詭弁ですよ!霊夢ちゃん! 作:名は体を表す
* * * * *
「総領娘様、天界中から桃を集めてきました……あの、本当にやるんですか?」
「当たり前でしょ。詭弁はただの人間だけど、想像を絶する程の修業の果てにあの強さを得たの。今から詭弁と同じように修業したって、その強さに届くまでにどれ程掛かるの?」
「それは……」
「詭弁に追いつく……ううん、詭弁を追い越す為には
「しかし、だからといって……常に大量の桃を腹に詰めながら更に身体を鍛えるなんて常軌を逸しています!」
「衣玖、この桃……『仙果』は食べるだけで身体が鋼のように鍛えられる。当然食べれば食べる程に、更に身体が鍛えられていくの。その上で肉体を徹底的にいじめる。相乗効果であっという間に強くなれる筈よ!」
「ですがそんな事をすれば総領娘様のお身体がどうなるか予測が付きません!桃を大量に食べるなんてそれだけでも前例の無い事ですのに、更に身体を鍛えるためにトレーニングを行うなんて……ゴリラかブタにでもなりたいんですか!?」
「別になりたくてなるわけじゃ……と、とにかく一にも二にも詭弁より強くならなきゃ意味が無いの!ゴリラやブタになったらその時はその時改めて肉体改造し直せば良い!」
「総領娘様……この永江衣玖、敬服致しました。貴方様のその御覚悟の邪魔にならぬよう、遠目ながらもしかと見させていただきます」
「何言ってんのよ。アンタにはまだ重要な役割があるんだから勝手に去るな!」
「え”っ……まだ何かあるんですか……」
「当たり前でしょ?誰がこの大量の桃を調理するのよ」
「…………はい?」
「アンタまさか、この私が大量の桃を全部生で齧るとでも思ってたの?アンタは飽きが来ないように工夫して料理し続けるのよ!」
「……あー……えっ?この、山のように運んできた桃を?全て?」
「勿論最初は生でも齧るけどすぐ飽きるに決まってるでしょ!?そもそもこの天界には
「……(白目)」
* * * * *
「―――とにかく、強くなるために思いついた事はすぐに実践したわ。常に桃を齧り飲み込みながら天界中を駆け続けたり、巨大な要石を持ちあげてスクワットしたり、緋想の剣を使って素振りし続けたり、色々。時に吐き戻したりもしたけど、少しでもお腹に空きが出来たら桃を詰め込んで更に身体を鍛える……そんな生活を続けた所為で贅肉がもの凄く付いたけど、それ以上の筋肉が私の身に付いている。それは―――――単純な力比べなら詭弁にだって負けない程にィッッッ!!!」
打ち合っていた緋想の剣と陽気棒の均衡は一瞬で崩れ、空間が唸る音と共に俺は吹き飛んでいた。
重い……なんてモノじゃない。まるで山そのものに突き飛ばされるような、拮抗すら許さない程の規格外。
吹き飛ばされて大地から離れ、着地の為に宙で姿勢を整えよう……と、その次の瞬間。
「
地面を蹴り砕き、俺が吹き飛ぶ速度よりも速く追いつき、俺の脚が地面に着くよりも速く緋想の剣を振り下ろす。俺はそれを眺めてる事しか出来なかった。
眺めてるだけでも良かったと言い換えよう。
確実に俺に当たる筈だった剣の軌跡は、俺の目の前を通過して地面に叩きつけられた。その後俺は地面に着地し、何が起こったのか理解出来ないと言った表情の天子ちゃんにネタバラシを行う。
「腰にある
「……ッ!?これは、いつの間に!!?」
天子ちゃんの丸々と膨らんだ腹に隠されて見えなかった物の正体、それは糸だった。
唯の糸と侮ることなかれ。これはアリスちゃんから貰った『魔法の糸』だ。俺も生成自体は出来るが、アリスちゃんのように高純度で丈夫な糸は作れない……まあ、それはともかく。魔法の糸の先には、辺りに転がっている岩に繋がっていた。
「夜は妖怪の領分……だが、俺みたいな『
「なっ……こんな小細工で!?」
「……
これがもし妖夢ちゃんだったのなら身体に引っかかる糸と岩の所為で僅かに足りなかった分の踏み込みの代わりに、腕と肩の筋を伸ばして一太刀入れる程度の反応を無意識レベルで即座に行えるだろう。
これがもし咲夜ちゃんだったのなら即座に切り替えて手元のナイフを投擲し、続いて追撃を狙うだろう。
これがもし霊夢ちゃんだったのなら……そもそもこの程度の小細工が通用しなさそうだったから一旦思考を止める。
「強くなる事に近道なんてありゃしない。仮にあったとしてもその強さは脆いモンさ。地道に地道に積み重ね……階段を上る様に強くなる。一足跳びで上っても転びやすくなるだけさ」
「ッ!ほんのちょっと
「人は躓いて、転んで、立ち上がる事で強くなっていくモンだぜ。おお!少し強くはなったんじゃないか天子ちゃん?」
「馬鹿にしてッ!!!」
バガァン!!と地面が砕ける程に強い踏み込みで突撃してくる天子ちゃん。確かにその速さはとんでもないレベルであり、その見た目からでは一切想像も出来ない程に機敏に動けている。……だが、それさえも
「『
「わっ……キャッ!!?」
凄まじい勢いで突っ込んできた天子ちゃんの足先を凍らせる。その重量が集中し、圧縮された事による熱によって凍った部分の表面が僅かに融ける事で摩擦を奪った。
要するに勢いそのまま、ド派手にすっ転んだ。
「躓いた次は転んだな。更に強くなれた様で何よりじゃないか」
「ふっ……ざけないでッッッ!!!派手に転んだ程度で怪我する程ヤワな身体じゃないわ!」
地面を蹴り、今度は空を飛ぶ天子ちゃん。空を飛ぶ速度もまた速く、地を駆けるよりも複雑な軌道で飛び回る。その上弾幕をばら撒く事で牽制をしているようだ。
……だが、まともに力を込めていない弾幕はハリボテにすらならない。天子ちゃんにとってその
だから、こうなる。
「『
「へっ?ぷぎゅッッッ!!!?」
高速で飛び回る天子ちゃんの眼前に頑強な結界が現れ、頭からその結界に突っ込む。速度がそのまま威力となり、自分に全て帰ってきたようだ。
そのまま真っ逆さまに空から落ち、地面にも激突した。
「ぐっ……ぐぐぐ……」
「ヤワな身体じゃなかったが、流石にあの勢いでノーダメージとはならなかったようだな」
「正々堂々と勝負しなさいよ!!!!」
地面に
「うるさい!なんで真っ向からぶつかってこないの!!?アンタには、
「
幽香ちゃんやメイちゃんとの組手をする際にはそれこそ真っ向からぶつかるが、それはあくまでも訓練の一環だからだ。俺の命は一つしかない以上、弾幕ごっこの様な遊びならまだしも実践には
「既に『弾幕ごっこ』の粋を越えた……故に本気で戦ってるだけさ」
「うるさいうるさい!アンタは……
「ワガママっぷりに磨きが掛かってるじゃねぇか。
『憧れと理解は遠い感情』……か。理想と現実は違う。理想を描けぬ者に
口は回れど、説教臭いのは苦手なんだ。だから―――
「ボコボコにぶん殴って現実を分からせてやるよ!」
◆
天子ちゃんを殴り、打ち、蹴飛ばし、転ばし……それでもほぼ無傷で立ち上がっては斬りかかってくる。山の様に……と、さっきは思ったがこれでは本当に山を相手にしているようだ。一撃……また一撃と、相手にとってはチリの様なダメージを積み重ねる。積もれば山となるだろうが、積み上げきるまで相手からの攻撃をマトモに食らってはいけないという縛りが重くのしかかる。
「あああああああああああ!!!!」
「ッ……『
真っすぐ、イノシシの如く突っ込んでくる天子ちゃんに対し地面に伸びた影からの不意の一撃が突き刺さる。一瞬怯みはすれども、それだけ。丈夫すぎる天子ちゃんの身体には痣一つ残らない。デコピンだけで大の大人を倒す……或いは、妖怪の山をスコップ一本で崩すように思える程途方もない苦労と時間が掛かるだろう。
「シ”ィっ!!!」
大振りに振られる緋想の剣を避け、後隙を逃さずぶっ叩き続ける。この緋想の剣も厄介だ。その刀身は幻想のように揺らめき続け、振るい当たるその瞬間に刀身は刃に変わる。故に非常に剣筋が見づらい上に掠りでもしただけでアウト。剛腕で振るわれる勢いが掠っただけで俺の身体を通り、良くて体勢が崩れ、悪くて致命傷になるだろう。それ程までに
力が、パワーが圧倒的に足りない。天子ちゃんに勝つには、それこそ
だがそんなものを望んで、すぐに手に入るようなら誰だって苦労はしない。
…………いや、
だが、それは非常に危険な諸刃の刃。もしそれで仕留めきれなければ……待っているのは確実な敗北だ。勝つために手段を選んでられる程贅沢言っている場合ではないが、その手段はあまりにもリスクが高い。
……だが、今のままではジリ貧だ。せめてあと一手、
「天子様、桃のおかわりを―――」
「でかしたぜ衣玖サン!」
「なっ、馬鹿衣玖!空気読みなさいよ!!!」
『
数多もの影分身が天子ちゃんに飛び掛かり、足止めを行う。
全ての影分身を斬り捨てるのに僅か一秒。だが、その一秒は価千金の一秒だった。
全身から黄金色の『
「……へっ?」
「ガツガツ……ゴクッ……ぷはぁっ!この前までは気がつかなかったが、流石に一気に食べると
「なっ……なぁっ……や、やりやがったわコイツ……っ!」
全身から吹き出る黄金色の気が更に濃くなり、まるで紅く輝いている。よく見えないが、多分髪の色と瞳が紅くなってる気もする。(推定)
「そう、これが
「バカお前それはもう色々とマズイでしょ!!?」
この圧倒的
「ひぇっ、詭弁さんが脳みそまでプロテイン漬けになった……」
「桃にそんな効果ないわよ……ッ!?」
一息にも満たない間に天子ちゃんに近付き、その丸々とした身体をぶん殴る。
拳に響く感覚は、間違いなく山を震わせる程の手応えだった。
「ふぐッッッ!!?」
ボールの様にぽーんと
「ゴがァッッ!!!」
蹴り返した勢いもあり、地面とほぼ平行に飛ぶ天子ちゃんにまた回り込む様に追い抜き、向かってくる天子ちゃんをぶん殴る。
人の身体を玩具にして行われる超人的な
余裕が、
「『
「もう色々とマズイ上に無茶苦茶じゃないの!!!」
殴り飛ばされた天子ちゃんが
その
陽の気と陰の気は互いに廻り合い、干渉し、影響を受ける。過剰なまでに注がれた気によって『本体』と『影』の因果関係が逆転する。即ち『本体が動くから影も追従する』のではなく、『影が形を変えるから本体が追従する』ように。
故に影が縫い止められた天子ちゃんは、自らの意思で動くことが出来ない。
「此処までやっても、たった一人の時間を止める事しか出来ないのだから本当に幻想郷は理不尽に溢れてるよなぁ」
「理不尽はアンタよ!早く解きなさいっ!」
「安心しろ。精々後3秒程度で業は解除される」
つまり、後3秒でケリを着けるということだ。
3
殴る、殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る殴る。
一人キャッチボールの際、移動に回していた
2
蹴る、蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る蹴る。
1
撃つ、撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ撃つ。
ゼロ。
「『そして時は動き出す』」
地面に突き刺さり天子ちゃんの影を縫い止めていた陽輝棒を引き抜いたその瞬間、叩き込んだ全ての衝撃が解放され天子ちゃんを遥か彼方へとブチ飛ばした。
「『博麗式
空高くぶっ飛び、星になった天子ちゃんを瞬間移動で追いかける。同時に、俺の身体は元の姿に戻っていた。
そこは青く輝く星を見下ろす、無限の世界への入り口だった。
「……アンタは、卑怯者よ。真正面からぶつかって来ないなんて言いながら、結局滅茶苦茶な力押しなんてして」
あれだけの攻撃を叩き込んでも、未だに意識一つ断てないなんてな。だが流石に限界なのか、満身創痍といった風貌で宙に浮く天子ちゃん。
「それで、私にトドメを刺しに来たのかしら?幻想郷を壊そうとした大罪人の私の首でも取りに来たの?」
「ンな物騒な事するかよ。女の子には優しくするのが俺のモットーなんだ。……それに、幻想郷を壊そうとした大罪人?何処にそんな奴が居るんだ?」
「なっ……まさかこの期に及んで、あの大地震を起こした犯人が解らないなんて言うつもりなの!!?」
「あの大地震は
「そんな……そんな事は許される訳が無いでしょ!?私は、下界の奴等を皆殺しにする気だったのよ!?それを―――」
「でも、未遂だ。幻想郷の連中は誰も死んじゃいねえ……良いか天子ちゃん。『許す、許されない』って話じゃねえんだ。『異変を起こす、それを解決する。終わったら関係者全員集まっての大宴会』それでおしまいってだけの話だ。感情も、罪も、全部酒と共に呑み込んで馬鹿騒ぎ。
「……理解、出来ないわ」
「んにぃ、ならオバカな天子ちゃんにも分かり易く伝えてやるよ。周りを見てみろよ。仰ぎ見れば満天の
「……」
「それに、
「……そう。やっぱ私、アンタみたいな
「『目』はもう治ったようだな?」
「ええお陰さまでね。目の治療費は―――アンタの黒星よッッッ!!!」
「黒星は既に十分な程に積み重ねてる。ただ俺が欲しいのは―――お前からの白星だ!!!」
『全
『夢想流転』
夜空から一筋の流れ星が落ちてきた後、幻想郷の各地で起きていた異常気象は収まった。
かの博麗霊夢が
緋想天編、完!
いや、もうちょっとだけ続くんじゃ。
なんかオラオラ煩そうな詭弁であった。
?「私凄い空気な気がするんですが」
知らん。そんな事は俺の管轄外だ。
何とか無事今年中に更新出来て良かった、良かった。
皆様、良いお年をー。
クリスマス特別編は無いのかだって?
『与えよ、さらば与えられん』という名言を知らないのか?
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『与えよ、さらば与えられん』