詭弁ですよ!霊夢ちゃん! 作:名は体を表す
……ここは何処だ?俺は……確か、心臓を突かれて死んだ筈……っ、寒……。
冥界……でも無ければ、三途の川でも無いし……辺りを見回しても何も見えない、聞こえない。『俺』という存在が闇の中で一人、ポツンと浮かんでいるようだ。
この空間に居ると、俺の身体がヤスリで削られていくかのように少しずつ、少しずつ
此処は何処だか分からない。だが、いち早くここから脱出しなければ、俺は
故に俺は―――
◆
焦熱の波動
赤い閃光が詭弁勉号の手から放たれ、魔神の黒い腕を焼き落とす……が、魔神はまるで時を戻したかのように何事もなく黒い腕を振り回す。
「詭弁、詭弁、詭弁んん!!!貴様も息子と同じように我が魂と一つになるが良い!!!」
「テメェなんぞにオレの子をやる訳ねえだろ!」
炎獄弾
詭弁勉号は腕を魔神に向け、その十指全てから機関銃の如き速度で蒼き炎を飛ばし続ける。炎の弾丸が着弾した所から猛火が上がり、周囲の物を焼き尽くしていく。『神』を、その核ごと焼き尽くさんとする炎の弾幕は直撃すれば間違いなく神殺しを為せるだけの威力を持っていた。
無論、魔神はそんなモノを態々その身で受け止める気はサラサラなく、その神力を持って炎の弾幕を
絶対零度の視線
魔法の炎は、その燃える姿を保ったまま空中で凍り付いた。
名も亡き魔神は、『魔』を司る神にしてあらゆるモノを凍らせる
「無駄だ無駄だ!魔法とは言え所詮
反撃と言わんばかりに魔神はその身から凍気を放出し、触れる全てを凍らせていく。
博麗八重結界
「舐めんじゃないわよ!!」
詭弁巫女は両手で印を結び、魔神を空間的に隔離する。八重に張られた結界の内七つが凍り付き、粉々に砕け散る。だが詭弁巫女は一番外側の結界を暴力的に殴り付け、結界の内側に衝撃を叩き込む。
「本当に鬱陶しい小娘だ。『覇痲滅―――
夢幻泡影
詭弁勉号の魔法が、魔神の黒い腕を
「お、おぉ……貴様、我が腕を一度ならず二度までも!!!」
「その技のタネが割れてるのに使う方が悪いに決まってんだろ!」
まるで『魔神の腕』という絵の上に紫色の絵の具をぶちまけたかのように、魔神の腕を封じた詭弁勉号。魔神は時を戻したかのように腕を再生……出来なかった。
黒から紫色に変色した腕は魔神の意思で動かすことが出来ないにも関わらず、概念的には一切の傷を負っていない状態だった。
「テメェの腕が
「小癪な!!」
魔神は邪魔になった腕を切り捨て、再度再生を試みようとするがそんな隙だらけの姿を見逃す詭弁勉号では無い。今度こそ魔神を滅ぼす為、猛攻を始めた。
◆
「……呼んでる」
「ああ!?何か言ったか!?」
地獄の奥底、焦熱地獄。其処で燃え盛るように激しい弾幕勝負が行われていた。光弾、光線、針、お札、様々なものが飛び交い、『遊び』と称した戦闘が焼ける世界に繰り広げられている。
しかしある瞬間、神の力を得た妖怪が突如弾幕を放つのを止めてある方向を見る。その方向は偶然か必然か、鳥頭の彼女が訪れたこともない、知る筈もない『嗢鉢羅地獄』の中心地がある方向だった。
「行かなきゃ」
「っ!?待ちなさい!何処へ―――」
紅白の少女が止める間もなく、妖怪少女は全速力で真っ直ぐ飛び去っていく。
「なんだアイツ、いきなり何処へ行こうってんだ?」
「知らないわよ!とにかく追うわよ魔理沙!」
高速で飛び去る妖怪少女を追うように、人間の少女二人は灼熱地獄の空を翔る。
◆
極寒の地獄で始まった戦闘は、魂まで凍るような寒さを吹き飛ばすほどの激しい戦闘……『戦争』と呼ぶに相応しい規模の被害を周囲に撒き散らす。
無論こんな極寒地獄に住んでいる生物は居らず、裁きを受けている咎人の霊魂を除けば
……そして生き残った者達もまた、『名も亡き魔神』によってその命を摘み取られる間際だった。
「くふっ、ははははは!素晴らしいっ!実に素晴らしいッッッ!!!詭弁勉号ッ!貴様の息子は、我が位階を押し上げるに十二分なイケニエだ!ああ、実に素晴らしい!今にして思えば、貴様に滅ぼされかけた事すらこの予兆に過ぎなかったのだ!」
「化け物め……」
『戦争』の始まりは、拮抗していた。詭弁勉号を軸に詭弁巫女・《陰》が魔神を攻め立て、《陽》が防御を、星熊勇儀が攪乱を担当していた。
「鬼の力も目眩まし程度にしかならないとはねぇ……こりゃ本気で一から鍛え直さないとだな……ッ!」
「それもこれも、この戦いを生き残ってからだ!」
一人一人が一騎当千の実力者。この状況が続けば、時間はかかれども全員が生きて魔神の討滅を為せる……筈だった。
それは突然の事だった。突然、魂まで凍るような凍気が放たれ、咄嗟にそれに対応出来なかった《陰》が。その事に動揺した《陽》と星熊勇儀が。刹那の間に凍りつき、その身を氷の牢獄に捕らわれる。
「くふっ、ははは!!なんだ!なんだこの力は!!!
詭弁答弁に宿る黄金の意志が!白金の才能が!!宝玉の経験が!!!
我が血肉となってゆく!!!」
黒く、昏く、曖昧だった『魔神』は、詭弁答弁の魂を飴玉のようにじわじわと舐めとかし飲み込むようにその身に吸収していき、この極寒地獄の地に顕現した。
地面に触れる程長い黒髪、一見妙齢の美女にも見える顔立ち、ギラリと黄金に光る猫のような瞳、そのどれもが
それからは、あっという間だった。
拮抗していた戦況は一瞬で『魔神』側に傾き、詭弁巫女を氷の剣で串刺しにし、詭弁勉号の両手足に鎖を打ち込んだ。二度も自身を滅ぼしかけた憎き怨敵を、赤子の手をひねるが如く容易く倒すこの力に酔いしれた。
……その際、自身を信仰していた者達を
全能感。邪魔者も、怨敵も、あらゆるしがらみを無に帰す強さに高揚しながらもさて、目の前の
サブタレイニアンサン
「ぐあああああッッッ!!!?」
「攻撃が……効いた……?」
「詭弁は……何処?」
極寒の地獄において尚、獄炎の熱風を吹かす黒き烏……『霊烏路空』が太陽と同じ力を携え現れた。
「き、貴様……ッ!?
「追い付いたァー!!あークソっ!なんなんだ此処の寒さは!!」
「灼熱地獄の次は極寒地獄?聞いてないわよ……ちょっと紫!?結構寒いんだけど、何とかしなさいよ!」
『……』
「紫!?聞いてるの!?」
後に続くように、戦場に『霧雨魔理沙』と『博麗霊夢』も現れる。そして霊夢の言葉に反応を返したのは通信越しに居る八雲紫ではなく、両手足を鎖で貫かれた詭弁勉号だった。
「ゆか、り……?」
『勉号……勉号ッ!』
『あっ……ちょ、紫!?』
「勉号!貴方……生きてたのね……!」
「ゆかり……ああ、まあな……」
八雲紫は詭弁勉号の声を聞いて、通信先から思わず、といったように境界を繋いで飛び出してくる。
「おい万年喪女ォ……私の前で堂々と勉号さんを抱くなんていい度胸してるじゃないのォ……」
「うげぇっ!?腹に剣ぶっ刺さってるのに生きてるぜこいつ!?」
「魔理沙!落ち着いてよく見なさい!
「博麗の巫女ならこの程度で放置されても死にはしないわ。貴女達は後で後悔させてやる」
「ヒエッ」
霧雨魔理沙と博麗霊夢は全身血だらけな上に腹から剣を生やしている詭弁巫女を見て肝を冷やしている。
状況は人数が増えただけ。『名も亡き魔神』の力は刻々と上昇していくのにも関わらず、戦場の空気は若干弛緩したものに変わっていく。魔神はそれが気に喰わない。全てを想うがままに支配した筈だったのに、突如現れた奴等に自分の世界がかき乱されていくように思えた。
「貴様等……この氷獄から生きて逃れられると思うな!!!」
「お前から詭弁の声が聞こえるわ。氷獄とやらを溶かし尽くせば詭弁を助けられるかしら?」
「よく分からんが、アイツがラスボスか?お~寒っ、とっとと終わらせて帰るとするぜ」
「何でもいいわ。早く終わらせて温泉に浸かりたいわね……それで、あの馬鹿は何処に居るのかしら?」
「性懲りもなくまた現れて……命が惜しいのなら私達の前に出てこなければいいのよ」
霊烏路空から放たれる
八雲紫の
「……ゆかり」
「何よゴリラ女」
「『最強』の名を下ろす気は無いけど、私だけじゃアレの相手は荷が勝ちすぎるわ。……答弁を助けるために、力を貸して」
「…………ふん。貴方なんかに言われなくても、
「なんだ、私の息子に惚れたのか?」
「お前から殺すわよ」
日も差さぬ極寒地獄に太陽が顕現し、神と神がぶつかり合う。戦場すら遊び場とする少女達が飛び回り、我が子を救う為に死力を尽くす大人達と共に再び本体を取り戻すために分身も武器を手に取る。
戦争は、どのような結末を迎えようとするのか。それは神にも分からない。
◆
歌う。歌う。何も見えない、聞こえない、完全に閉ざされた闇の中で一人、歌う。
感情に任せた歌を歌う。
理性を放り出した歌を歌い続ける。
言葉にならない歌を歌いあげる。
存在しない歌を歌う。
闇に存在を削り取られ続けながらも、歌う。
記憶を零しながらも、歌う。
意志を落としながらも、歌う。
自分の姿が消えていく。
認識が溶けていく。
意識が暈けていく。
音程も何もない歌を、歌う。
大事な何かを奪われても、落としても、零しても。
世界を閉ざす闇に包まれても。
腕が闇に消えようとも手を伸ばし続ければ。
最期の時まで足掻けば。ほら。
希望の光が見えるから。
◆
突然、魔神の胸に光輝く棒が突き刺さった。
「があァッッ!!?ア”ッ……これはッ……!!?」
「あれは詭弁の……ッ!」
『名も亡き魔神』の身体にヒビが入り、内側から何かがもがき出ようとしている。
「答弁っ!?ゆかり!!」
「紫さん、オレに合わせてくれ!」
「久々の共同作業に胸が高鳴っちゃうわ、ってね……!」
魔葬:
しゃららん
鈴の鳴る音と共に、『魔神』が内側から爆発し中から小さな光が飛び出てくる。
「な、何だいあの光は……!?」
「幽霊……?にしては幾らなんでも小さすぎるぜ……」
「っ!まさか、きべ―――「詭弁ッ!!!」
蝋燭の火かと思う程に小さい光に向かって迷うことなく飛び付く霊烏路空。小さい灯火を抱くように、胸についている『赤の目』に灯すように、限界を超えてすり潰された詭弁の魂を、自身の器に満たすように。
私が、詭弁を助けるんだ!
その魂が、霊烏路空と一つとなった。
詭弁が持っていた
その場にいた全ての者の目を焼く閃光が収まった時、其処に立っていたのは白く輝く髪に燃え盛る紅と黒の瞳を携え、その腕には青白く光り輝く六角棒を持ち、背中に黒い翼と宇宙を映すマントを棚引かせて
詭弁答弁の面影を持つ『太陽の化身』が顕現した。
「なっ……八咫烏の力を……!?」
「と、答弁……なのか……?」
「『……』」
詭弁巫女の声に無言で答える『太陽の化身』。その紅と黒の瞳を、『名も亡き魔神』に向ける。視線の先には、破壊された胸部を修復している魔神が立っていた。
「ぐ、ぅ……オノレ……貴様ァ……大人しく我が贄となってれば良いモノをォ……!!!」
どんな極寒であろうとも焼き尽くす超高温超高圧の神の力。
「おぉ……おぉぉ……神の力を自在に操るだと……やはり貴様は極上の贄……!その神の格ごと我が身に捧げよッ!!!」
不可視の凍気が高速で放たれ、辺り一帯を極寒の地獄に戻す。それに巻き込まれた者達は氷像と化す……事は無かった。
「『太陽はあらゆるモノを引き寄せ、融かす。その力を自在に操れるとしたら望むモノだけを引き寄せ、望まぬモノは引き寄せないといった使い方も可能』」
「な……んだ、と……」
『魔神』にはあらゆるモノを凍らせる
だというのに。
煌々と輝く小さな太陽は未だ健在。むしろ少しずつ大きくなっていく。
それが意味する事は、つまり。
「おぉ……おぉぉ……ッ!認めんっ……絶対に認めんッ!!!我は生まれながらにして神ッ!貴様等の様な人間と妖怪の成り上がりとは違うッ!!!」
『魔神』はその身ごと氷の巨人に変化し、矮小な人間達を叩き潰さんと拳を振り上げ―――
マスターノヴァ
極限温度の閃光が氷の巨人を、氷獄を、世界を、全て飲み込んだ。
◆
あれほど激しかった『戦争』の終わり方は、酷くあっけないモノだった。
無数に居た氷の魔法生物は、『魔神』の肉体と共に極寒地獄ごと焼失。
灼熱地獄と極寒地獄が壁一枚隔てた隣り合わせだった事と、極熱の閃光がその壁を焼き払った事で灼熱地獄の熱が流入。超巨大な灼熱地獄へと変わった。
そして外の世界からの侵略者である『魔神』は、信者を全て失った今。完全なる消滅を目前としていた。
「殺すべきよ」
幻想の賢者、八雲紫が言う。
「放っておいても消滅するだろうが、トドメは刺しておくべきだ」
異界の勇者、詭弁勉号が言う。
「余計なイザコザは御免だわ」
最強の元博麗の巫女、詭弁巫女が言う。
「というかいつまであんた達合体してるのよ!」
現博麗の巫女、博麗霊夢が言う。
「『そんな事言われても戻り方なんて分からないし……』」
『太陽の化身』が言う。
「って言うか……詭弁、だよな?」
「ついに完全に人間を辞めたぜ」
鬼の四天王、星熊勇儀と人間の魔法使い、霧雨魔理沙が言う。
《陰》と《陽》はいつの間にか姿を消しているので、今此処に居るのは人、妖怪、神合わせて七人。それと消滅しかけた何かが一つ。霊魂よりも惨めな存在となって宙に浮いているだけの存在。消えかけの蝋燭のように、その存在は既に朧であった。
「死にたくない……消えたくない……」
風の音にすら負ける程に掠れた声は、その場にいる誰にも届かない。
「『……』」
「どうしたんだ詭弁」
「魔法は科学に追いやられて廃れていく一方……何故我々魔法使いは排除され続けなければならない……」
その声は、外の世界に住んでいた魔法使い達の声。
科学とは別の視点から真理を追究し、神を恐れぬ研究者達が幻想に追われながらも最後に縋った神の声。
ふいに、『太陽の化身』は朧に手を伸ばす。
「『忘れられた神も、魔法も、全部。大人しく出来るってんなら、俺がお前を受け入れてやる』」
「……傲慢な奴だ。だが、ありがとう……」
そのまま、朧は融けていくように『太陽の化身』に消えていった。
辺りに静寂が訪れる。
「……終わった、のかしら?」
「……の、ようだな」
「ふぅ。なんかよく分からんうちに解決したようだぜ……地上の温泉はもう大丈夫だろうな?」
「紫、アンタの能力使えば
「『うにゅ?』」
「そりゃ出来るでしょうけども……まあ、やるだけやりましょう」
そうして八雲紫が持っている扇子で『太陽の化身』の額を軽く叩く。その瞬間、ピカッと目を焼く閃光が放たれたかと思えば、霊烏路空と詭弁答弁の二人が立っていた。
「私と詭弁がフュージョンしちゃった!」
「その言い方止めなさい!」
「痛いっ!」
大幣で容赦なく空の頭を叩く霊夢。
「おい詭弁、大丈夫か?」
「答弁、ちゃんと生きてるわよね?」
「ぅ……ん……」
魔理沙と巫女が詭弁答弁に駆け寄る。
辺りに異変解決後の和やかな空気が漂う。幻想郷に平和が訪れ―――
「お前ら……誰だ?」
「……えっ?」
―――異変は、まだ続く。
東方詭異変1stSTAGE CLEAR!!