VRMMOでアフロになったので嫁とデートしたいと思います   作:久木タカムラ

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大変遅くなりました。

ライズで遊んでいて唐突に思った事。

『……カワイのやってる事、まんまバゼルギウスやん……』

これからはカワイの戦闘シーンのBGMはバゼルさんので良いと思います。





047.三日目:夜 終結

 人の口に戸は立てられぬもの。

 何処をどう経由して伝わったのか不明だが、『集う聖剣』と『楓の木』の激突は他のギルドにも知られるところとなり、どちらが勝っても間違いなく疲弊しているだろうと踏んだ者達が、漁夫の利を狙って闇夜を動いていた。

 ざっと五十人は超える大所帯が『楓の木』の拠点がある洞窟を進み、そんな彼らを広間で台座に安置されたオーブが出迎える。

 メイプル達は出払っているのか、人の気配はない。

 

「……罠でもあるのかしら」

「だったら通路にも仕掛けるんじゃね?」

 

 あまりに無防備な光景は、さながら映画で見る古代遺跡の宝物庫だ。

 オーブに近づいた瞬間、床から槍が生えて全身穴だらけ――宝を掠め取ろうとする不届き者への制裁として定番だが、恐る恐る足先で確認しつつ接近してもギミックが発動する様子はなかった。

 

「絶好のチャンス、でいいよな? いいんだよな!?」

 

 火事場泥棒同然でも、あの難攻不落を誇る『楓の木』からオーブを奪いポイントを得たとなればギルドの名にも箔が付く。

 家主(メイプル)が帰ってくる前に、と喜び勇んで宝に駆け寄るプレイヤー達。

 けれど洞窟内の温度が急上昇した事に気付き、伸ばしかけた手が止まってしまう――その時点で尻尾を巻いて逃げ出していれば死なずに済んだと言うのに。

 そして彼らは見た。

 奥の部屋から巨体を引きずるようにして現れた、体表を煮え滾らせる単眼双角の怪物の姿を。

 

「『訪問セールスお断り』って玄関に書いてなかったか?」

 

 声を知らなかった者はただ異形に恐怖し、不運にも声を知っていた者はそれ以上の困惑でもって平常心と希望を失う。

 どうしてこんな奴がここにいる?

 心中の問いに返ってくる答えはなく、代わりに別の謎が氷解した。

 メイプル達は罠を仕掛けてなどいなかった――どんなアイテムやスキルより強力で凶悪な番人がオーブを守っており、余計な策を弄する必要などないのだから。

 陽炎を背に負った怪物の超体温は、広間を満たしていた熱気を【炎上】の継続ダメージに変えて侵入者達のHPを削っていく。

 

「まあ来ちまったからには……その首置いてってもらうぞ」

「うわああああああっ!?」

 

 そしてじわじわ力尽きる時間も与えられず、人間の胴回りほどもあるマグマの尾の一撃でもって薙ぎ払われ、あるいは叩き潰され命を落とす。

 映画と言うなら彼らこそ、怪物映画の序盤で殺されてしまう犠牲者の端役そのものだった。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「カワイさん、ただいまー!」

「おー、おかえりー」

 

 ズシン、ズシンと足音を立てて怪物姿のメイプルが戻ってくる。

 大きな背中に乗っている彼女の愉快な仲間達の表情から察するに、どうやら全員での侵攻作戦は上々の結果だったようだ。

 

「いやー、まだまだ冷えますなー」

 

 仲間を降ろしたメイプルがわざとらしく言ったかと思えば、洞窟の前で寝そべるヨメカワイイの巨体に手足をめいっぱい広げて覆い被さる――怪物が二匹も重なる光景を事情を知らない第三者が目の当たりにすれば、覚悟など簡単に消え失せ踵を返して逃げ出すだろう。

 もっとも当の本人達はのんびりと我関せずで、緊張感のなさにサリーが呆れ顔になる程度だ。

 

「はふぅ……やっぱりカワイさんぽっかぽかであったかいよぉ」

「師匠師匠! 私もぽっかぽかしたいですー!」

「お、お邪魔しますー」

 

 マイとユイも特大の丸太のような腕にそれぞれ抱き着いて暖を取る。

 極寒の雪原地帯や熱波渦巻く火山など、フィールドを探索中のプレイヤーが不快に感じるほどの温度の仕様はなくとも、適温の範囲内であればその限りではないらしい。

 触れるどころか場に存在するだけで【炎上】の強烈な継続ダメージを与える今のヨメカワイイの身体も、四次元工房を持つイズえもんの耐火ポーションとカナデの補助魔法の合わせ技に掛かればぬくぬくの湯たんぽも同然――『集う聖剣』に手を貸して攻め込んだ負い目があるヨメカワイイは少女達のされるがままとなっている。

 

「そうしてると完全に怪獣の親子だな」

「せめて兄妹と言ってくれ」

 

 苦笑気味のクロムに、ヨメカワイイは単眼を細めて言う。

 確かに、年齢が近い同僚の仕事机には幼い子供の写真が飾ってあり、迂闊に話を振ろうものなら小一時間はその可愛さを熱弁し洗脳しようとしてくるが、メイプルくらいの年齢ならまだ妹の方が合っている気がする。

 

「ところでカワイさん、どうして外で寝転がってるの?」

「あー……実は何度か襲撃があったんだが、意外と逃げ回る奴に攻撃当てるの難しくてな」

 

 あまりに鬱陶しいなら範囲攻撃で焼き尽くせば済む話ではある。

 しかし、それはそれで味気がなさ過ぎるし、メイプル達が何らかの理由で急いで戻ってきた時に拠点が焦熱地獄になっていては休息も取れず籠城もできない。

 オーブさえ取られなければいいのだから、だったらいっそ入口を身体で塞いでしまおうと考えて今に至る。実際、外に陣取ってから攻撃される回数は明らかに減り、鼓動に合わせて赤く明滅するヨメカワイイを視認した途端逃げ帰る輩が大半だった。

 

「まあ、守ってくれてたなら何でもいいですけど」

 

 サリーは続ける。

 

「それで周りの様子だけど、やっぱりあっちこっちで潰し合いが激化してるみたい。今日だけでも結構な数がリタイアしちゃってるし、夜明けにはほとんどのギルドがボロボロになってるかも」

 

 カスミとイズも頷く。

 

「逃げ切りが勝利条件の私達にとっては好都合と言えるな」

「敵が勝手に減ってくれるなら大助かりだものねー」

 

 それはヨメカワイイも同じだ。

 手持ちのオーブを全て解放し、メイプル達の拠点に逗留している以上、現在得られるポイントは自軍オーブの時間経過で発生する分のみ。

 暇潰しに流し見ていたランキングの変動の様子から考えるに、上位のギルドが順位を確立すべく他の有象無象を食い散らかしているのだとすれば、名前の位置がいたちごっこのように上へ下へと入れ替わるだけで『闇鍋』や『楓の木』を含めた十位までの顔ぶれに劇的な変化が起こる可能性は極めて低い。

 

「って事で、帰ってきたばかりですが、そろそろ最終段階に移行しようと思います」

 

 斥候にして参謀も兼任するポニーテールの少女は、一度大きく手を打って本題を切り出す。

 最終段階。

 その言葉が意味するのは、この三日目まで生き残っている邪魔者の殲滅。

 

「カワイさんがあちこちで暴れ回ってくれたおかげで、どのギルドも想定していたよりポイントを取れてないようなの。だから連戦になるけど、ランキングの固定に動くなら今しかないと思う」

 

 この姿の動かし方もようやく慣れてきた。

 既に『集う聖剣』や『炎帝ノ国』は自分達の順位を脅かされないようポイント度外視でギルドを潰して回っている――頑張っている嫁のために、ヨメカワイイも再び動く時が来たようだ。

 怪物の身体を持ち上げ、名残惜しそうなメイプルと双子を指先で優しく剥がす。

 

「なら、まずは俺が行こう。リハビリも飽きたところだしな」

「はい! 師匠が行くなら私も行きたいです!」

 

 若さ故か、元気があり余っているらしく挙手して同行を希望するユイ。

 

「うん、駄目」

「ええー!?」

 

 ぴょこぴょこと白兎のように飛び跳ねて不服をアピールする少女だが、しかし、ヨメカワイイは長く伸びた竜の首を横に振るう――これから向かう場所へは、ヨメカワイイが単身で乗り込む方が何かと都合がいいのだ。

 嫁を見つける意味でも、全力で戦う意味でも。

 

「ん? ……あーそうか、今【跳躍】使えないのか」

 

 ついでに【跳躍】から派生する【滑空】も使えない。

 怪物形態――【暴虐】発動中は装備に付与されたスキルが使用不可能となり、【毒竜(ヒドラ)】を筆頭にほぼ全ての攻撃スキルの封印されたメイプルなどは爪や牙、口から吐く炎といった野生的な方法で敵を屠るしかないが、幸いな事にヨメカワイイの【灼竜(シウコアトル)】はその制限を受けずに済んでいた。

 食い下がろうとする双子の片割れがこれ以上何か言う前に、生物の範疇を逸脱した本数の手足で大地を弾き、夜空の中に巨体を翻す。

 十八番の【跳躍】が制約で使えずとも、その膂力による飛び上がりは、他者から見れば十二分に身の危険を直感するものだった。

 

「そんじゃあまあ、お互い最後まで生き残ろうなー」

「うん、カワイさんも気を付けてねー!」

 

 言葉を交わして、各々の目的のために再び動き始める黒と紅の怪物達。

 二匹が一匹ずつに別れても、脅威が半減するとは限らない。

 

「……俺らが言えた事じゃないが、あれにいきなり襲われるとか悪夢でしかないよな」

「ああ。協力関係を結べて良かったとつくづく思う」

 

 これもメイプルが持つ強運の賜物なんだろうなぁ、とまだかろうじて常識人圏内に留まっているクロムとカスミは、今宵新たに積み上げられるであろう敗者達の骸の山を想像して、少しばかりの同情と冥福を祈った。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

 一方、ミィはいつものように内心半泣きだった。

 

(ほあああああっ! こっち来んなよあああぁぁっ!!)

 

 夜に部屋の窓をうっかり開けていたら大きめのカナブンが勇猛果敢に飛び込んできて、旦那様が帰宅するまで洗面器をヘルメット代わりに侵入者(体長三センチ)から逃げ惑った時のように。

 半分どころか、七分を超えてもうすぐ八分泣き、大輪の泣き顔が咲くまであと少し。

 

「くっ……【爆炎】! 【炎槍】! 【爆炎】!!」

「ミィ様! 右方向からも来ます! 数およそ三十!」

「ええい羽虫風情が次から次へと! ここは私一人で請け負う! お前達は新手を仕留めろ!」

「分かりました! おい、向こう行くぞ!」

 

 とっとと帰れコンニャロー、という念を込めて、なけなしのMPを消費して炎を飛ばす。

 他のギルドの動向を気にしている暇など、ましてや攻め込むための人員を割く余裕などないほど彼女の『炎帝ノ国』は消耗し切っていた。

 いよいよ周囲のギルドにも焦りが生じ始めたのか、終わりなきタワーディフェンスゲームの如く敵が押し寄せ、その対応に追われ続けて今に至る。

 メイプルの襲撃によるデスペナルティが響き、最初にシンがリタイアし、続いて防衛の要であるマルクスが、そして回復のエキスパートのミザリーまでもが五回目の死亡で戦場から消えた。

 ミィ自身も既に死亡は許されず、HPが尽きたら『炎帝ノ国』は完全に崩壊する。

 現在の順位とポイントから考えて、そう簡単にランク外に落ちる事はないとは言え、どうせなら最終日までしっかり生き残って喜びたいし、何よりこれまでの戦いで尊い命を散らし、別の場所で固唾を飲んで見守っているであろう仲間達に申し訳が立たない。

 

「クッソ、ミィ一人だけでも十分ヤベェな! 分かっちゃいたが!」

「とにかく消耗させろ! ミザリーがいないならすぐ燃料切れだ!!」

 

 けれどミィの殲滅力をもってしても、無限に続く数の暴力が相手では分が悪い。

 MPポーションは枯渇寸前、敵が今言ったようにミザリー不在のこの状況ではMP回復の手立てが失われ、スキルを使えば使うだけミィが無力になるまでの猶予が消えていく。

 いざとなれば【自壊】を発動させて敵を道連れにするつもりの炎の女帝。

 そんな彼女の覚悟に同調するかのように、あるいは無用だと嘲笑うかのように。

 

「おい……おいおいおい、何だぁ、ありゃあ!?」

 

 誰かが叫ぶ。そして叫んだ誰かが最初に塵となる。

 ミィにとって救いとなる天災は、その名の通り空から降り落ちてきた。

 隕石の如く轟音と震動を伴って大戦場に着弾したそれ(・・)は、四方八方に広げた手足で落下の衝撃を吸収し、ミィの背後から伸ばした竜の首、その中心に輝く単眼で小さき者達を睥睨する。

 貧乏くじを引いたプレイヤー達は、つい数時間前に暴威を振るった真・メイプルとでも呼ぶべきモンスターを思い出す暇もなく、吐かれたマグマで消し炭と化す――結局、焼き尽くされるという彼らの命運は変わらなかったのだ。

 あまりに唐突な出来事に、敵が消え去った焦土を前に立ち尽くすミィだったが、

 

「……ほれ、ぼけっとしてないで、さっさと他の奴らも片付けるぞ」

「うひゃっ!?」

 

 マントを指先で摘まれて宙吊りになったかと思えば、双角が生えた大きな頭部にライドオン。

 そこからはもう戦闘ですらない蹂躙だ。

 竜尾を振るえば敵群が弾け飛び、咆哮すれば大気が灼熱の振動を帯びて蝕み殺す。鋭い牙や爪は言わずもがな。

 縦横無尽に跳ね回る様子はさながら暴れ馬――ミィは目を白黒させつつ、振り落とされないよう情けない形相で巨体にしがみつくしかない。

 それでも疑問に思わずにはいられなかった。

 

(どうして助けてくれたんだろ……)

 

 少々、いやかなり外見は様変わりして人の形すら失っているものの、ある意味見慣れたその姿は紛れもなく灼竜(シウコアトル)のそれであり、ノイズ混じりだとしても愛する夫の声を聞き間違うはずがない。

 嬉しいと言えば記念日にしたいくらいには嬉しいが。

 しかし、まだ正体には気付かれてはいないはず――『炎帝ノ国』を襲うプレイヤー目当てだったメイプルだけならともかく、バーニングドラゴンな旦那様までが救援に来るとは、あまりに状況が出来過ぎてはいないだろうか。

 それを見透かしたように、視認できる範囲の敵を殲滅した夫が、牙だらけの大きな口を開く。

 

「……指輪が教えてくれた」

「ふぇ?」

 

 指輪とな?

 言われて思わず自分の左手を見る。

 今は手甲に覆われていて見えないが、以前、別のアカウントで作成したキャラでデートした時にプレゼントされた指輪が薬指で輝いているはず。

 まずはあっちでログインして譲渡、今度はこっちでログインして受け取り――と面倒臭い方法を駆使してアイテムを移動させ、メインである『ミィ』の装飾品として身に着けていたのに、誰にも見せた事がないそれを何故旦那様が知っているのか。

 なるほど、つまり妻へのラヴだな。

 

「実はお前の指輪な、俺の指輪と対になっててマップに居場所を表示してくれるんだよ」

「…………うーん、と?」

 

 ラヴじゃなかった、残念。

 いやそれよりも、今とんでもない事を言わなかったかこのマイダーリンは。

 ミィが指輪を嵌め直したのはイベントが始まるよりも前――そうなると、自分の行動は旦那様にぬるっとお見通しだった訳で、メイプルや白黒双子と一緒に巨大亀に乗って来た時点で既に正体がバレていたという事に他ならず。

 

「…………」

 

 つまり、つまりだ。

 今までの痛々しい台詞も振る舞いも、ガウスさん(?)の手掛けたサグラダ・ファミリアが如く建築真っ最中の黒歴史として夫婦の心のアルバムに刻まれてしまいましたとさ。

 

「ぁびゃぅはにゃぁぁ……」

 

 せめて若奥様らしく『いやーん!(≧д≦)』と可愛く恥らえたら良かったのだが、半開きの口からコールタールのように流れ出たのはよく分からない奇声。

 正直、中学二年生の時に書き溜めていた愛の詩歌(ポエム)――その頃にはもう大好きになっていた親戚のお兄ちゃん(現ダーリン)への想いを綴ったもの――を朗読されるより恥ずかしい。

 燃え盛る夫に負けじと、ミィも顔から炎が噴き出そう。

 誰が聞いているとも知れない状況で、かろうじて声量を抑えた自分を褒めたいくらいだ。

 せめて居場所が分かると教えてほしかった。

 

「……すまん。説明するほどでもないと思って」

 

 謝罪が逆に辛い。

 まあ指輪のサプライズプレゼントは嬉しかったし、現実でもスマホのGPS機能でお互いの行動を確認し合ったりしているので、それ自体は別に構わないし文句もない。

 ない……のだけれども、心の準備が、心の準備が!

 

「ふにゅぅぅぅぅっ」

 

 カリスマ溢れる女帝の仮面などとっくに外れてしまい、竜の頭の上で手足をジタバタジタバタ。

 この細身の内で一心不乱に暴れ狂う、今にも具現化を果たしそうな野性の猛り(ハムスター)はどうやって静めてくれようか。

 そうこうしている間に、自滅覚悟か、あるいはドラゴンスレイヤーを夢見るプレイヤーの団体が性懲りもなく『炎帝ノ国』の縄張りに押し寄せる。

 ああもう、脳の処理が限界間近なこんな時に。

 

「…………薙ぎ払え!」

 

 ミィはすっくと立ち上がり、右手を横に振るって高らかにそう叫ぶ。

 

「ク○ャナ殿下ごっこか?」

「いいから! もう存分にぶっ飛ばしちゃってくださいな!」

「へいへい、了解了解」

 

 八つ当たり、鬱憤晴らしと言えばその通り。

 それでもミィのお願いを聞き入れた優しい旦那様は、口から高圧水流ブレスならぬ高圧マグマの極太レーザーを放ち、大地を扇状に焼き尽くしていく。王蟲ではないプレイヤー集団はその一撃で瞬く間に壊滅した。

 しかしミィの中にいるジャンガリアンハムスターの破壊衝動はまだ治まらない。ひまわりの種を口いっぱいに頬張って今にも連射しそうな面構えだ。

 

「こうなったら邪魔なギルドずぇーんぶ絶滅させてやるぅ! 手伝ってよね!?」

「アイアイサー。何処でも一緒に行ってやるよ」

 

 旦那様がいれば百人力、いや千人力。

 大規模ギルドだろうが何だろうが、ラブのパワーの前には障害にもならない。

 

「ふははははっ、平伏すがいい弱者達よ! この私が! 我らが! 真の強者とはどういうものかその眼と脳髄にしかと刻み込んでくれよう! ふあはははははっ!!」

「キャラおかしくなってないか?」

 

 違います、開き直っちゃっただけです。

 こうしてミィと旦那様は最後の殲滅に乗り出した。

 その光景は、幸運にも夫婦の会話が耳に届かなかった『炎帝ノ国』のメンバーや信奉者によって尾鰭付きで広められてしまい、仮初のカリスマが四足歩行から二足歩行レベルまで進化してミィが頭を悩ませる羽目になるのはまた別の話。

 

 

 ◆ ◆ ◆

 

 

「……とうとう終わったな」

「ああ、終わっちまったな……」

 

 どうにかその言葉だけ捻り出して、運営チームはモニターの前でぐったりと脱力した。

 あー、うあー、と単語にならない声を吐く様子は生きる屍が如く――イベント期間はまだ丸二日残っているが、ランキング一位から十位まで同じ内容の報酬を得られる仕様上、生存中のギルドが六つしかない現況では削り合いを続ける意味はなく、どのギルドも各自の拠点で籠城を決め込んで沈黙を貫いている。

 

「まさか、三日目終了時点で順位が確定しちまうとは思わなかったぜ」

「そもそも初っ端から予想外の連続だからな。たった一つのギルドっつか一人がオーブを半分近く独占して、なのに全然ポイントに換えようとしないとか想像できるか!」

 

 全員の心を代弁した悲痛な叫びがルーム内に木霊する。

 

「いやまあ、あれも戦略の一つと言えるっちゃあ言える……のか?」

「賛否は分かれるだろうが、実際それでカワイの奴はきっちり入賞しちまってるからなぁ。簡単に真似できるもんでもないし、オーブの所持数や時間に制限を設定しなかった俺らも俺らだろ」

 

 ペイン然り、メイプル然り、ミィ然り、ヨメカワイイ然り。

 上位のプレイヤーはどいつもこいつも人外じみた『何か』を振りかざしているが、それらは全て持ち前の技術や経験、幸運によるもので、当人達は至って真面目にゲームを楽しんでくれている。

 チートツールを使った不正行為やイベントのルールに抵触した訳はないので、どれだけ叫んでも結果は覆らず、自分達の見通しの甘さが際立つばかり。

 

「もうあれだ、次のイベントで考慮すべき問題がこれだけ見つかったって前向きに考えようぜ」

「だな。そう考えなきゃやってらんねぇよ、流石に……」

 

 幸か不幸か、残りの二日間で大きな動きが起きない事はほぼ確定している。

 イベントの終了と同時にプレイヤー達は自由になっても、運営側は報酬の配布やら事後処理やら寄せられた意見の精査と返信やらでまだまだ多忙だ。

 なので、三日間で記録した映像のダイジェストを編集する作業時間に、時間加速があるとは言え二日分の猶予が生まれた事はありがたくもあった――もっとも、これは使えるとピックアップした映像の大半に、イベントを早期終了させてくれやがった張本人達の顔があるので、やる気が失せて効率は落ち気味だったが。

 

「うっし、こんなのとかどうよ!?」

 

 そんなアンニュイな空気にもめげず、一足早く編集作業に勤しんでいた一人が、出来たばかりの動画を流し始めた。

 どれどれ、と他の面々も気分転換がてら注視する。

 メインのモニターには、『楓の木』と『集う聖剣』の激突時のワンシーンだろうか、メイプルとヨメカワイイが映っており、次の瞬間に二人は【暴虐】で怪物に変貌、そこから外のフィールドへ光景が切り替わると、二分割されたそれぞれの画面の中で二匹の巨獣が所狭しと暴れ回る。

 

「「「…………」」」

 

 無傷とはいかず、全身に斬撃や魔法を受けて悶える二大怪物だったが、けれどHPが0になったと思った直後に、腹部を突き破ってまだまだ力が有り余っているメイプルとヨメカワイイが再登場。

 姿形なぞは関係ないのだと言わんばかりに猛毒と溶岩が荒れ狂い、【装填】された【火山弾】の爆撃と【機械神】の砲撃が天地を彩り、左画面のメイプルがまた【暴虐】状態になれば、右画面のヨメカワイイはゴブリンの大軍勢を召喚して侵攻する。

 そして哀れなプレイヤー達が光と化したところで、無慈悲な動画は終了した。

 

「…………新しいレイドボスの告知PVか何かか?」

 

 最後まで見た一人がぽつりと言った。

 誰からも否定の声は上がらなかった。




次回、打ち上げと女キャラとの何やかんやの予定。
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