自己評価の超低い、内面ひねくれまくってる癖して外面は気弱な女子がCiRCLEスタッフをさせられる話 作:#NkY
クライブの後、自己嫌悪は相変わらず収まらないものの……『青春』への耐性が何となくついてきた気がする。
つまり、以前よりかはライブハウス『CiRCLE』でのお手伝いも楽にはなってきた。気持ち的に。……とはいえ父に無理やりやらされているのには変わらないから、その辺モヤモヤはしてるまんまだけど。
「ありがとうございましたっ……!」
カウンターで近頃バンドを組んだばかりらしい3人組の同級生を見送ると、月島さんに話しかけられる。
「
「は、はいっ」
「何というか、ちょっと柔らかくなったよね」
「……そんなこと、ないです……」
私は照れながら意地張って否定した。月岡さんの口角がほんのり上がった気がするけどきっと気のせいだ。
「そんな千夜ちゃんに私から提案があります」
「何で、しょうか……?」
月島さんは壁掛けカレンダーを指さした。今週の日曜日にイベントの予定が赤いペンで書かれていた。
「今度の日曜日に『
一応ステージの設備をいじらせてもらったことはあるにはあるが……突然の提案だった。
「えっ!? こんな私が……ですか?」
「もちろん、いきなり千夜ちゃん一人にやらせるわけじゃないよ。でも、きっと楽しいと思う。
ステージの演出っていうのはね? 色んなバンドのもう一人のメンバーになって、一緒にライブを作り上げるの。ね、素敵だと思わない?」
「もう一人の、メンバー……」
受付だったり、スタジオのことだったり、バンドの機材のことだったり……今までの私の仕事というのは、『青春』の場所を提供するだけの立場だった。
でも、今回の仕事は違う。一緒に『青春』を作り上げるという仕事。それも一つじゃない、十人十色の様々な『青春』の中に入って、それをより伝わるように頑張る立場となる。
……今まで『青春』を軽蔑してきた私なんかに務まるわけがない。
それに、新しいことへの思い切った挑戦と言うのは……失敗がつきもの。特に、私なんかは。
そんな私なんかに『青春』を預けるなんて、そのバンドが限りなく可哀そうだ。
月島さん。あなたって人は、実は頭が悪いんでしょうね。
だって、こんなダメダメな私を謎に買いかぶって……場違いな期待を抱いているんですから。
「ごめんなさいっ……少し、考えさせてください」
私の心に問うと、当然のごとく出てきたのは後ろ向きの答えだった。月島さんは私の答えを聞いてがっかりするわけでもなく、ただ優しくこう言ってくれて。
「……うん。私も無理には言わないよ。千夜ちゃんの考え、私は尊重するから」
「……ありがとうございます」
多分、色々顔に出てしまっていた。
ああ、私、やっぱり月島さんに甘えてる……。
浸りたくもない自己嫌悪にいつも通り浸っていると、スタジオの一室から練習を終えた5人組バンドが出てくるのが見えた。その全員がここの近くにある学校の一つ、
「
「はい。今日は終わりです――」
ギターケースを背負った、黒髪ショートに赤メッシュを入れた子が月島さんと何か話している。何か目が鋭くて、怖い……。
「千夜ちゃん、紹介するね。この子たちが『Afterglow』。幼馴染5人組でバンドを結成しているんだって」
「幼馴染、ですか」
幼馴染。私はその言葉に反応して、しばし考え込んでしまう。
幼馴染のいない私のしょーもない妄想ではあるが……一番めんどくさい関係性なんじゃないか、幼馴染っていうのは。ただの友達とかそういうのじゃない、特別強い拘束力がありそうな――。
きっと学校だって、本来自由に選べるところを幼馴染という縛りで一緒にせざるを得なかったとか、そういうんじゃないだろうか。この5人は羽丘で、そこも確か中高一環だったから……きっと中学選びの時に縛りにあったのだろう。
「こ、こんにちは。最近ここのお手伝いをさせていただくことになりました、
「よろしく。あたしは
でも、今目の前で私に自己紹介をしてくれている5人は、きっと……そんなめんどくさいこと、全く思っていないんじゃないんだろう。さもこの縛りの強すぎる関係性を当たり前のように受け入れてそうな……そんな雰囲気。
ああ、きっとこの人たちも私とは真逆に位置する人種に当たるのだろう。そんな人たちと関係を作らなければいけないんだから――本当、この場所は疲れる……。
「それで、まだ決まったわけじゃないけれど……この子に、今度のライブイベントのステージ演出を手伝ってもらおうって思っているの」
まだ決まったわけじゃない話を持ち掛ける月島さん。決まったわけじゃないって言ってるのに、美竹さんが早速私を睨んでくる。
私でも分かる、明らかにけん制している。人とか面倒ごととかから逃げてきた私は負の感情というのを明確に向けられるのを慣れていない。私は目を逸らして後ろで手をぎゅうっと組んで不安をごまかそうとする。
「……『いつも通り』が出来るのなら、構いません」
「ちょっと蘭ちゃん、もうちょっとオブラートに包もうよ。だってこの子、まだ入ったばかりだよ?」
ベースを背負った、薄ピンク色の二つ結びの髪型をした子――
「だって、あたし達はどんなステージだろうといつも本気でステージをやってる。違う、ひまり?」
「そうだけど……」
「だから当然手を抜くなんてことはしないし……ましてや中途半端な演出であたし達の本気を邪魔されるのはものすごく嫌」
しかし、美竹さんは簡単に上原さんの意見を退けてしまう。彼女には……いや、彼女たちには、きっとバンドをやるにあたって『譲れないもの』というのが明確にあるんだろう。
私にはない。あるはず、ない。あったならば、少なくともこんな最低な人間にはなってない。
「紺屋さん」
美竹さんの目が私を不意に射抜く。
「は、はいっ……!」
「もし、やるんだとしたら」
そして。
「『本気』でやって」
こんな言葉を喉元に付きつけてきた。
私という底辺人間から最も遠い、こんな言葉を。