貞操観念逆転世界で勘違いから主人公を振った幼馴染みがヤンデレ過保護になってしまったっていう話。 作:詞瀀
「ねぇ、同じクラスの倉敷さんだよね?」
ずっと同じ道で気になったのも相まって、自分から話しかけてみる。
「…そうだけど、急になに?」
少しぶっきらぼうに返す彼女。声はハスキー気味だけど、落ち着いて響いてる感じがして心地いい。外見は長い髪はあまり手入れもされていないのか、枝毛が多くボサボサしている。どちらかといえば大柄な体格なのに猫背気味で歩いているせいで余り大きくは見えないけど、それでも僕よりは十分に大きいから僕からは見上げるような形で話すことになる。
こっちをちらりと見ただけで足を止めずに進む彼女の隣に、僕は少し駆け足気味で近寄って並ぶようにして歩く。
「よかった、僕のこと同じクラスだって知ってくれてるんだね。話しかけて知らない人扱いされたらどうしようかと思って不安になっちゃった」
「そう」
「うん、そう。倉敷さんって声かっこいいね。」
「は?どういう文脈?」
ーーーやっちゃった。
知らない人と喋るのが久しぶりで、実は今日一日中テンションが上がっている僕は、もともと話し上手でないこともあってあんまり上手くコミュニケーションが取れていない。クラスの人と喋ってる時はなんとか取り繕えてたけど、ここにきて失敗したみたいだった。
「えへへ、急にごめんね。倉敷さんの声が聞いててすごく良かったからつい…」
「…あっそ。まぁ別にいいけど…」
話しながら倉敷さんの横顔を見つめていると、すごく不思議な気持ちになる。
ーーーなんでかな?
「うん、それでさ、倉敷さんとはずっと一緒の道だったからつい声かけちゃって。倉敷さんは家がこっちの道なの?」
「いや、私はこっちに用があるだけで別に家がこの方面な訳じゃない」
「そうなんだ。実は僕もこっちに用があってさ。せっかくだから途中まで一緒に行かない?」
「…いいけど。あんたさ、もしかして用事って病院?」
ーーーえ?
「ーーーえ?」
「ああ、いや、こっち方面にある用事なんてそれぐらいしか思いつかなくってさ。…ごめん、変なこと言うつもりなかった」
ーーーあぁ、そっか。
少し慌てた様子で取り繕う彼女。その時やっと顔をこちらに向けて話す彼女の目を見て、僕はなんでこんな不思議な気持ちになったかが分かった。
ーーーちぐはぐなんだ、この人。
綺麗な声に、ボサボサの髪。顔立ちは良くみるとびっくりするくらいに整っているのに、なんでか余り印象に残らない。
そして何よりも、透き通るようなヘーゼル色なのに暗く澱んだ感じの瞳が色々な感情で揺れている。
不思議な人だな、と思う。そして、最初の冷たい印象とは裏腹に、僕に気を遣って外見の特徴とかに触れないように謝ろうとしてくれる、とても優しい人だとも。
「あぁ、ううん、こっちこそごめんね。まさかドンピシャで当てられるとは思ってなかったから少し驚いただけだよ。でもすごいね、倉敷さん。探偵みたい」
言いながら、倉敷さんの顔を見上げるのをやめて並んで歩く。
「いや、探偵みたいって。感想がなんか…まぁいいや。にしてもあんたも病院か」
「もっ、てことは倉敷さんも病院なんだ?」
「…あぁ、まあな」
「…そっか」
「…聞かないんだな」
「…何を?」
「…いや、別に」
「そっか」
「あぁ」
それから無言で2人で歩く時間はなんとなく心地よくて、僕はふと、僕が新しい高校生活を送ることを心から理解できた気がした。
ビルの隙間風に巻き上げられた桜の花が目の前を散っていく。
「ーーよーし、心機一転頑張りますかっ」
そう言って手を組んで伸びをした僕に、倉敷さんが少し呆れたような感じだった。
「急になんだよ」
そう言いながらも少し微笑んだ彼女を見て、仲が進展したのを感じた僕は、なぜかこれからの高校生活がなんとかなりそうな気がした。
「ううん、べつに。倉敷さん、これからよろしくね」
面食らったような表情をした倉敷さんは、
「ーーあぁ、よろしく」
そう言ったのだった。