詭弁ですよ!霊夢ちゃん! 作:名は体を表す
-地霊殿-
「……」
「……どうなのよさとり」
「さとり様……」
「……駄目ですね」
「『駄目』って……どういう意味よ!」
「お、落ち着いて下さい霊夢さん」
地霊殿の一室に人と妖怪が集まって、一人の人間を囲む。
覚妖怪は囲まれている人間の心を読み、その内面を探っていた……だが、成果は芳しくないらしい。その様子に苛立った博麗霊夢は覚妖怪に掴み掛かる。
「……元々、詭弁さんの心は読み辛いというのもありましたが、今は『読めない』と言える程……。例えるなら、本にインクを大量に溢してしまったかのように」
「つ、つまりどういう事だよ。人間にも分かりやすく言え!」
「落ち着きな霧雨のお嬢ちゃん。……答弁は、『生きてる』のは間違いないのか?」
「……それも、何とも言えませんね」
「だからどういう事だっての!」
「私の『目』は、例え死んで脳機能が腐り落ちても、例え脳そのものが無くても、対象となる霊魂さえ『見』られればその思考を暴く事が出来ます。しかし今の詭弁さんの心を読むことは出来ない、ということです」
「……それは、答弁の『魂』が肉体に入ってない……と、いうことかしら?」
「いえ、それはありませんよ詭弁巫女さん。先ほども言ったように、今の詭弁さんの心は『インクを大量に溢してしまった本』のように内容を読めないだけで、
古明地さとりの言葉に対し詭弁巫女は、欠伸を噛み殺している我が子を見ながら口を開く。
「それで、答弁は元に戻るの?」
「……何とも言えないですね。件の『魔神』によって心臓を貫かれ、魂の殆どを『魔神』に吸収された……しかしお空と分離する直前に『魔神』を逆に吸収。普通なら肉体が死んで、『魔神』と共に魂も滅んでもおかしくないのですが―――」
「「「詭弁だからなぁ……」」」
「我が子ながら謎の信頼関係を築いてるようだな……」
普通に殺しても死なない男として認識されている我が子に対し複雑な表情を浮かべる詭弁勉号。しばらく見ない間に成長したようだ……何か違う気もするが。
それはそうと、此処には居ない『参加者達』にも話題を振る霧雨魔理沙。
「どうだパチュリー、アリス、にとり。なんか良い解決策はありそうか?」
『どうせ詭弁の事だから胸とか尻とか触らせれば戻るんじゃない?』
『適当なこと言うんじゃないわよ河童』
『……通信器越しじゃぁどうしようもないわ。魔理沙、一度詭弁を紅魔館に連れてきなさい』
「妖怪の塒なんかにウチの大事な息子を連れていくわけ無いでしょ。お前らが此方に来なさい」
『……チッ。腹痛の呪いでも掛けてやろうかしら……』
「あー、止めとけパチュリー。呪い返しされるのがオチだぜ」
詭弁巫女の理不尽さを思い出し、嫌がらせでもしてやろうかと呟くパチュリー・ノーレッジ。
とにかく此処でじっとしていても解決しないと判断した一同は、地上に上がる為に部屋を出……
「うっ、うぅ……ゴメンよぅ……アタイのせいで……ごめんよう詭弁……」
部屋の外で大粒の涙を流しながら咽び泣く火焔猫燐の姿を見た。
異変解決の際に火焔猫燐を見た霊夢と魔理沙は、燐が泣く理由になんとなく予想がついていた。
火焔猫燐は怨霊を操る能力を持っているらしい。地上に湧き出た間欠泉と共に怨霊が出てきた為に、異変解決に向かった一同。地底では『怨霊が湧き出る』以上の遥かに大事な異変が起きていた訳で、地上にいる者達に向けて発したメッセージである事は想像に難くない。……否、火焔猫燐は『地上に向けて』ではなく、
火焔猫燐は、地底の平和を守る代償として詭弁答弁の全てを失わせてしまった事を後悔していた。自分が詭弁を呼ばなければこうはならなかったと悔いていた。
「うぁ、うぁぁ……詭弁、ゴメンよぅ……」
「お燐……っ」
火焔猫燐の心情を唯一完全に理解する事が出来る古明地さとりは、
妖怪というのは『心』で生きる動物である。肉体的な傷で死ぬことは少なく、『心』に負った傷で死ぬ事があるという事を覚妖怪である古明地さとりはよく知っていた。本来なら人間の死体に喜んで飛び付く筈の妖怪『火車』であるにも関わらず
『妖怪としての在り方』が歪んでしまった者の末路は、
そして今、『妖怪としての在り方』が歪んでいくのを証明してしまうかのように、火焔猫燐の特徴的な深紅の髪が毛先から白く……否、
その光景を見ていた者達が目を見開き、主人である古明地さとりが火焔猫燐に駆け出す……より前に。
詭弁答弁が火焔猫燐を胸に抱きしめていた。
「「詭弁!!?」」
「ぅ……ぁ……?」
「泣くな。謝るな。俺が
「き、詭弁……もしかして、記憶が……」
「……悪いな、記憶は無い。だが、
より強く、火焔猫燐を抱きしめる詭弁。
「詭弁……あたいはっ……!」
「……
「詭弁……詭弁っ……」
「詭弁……」
連続で放たれる光弾によって、一瞬で壁に叩きつけられる詭弁。更に追い打ちと言わんばかりに色とりどりの弾幕が詭弁に襲い掛かり、詭弁を壁に埋めていく。
「死んでも詭弁は詭弁だったぜ」
「あの、家の中で暴れられると困るんですけど……」
先程までのシリアスは何処へやら、詭弁に呆れた目を向ける魔理沙とさとり。
「……答弁は母親似に育ったかぁ」
「勉号さんそれどういう意味?」
「鏡見なさい年中発情ゴリラ女」
遠い目をする詭弁勉号。
『……やっぱり詭弁の事だから胸とか尻とか触らせれば戻るんじゃない?』
『解決策の最有力候補がソレとか悲しくなってくるわ……』
通信器越しの状況に頭痛がすると言わんばかりの声色で話す一同。
「お燐大丈夫?」
「アイツの為に泣いてた事が馬鹿らしくなったよあたいは……」
「大丈夫そうだね」
白くなってた筈の毛先が元通りになって一安心な霊烏路空。
詭弁が元に戻るのも時間の問題だろうと楽観視出来るようになり、先程までの張り詰めたモノとは一転して緩やかな空気に包まれた。
「やっぱり!切除!しないと!駄目かしらッ!!」
「やめグボッ!?ちょ、グーはッ!女の子がグーはアカンッ!!」
遂には弾幕ではなく拳で詭弁の頭を壁に何度も叩きつける霊夢と、記憶を無くそうともイケメンの本能で顔だけは死守する詭弁。
ある意味でいつも通りの日常が戻って来た。
◆
地底の異変解決から明けて翌日。地上に戻って来た詭弁は未だに記憶が戻ってはいないが、回復の兆しが見えてきた。
通信器越しに居た射命丸文による文々。新聞の号外が幻想郷中に行き届き、詭弁の様子を一目見ようと様々な妖怪連中がこっそり人里に侵入しようとするも皆詭弁巫女の分身によって叩き出され、そもそも当の本人は里内ではなく実は永遠亭に居るというのだから始末に終えない。
そうして今、永遠亭のとある一室で詭弁は診察を受けていた。
「……肉体的には問題点無し。精神状態も『神を宿している』にしては異常は見られないわね。でも魂の様子は一切不明……か。少なくとも、『ウチ』にある設備じゃ詭弁が元に戻るかどうかは分からないわね」
ぷすぅぷすぅと鼻提灯を膨らませながら鈴仙・優曇華院・イナバの膝上に頭を乗せて眠っている詭弁から聴診器に似た魔道具を外す八意永琳。この場には永遠亭に住んでいる者の他には紅魔館勢一同、河童、七色の人形遣い、天狗、鬼、八雲家一同、そして化け物染みた強さを持った人間達が居た。
「……いい加減詭弁から離れなさいよ兎」
「フフン。詭弁さんのメンタルチェックに最も適してるのは私の能力よ。悔しかったら波長を操って……ヒィっ!!?」
「きゅっとして―――」
「止めなさいフラン」
「……今のは鈴仙が悪いうさ」
寝ている詭弁の髪に触りつつドヤ顔で周囲を煽る鈴仙・優曇華院・イナバを視線だけでブッ殺せるのではないかという程の殺意を込めながらド派手に爆散させようとするフランドール・スカーレットを宥めるレミリア・スカーレット。
「うーん、永琳でも治せないとなると
「あら、『治せない』とは一言も言ってないわよ?」
「はぁ?だって今詭弁が元に戻るかどうかは分からないって……」
「ええ。『元に戻るかは分からない』けど、『治療できるかもしれない』ということよ」
「おお!それじゃすぐにでも―――」
「待ちなさい魔理沙。何か条件がある……と、言うことでしょう?」
「そうよ。場合によっては
「私達に?詭弁の治療で、なんで私達が危険になるのよ」
「……詭弁の肉体も精神も異常は見られない、なら原因は間違いなく『魂』にあるわ。今の設備じゃ詭弁の魂を観測できない以上、
「……聞いただけならアタシ達に
「詭弁が『普通の人間』なら何も問題はないわよ……でも違う。詭弁は、魂の
「常人の三倍って……《陰》と《陽》の事か」
「魂と肉体を入れ替える際、最低でもこの部屋が……最悪の場合は幻想郷全体が巻き込まれ、『魂に刻まれた記憶の世界』に引きずり込まれる」
「あー……なんだい?『魂に刻まれた記憶の世界』ってのは?」
「言葉通りよ。私達蓬莱人は肉体が滅びても魂の力によって、記憶を保ったまま完全に蘇生することが出来る。要するに脳みそが無くても物事を覚えることが出来るって訳ね。詭弁も一緒で、《陰》も《陽》も物理的な脳を持たない
「ふーん……要するに、詭弁の記憶に入って異常を見つければ良いってだけの話でしょ?」
「そういうことね。でも気を付けなさいよ?今回はただ暴れれば良いってものじゃない。原因
じゃあ薬を取りに行くから、それまでに治療に参加するかどうか決めなさい。と、八意永琳は一度席を外す。
「詭弁の記憶に入る……ねえ?随分楽しそうなアトラクションですこと」
「遊び半分で参加する気?」
「勿論。こんな面白そうな事を見逃すわけが……ヒィッ!!?」
「ん?今、愛息子の命が懸かってるのに対して?『面白そう』とか言ったのは?ドコのドイツかしらぁ?ああ???」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「巫女、相手が妖怪とは言え子供をイジメちゃ駄目だよ」
詭弁巫女の大きな手がレミリア・スカーレットの頭に乗り、メキメキメキと音を立ててじっくりと万力の様に握りつぶされながら同時に床へと押し潰していく。詭弁勉号が窘めなければそのまま頭がトマトジュースになるトマトの様に潰され、身体はまな板もかくやと言わんばかりにペッタンコになっただろう。勿論いやらしい意味ではない。
「し、死ぬかと思った……私の身長縮んでない?」
「大丈夫ですよお嬢様。お嬢様の身長は元から低いですから、更に多少縮んだところでさして変化はありませんよ」
「咲夜貴方……今主人が目の前で殺されかけて……」
「お姉様が下らないこと言うからでしょ」
「先に言っておくわよ妖怪共。もしウチの可愛い答弁に傷をつけようモノならお前らの目ん玉ほじくり出し、間接全て引き千切って粉々に擂り潰した後魂ごと焼き滅ぼしてやる」
「ひゅいっ!!?」
運悪くそばに
「巫女!止め――『ヤメロ』――ッ!!」
つい先程まで鼻提灯を膨らませていた筈の詭弁がいつの間にか、殺気にも似た闘気を放ちながら母親の腕を掴み上げて河城にとりを救出していた。
「女の子が泣いてるだろ」
「答弁……で、でもコイツらクソ生意気な妖怪なのよ?」
「だが『女の子』だ」
「うう……詭弁!ついにアタシにも『
「『
「誰の身体が幼児体型だぶっ飛ばすぞ!!!」
にとりに噛みつかれる詭弁。だが全く意に介していないようだ。
そんな詭弁を見て複雑な表情を浮かべる複数名。
「(
「(今のは咲夜さんのような時間操作……?詭弁さんは、どこまで強く……)」
「(身体強化の魔法……じゃぁ、無い。認識操作の魔法か、或いは……『魔神』の術?)」
「(愛息子が
「っ……さ、寒気が……」
若干一名欲に塗れた目をしているが、まあともかく。
八意永琳が薬を持って戻って来た時には、部屋の中にいる人数は薬を取りに行く前と変わらず。全員が詭弁の治療に参加する意志を持っていた。
「……そう。治療に当たる人数は多ければ良いってモノじゃ無いのだけど……まあ良いわ。今から詭弁に薬を投与するわ。投与した瞬間、詭弁の肉体と魂が入れ替わる……あっという間に『魂に刻まれた記憶の世界』に入る事が出来るわ。貴方達は手分けして、『明らかに不自然なモノ』を探して……まあどうにかしなさい」
「何で最後だけフワッとしてるのよ」
「『どうにかしろ』以外言えないからよ、見れば分かるわ。早速詭弁に薬を投与したい所だけど、何か質問あるかしら?」
「スリーサイズを――」
「ふんっ!!」
永琳のスリーサイズを
「麻酔要らずね」
「ただただ痛いだけなんですがそれは」
前が見えねェ詭弁を放っておいて質問をする魔理沙。
「んで、その薬ってどうやって詭弁に投与するんだよ」
「……そうねぇ。注射しようにも鉄みたいに硬い詭弁の皮膚を貫く針なんて無いし、かといって経口摂取だと薬効が出ないし……」
「じゃあ、座薬しか無いウサ」
「「「 座薬 」」」
「詭弁が逃げたぞ!」
「捕まえなさい!」
「シニタクナーイ!シニタクナーイ!」
「別に死にゃしないぜ!」
「衆人観衆の中座薬入れられるとか精神が死ぬわよ……」
何故こうも息子はあらゆる災難が降り注ぐのか、そういう星の下で生まれたというのか、『詭弁』の血は難儀だ……と遠い目をする詭弁勉号であった。
座薬を入れる事になったのか、それ以外の投与方法が考案されたのか、それは重要な事ではない。詭弁に薬が投与され、詭弁の肉体と魂が入れ替わったという結果が残った。
「さあ、『世界』が変わるわよ。皆……特に妖怪達は『自意識』をしっかり持ってなさい。呑まれるわよ!」
そうして辺りは光に……否、『白い闇』に包まれて―――
次回、過去編……しかしどうにも様子がおかしい模様。
異変は、終わらない。
合言葉は、感想と評価。
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3、2、1、Feuer!!