人類に狩りつくされた吸血鬼の生き残りがひっそり人生を謳歌するお話   作:怜菟

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第二話

 私はあの女を生贄ではなく一人の人間として扱うことにした。里からは贄として捨てられ、行く先もなく、贄になった後も心無い男に襲われそうになっていた。あの男も里の者だろうか。確かに女は人の中では美しい方だとは思うが、襲うくらいなら人として扱っていた時に幸せにするべきだろうと、そう思うと、彼女の精神的なダメージが気になった。

 

 私は女と共に暮らすことにした、この女に興味が湧いたのだ、刺激に飢えていたのかもしれない。だが、女は無口で何を思っているのかわかりづらかった、元からそうなのか、私との距離を測りかねているのか、また別の理由なのか。私も自分から話しかけるタイプではないため、人が増えても我が家は一人の時と変わらぬ物静かさを保っていた。

 

 だがどうだろう、口を開かない分を返すように女はよく働いた。行く当てもなくこの家から追い出されたら野垂れ死ぬことは目に見えているからだろうか。しかし、自分をいつ食らうかわからない鬼の元でよく平気なものだ。それとも食べられないとでも思っているのだろうか。それはそれで癪に障る、私は一度女を試すことにした。

 

 女に聞こえるように包丁を研ぎ、女に聞こえるように喉が渇いたと呟いた。我ながら古典的だが私の容姿と併せるとかなりの恐怖は与えられていたように思う。それを何日か続け、ついに深夜遅くに部屋に忍び込み、女の首を噛んだ。女は身体を震わせ目を覚ました。それでも声だけは出さなかった。そして女は状況を理解したのかまた初日と同じように首を差し出した。ずっと死の覚悟をしたまま暮らしていたのか。この女は死に恐怖を抱かないのだろうか。私は彼女を認めるほかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 それから彼女はたまにのんびりしているところを見せるようになった。天気のいい日に外でぼーっとしていたり、洗濯物を取り込む時に鼻歌を歌っていたり、私が殺す気のないことに気が付き心に余裕が出来たのだろうか。そんな彼女を見ていると昔同じようにのんびりとしていた仲間がいた時を思い出してしまう、その仲間はおしゃべりが好きだった。話すのが苦手な私もその仲間にはよく話しかけたものだ。忘れたくはないが思い出したくもない思い出。死んだ事実だけはどうしようもない。しかし、どこか彼女と重ねて見てしまい気がつくと同じように話しかけてしまっていた。

 

 突然話しかけられびっくりしたのか、鼻歌を聞かれ恥ずかしがっているのか、洗濯物を落としそうになり慌てながらも彼女は私の方を向いて頷いてくれた。

 

 それからは時々、私から話しかけるようになった。私も話すのが苦手なため話しかけるたびにびっくりさせてしまっていた。彼女は頷くばかりだが違うことがあれば顔を横に振る。もう喋ってしまえばいいのにとも思ったが、喉の病気かもしれない。一人の女性にそんな不躾なことは言えなかった。

 

 

 そんな生活も半年が経つとお互い気を遣うこともなくなっていた。私は雨が降ってることに気がついても洗濯物を取り込まなくなったし、皿も洗わなくなった。彼女の前で動物の血を啜っているとそれは怒られた。 

 

 そんな私とは対照的に彼女はずっとよく働いてくれていた。元からそういう娘だったのかもしれない。私が気を遣い自分で散らかした部屋を掃除していると何故か怒られた。もうこの家は彼女のものなのかもしれない。でもそれがなんだか嬉しかった。

 

 その日も全てを彼女に任せぐうたらしていた。もう私がこの家ですることはないのだ。寝ているだけで美味い飯が食えて、温かい風呂に浸かることができ、ぼーっとしていても部屋は綺麗なままだ。どんどんダメな奴になっている気がしたが今は甘えることにする。今だけだ。明日からは作業分担をしよう、そんなことを考えながらうとうとしていると家の外から気配がした、彼女の気配は風呂にある。つまり外の気配は私たち以外のもの。私は警戒し外に出た。自分の気配を消し辺りを探した、だが誰もいなかった。

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