自己評価の超低い、内面ひねくれまくってる癖して外面は気弱な女子がCiRCLEスタッフをさせられる話 作:#NkY
ライブの翌日。柄にもなくはしゃいでしまった私は結構重要なことを見落としていたことに気が付いた。もし私が演出をやるんだとしたら、出演バンドの選り好みは出来ないということに。
わざわざこんな私に『本気』を求めてきたAfterglowは多分大丈夫だろう。しかし、他のバンドたちが心底つまらないものであったとしても、私はそのバンドの演出をしなければならない。
そして、やるからには演出の力で観客を騙してライブを盛り上げさせなければならない。それが『CiRCLE』の名前を背負っている私の仕事なんだから。
……そんなことが私に出来る? このひねくれにひねくれまくった私に? つまらないバンドだと感じたら一瞬で興味を失くしていたこの私に?
改めて思うと、私は本当にライブハウススタッフとして失格級の人間だよね。かといって、その最低な性根をひた隠しにしていくしか私に道はないんだけれども。
でも、じゃあ演出やりたくないってこと、って聞かれたときに私が答えるだろう選択肢はNOであったりする。どうしてそんな考えを持ったのだ、お前らしくないじゃないかと聞かれても、誠に遺憾なことに一切合切分からないのだけれども。私自身のことの癖してさ。
実際私には拒否権がある。その場所から逃げても猶予があるし、許される。そもそもここを手伝っているのも自発的にやってる訳じゃなく、やらされているだけ。だから、逃げても誰も私を咎めない。少なくとも、私の身の周りの人間たちはね。勝手に私の文章読んでるあんた達のことは知らない。別にあんた達が私を咎めたって何の影響も及ぼさないし。
でも、私がここで演出をやらないのは、なんか、嫌だった。単にそれだけであり、それ以上でもそれ以下でもない。まさに幼稚園児みたいな駄々こねでしかない『嫌』という感情。
かと言って積極的にやりたい! という訳じゃないのが私らしいというか何と言うか……あー、私本当に損してるなとその辺自覚してる。
なんてめんどくさい女。もし私と付き合う男がいたらそいつは本当に苦労しそうだな、と他人事のように思う。別に作るつもりないけどさ。ただでさえめんどくさい毎日の生活がもっとめんどくさくなるだけだろうし。私の時間を侵犯されるのはもう間に合ってます。
で? 私、どうするの? って話なんだけど。
「……」
あー、自分のことがマジでムカつく。答え、出せないんだ、私。
月島さんの優しさに目いっぱい甘えさせてもらったのにさ。戸山先輩にわざわざライブ連れてってもらったのにさ。
もう来るべきところまで来てしまった感じあるのにさ……っ!
「……あ、あの」
「っ!?」
どうやら私は思考の海に溺れて、受付に来てくれた目の前のきれいな白い髪をした子すら見えなくなっていたらしい。……というか、この子昨日のライブで最後に出ていたバンドのボーカルの子だ。
昨日ライブしたばかりなのにスタジオ練習するんだ。凄いな……やっぱり彼女たちも『本気』でバンドをやっているってことなんだろうか。としたら、私がその熱に当てられてしまったのも納得してしまう。他のバンドとの落差もあるにはあるんだけど。
「予約していた、
そのボーカルの子がおどおどした口調で受付に来る。
意外だった。ステージを見ていた時はそんなこと一切合切感じなかったのだが、この子、だいぶ引っ込み思案な子なのかもしれない。まとっている雰囲気も、なんとなく私と似ている気が……。
「はい。倉田さんですね――」
でも、自分の思っていることとか考えていることを仕事に持ち込むなんて言語道断。一瞬で接客モードにスイッチを切り替えて対応を終わらせる。
受付が終わると、ぞろぞろと4人の女子高生たちが続いてやってきた。全て昨日ステージの上で見た顔だ、バンドのメンバーだろう。
「みんな、2番だって」
「ありがとーしろちゃん。助かったよー」
「ふーすけとは大違いだねー……? じーっ……」
「うぐっ……も、もう予約忘れないから!」
「喋ってないで早く行くわよ。時間がもったいないわ」
ぱっと見でバンドの雰囲気もよさそうだ。容姿はだいぶ個性的だけど、雰囲気とかは至って普通に仲のいい女子高生バンドって感じ。
……いや、違うな。何か、気品がある気がする。立ち振る舞いとか、おしゃべりとかに。知らんけど。
「気になるの?」
5人がスタジオに入った後、月島さんが私に話しかけてくる。知らず知らずのうちに私が視線を追っていたのを見られてしまったのかもしれない。
まあ、隠すことじゃないし素直に言っておこ。
「えと……気になる、と言えば。昨日のライブで見たので」
「『
「『Morfonica』……そういえば、そんな名前だった気がします」
「そう。
え? 月ノ森? 月島さんから出てきた単語に耳を疑う。
「え、月ノ森って……あの、月ノ森ですか?」
「そうだよ。名門お嬢様学校の月ノ森女子学園。テレビとかでもたまに名前聞くでしょ?」
「はい。名前は知ってましたし、この辺にあるとも分かってましたけど……実際にそこに通っている子を見るのは初めてです」
道理で何となーく気品があったわけだ。そんなお嬢様学校の子たちもバンドをやる時代になってるんだ。あー、流行ってるなーガールズバンド。密接に関わっている人間の一人である癖して、私は他人事のように思う。
「昨日の演奏聴いたんでしょ? どうだった?」
月島さんが瞳を輝かせて聞いてくる。私が急に一日仕事の穴をあけることになるのにも関わらず、ライブハウスに行くことを後押ししてくれたんだ。自分がそこで感じたことをちゃんと伝えないと。
「……なんだか、引き込まれました」
目を閉じて思い返そうとした。頭の中、おぼろげに響くバイオリン混じりのロックサウンド。昨日の音が実際に聴いた音とは思えなくて……何だか夢みたいだ。
伝えなきゃいけないのに、上手く伝えられない。この感覚。
「詳細については、上手く言えないんですけど。記憶がおぼろげで……」
「でも、何か貰ったんでしょ? その様子から見ると」
「何か貰った……」
演出をやりたいのか、やりたくないのか……今こうして自分の気持ちすら分からないようになっているのは、間違いなくあのバンド……Morfonica、とか言ったか。その演奏を最前列で直にかぶってしまったせいだ。
この悩みは、Morfonicaから貰ったもの。
「……貰ったと言われれば、そうかもしれない……です」
自信なさげに返事をする。
曖昧すぎる。私。もし私がこんな返事を返されようなら……腹が立つ。
そして、そんな返事しかできない私に腹が立つ。
「そっか。それなら行ったかいがあったね?」
ウインクをする月島さん。話をとりあえず合わせるため、私はまたしても曖昧にうなずくことしかできなかった。
……結局答えは出ないまま。どうすればいいんだろう、私。