僕は《秘宝の夜明け》に勧誘された。

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喪部妖魔學園紀

古の《秘宝》を狙う組織は、世界中に数多く存在している。その中でも二大勢力といえるのが《ロゼッタ協会》と《レリックドーン》である。《エムツー機関》は両者と対立関係にある組織である。

 

その由来は黄金の夜明け団。19世紀末のイギリスで創設された西洋魔術結社である。黄金の暁会とも訳され、G.D.と略名される。現代西洋魔術の思想、教義、儀式、実践作法の源流になった近現代で最も著名な西洋隠秘学組織である。

 

その流れを汲むと自称し、古に失われた《叡智》がもたらす《秘宝》をこの世に解き放つという高尚な使命を負って地上に遣わされた者が集う組織である。真に優れたものが支配する《秘宝》の力をもって、この世界を変革するのが究極的な目的である。

 

世界各地の遺跡に眠る《秘宝》の力を使ってこの世を変革せんとする《秘宝の夜明け》こと《レリックドーン》。

 

その実態は国際的なテロリスト集団だ。《秘宝》の《力》を使ってこの世界に変革をもたらそうとしている者たちが集まってできた武装組織。《ロゼッタ協会》と敵対し、秘宝を狙っている。手段を問わない武装、戦法で問題になっている。

 

その始まりはシュミットという《宝探し屋》が《秘宝》に魅入られたことに始まる。《遺跡》の発掘の師匠であった大学時代の考古学の先生を殺害し、それに気づいたかつてのゼミ生まで数人殺害した。そのゼミ生が《遺跡》の《秘宝》に繋がるキーを娘に託して、おなじゼミ生であったロックフォードという男に助けを求めた。

 

《秘宝》を巡る争いはエジプトのある《遺跡》にまで及び、シュミットはそこでロックフォードに撃ち抜かれて両足不随になるが生き延びた。

 

その《秘宝》に至るには世界中にある《道標》である《遺跡》にある《地図》を入手する必要があり、生涯追いかけることになったシュミットはそのたびにロックフォードと闘いになった。

 

やがて世界は第二次世界大戦になり、シュミットはナチス率いる秘密結社に傾倒し、終戦後はその残党を核に《秘宝の夜明け》を設立した。

 

シュミット自身は《秘宝》の《加護》により100歳を超えながらも今なお平然と《秘宝の夜明け》の頂点に君臨しているのだ。

 

そして、生涯のライバルとなったロックフォードは《秘宝の夜明け》より一世紀前に《ロゼッタストーン》を解読した考古学者の子孫により設立されていた《宝探し屋》ギルドの《ロゼッタ協会》に所属している。

 

《ロゼッタ協会》は世界中の酔狂なパトロンのために《秘宝》を入手して売買する専用ギルドである。

 

そういう経緯もあり、《秘宝の夜明け》と《ロゼッタ協会》は対立関係にあるのだ。

 

「なぜ私がそんな話を君にするのかわかるかね、少年」

 

イギリス人だていう白スーツの老人はやけに流暢な日本語でここまで話してから一旦話を切った。傍らには完全武装した男たちがいて、老人がただものではないことを知らせている。

 

僕がなにかすればたちまち蜂の巣になることは明白だった。だから僕は動かなかった。動けなかったのでは断じてない。動かなかったのだ。

 

「......僕にそれだけの価値があるから?」

 

満足そうに老人はうなずいた。

 

「そうだ。賢い子供は嫌いではない。少なくてもヒトラーの亡霊共よりはよっぽど役に立ちそうでなによりだ」

 

そういって車椅子の男は笑った。先程の話はこの男、シュミットの昔話なんだろう。そして幹部クラスの周りの人間が、たぶん英語でどうして日本人の子どもにそんなことを話すのだとまくし立てている。見るからに動揺しているから余程の事情があるらしい、

 

「僕を殺しに来たんじゃなく?」

 

シュミットは周りを失笑しながら僕を見た。

 

「うちの馬鹿どもに一族に伝わる《秘儀》を無理やり行わされた報復として連中を皆殺しにしたことをか?それとも君の一族を皆殺しにして《物部氏》の《遺産》を根こそぎ奪い去ったことに対する復讐もしたことをか?」

 

うなずく僕に老人は狂気じみた目を向けてきた。

 

「君は当然のことをしたにすぎない。元々ここにある《古文書》や《古美術品》、様々な《神具》は君が持つべきものだ。奪われたから奪い返した。そうだろう?なにか問題でも?」

 

「でも......こいつらは仲間なんじゃ......」

 

「仲間?いや、違うな。連中はたしかにうちの傘下にはあるが下位組織にすぎない。それに実績が芳しくないから遅かれ早かれ潰すつもりだった。なんの問題もない。むしろ早まったにすぎない。私は君の方に興味があるんだよ」

 

「......?」

 

「私が生涯をかけて追いかけてきた《秘宝》、それがはるか極東にあるとは思わなかった。それも、その《秘宝》を作り上げた者たちの末裔が私の目の前にいるんだ。その価値を知りもしないで蔑ろにして済まなかったね」

 

「!!」

 

「本来なら私が自ら勧誘に赴かなければならなかったというのにだ......本当に残念なことだよ。組織が大きくなりすぎるという事は末端が腐り始める兆候でもある。君はその犠牲になってしまったというわけだ。どうだろうか、喪部銛也。君が望むなら然るべき処置をとるがね?私の手を取ってさえくれれば、相応の待遇でもって君を迎えよう。その代わり、その《秘儀》についてゆっくり話をしたいんだが、どうだろうか。どうやら君の一族はいつの間にかその《秘儀》の重要性について、意味を喪失しているようだからね。生涯をかけて追い求めてきた私としては、この現状はなんともし難い、我慢ならないものなのだよ」

 

流暢な日本語はその《秘宝》がこの国にあると知ってから取得したと話す老人の鬼気迫るものを感じた。

 

僕はうなずいていた。

 

話を聞いてからでも遅くはないと思っていた。

 

家族や親族を皆殺しにされ、占拠された一族の《遺跡》、そして《神社》、《博物館》が破壊され略奪され尽くした僕にはなにも残ってはいない。《国宝》が失われたにもかかわらず、一夜にしてある一族が皆殺しにあったにもかかわらず、10歳の子供が誘拐されたにもかかわらず、警察や行政、マスコミすら黙殺したこの時点で僕はこの国から見捨てられていたのだ。

 

その理由がこの国の成り立ちと深く関わっていることを知った時点で、僕はこの男の手をとる以外に生きる方法がなかったのである。

 

「一応君には選択肢がある。まず、警察にいって保護を求めることだ。この国は君の一族の悲劇を黙殺することで存在を許容するだろう。我々はそれなりに同志が多くてね、事件は未解決になるだろう。孤児院に送られて孤児として生きることになる。次に、この騒動を聞きつけて訪れた《ロゼッタ協会》に保護を求めることだ。もっとも彼らは君の一族の価値に気づいていないから、君の一族の《秘儀》を知ったら孤児院送りになるだろう。そして、《エムツー機関》というバチカン市国に所属する異端審問官組織にに保護を求めること。運が良ければ孤児院送りになるが、運が悪ければ君の一族の価値に気づいて人体実験されることになるだろう。一神教を母体とする連中が日本の神道にどこまで精通しているか、尊重してくれるか、甚だ疑問ではあるがね」

 

そしてうちに来てくれたら、というのだ。

 

「君が望むなら学歴や職歴を斡旋したり、支援したりしてあげよう。ただし、《レリックドーン》に所属することが条件だ。うちはボランティアではないのでね。ただ、君が仮初の平和を享受したまま一生を終えたいというのならば、私はそれを尊重しよう。その《秘儀》を《レリックドーン》以外に提供しないという条件を飲んでくれるならば、の話だが。そして、うちに来てきれるというのなら、幹部候補生としての待遇を用意しよう」

 

《レリックドーン》の総帥がいうのだ、敵対組織ということもあり説明に偏りはあったが、今こうして真っ先に謝りに来てくれた。しかもこれからの僕を助けてくれる。これからを考えたときに選択肢の幅を見せてくれたこの男をとりあえずは、僕は信じてみることにしたのだった。


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