と地上は物理的な距離以上に()()()()離れている。霊魂だけでは地上まで届かなかった。

 何故詭弁が天界にまで来れたのかは分からないが、とにかく帰る手立てが現状では比那名居天子に任せるしかない以上天子に付き合うしかなかった。

 しかし詭弁もただ状況に流されるままではない。本体が天子の相手をしている最中でも《陰》と《陽》を使い、天子以外の天人に接触を図っている。成果はまだ実っては居ないが、天子以外にも『退屈』に死にかけている者が居るのも事実。その天人達を口説き落とすのも時間の問題だろう。

 

 

 そして年末の今に至る。

 やべぇーなー早く帰らねぇとなぁー。と思いながら桃を齧る詭弁。天界の桃は非常に旨いのだが、食べた気がしないのが難点だ。多分その気になれば一食で木一本に生る桃全部食べ尽くせる。

 ちなみに詭弁はまだ気が付いていないのだが、天界に生える桃、『仙果』は食べるだけで身体が鍛えられ、元から人間離れしていた詭弁の身体能力が凄いことになっている。でも空は飛べない。

 

「はぁ、早くまた刺激的な話の続きを話しなさいよ」

 

「一ヶ月近くほぼぶっ続けで俺の半生を語り尽くしたんですがァ!?昨日地底で起きた騒動の顛末と、天界に来た経緯話しただろうが!そこで俺の物語は現在進行形で加筆修正待ちだオラァン!」

 

「ちっ、つまんないわ」

 

「そう思うんなら俺を地上に下ろせ。そうすればまた物語の続きからコンテニューだ」

 

「それは嫌よ」

 

 天子は言葉や態度で表す以上に、内心で詭弁の事が凄く気に入っていた。

 不良天人と呼ばれ、歌や踊り等で遊びながら『満ち足りた』者達から後ろ指を指される事には慣れきっていた。歌も、踊りも、多少は嗜んでいる。だが()()()は自身を満たすに足りなかった。そんな()()の事で満ち足りる天人達を天子は見下していた。

 だが、詭弁は違う。日頃から仙果を食し鍛えられた天人達をまとめてなぎ払う『力』を持ちながらも、それを誇示せずにこうして自身のワガママに付き合っている。『男』であれば大なり小なり、『女』を力尽くで言うことを聞かせようという態度が有った。だが、詭弁はそういった手段を取ろうともしなかった。その点に関しては『野蛮な地上人』と見下すことは無かった。

 (幻想郷では大抵の場合女の子の方が強いから、経験上『力尽く』は悪い結果しか呼ばないと理解しているからである)

 

 だからこそ、天子は不愉快な気持ちが募る。

 

「あぁー、そういえばもう年末か……結局ひと月以上家に帰れてないし……皆元気かなぁ」

 

 私を後目に、この男はずっと地上の事を考えているから。

 

「……ふん、そんなに地上に帰りたいの?美味しい桃は食べ放題、面倒な仕事なんてしないで好きなだけ遊んで暮らせて、身を脅かす危険なんて、たまに来る死神だけ。何が不満と言うのよ」

 

「確かに、()()()()()()()()()()此処は楽園だろう。だが、()()()退()()()()()

 

 嗚呼、この目だ。今、この男がしている目。地上での生活を語る時、命を懸けた闘争を語る時、そして数多の天人達を薙ぎ払い続けた時。この男の目に宿る炎が、天子の心を焼き焦がす。野蛮な目だ。危険な目だ。悪辣な目だ。……そして、天子の知る誰よりも強く輝く目だ。

 

「『人間五十年、下天の内をくらぶれば、夢幻のごとくなり』」

 

「なによ急に。地上人の癖に、天人の私に説教でもしようっての?」

 

「まさか。仮にこの先、天人として永く生きる道が選べたとしても。俺は例え儚い一生でも普通の人間として、燃えるように、閃光のように生きる道を選ぶだけさ」

 

 それが()()()()()()だから。

 

 ギリィッ

 歯軋りが鳴る。何処から?決まってる。

 

「閃光のように!?そんなに生き急いで何がしたいの!?何を目指してると言うのよ!!?」

 

 認めない。認めない。認めない。()()を認めてしまえば最後、彼を―――

 

「頂点」

 

「ちょう……てん……?」

 

 ―――彼を、手元から失ってしまうから。

 

「男として生まれた以上、頂点(あこがれ)を目指して走らなきゃァ嘘ってモンだ。死に物狂いで手を伸ばし、泥を啜って這ってでも。倒れる時は常に前のめりだ」

 

 にやり、と不敵に笑う。

 

「自分の一生を煮詰めて、煮詰めて、濃く絞り出して。そうしてようやく見えるのさ。俺の目指す頂点(あこがれ)の背中が」

 

 するり、と。手元から彼を繋ぐ紐がほどけていくのを錯覚した。

 

 

「YO-o!!へい本体!やぁっと話がついたぜ!!」

 

 

 場違いな程に底抜けに明るい声が響く。

 彼によく似た男がフワフワと彼の下に飛んできた。

 

「話が付いたって事はつまり?」

 

「ようやく地上に帰れるって事だ!……ま、その代わり多少()()()()事になるがな」

 

「……まあ、ある程度は必要経費と割り切るさ。……ハァ」

 

「……かえ、る……?ま、待ちなさいよ詭弁。アンタは私預かりで、それで帰るには私の協力が必要なんでしょ……?」

 

 頭が悪いわけではなく、むしろ頭の回転は速い方の天子は、()()()()が何を意味しているのかを内心で理解しながらも感情面で納得していなかった。何かの間違いだと信じたかった。

 

「俺は地上に戻る。天子の協力は、要らない」

 

 足元から地面が崩れていくようだ。ふら、ふら……と、詭弁に縋りつく様に歩きだす。

 

「な、なんで……どうしてよ……天界は、良い、ところよ……食べるに困ら、ないし……好きな時に寝て、起きて……好きに遊ん、で……好きに……」

 

「……俺の『楽園』は()()()()()()

 

 脚の力が抜け、立っていられなくなった。地面に崩れ落ちる。思考と感情がバラバラだ。

 

「そ、そうよ!アンタ女の子好きでしょ!?あの竜宮の使いを好きにして良いわ!そ、それに、私だって……む、胸は無いけど!顔は整ってるし!?自分で言うのも何だけど!あはは!」

 

「天子」

 

「あの竜宮の使い、あんな真面目くさった顔してるけど絶対エッチな事に興味深々よきっと!おっぱいおっきいし!わ、私、も……ちょ、ちょびっとだけそういう事興味あるし!」

 

「天子」

 

「そ、それにほら、私……しょ、じょ、だし、別に私はアンタならそういう事の相手にしても良いかなーって思ってるし……!」

 

「天子!」

 

「ッ!」

 

 気が付けば視界が歪み、ぼろぼろと目から何かが零れ出る。情けない。情けない。情けない。

 

「なんで……なんで私の言う事を聞かないのっ!!!私は!私は天人よ!!アンタよりも偉いのよ!!!勝手に行くなっ!!!私の隣に居なさいっ!!!」

 

 自分勝手な慟哭が響く。そして……

 

 ぽん、と。優しく頭を撫でられる。

 

「天子、悪いとは思う。でも俺は謝らない。俺は誰よりも『自分勝手』だからな。恨んでくれても、憎んでも良い。嫌いになったって構わない。俺は俺がやりたい様に生きるだけさ」

 

「ふざけないで!ふざけないでよぉ……!言う事聞かないヤツなんて嫌いよ……!!大っ嫌い……!!!」

 

 頭を撫でている手を掴む。少しでも、ほんの僅かでも、その温もりを覚えていたいから。

 

「行かないでよ……ずっと一緒に居てよぉ……!」

 

「……燃えるように、閃光のように生きるって言ったけど、俺はすぐ死ぬ気はない。これが今生の別れじゃないんだ。いつかまた会えるさ」

 

「うるさい!うるさい!!うるさい!!!私を置いて何処かに行くってんなら……

 

アンタの両脚ぶった斬ってでも止めてやるッ!!!

 

 掴んでいた手を振り払い、緋想の剣を振るう。

 しかし剣の軌道を読んでいたかのように紙一重で躱し、跳ねるように距離を取る詭弁。

 

「はは、刺すどころか斬るってさ」

 

「茶化すな。……『戦う』と言うのなら、応戦するまでだ」

 

 いつの間にか手に青白く輝く棒を持ち、軽く素振りをする詭弁。それだけで空間が唸る音が響く。

 嗚呼、その目だ。思えば私はその目に―――

 

 

 

 

 

 

 天子は、気が付けば自室の布団で眠っていた。あの時、何が起きたのかは良く分からない。一瞬、一閃の光が瞬いたと思った刹那に意識を手離していた。

 身体の調子はいつになく絶好調だ。布団を蹴り飛ばし、靴も履かないままに外へ駆け出してしまうくらいに。

 走って。走って。走って。走って。天界中を走り回って。

 あの男は何処にも居なかった。

 

「こんな所で、靴も履かずに何をしているんですか総領娘様」

 

「……別に、何だっていいでしょ」

 

「そんな今にも身投げしそうな顔して『何だっていいでしょ』とは御冗談を」

 

「……何処かに消えなさい」

 

 大げさなため息と身振りで首を振る永江衣玖。そしてその仕草に沸々と怒りを溜める比那名居天子。

 

「ご存知ですか?あの男、地上でも数多もの女性に手を出しているそうですよ」

 

「……っ、だから、何?」

 

「その中には人間だけでなく妖怪や亡霊、更には神まで居るのだとか」

 

「何が言いたいの!!?」

 

「悔しくないのですか?強かったとは言え、ただの人間に負け。地上に住む人妖にも()()()()()()()()のが」

 

「ッッッ!!誰が、負けたですって!?」

 

「あの男は普通の人間ですから、まあ遅かれ早かれ死ぬでしょう。ですが周りの人妖はそれを見過ごすと思いますか?如何に彼を()()()()()に引き込むかを競っていると思いませんか?ただ一度負けただけで、投げ出すのですか?……まあ、その程度で諦めるようでは所詮総領娘様の恋心なんてその程度だったという事ですね」

 

「かっ、こっ、恋ッ!!?ハァ!!?誰が!!??誰にッ!!!?何よ!!!???」

 

「いや、そこに反応します?」

 

 歳だけ食っても精神年齢子供なんだから……と呆れ顔の永江衣玖。

 一方、口では強い口調で否定しつつも、言葉にされた事で自分の想いに気が付いた比那名居天子。

 

「(そっか。私、詭弁に恋してたんだ……)」

 

 小説の様に劇的な出会い方では無かった。ひと月にも満たない時間だった。

 でも、それで十分だった。彼との時間は、今まで生きてきた時間よりも遥かに濃密で、退屈とは無縁で、刺激的。下らない事を言われ、感情をむき出しにして怒り、でも苦痛とは無縁の時間。思えば、あそこまで何かに執着したのは初めてだった。

 

「(『恋』なんて、もっと綺麗なモノかと思ったけど……案外泥臭いものね)」

 

 何処にも行ってほしくない。ただ自分の隣にいてほしい。それだけなら、まだ綺麗なモノだったと言える。だが、選んだ手段は『その相手の両脚をぶった斬る』という野蛮なモノで。

 

 それも、悪くないかな。なんて思ってみたり。

 

「(……そもそもアイツはまだ()()()()なんだから、勝手にどっか行かせちゃったら私の責任問題になるわね)」

 

 そう、それならこんな所で蹲っている暇は無い。

 

「(アイツ、『異変解決』も仕事の一つとか言ってたわね。それなら()()()()()を起こせば、私の下まで絶対に来るはず)」

 

 彼の交友関係は、彼自身がひと月近くに渡って事細かに説明してくれた。その中で『乙女の勘』を働かせ、()()()()()を想起する。該当者は、多い。

 

「(それが、どうした)」

 

 彼は私のモノにする。命を燃やすような輝きを秘めたその目に魅了された天人(長命の者)は、その目を手に入れる為に―――

 

「……()()

 

「(あっ、悪い方向に空気が……)すみません天子様、私は急用が出来たので――」

 

「手を貸しなさい」

 

 覇気を携えながら永江衣玖を見る比那名居天子。

 こ、こんな筈では……と内心焦りに焦りながらも、表情には出さない永江衣玖。

 

「(くっ、恋愛初心者の総領娘様にマウント取るつもりだったのに……)」

 

 マジで何考えてるんだこの竜宮の使い。

 

 

 幻想郷崩壊の危機は、確かに近づいてきている。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 元旦、早朝の人里にて。

 

「まさか家に帰るまでに年が明けるとはなぁー」

 

「くく……まあ御愁傷様と言っておこう……」

 

「やー、天界から地上までのやたら長い距離を態々飛んでくれて、しかも里まで送ってくれるとか悪いねー()()()()

 

「くく……良いさ。お前は天子と遊んでくれたからな。……それに()()さえ貰えれば何も言う事は無い……」

 

「いやぁ、家が()()()()()()掃除されてなければ大丈夫さ……大丈夫、だと良いなぁ」(白目)

 

 詭弁家の中へ、男が二人上がっていく。

 一人はこの家の現在の家主である人間、詭弁答弁。そしてもう一人は天界の重鎮(暇人)である天人、名居守(なゐのかみ) 天蓋(てんがい)

 詭弁はともかく、何故天人である名居守まで詭弁家に上がるのかというと、詭弁を地上に送った()を受け取る為である。

 

「ふむ……ひと月近く空けていたと言うには埃一つとて無いな……」

 

「色んな人が割と頻繁にウチを掃除してくんだよねぇ、有り難い事に」

 

 なおその際に詭弁の私物が無くなり、代わりにソックリな別の物に入れ替わっている事に詭弁はまだ気が付いていない。『枕までいつも誰かが洗濯してくれるんだよねぇ。有り難いよホント』と、聞く人が聞けば『いやお前……』となる事必至である。

 閑話休題。

 

「……さて、本棚の奥は……あっ、やっぱ無くなってる」

 

「畳の裏……は……やっぱ無いかぁ」

 

「押入れの裏……も無くなってらぁ」

 

「台所の食器棚の隠し棚……も、無い……だと……?」

 

 さて、詭弁が何を探しているかと言うと、例のアレ(エッチな本)である。詭弁が長く家を空けたら、もはや恒例となっているアレ(エロ本処分の刑)である。詭弁が何をしたと言うのですか!!

 

「……本当に大丈夫なのか?というか、此処はお前の家では無いのか?何故勝手に私物が処分される」

 

「幻想郷じゃぁよくある事だから!!!」

 

「……そうか」

 

 幻想郷こわ……と内心思う名居守だった。

 

「くっ……これが最後の隠し場所だ。屋根裏部屋!」

 

「其処こそ真っ先に捜索されてそうなモノだがな……」

 

「俺がただ屋根裏部屋に隠してるとでも?コレを見よ!」

 

 屋根裏の薄暗い部屋の中。本来は埃っぽい空気なのだが、現在は其処も綺麗に掃除されている為にそれなりに快適な場所だ。

 そして詭弁が見せたのは、屋根裏部屋に設置されていた小物。外来の品であり、その名も『マトリョーシカ』と呼ばれる人形だ。

 

「……コレがどうした?」

 

「コレをな、こうしてな、こうじゃ!」

 

 詭弁はマトリョーシカの中身を適当にバラバラに配置した……と思えば、マトリョーシカの『模様』が見事に魔法陣となった。

 

「いわゆる『収納魔法』って奴だ。フフフ……流石にこんな小物が収納魔法の魔法陣に変わるなんて、御天道様でも思うめえよ……」

 

 悪い顔して笑う詭弁。だが中身はお察しの通り、ただのエロ本である。ただのエロ本とは言え、詭弁が厳選に厳選を重ねたモノであるが。

 

「本当に、ほんっっっっとうに惜しいモノだが、背に腹は代えられんからな……」

 

「……気持ちは、分かる。だが対価は対価だ」

 

「分かってらぁ」

 

 名居守は詭弁を地上まで送る対価として『上等なエロ本』を要求し、詭弁(《陽》)がそれに応えた形となる。

 天人がエロ本なんて……と思うかもしれないが、天人とは言え彼も男なのだ。ましてや天界なんて閉じた世界。幻想郷よりもエロ本の入手難度が高いのだ。物理的にね?

 そして漸く対価を受け取った名居守は、小さな宝玉を渡してきた。

 

「くく……それは我と直通で会話が出来る物だ。用がある時は何度かそれを小突くが良い。困った事があれば助けてやろう」

 

「対価次第で?」

 

「無論。男相手にタダ働きはゴメンだからな……ではサラバだ詭弁。また会おう」

 

「おう、またなー名居さん」

 

 そうして飛び去っていく天人。

 

「……さ~って、久々の家だし、ちょっとのんびりしようかなぁ―――」

 

「―――随分()()()()()()してるみたいね、詭弁」

 

「―――ぁー……えー……いつからそこに居たんパチュリーちゃん?」

 

「丁度変な男が飛んでいった時よ。……成程ね、『マトリョーシカ人形』の入れ子構造を魔術的に組み込んだ収納魔法ね。随分面白い発想じゃない」

 

「で、でっしょー?いやーこの構造思いついて、実際に仕上げるまで結構掛かったんだよねぇー」

 

「ええ、凄いわね。致命的な脆弱性が無ければ、だけど」

 

「ち、致命的な……脆弱性?」

 

「ええ。もの凄く致命的なものよ……『アグニシャイン』!!」

 

 突如放たれた魔法の炎を防ぐことが出来ず、無残にも焼かれるマトリョーシカ人形。

 

「な、何をするだァーッ!」

 

「このように物理的な破壊に対して何の防御が無い上に、破壊されれば()()()()消滅してしまうのが難点ね。勉強になったかしら?」

 

 こ、コイツ……息を吐くように()()()()()()()を……ッ!!!ゆ゛る゛さ゛ん゛!!

 

「ところで一ヶ月近くも何処に行っていたのかしら?」

 

「そんな事など我が宝を消された事に比べればどうでもよいのだァァァーッ!!!」

 

 

 どうでもいい?

 

 

「あっ……霊夢ちゃん……」

 

「ひとが一ヶ月近く心配してた事が、どうでもいい?」

 

「あっ、その……」

 

「一ヶ月近くあちこち飛び回って、探し回って、何処にも居ないってなって、心配させる事がどうでもいい???」

 

「しゅ、しゅんましぇん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夢想封印ッッッ!!!!

 

 

 

 新年早々、幻想郷は騒がしいようです。

 




皆さんおひさー☆げんきー?私はねー……ヤバい。
気が付いたら1万字近く書いてた。ヤバぉ。
天子可愛い。ヤバぃ。


天界に住む天人と地上に住む人間では、生きる時間が違う。
故に、道が交わる事はあれど決して寄り添う事は無いのだ……。
てんこ「うるせえお前も天人になるんだよオラァ!!」
クズ「うおおおお!!止めろォォォォ!!!!」

幻想郷では割と日常風景だな!ヨシッ!



クズ「俺に惚れると火傷するぜ☆」
紅白「ヴォェ!!」
白黒「おrrrrr」
398「うっ……すみません、失礼します……」
半人前「詭弁さん、世の中にはやって良い事と悪い事が……」
2P色「悪い事は言いませんのでそのキャラは止めた方が……」
クズ「揃いも揃ってリアクションっっっ!失礼だとは思わんか!!?」


気が付いたらもう朝の5時前だよ!まったく執筆に夢中になってまた寝る時間が無くなっちまったんだぜ!そういうわけでね。はい。例のアレです。
感想とかさ、評価とかさ、久々に更新頑張ったんだからさ、ね?ね?一杯おくれ?

今のは送信の送れと贈与の贈れと更新滞りまくって遅れのトリプルミーニング!!!
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