少女は旅行として訪れたガラル地方である出会いをした。物語の主人公でもなく、主要なキャラクターでもない少女がした、ささやかな恋の物語
ポケモンの世界に生まれ変わった少女は、この世界に1人の人として暮らしている。
主人公(プレイヤー)でもなく主要キャラでもない少女の、なんでもないささやかな恋の物語
少しの浮遊感と共に久しぶりの地面に足をつける。
とんっとつま先で衝撃を受け止めると不思議と体が重く感じてふらついてしまう。
そんな私に笑いながら手を差し出してくれるのはさっき知り合ったばかりの親切なお兄さんだった。
1度目の生が終わり、2度目を迎えた私が生まれ変わったのはポケモンの世界だった。
トラックに引かれたり神様に出会ったりなんてしていない。死因だって思い出せないけど確かに死んだという自覚はあった。消去法でつまり転生なのかなって考えたのだ。
この世界はポケモンの世界。
かつて熱中してプレイしたゲームの中のような世界。だけど全てが全てゲーム通りではなくて、ポケモンの性格も25種類しか存在しないとかありえないし味の好みだって大まかな目安になるだけ。
私も一端のトレーナーだが、とある手持ちの1匹は冷静な性格だが辛いのも甘いのもなんでもぜんぶ好きな変わった性格をしている。あととても負けず嫌い。
トレーナーだってそうで、目と目が合ってバトルを申し込んでも普通に断られることだってある。
当たり前だけど人には事情ってものがあるのです。
例えば、この前ヒウンシティで急いでるサラリーマンにバトルをふっかけた人がいた。
いたんだけど即断られているのを見てつい笑ってしまった。
あ、周りの人も笑ってたから大丈夫だと思う…よ?
まあとにかく、そんなふうにトレーナーにもバトルをするしないの選択肢がある。
当然だよね。
世の中には色んなポケモン、色んなトレーナーが居てこの世界にちゃんと生きている。
それを10数年生きて旅することで実感した。
色んな人がいるのは当たり前。バトルが好きな人、嫌いな人、得意な人苦手な人、沢山いる。
でもそれは、バトルが好きだけど苦手なトレーナーだっているということで………
正直に言うと私はバトルが苦手。
タイプ相性なんか覚えるのは得意なんだけど、いざ実戦になると途端に指示が出せなくなる。判断が遅いし手持ちとのタイミングがズレてしまう。
アニメのポケモンのサトシとかの避けろっ!ってやつ本当はすごいことだ。
信頼関係がないとできないこと。
だってどこに避けるとか指示してないからポケモンはどうしていいか分からない。
余程の信頼がなければ実行できないのだ。
バトルが下手ってスクールで分かってから特訓とかしてみたけどからっきしで、すごいポケモントレーナーになる夢は諦めた。
今はバトルは趣味程度にやっている。
けど今回は、どうしてもやりたい事があった。
それは最後にやっていたポケモンの世界、ガラル地方に行くこと。
最新作の話題と共に、主人公が動き回る動画やポケモンたちが笑顔でカレーを食べたり競争したりするキャンプの映像がとても好きで私の心に今も残ってる。
とても幸運なことに私の最推しで相棒のポケモンはガラルにいた。いたのであの世界を動き回ってポケモンと遊べて、なおかつ触れ合える主人公や住人が羨ましかった。
ロトムスマホも魅力的だよね。
まだ他地方にはあんまり浸透してないけど、現地に行って買えば他地方対応タイプのものも売ってるらしいと聞きました。
なので実はそれが目当てだってのも大きかったりするのです。
そんなわけで私は、移動のために空を飛ぶ時のパートナーであるウォーグルに乗っていたんだけど…
その影を発見してあぁまたか、と青年は思った。
このガラル地方ではアーマーガアタクシー以外の飛行できる存在は限られている。
特別な飛行免許がないと空を飛ぶことは出来ない。
けれど何故かその事は他地方の人間にあまり知られていない。
なのでたまに他地方からきたトレーナーがポケモンに乗って飛んでいる事がある。
その時に事故がなければそれでいいが、最悪な場合野生ポケモン相手に事故を起こされ、さらには警察に違法行為として逮捕される恐れがある。ガラルの航空法は厳しいのだ。
今回の子も知らないのだろうなと当たりをつけ、胸ポケットから布を取り出した。
青年が乗るアーマーガアは分かっていると伝えるように頷くと、少女のウォーグルの横に併走してくれる。
青年は横に着けるとすぐさま手元の旗を使い女の子にバサバサと降りろと信号を送った。
一見まだ幼そうなその子は素直に降りてくれるのだから根はいい子なんだろうと思う。
青年はこの先に少し進むと、ちょうどいい広場がある事を記憶から引き出す。
誘導するように先行し、先に降りて待っていると直ぐにウォーグルが降り立ってくる。
塵や砂が舞う中でワタワタと慌てて降りてくるトレーナーは青年が思ったよりもさらに小柄な女の子だった。
地に足をつけて立とうとした時、よろめいた彼女を咄嗟に支えれば照れたように小さな声でありがとうございますと言われ、青年はなんだか面映ゆく感じて頬をかく。
大丈夫となんでもない風に装って、ちゃんとこのガラルで空を飛ぶことの意味を教えてあげれば、少女は恥ずかしそうに顔を赤くしてありがとうございますと言った。
素直に感謝され敵意の無い瞳で見られるだけで心が温まり、やはりいいこと事はするものだと青年はそう思う。
なにぶん運が悪いとイラつき棘のあるトレーナーに当たってしまい、グチグチと悪態をつかれたり逆ギレされることもあるのだ。
しかし今回は運が良かった。
青年としては簡易的にガラルの事を教えてあげてこのまま別れるべきだろう。
しかしどうにもこの少女を見ているとどことなく心配になってしまう。
それは少女の気の抜けた笑みを見たからかそれとも。
迷惑だろうかと片隅で思いながらもつい青年はそれを口に出してしまう。
「お兄さんはガラルに詳しいんですか?」
おいしいみずを手に先程知り合ったばかりの青年に話しかけた。ソウと名乗った彼は親切なことにガラルを案内してくれるそうで、ちょっと怪しいけどその提案に乗ることにした。
ああ、ボールの中からじとりと相棒の視線が刺さる。
大丈夫だよ。ちゃんと身分証も見せてもらったし、それに何かあっても君たちがいるでしょう?
ボールを軽く一撫でするとかたりと揺れたあと大人しくなった。ほっとする。
その様子をソウさんは嬉しそうに笑ってみていた。
「君は手持ちに愛されてるんだね」
「いえ、ちょっと過保護なだけです。でも仲はとっても良いですよ!」
「うん、いいトレーナーなんだね」
朗らかに笑ったソウさんは相棒のアーマーガアにきのみを与えるとボールに戻した。
「さっきの質問だけど、俺はアーマーガアタクシーの運転手をしてるんだ。ガラルの住民の中じゃ負けないね」
「そうなんですか」
タクシーというのにあまり馴染みがないからかちょっと分からないけど、前世で考えるならとても凄い事だと思い出す。
「それじゃあ期待しちゃいますね」
「ははっ!これは裏切れないな」
ここから近いのはエンジンシティかな。さ、いこう。
ソウさんは言うと危ないから、と私の手を取って歩き出す。
私の手に触れるソウさんの手は暖かい。
空を飛んでいて冷えた体にはほっとする温度だ。やがて私の手も熱が移ってじんわり温まる。
これからどんなものが見れるのか、期待に胸をときめかせる。
それと同時に、ソウさんがどんなものを見せてくれるのか想像する自分もいることに私は気付いた。
どうしてだろう……?
ソウさん
元ネタは単純に草
どこにでもいるポケモンの世界に暮らす人としての草
アーマーガアタクシーの人
フウセ
少女
元ネタはフウセントウワタ
花言葉はいっぱいの夢