自己評価の超低い、内面ひねくれまくってる癖して外面は気弱な女子がCiRCLEスタッフをさせられる話   作:#NkY

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第3話 『それ』と向き合わなきゃいけない時

 断り切れなかった戸山先輩が所属するバンド5人との昼食の提案。

 そこで、戸山先輩は。

 

『今日有咲(ありさ)の蔵でクライブやるんだ!』

 

 私を『クライブ』なるものへといきなり招待してきた。

 

 

 

-※-

 

 

 

 ……来てしまった。断り切れずに来てしまった。

 戸山先輩のブレーキ役である金髪ツインテールの先輩、市ヶ谷(いちがや)有咲の家に。

 まだ知り合ってから全然経ってないし、だからといって濃密な時間を過ごしたわけじゃない。

 

 なのに私は他人の家にいる。今まで他人の家に一歩たりとも足を踏み入れたことのない私が、だ。

 

 ああ、もう、本当ダメだ私。底辺近い私に戸山先輩のバンドメンバー5人全員が期待のまなざしを向けて来ないかって勧誘してくるのはやっぱり異様で、それでも超強烈なプレッシャーで……断れるわけない。

 

 私が空気になることはもう許されないことなのか。……許されないこと、なんだろうな。戸山先輩に目をつけられた時点で、もっと言うには『CiRCLE』の手伝いをさせられることになった時点で、さらに言うのなら私が紺屋(こんや)姓に生まれてきてしまった時点で、さ。

 

 

 質屋を営んでいるという市ヶ谷先輩の家。私の父がライブハウスのオーナーであるから、一応私の家もそれなりの大きさだ。が、市ヶ谷先輩の家はそれ以上だ。かなり大きいし広々とした敷地だった。

 しかも立派ではあるが決して派手ではなく、和風で落ち着いた雰囲気。私の家よりもここが好きだ。人間関係抜きにするなら今すぐにでも家出してここに引っ越したいとも思うくらいに好きだ。実に平和な空間っぽい。

 

 そして、市ヶ谷先輩の家の敷地内に『蔵』があった。私はそこの地下室に案内される。人の家独特のくせのある和風っぽい匂いに私は少しひるんだ。

 その匂いとは裏腹に、キーボード、ドラムセット、アンプ類にエフェクター。バンド練習には十分すぎる機材がそこには揃っていた。しかも地下にあるから防音もある程度出来る。まるで夢のような環境だ、とバンドを組んでいる人なら言うだろう。別に私はどうでもいいけどさ。

 

『ポピパ、ピポパ、ポピパパピポパ~!』

 

 そして私は……小さな小さなステージのたった一人の観客として座っていた。

 ライブというからには他にもいろいろな人を集めて行うんじゃないのかとも思ったのだが、どうやら今回は他に人はいないらしい。

 まさか。いや、そんなわけ。こんな私にそこまでする価値なんて。

 

「今日はスペシャル編! 千夜(ちよ)ちゃんのためだけの『クライブ』!」

「え……?」

 

 そんなわけあった。嘘でしょ……?

 

「うん! だって……私たちの『キラキラドキドキ』、あなたにもたっくさん分けてあげたいから!」

 

 ぐさり。痛い所をえぐられる。

 戸山先輩は私に向かって眩しい笑顔でそう言い切った。

 

 ……見透かされてる。

 私が、何もかも全てを諦めた空っぽな人間だ、って。

 

「それじゃあみんな行くよー!」

 

 ガツン。

 

 戸山先輩の髪型のような、とんがった変な形の赤いギター。

 それが一つジャーン、とストロークされれば……歪んだ音が私の内側を容赦なく殴ってきた。

 

 戸山先輩たち5人(Poppin' Party)が、普通であることを望み、夢も将来も全て諦め尽くした私の背中を。

 戸山先輩たちのバンドサウンドによって、思い切り、激烈に――押し出した。

 

 本当は軽く聴き流して日常に戻るつもりだった、けれど……そんなことさせないとばかりに5人の『青春』が私の身体を揺さぶった。

 

 なんで? え? なんで、そんな……こと……?

 

 私は音楽が分からない。分からないけど、多分技術的にはそこまで難しいことはしていない。

 でも……そんな私でも、彼女たちの音を通じて分かってしまう。

 

 すごく、楽しそうだ……って。

 しかも、楽しいことに、楽しそうに見せることに一切の手を抜いてなくって。

 その溢れんばかりの楽しさが思い切り音に出てて、5人の表情に出てて。

 そして、そんな音は何もかも空っぽの私さえも突き動かす、何かすごいものを秘めていて。

 

 ……しかもそれが、他の誰にでもない。私一人だけに向けられているという事実。

 

 悔しいけど、こんなことをされたら認めなきゃいけない。彼女たちの『青春』の音というものを。

 私があんなに毛嫌いしていた『青春』が……今、目の前で繰り広げられていて。

 

 そして、私にダイレクトに……120%、注入されていく。

 

 ……もう、意地張るのは止めよう?

 私は……私、は……!

 

 

 

 演奏が終わる。身体がひりひりする……。

 意志を持たない私の手が、ひとりでに動いて拙い拍手をしていた。

 

 何か、言わなければ。震える声で、なんとか……言葉を紡ぎだす。

 

「わ、私なんかの言葉じゃ、絶対に響かないかもしれないですが……すごく、すごく……すごく、良かった、です……っ」

 

 喉の奥から絞り出した言葉、貧弱で薄っぺらい言葉……それこそディストーションが掛かりまくって歪みに歪みきった私の心がひねり出した言葉を、なんとか、なんとか戸山先輩たち5人に伝えた。

 我ながらありきたりでベッタベタな、すごくペラペラとした上っ面だけの言葉。それなのに……信じられないことにたったそれだけで、こんな地べたに這いつくばる私の言葉だけで……5人はそれぞれ喜びを表現したんだ。

 

 さらに、戸山先輩が私の肩を掴んで、ずいっと近づいて。

 

「私なんか、じゃないよ。……千夜ちゃんは千夜ちゃんだから!」

 

 キラキラとした笑顔を、惜しげなく私に向けてきて……その笑顔があまりにも輝いていたものだから、私は不覚にもドキドキしてしまった。

 

 けれど。

 

 私は、私……か。

 そうだけど。そう、なんだけど……さ……。

 

 確かに嬉しかった。確かに楽しかった。こんなひねくれまくった私でも素直に感じたこの感情。

 でも。割り切れない思いというのは心の奥底に確かにあった。気持ち悪く、しつこく、こびりついている。

 

 ひとは、そう簡単には、完全にひっくり返されない。

 今までずっと自分をこき下ろしてきた人生を送ってきたけど……多分この時が一番、自分自身が嫌になった瞬間だった。

 

 普段意志脆弱なくせしてさ? 何でこんな時だけ強情になるの? 私っていう救いようのないゴミ人間は……!




小説という媒体で序盤から複数人のキャラを読者に認知させつつ動かすのは中々に難しいので、動かすキャラの人数を絞りました。
出てくるキャラは少しずつ増やしていきます。たぶん。
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