自己評価の超低い、内面ひねくれまくってる癖して外面は気弱な女子がCiRCLEスタッフをさせられる話   作:#NkY

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第6話 私から一番遠い言葉を探しに

 よくこんなんを人前で見せられるね。逆に感心するよ。

 

 戸山先輩に連れられてやってきた人生初ライブハウス。最初の3人バンド――昨日CiRCLEのスタジオを借りに来たバンドの初めの一音を聴いた私の感想がこれだった。

 ライブが始まるや否や最前列にすっ飛んでペンライトを振りまくる戸山先輩をよそに、私は後ろに突っ立ってぼーっとその様子を眺めていた。

 むしろ下手な演奏を聴かされているのにもかかわらず、何でみんな冷めないんだろう、あんなにも楽しそうに熱中出来るんだろう。不思議に思う。

 

 私の関心を引くバンドは一向に現れない。どれもこう、何というか響いてこない。戸山先輩たちのバンドにあった魅力というか、周りを巻き込む力というか、そういうものが全然伝わってこない。ライブステージに立っている、人に聴かせる音楽をやっているっていうのに、まるで自分たちが楽しむためだけに音楽をやっているようなバンドばかりだ。……そんなんじゃダメだろう。音楽に詳しくない私でも分かる。

 

 ……自分は『本気』から逃げておいて、周りには『本気』を求めるのな。私。これは擁護できないクズだ。

 

 あっという間に7バンドの演奏が終わった。興味も関心も惹かれない自分本位なバンドばかりだったから、心底つまらない時間だった。

 前にいた戸山先輩がこっちに駆け寄ってくる。聴く側なのに、なぜだか息を切らせていて汗をものすごくかいていた。それだけ興奮する要素、あったか……?

 

「千夜ちゃん、次で最後のバンドなんだけど、これが私オススメのバンドなんだ! せっかくだから前に行こ? ねっ!」

「戸山先輩ちょっと待って……うわわわっ……!」

 

 当然私に抵抗などできる力なんてない。結構な力で腕を引っ張られ、強制的に最前列の人ごみへと送還される。

 元々人ごみが苦手な私、それに今までのパフォーマンスの総和で蓄積していった体温と汗の温度がダイレクトに私を襲う。不快な熱さを感じて、思わず顔をしかめた。

 

「ここのバンド、カッコいいバイオリンの子がいるんだよ?」

「バイオリン……ですか? バンドに?」

「そうだよ、珍しいでしょ……あ、ほら、出てくる!」

 

 舞台袖からバンドのメンバーが姿を表すと、きゃあ、と黄色い声がライブハウスの空間をいっきに満たす。

 一目見て私はびっくりした。全員で揃えたアイドルさながらの衣装を着て出てきたのだ。白と黒のツートンカラーを基調にしていて、ちょっと軍服っぽいかなと私は思った。そして薄い水色のひらひらが丁度いいアクセントになっている。

 派手さはない落ち着いた衣装だが、鍵盤のモチーフが差し込まれていたり、左胸に気品ある蝶のアクセサリーがワンポイントで飾られている辺りすごくオシャレだと思った。作った人のセンス、とんでもない気がする。

 

「衣装かわいいー……!」

「は、はい……すごい、ですね……」

 

 戸山先輩の問いに見事に語彙力が死んだ。これが私たちと同じ高校生のやること? どう見たってテレビで見るようなアイドル衣装とそん色のないレベルじゃあ……。

 

 セッティングを行う5人。まだちょっとしたノイズになるような音しか鳴っていないのにも関わらず、今までのバンドとは出てくるオーラが比べ物にならなかった。

 出てきた瞬間から分かり切っていたけど……多分このバンドは……すごい。演奏技術とかそんなんじゃなくて……どのバンドよりも『本気』ということなんだろう。

 

 そして、そのバンドは当然のごとく『オリジナル曲』という単語をマイクに乗せて、それを演奏した。

 衣装も曲も全部自分たちで作る。たったそれだけの事実に押されてしまう。

 

 しかし……やはり結成したてのバンドということもあってか、技術面ではそれほど光るものは感じなかった。

 まず一番に気になった点は……5人いる割には楽器構成的に音が薄い所。ボーカルの子がギターでもやって補強すればいいのかもしれないけれど……いかにもボーカル始めたてです、って感じがしていて歌うのに精一杯な感じがしている。今の状況でギターボーカルに挑戦してもあまりよくはならなそうだ。

 あとは、なんだ。確かにバイオリンの人の技術は大したものがあると思うが……どこか音に迷いがある、そんな気がする。端的に言えば、バイオリンだけバンドから音が浮いている気がするのだ。一緒になり切れていない。

 

 ドラムが安定しないだとか、ベースが酔いしれまくってるだとか、まだまだ欠点は多い。あげようと思えば他にもいくらでもあげられる、それこそ前のつまらない7バンドと同じくらいには。

 しかし、このバンドが私を一番惹きつけたのは間違いないことだ。だって……こんな冷めきった私が戸山先輩と一緒になって、最前列でペンライトを遠慮がちながら振るくらいのめり込んだ。その事こそが、このバンドの強さだと思った。

 

 あの白い髪をしたボーカルの子……さっきも言ったように歌がすごく上手いという訳じゃないけども、それでも心にすうっと入ってくるような、透明感のある声をしていた。きっと、ボーカルを続けたらこの子は化けるんじゃないだろうか。

 そして、技術的な欠点が多いということは伸び代が大いにあるということの裏返しでもある。彼女たちが『本気』を維持出来たら、きっと……!

 

 ……何、私熱くなってるんだろう。はは、笑える……。

 演奏が終わって拍手をしながら、私は馬鹿みたいに興奮している私を脳内で嘲笑ってやった。

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